【1】
「ここの料理は美味しかったよ」
「ありがとうございました。是非またお願いします」
いやー、食った食った。
この店の高級魚を使った料理は相変わらず絶品だ。
日を空けてから、また来よう。
さて、今日は何をして過ごそうか。
この町は夜にギャンブルが行われている場所があったな。
久しぶりにそこに行って遊び倒すか。
なにせ、金には永遠に困らないからな。
それまでに手頃な小石を集めておこう。
夜、ギャンブル場に向かった。
ここは、まず受付で参加料を支払う必要がある。
「初めてなんだが」
「ここは銀貨3枚の参加料を支払って頂いてからの入場になります」
集めておいた小石が入った袋に手を突っ込み、俺は魔法を込める。
「銀貨3枚だな。はい、確認してくれ」
受付カウンターに小石を3つ並べた。
「確かに3枚ですね。どうぞお通りください」
何も問題なく、俺は受付を通過した。
この幻術を見破られた事は一度もない。
生まれつきの能力で、幼少期から使えていた。
幻術を使える者は滅多にいないため、親に話しても信じてもらえず、目の前で見せてみても「手品の練習をしたのね」等といった反応だった。
ひねくれた俺は、幻術でイタズラをする癖がつき、気づけば大人になって罪を犯すために利用するようになっていた。
小石に魔法をかけて硬貨に見せる幻術。あまりにも地味だし、他にも幻術の使いようはあるが、そうすると変に悪目立ちして怪しがられる可能性がある。
魔法の効果はそう簡単に切れないが、念のために毎回俺の顔が別人に見える幻術をかけたり、同じ店を利用する際は時間を空けてから初めてを装って行くようにしたりして、バレないように気を付けている。
これで絶対にバレないし、実際にバレた事もない。
こんな便利な能力があるのに、汗水たらして働くなんて馬鹿げている。
幻術が使える事を自慢したくはない。社会に認めてもらいたくもない。
無限に手軽に金が用意出来るんだから、ひっそり遊んで暮らしたいもんだろ。
いやー、遊んだ遊んだ。
ギャンブルは負けてしまったがダメージはない。
なにせ金には永遠に困らないからな。
さて、今日は宿に戻るとして、明日は何をしようか。
そういえば、噂で最南端に緑豊かな町があると聞いたな。
先日、そこの町民が最高級のウシ肉を使ったステーキが名物だと言っていたとか。
馬を使えば早めに到着するし、行ってみるか。
翌日、馬の貸し出し場を訪ねたがスムーズにはいかなかった。
「すみません。もう今は国への献上分しか取り扱ってないんですよ」
「生憎、行商人のみ貸し出しする事になりまして」
どこを訪ねても断られた。
これはステーキを諦めた方が良いのか?
いや、俺はステーキを食いたい衝動に駆られている。
こうなったら何としてでも行ってやる。
幻術を使って、先日まで町を訪ねていた行商人を装い、貸し出し場へ再度出向いた。
案の定、簡単に騙せた。
盗む方法もあったが、それだと騒ぎになりかねない。
馬に乗り、最南端の町を目指した。