【4】
またもや一気に血の気が引く。
恐怖で全身が震え上がる。
このシスターも俺を殺すつもりなのか?
「起きていたんですか?残念です」
「な、な、何でこんな事を」
「小石がほしいからに決まっているではありませんか。私は自分のためにお金を使いたいんです」
俺を見るシスターの目がぎらついている。
「あなたは脅迫しても手持ちの分しか渡しませんから。今この町では店主が一番のお金持ちになっています。店主は小石が横流れしないように、あなたを殺そうとしていましたが、私はもう諦めません」
刺さった大鎌をベッドから外し、シスターは構えた。
「あなたの首を切り落として守護神像の前に置き、事切れる前に小石の在り処を答えてもらいます。あなたは銀貨を小石と間違えてしまう人ですから。死にゆく者が守護神に対して間違える事は許されませんので、今度は落ち着いて正確に答えられるでしょう」
「落ち着ける訳ないだろうが!あんな小石、どこででも拾えるんだよ!在り処なんて大層なもんじゃない」
「そうなんですね。でしたら具体的に拾える場所を教えてください。教えて頂ければ、後はすぐに殺して差し上げますので。お望みであれば、守護神像の前で見守られながら死ねるようにしましょうか」
どの道、殺すのかよ!
なんて欲望に正直なシスターだ。
早く逃げるしかない。
幻術は効かないから、自力で何とかするしかない。
俺は元々持っていたナイフをシスターに向けて投げつけた。
それを避けたシスターがバランスを崩す。
なにせ重たい大鎌を持っているし、扱い慣れていない様子だったからな。
その隙をついて、俺は教会から逃げ出した。
走れ、走れ、どんなにきつくても走り続けろ。
息を切らしながら、俺は馬を停めていた町の門を目指した。
しかし、馬がいなかった。
馬と門とを繋いでいた紐が刃物で切り落とされた跡がある。
馬を逃がされたか。
俺には、もう走り抜けるしかなかった。
町の外に出たところで、すぐに自分の姿が見えなくなる幻術を使った。
結界の外であれば有効なはず。
シスターが門まで追いついた姿が見えた。
しかし、こちらには気づいていない。
俺はもう振り返らず、ただひたすらに走り続けた。
丸一日ほど経過しただろうか。
ようやく別の町に到着した。
あまりの疲労に、その場に座り込んだ。
心臓が大きく脈打っている。
生きている心地がしない。
恐怖心が拭えない。
「ちょっと、そこに座られたら邪魔だよ」
通行人に声を掛けられただけで、俺は驚いて大声を上げた。
「うわああああ!」
「な、何だよ。こっちがびっくりする」
変な人だな、と通行人は去っていった。
単に声を掛けられただけでも怖い。
全く関係のない人だと分かっていても、まだあの通行人が怖いと思ってしまう。
精神的にまいってしまっているようだ。
こんな調子じゃ安心して生活していけない。
きっと夜眠る事も恐ろしいと感じるだろう。
そう思っただけで、昨晩の教会での出来事が鮮明に呼び起こされる。
体中が震える。
これはダメだ。
どうにかして思い出さないようにしないと。
記憶を消そう。
俺自身に幻術をかけよう。
あの町に関する事は何も知らない、という幻術を。
簡単に破れないよう、自分でも幻術をかけた事を思い出さないよう、何重に。
いやー、遊んだ遊んだ。
昨夜は酒に女に最高だった。
毎日あんな生活でもいいかもしれないな。
さて、今日は何をしよう。
そういえば、噂で最南端に緑豊かな町があると聞いたな。
先日、そこの町民が最高級のウシ肉を使ったステーキが名物だと言っていたとか。
馬を使えば早めに到着するし、行ってみるか。
「いらっしゃいませ」
「初めてなんだが、外の看板に書いてあるメニューで、ウシ肉ステーキ庶民階級を頼みたい」