ボイスドラマ【手練手管の学力テスト】
【登場人物】
先生(年齢不詳、男女兼用、どんな性格でも可)
影沼悟16才
花飾姫16才
四季島桜子17才
【演じるにあたって】
この作品は実際にはキャラクター同士が会話をしている訳ではありません。モールス信号をセリフにしているだけのお話です。全てがモノローグでも有り、そうでないセリフ運びとなっています。共通することは、あたかもスムーズな意思疎通をしているかの様に臨場感を持って演じていただく必要があります。スピードとタイミングが命です。1人語りもあります。全てのセリフを一辺倒にしないよう注意してください。どんなセリフにも感情が含まれています。思惑が潜んでいます。立場、距離感、感情をしっかりと表現してください。あとはもうこれでもかというぐらい楽しんで下さい。登場人物の名前や年齢、舞台である学校名を変えて大学にしてもらっても構いません。シナリオの作者が監督をするのであれば口を大いに挟みますが、そんな機会はないと思うので好きに使ってください。これを演じるにあたって皆さんの役に対する考えが少しでも広がればと思います。
【舞台の説明】
物語の舞台は、私立秀善院学園の学院内にある大ホール。
148名の生徒が、隣り合う生徒と一席ずつ間隔を空けて座っている。生徒達は全員持ち物は無く、学校指定の鉛筆2本と消しゴム2つ、鉛筆削り1つ、白紙ノート2冊を教師から順に配られ、それを目の前の机の上に並べていく。
ホールの教壇に立つ教師が、ホール内の全生徒にそれらが行き渡るのを確認すると、教壇に設置されたマイクの前に立つ。
物語は緊迫した空気の中で始まる。
先生「これから私立秀善院学園高等部第82期生一学年、クラス分け学力テストを取り行います。初めに、改めて本試験での注意事項を説明します。初等部から在籍している者にとっては十二分に分かりきっていることかと思いますが、今一度聞いて下さい。試験はこのタブレットを使って行います。白紙のノートと鉛筆は計算などに活用し自由に使用してください。タブレットに表示される問いの答えは全て選択式です。回答はそれが当てはまるチェックボックスに触れてチェックを入れてください。ページを捲る際は左右にスワイプします。その他、細かい操作方法については割愛します。続いて試験ルールについて。試験時間は120分。問題数の制限はなし。出題される教科は全て。その区分は無く、順不同で出題されます。なお、出題される問題の順番は全生徒同一です。100問ごとにあなた達の解答は自動採点され、正解率が8割以上の場合のみ、次の問いが表示されます。8割を下回った者はそこで試験終了となりますので、試験時間終了まで着席したまま待っていてください。次。試験開始は私の合図で始めてください。試験時間の計測は私の身につけているこの腕時計が基準となります。試験終了5分前にはその旨をお伝えします。では、近くの教員がタブレットを配ります。生徒の皆さんは両手を膝の上に乗せ、私の試験開始の合図があるまでタブレットに触れてはいけません。もちろん、事前に配った鉛筆やノートなどにも触れないように。不審な挙動、行動はカンニング扱いとなり、即刻退場とします。試験中は注意2回で退場です。違反者はそれまでの回答が全て無効となるので注意してください。タブレットの配布が済んだ先生は手を上げて下さい。ありがとうございます」
悟 「俺は影沼悟、16才。私立秀善院学園高等部に一般試験で外部入学した一年生だ。針の輪に糸を通すような倍率を掻い潜り入学したこの学校で初めての試験。もうずっと勉強漬けで正直、試験なんてまっぴらだ。学校に入れたからそれで終わり。単なるクラス分けテスト。別に本気を出すほどでもなく、片手間で済ませばいい。と、他校の人間からしたらそう思うかもしれない。だがそれは、大間違いだ。嫌だろうがなんだろうが、俺はたった今からこの試験に全身全霊を注ぎ込み、脳みそが動く限り問題を解き続けなきゃいけない。目が試験問題を認識し、脳みそが答えを導いて、指先が寸分の狂い無く回答をタップしていくその動作を、この120分間絶やさず続けなければならない。それは例え意識が飛んだとしても無意識で答え続けなければならないほどに。どうしてそこまでしなきゃならないか、って?愚問だ。そんなの決まってる。このクラス分け学力テストで上位に入るためだ。この学園は日本有数の進学校の中でもトップに君臨する。どんなクズでも学園に在籍していたという経緯を持つだけで数多の大学や企業から優遇されるほどの有名な教育機関だ。確かに入学さえしてしまえば、もう勝ち組と言っても過言ではない。だがしかし!それは世間体での勝ち組であって、学園生活を順風満帆に過ごせるという、今後の未来を約束した真の勝ち組という意味ではない」
姫 「では何が真の勝ち組となるのかと言えば、そう。それがこのクラス分け学力テストの結果!学力テストの結果は点数順に一位から最下位まで列挙され、上位から順にクラス分けがされていく。このクラス分けの結果は如何なる場合に於いても入れ替わることはなく、卒業するまでの間、ずっと同じメンバーで学園生活を過ごすことになる。クラス別に優遇措置も初めから決められており、それこそ、最上位のクラスに入った者はただ出席日数を稼ぐだけで卒業後の進路から社会へ羽ばたいた後まで学園の手厚いバックアップが約束されている。これこそが勝ち組。正に、真の勝ち組!だから、私は」
悟 「俺は」
先生 「それではこれより試験を開始します」
悟・姫「このテストに全てを捧げる!!」
先生 「始め」
合図と共に一斉に紙の破れる音と鉛筆が走っていく音が鳴りだす。
悟 「話には聞いていたけど、出題のジャンルが本当にバラバラで頭がこんがらがる。物理を解いたと思ったら古典が飛び込んできて、その次は数学。一問一問、教科が違うとこんなにも解きずらいのかよ、畜生っ!手が止まる時間が惜しい!急いで解かなきゃ!だけど、もう正直、気が狂いそうだ。鉛筆を走らせる音が耳鳴りみたいに聞こえてくる。額が知恵熱でも起こしているのか、時折思考が散漫としてしまう。明らかに体が異常を来たし始めてる。……でも」
姫「それでも、解き続けなきゃいけない。思考を止めるな。目を瞑るな。頭と手を動かし続けるのよ、私!こんなことで弱音を吐いてちゃ、今同じ時に頑張ってる悟に顔向けできなくなっちゃう。2人一緒に入学できたんだもん。だからクラスも一緒になって、楽しい学園生活を送るんだ。花飾姫はこんなことじゃ負けない!」
悟 「とかなんとか考えて、あいつも頑張ってるんだろうな。ああ、そうだ。俺だって負けてらんねえ。俺だけトップクラスに入れなかったらカッコ悪いもんな。男を見せろ、影沼悟!」
先生 「これはこれは。今年も外部からの害虫達が必死になっちゃって。毎年毎年、見ていて滑稽だな。初等部から高等部まで、ウチの学園は位が上がるごとに、ごく僅かの外部入学生枠を設けている。そいつらはいつもこうだ。理想を聞いて、夢を見て、希望を抱いて、ここにやってくる。しかし、この試験が終わる頃には自らがその器に値しないことを実感し、帰路に着きながら自覚することになる。入学出来てしまったことが奇跡であって、単なるマグレでしかなかったのだと。楽しい学園生活?約束された未来?んなもん、お前らに用意されてるわけないだろう。あるのは、うちの生徒達とお前達の圧倒的なレベルの差。自主退学を念頭に入れながら過ごす毎日だ。学園長は学外から人を入れて在校生達に刺激を入れる必要があるだなんて言っていたが、私はそうは思わない。入試験もこの学力テストも結局は無意味だ。私たち教員の仕事が増えるだけ。そろそろ30分経つのか。頃合いだ。お前たち、奴らに現実を教えてやりなさい」
【SE】カツカツ・カツ・カカカ・カツ・カンッ
桜子「承知致しましたわ、先生。この四季島桜子が本当の試験というのを教えて差し上げますわ!」
悟・姫「!!」
桜子 「さあ、私の奴隷達。足並みを揃えなさい。符調はDを基準に各班長は私に連絡しなさい。これより、夢見る哀れな害虫達を潰しますわ!もう一度、言いますわ。これより、害虫達を潰す!」
悟 「やっぱりそうだ。気の所為じゃない」
姫 「うそ……本当に……?」
悟 「音が、音が揃っていってる!鉛筆を走らせる音が、タブレットをタップする音が、全部揃って聞こえてくる!」
姫 「こんなことって実際にあり得るの!?これやってるの、きっとホールの前席に座ってたエスカレーター組だ。こんな大事な試験になんて曲芸披露してんのよ。頭どうかしてるんじゃないの!?」
先生 「よしよしよしよし。いいぞいいぞ。奴らの手が止まった。ほれ、どうした?問題を解かないとますます差が着くぞ?底辺クラスはエスカレーター組の奴隷だぞ〜?くっふふふ。試験問題に目を落としていても、コイツらのことが気になって内容が頭に入ってこないだろう。見たくて仕方ないだろう?ほら、見ろよ。いいんだぞ?この華麗なシンクロを!四季島を中心とした、彼女ら独自のモールス信号によって足並みの揃ったコイツらは今、同じ問題を全員で解き、全員で回答している。タブレットのタップ音から鉛筆の筆音、更にはさりげない咳から微かな足音まで、全てが伝達信号。コイツらが問題を間違える事はもうない。そして、止まることも。さあ、気になるなら視線を向けろ!顔を上げろ!そしたら即刻、退場にしてやる!」
桜子 「害虫どもが座る席から音が消えましたわ。あっけないものですわ!決して簡単とは言えない一般入試をまぐれでも掻い潜って来た害虫がどれ程のモノかと思いましたが。やはり私達には知識も知恵も、これっぽっちも足元に及びませんでしたわね!さあ、私の可愛い奴隷達、最後まで導いてあげるわ。6-12-3の問題は4。次は1、その次は5、次の問題の選択肢は1と2にチェックですわ!」
【SE】カツ・カツカツ・カツ・カツカカカ・カツ・カカ・カツカツ
桜子 「っ!なに?誰ですの、今の符調は!勝手なことをするのは誰ですの!こんな意味のない音で私の指揮を汚すなん、て、……違う、確かこの不調は……スパ……シーバ」
先生 「っんだって!!!???!!旧ソ連軍の暗号通信だとおおっ!!」
桜子 「ありがとう、ですって。知らない相手にふざけたお礼を言われる筋合いはありませんわっ!!こんなことをするのは」
先生 「こんなことする奴は」
桜子・先生 「あいつらぁあ〜〜〜」
悟 「へっ、まんまとこっちの手に乗りやがった。お前達こそ手が止まってんぞ!ざまあみろ!」
姫 「やったね、悟」
悟 「ああ!先輩の言った通りになった。あいつらが堂々とやってるお陰で、俺達も指と鉛筆で机を叩くモールス信号が使える!」
姫 「これで私達がダメだなんて言われないもんね」
悟 「おう!ったく、どこぞのエニグマみたいにタカタカタカタカ、机突きながら全員で試験解きやがって。どこぞの演奏会かと思ったわ」
姫 「実際に耳にするとほんとびっくりちゃった。試験のたびにああやって統率を取りながらカンニングし合ってきたんだろうね」
悟 「先輩から話を聞いてなかったら完全に頭真っ白になってたよ。お陰でまだ行ける!やるぞ、姫!」
姫 「うん!二人で時間一杯まで頑張ろう!」
桜子 「私達の符調とは違う信号が二つ。後ろの二人の害虫ですわね。生意気にもダミーを混ぜながら打ってるなんて。害虫の言葉なんか、誰が解析・盗聴するものですか。……許さない。許しませんわよ、絶対っ!私の指揮をめちゃくちゃにしてくれたこの屈辱、思い知らせてやりますわっ!!貴方達、スピードを上げますわよ。そもそものレベルの差というのを見せつけてやるのですわ!」
先生 「あっはははは。いかんいかん、笑いを堪えろ私。奴らがモールス信号を打電してきた時は度肝を抜かれたが、さすがはウチの生徒達だ。別段、こちらの符調が暴かれた訳ではない。生徒達のネットワークは四季島の統率によって再び勢いを取り戻し、更に加速した。もう害虫どもには手出し出来ない。どんな雑音を立てようとも無駄なこと。残念だったな。足掻いても所詮は部外者なんだよ、お前らはッ」
悟 「くそっ!なんでだ、こっちだって全力で解いてるのに追いつく気がしない」
姫 「なんで、どうしてそんなに早く解けるの!?人数が多ければそれだけ伝達速度に負荷が掛かるはずなのに……」
桜子 「害虫どもが何やら頑張っちゃっているみたいですけれど、ノロマすぎて何をしているのか全く分かりませんわ。きっと今頃、驚異的な回答スピードに疑問を抱いている頃かもしれませんわね。大人数での信号伝達がどうして上手くいくの?とか、考えているのかもしれませんわね。ぷーくすくすくすくすっ!そんなこと、できる訳ないじゃありませんの!そんなことしてる暇があったらみんな個人で真剣に問題を解いているわ。彼らはね、そもそも、既に伝達なんてしていないのよ。伝達しているのはこの私一人!奴隷達は皆、無意味に空いた手で机を突いているだけ。咳やくしゃみすらも単なるブラフ。私が答えを導いて一方的に伝えてるだけですわっ!どうです、この秀才ぶりは!初等部の頃より仲間達を先導してきた私だからこそ出来ることっ!凡人が私達の学園に紛れ込んで胸を張れる場所なんて存在しなくてよ。さあ、混乱しなさい!絶望しなさい!泣き叫びなさい!さっさと筆を置いて帰り支度でもしていなさいな!!」
姫 「やっと、16章目……。問題数にすると630問……か。悟、もう私、問題の殆どが理解できなくなってきちゃった……」
悟 「何弱音吐いてんだよ。らしくねえぞ」
姫 「そう、かな。……そうなのかな」
悟 「そうだって!姫は実際俺より数段も頭いいんだ!今目の前の問題だって、お前が俺に教えてくれた分野ばかりじゃねえか。大丈夫。まだ行ける。入試に比べればどれも簡単だ」
姫 「嘘つくの下手すぎ。今解いてる問題、JAXAの宇宙飛行士筆記試験のアレンジだよ?問題に手が加えられすぎてて、さっきから公式対応する変数が分からない。ニュートリノの質量係数なんて私覚えてないよ。……悟は、私のこと過大評価しすぎなんだよ。私より悟の方がずっと頭良いよ。もう私……」
悟 「待て!」
姫 「…………」
悟 「おい、姫!姫っ!応答しろ!」
(忘れがちなのでここで注意を。※実際は鉛筆と指の爪で机を鳴らし、モールス信号を送っています。登場人物たちは声を一切出してません)
姫 「…………」
悟 「くそ!くそ!くそっ!返事が返ってこねえ!あいつ、筆を置きやがった。あああああっ!くそおおおっ!支えきれなかった!あいつを俺が引っ張りきれなかった!後少しだってのに……。俺の頭が悪いばっかりに、先に姫の心が折れちまった。くそ……。お前が俺の隣にいないでどうすんだよ。一人で先に行けっていうのか。姫がいない場所に、俺一人で?……なんだそれ。なんの冗談だ!ふざけんじゃねえ!!せっかく入試受かってせっかく二人して対策してきた試験じゃねえか!協力してくれた先輩に、俺たちの結果をなんて報告するつもりだよ。そんなの、あいつらエスカレーター組の思う壺じゃねえか。ふざけんな。ふざっけんな!諦めてたまるか!思い通りになってたまるかっ!後少しなんだよ、姫。あと少しで分かるんだ。絶対、俺がお前を連れて行くから。だから、まだ諦めないでくれ。耳を傾けてくれ……」
先生 「おうおうおうおう?遂に片っぽが脱落か〜〜あ?ぃよっしゃ!!よし!よし!よっし!!たく、無駄に粘りやがって。ウチの生徒の手間を取らせんじゃないよ、まったく。今、四季島達は19章。20章目の新世界まであと少し。そこから先は正解するごとに2倍の点数が加算されて行く。決して簡単ではないが、彼らなら余裕で解いてくれるはずだ。終わりだ、害虫ども」
悟 「あと少しあと少しあと少しあと少しあと少しあと少しあと少しあと少しあと少し!!」
桜子 「皆さん、次のページでこの章も最後ですわ。さあ、新世界も目前。しっかりと私についていらっしゃいっ!」
姫 「…………ごめん、悟。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい……」
悟 「あと、少し……あと少し、あと」
先生 「フッ、終わったな」
桜子 「さあっ、20章目!新世界が幕を開けますわよ!!」
悟 「!」
桜子 「!?」
先生 「ん?」
姫 「…………あれ。なんだか、急に静かに」
悟 「きたああああああああああああああああああああああああああああああああああァアっ!!!!(実際には叫んでいませんが、声にならない叫びです)」
桜子 「……な」
先生 「四季島の動きが止まった?なんだ。何をしているんだ、あいつは?」
桜子 「な、ななな、なんですのっ!?これ!」
先生 「おい、四季島。私の信号が届いているなら応答しろ。いったいどうしたんだ。四季島。聞いているのか!応答しろ、四季島!」
桜子 「せ、先生……ですの」
先生 「そうだ。何をしてるんだ。まだ時間は十分ある。さっさと解いて点数を稼げ!」
桜子 「そうしたいのは、山々ですわ。……でも」
先生 「なんだ。どうしたって?」
桜子 「わ…………、わ……分からないんですの」
先生 「え?」
桜子 「答えが、ではありませんわ。全てが分からないんですの。問題の意味から作者の意図まで全てがわからないんですのよ!なんなんですのいったい!なんですの、このキュアキュアなんたらというのは!何者なんですの、この江戸と宇宙でよろず屋を営む集団は!?ナメッコ星での猿と全身タイツの激闘なんて訳がわかりませんわっ!!」
先生 「な、なんだ、と……!?」
【SE】(力強いモールス信号)
悟 「おい、姫っ!分かったぞ!分かったんだ、やっと!!お願いだ、返事をしてくれ!姫!俺たちは二人で奴らの上に立つぞ!だから、返事をしてくれ!姫ッ!」
姫 「……聞こえてる」
悟 「姫!よかった!本当によかった!聞いてくれ、俺分かったんだよ」
姫 「ちょっと。聞くからもう少し静かにして。じゃないと注意されちゃうよ」
悟 「そうだった、ごめん」
姫 「……それで。何が分かったの」
悟 「あいつらのモールス信号だ」
姫 「それって!え……悟、もしかしてずっとあの人達の信号聞いてたの!?」
悟 「聞いてただけじゃない。一人のターゲットに絞って、ずっと符調を書き取ってたんだ」
姫 「じゃあ、分かったっていうのは。解読できたの?あの人達の通信を?私達が解いてない問題の答えが」
悟 「ああ、全部な!これで奴らに追いつく。そんで、丁度立ち止まってる奴らを追い越すぞ!聞き漏らさずついてきてくれよ。姫、準備はいいか?」
姫 「……やっぱ、悟は頭いいなあ」
悟 「姫?」
姫 「うんっ、お願い!ありがとう!大好き!」
先生 「おい、四季島!不味い。害虫二人が息を吹き返したみたいだ。なんでもいい、早く問題を解け!お前ならそんなもの楽勝だろう!」
桜子 「軽々しく無茶言わないでくださいまし!何をどう理解すればよろしくて!?こんなこと、参考書のどこにも載っていませんでしたわ!体が伸びる人間の大航海なんてどこの国の話ですの!そんな御伽噺聞いたこともありませんわよ!」
先生 「ああくそおおおおおお。当てが外れたああああ!四季島だけじゃない。ウチの生徒全員が青ざめてやがる。コイツら、本気で知らないんだ。この国の一文化である、サブカルチャーをっ!!」
桜子 「不味いですわ不味いですわ不味いですわ不味いですわ不味いですわ不味いですわ不味いですわ不味いですわ」
悟・姫 「おおおおおおおおおおおおお!!!(SEでモールス信号の符調が迸っている)」
先生 「なんてこった!誰だ、こんな問題作ったの!!新世界担当は……私だああああああああああああああ!!!!」
姫 「悟、本当にありがとう!」
悟 「なんてことないって。一緒に楽しく学園生活送るんだろ?支え合うのは当たり前だろ」
姫 「うんっ!うんっ!」
悟 「じゃあ、ここからが20章目、噂の新世界だ」
姫 「もう大丈夫。私頑張るからね!」
悟 「頼りにしてる。残り時間はもう僅かしかなはずだ。当てずっぽうでも良いから答えて行くぞ!」
先生 「っだ!!!あいつら、新世界到達したのか!?てことは」
悟・姫 「これって……」
先生 「マズイ……!」
悟・姫 「ボーナス問題キタァアアア!!!!」
悟 「解ける!解けるぞ!なんだこの難易度ゼロの問題は!」
姫 「嘘みたい。重たく感じてた指先が軽い。分かる。分かるわ!全部分かるわ!」
先生 「四季島ァっ!!解けっ!当てずっぽうでもいいから、とにかくチェックボックスを潰していけぇえええ!本気で不味いぞ!学園開校以来の一大事だ!害虫どもが全生徒のトップに君臨するなどあってはならないっ!とにかく手を動かすんだ四季島ァアアア!!」
桜子 「分かってますわよっ!でも、そんなこと言われましても新世界は間違えるたびに減点措置が取られたはず。そんな無謀な策をこの私ができるわけ」
先生 「そんなこと、採点の教員どもに口を聞けばどうとでもなる。だから、さっさとしろ!」
桜子 「なんて下衆な大人ですの!私にそこまで命令するのなら、初めから答えを教えてくださればよろしいのではなくて!」
先生 「生意気な口を聞くなよ、四季島。そんなことしたら私に責任が及ぶだろう。貴様らのモールス信号も伝統として暗黙に伏しているにすぎない。だからこうして、私もお前達にコンタクトを取れるのだろうが。だが。だからと言って答えを教えるなどといった行為はまた別の話だ。カンニング行為はいかなる場合でも処罰の対象になる。注意事項を忘れるなよ、貴様ら」
桜子 「……く。分かりましたわ。言う通りにしますわ」
先生 「それでいい。安心しろ。奴らの足止めは私が代わりに引き受けてやる。くっふっふっふっふ」
悟 「あっという間に新世界の2章が終わった……」
姫 「ねえ、これ現実だよね」
悟 「そりゃあそうだろ。こんなのが夢だなんて思いたくもない。もう一度この試験をする気力なんて後にも先にもないって」
姫 「そうだね」
悟 「姫、悪いが23-7-2を教えてくれ。俺、このジャンルはからっきしで」
姫 「答えは2だよ。キュアキュアシリーズの四作品目、第二十話で円盤化された際に修正されたカット数は14箇所で、問題に出てきたのは8分21秒の主人公アカリの振り返りのシーンの事だよ。振り返る際のスカートの翻りをより滑らかにして、さらにアングルを微調整してアカリの元気さをより際立たせるように修正が施されたんだ」
悟 「さすが、この手のものはすらすら出てくるな」
姫 「私も分からないところあるんだけど、23-10-6って答えはどれなの?答えの違いもよく分からないんだけど」
悟 「魔法少年先生シラタキの問題か。答えは4だ。絵図に写ってる主人公はコミックス12巻の37ページ3コマ目なんだ。ここで、注目すべきは主人公の持ち物さ。主人公はこの時、タイムリープを繰り返して学祭のイベント全てに出て遊び尽くす、と言う無謀な計画の最中だったんだ。しかし、その際の二日目、腰に付けていた装飾の一部を生徒の一人に奪われてしまうんだ。問題の図にある画像はタイムリープをする際のシーン。つまり、決まり絵ってやつだ。作者はそこにストーリーの進行ごとに細かな変化をつけていって……」
姫 「あ、悟23-15-7の答えは1だからね」
悟 「……時の変化も反映されて、ああ1だな!かたじけない!」
姫 「23-21-1は4ね。その次も4。次が1。23-22-3って、…………あれ?ねえ、これなんだっけ?」
悟 「流石に姫の回答速度すげぇな。で、なに?23-22-3?前の問題が伏線でしょ。答えは劇場編集版のセリフ「天を貫け!!」だ。だから、1だよ」
姫 「ありがとう。私も神羅無限突破ガムラン好きだけど、テレビ放送、円盤、ベスト編集版、劇場編集版を四周しかしてなくて」
悟 「あまいなあ。信者たるものモニターが焼けるまで見るのが義務でござるぞ〜」
姫 「精進いたす〜」
先生 「ふざけるのも大概にしろよ害虫ども……。聞いていれば、無駄話を打電しながら問題解きやがって。お前らが四季島達同様にオリジナルのモールス信号を使ってることくらいわかってんだよ。ご丁寧に違った音をこまめに挟んでダミー符調まで用意しやがって。餓鬼が大人を舐めるなよ。解読できるのはお前らだけじゃないんだぞ」
悟 「姫、多分残り時間は15分もないぞ。ペース上げられるか?」
姫 「ぜーんぜん余裕〜!」
悟 「じゃあ、24章目からペースアップーーー」
先生 「ちょーーーーっと待ったぁーー!!」
姫・悟 「ッ!?」
先生 「お主ら凄いでござるなぁ〜。まさか、吾輩たち外部組の中で新世界にたどり着く者がいようとはっ」
姫・悟 「…………」
先生 「おいおい、無視しないでくれよぉ。吾輩は、お主らの味方ぞ!驚くこともないであろう?あれだけ派手に打電しておれば、よほどの馬鹿でない限り解読できぬはずないでござろう」
姫・悟 (……絶対に反応したらダメだ)
先生 「もうテストも終わりに近いでござる。こんなところで邪魔をする者がおるわけなかろう?まぁ、下手に名乗るとさらに警戒されてしまいますからな。吾輩の事はエックスと呼んでくだされ。我が話しかけたのは、他でもない。主らの回答に間違いがあったからでござるよ」
悟 (何いってんだコイツ。俺たちの答えに間違いなんてあるはずないだろ)
先生 「分かったでござるよ。そのまま無言を貫いても良いから、とにかく聞いて欲しい」
姫 (怪しすぎるこんなのに耳だって貸さないわよ)
先生 「先ほど話していた23-29-4についてでござる。バサラの如くと魔法少年先生シラタキが劇場版コラボをした時の主人公シラタキが放った最大呪文はどれ、という問題。サトル氏は3番の『サー・クエルネスエー・ティムミッタム、ユグノー・ヤクラーティーオー、ユニソネント、リビレトラベー・アルマティーウス』を選んでいたでござるな。しかし、それは引っかけだったと吾輩は気付いてしまったのだ」
悟 「は?おい、エックスこらテメおい?俺の作品に対する愛にいちゃもんつけるってんなら初めからそう言えよなあ。ああんっ?」
姫 「(悟のばかー!!)ちょっと何反応してるのよ!時間ないんだから、早く新世界の4章目に行こうよ!」
悟 「待て、姫。このエックスとか言うキモオタに一発ぶちかまさないと気が済まねえ」
姫 「なに、ジャジャの奇天烈な冒険に出てくるチンピラみたいなこと言ってるのよ。そこは受け流して、クールに去ってよ!」
先生 「だが、それを逃さねえのがこの吾輩だ!吾輩は何者に噛みつかれようが信念を曲げねえ紳士なのさ」
姫 「なにキモイこと打電してきてんだ。私達の会話に入ってくるな、カスっ!」
悟 「そうだそうだ!俺たちの間に割り込んでくんじゃあねえよ!!虫唾が走るぜ、畜生ッ!」
先生 「そう言っていられるのも今のうちでござるよ。新世界は得点が高いと聞く。そして、間違えた際の減点も!もしその一問が間違いだったとして、果たして何点減点されるのか、主らは知っておるのかな?な?な?なあ?」
悟 「知るかっ!どうせ、10点20点そこらだろう。そんなの屁でもねえぜ。そもそも間違ってもねえしなあ!」
姫 「そうよそうよ!悟は骨の髄までサブカルチャーに浸った真のオタクなのよ!得意分野で間違えるはずがあるわけないじゃあないの!」
先生 「(へっ、ちょろい)あめえ。あめえでやんすよ、主らは。さっきの問題、実際に主人公が放った最大呪文はいったいどれだと思いやすかあ?」
悟 「だあから、答えは3の『サー・クエルネスエー・ティムミッタム、ユグノー・ヤクラーティーオー、ユニソネント、リビレトラベー・アルマティーウス』だっていってんじゃあねえか!」
先生 「否!答えは否であるぞ!」
姫 「んでよ!悟がそう言ったんだからそうに決まってるわ!」
先生 「実際に主人公が放った。それはつまり、声優さんが言った呪文のことを指す。主らは知らぬのか?円盤化した際のパーフェクトコンプリートエディションに付属している特典ディスクの存在を。そこには、主人公役である井原さなえさんが初めて呪文を口にし、言い間違えてしまっているシーンが記録されているのである。つーまーりっ!この答えは5番の『サー・クエルネスエー・ティムミッタム、ユグノー・ヤクラーティーオー、ユニゾント、リラトベー・アルマティーウス』である!!!」
悟 「んな、なんだって!!?そんなばかな!!」
先生 「んははははははっ!まるで自分こそがサブカルチャーの全てを理解しているみたいな口振りでござったが、笑止ッ!貴様は作品をただ知って理解した気になっているだけのニワカ!驕りあがるオタクほど見苦しい者はないでござるよ!」
悟 「…………」
姫 「何勝手なこと言ってるのよ!ちょっと、悟!何か言い返してよ、ねえ!」
先生 「無駄でござるよ。得意分野だったかなんだかは知らぬが、所詮はその程度。ニワカ風情に発言する権利などありはしない」
姫 「エックス、あんたっ!」
悟 「……よせ、姫」
姫 「悟、なんでよ!」
先生 「おん?なんだ、まだいたのかサトル氏?ニワカは早くチャットから落ちるでござるよ」
悟 「姫。先に進むぞ。残り時間で30章までいくぞ」
姫 「え……う、うん。でも」
先生 「間違いを正され、作品愛を疑われ、ボロボロになったニワカのサトル氏にその先へ進む権利なんてあるわけないでござるよ。もう大人しくしているんでござるな」
悟 「大人しくするのは貴様だ、パチモン!」
先生 「んな!?吾輩がパチモン、だと!?なんだと貴様!」
悟 「なんだもへったくりもねえよ、パチモン。てめぇは、大事なことを忘れてる。それも、作品を愛するオタクがあっちゃあならねえ勘違いを持ちながらな!」
先生 「な、なにを言っているんだ貴様は!忘れてる?勘違い?そんなはず、あるわけないだろう!魔法少年先生シラタキは吾輩のバイブルだぞ!ニワカ風情がこの吾輩に間違いを指摘するんじゃあない!」
悟 「これだからオタクはキモい。会話が出来ねえんなら、せめて黙って聞いとけ」
先生 「!」
悟 「あのパーフェクトコンプリートエディションの特典映像はもちろん知っていた。俺も初めは5番が答えだと思ったさ。だが、それこそが問題作者の引っかけだったんだ」
先生 「は……、え?違うよ?」
悟 「俺は思い出したんだよ。アニメ版Blu-rayデラックスエディションに封入されていた特典ディスクの存在を。そこには記念すべき第1話のアフレコ収録映像がドキュメンタリーとして記録されていた」
先生 「そ、それはまさか……!?」
悟 「そう。後にファンの間で『覚醒のレコード』と呼ばれるようになった伝説の円盤だ。原作がラテン語をベースに魔法の詠唱呪文を作っていたため、アニメでもそれを口にしなければならず、当時新人で初の主人公役でレギュラーを務めることになった井原さなえさんはその重圧からか何度もセリフを間違えた。リテイクに次ぐリテイク。収録現場の空気は最悪。いつ終わるともわからないアフレコに皆が痺れを切らしていた。その時、音響監督を務めていた大ベテラン鶴丸太一さんがみんなに言ったんだ。『正しいことだけを言おうとするなら、私はそれをオンエアしないよ。魔法使いならこの場の全員に魔法を掛けてよ。そしたら私はオッケーを出すよ』そしてーーー」
先生 「そして、現場見学に来ていた原作者、赤城賢さんも口を開いた。『僕は言い間違えたのがオンエアされても構いませんよ。主人公の気持ちが入っていれば大丈夫ですよ。でも。もし主人公が僕の台本通りに呪文を言ってくれたら嬉しいな。主人公が放つ初めての魔法はどんなものか。オンエアで聞くことにしますね』そう言うと、赤城賢さんは笑顔でその場を去った」
悟 「その後、残されたキャストとスタッフは息を吹き返したように再度頭から収録をし、そのテイクで鶴田太一さんはオッケーを出した」
先生 「……忘れていた。そうだ、勘違いしていた。特典ディスクでの内容は全て途中経過にしか過ぎないんだ。事実がなんであれ、主人公の姿でセリフが聞こえてこなければそれは意味を持たない」
悟 「その通り。お前は作者と音響監督の意志を蔑ろにしていた。あの時、作品の神である二人はオンエアで絵に乗った声を認めると言ったんだ。つまりこの問題は、主人公が主人公の姿で放った最大の魔法呪文を示している。だから、それは決してアフレコ現場でのミステイクを示すものではない。答えは3だ。パチモン野郎」
先生 「バカな……そんなバカな!!あり得ないこの吾輩があの伝説を忘れ、原作者と音響監督の意に背いただなんて!何かの間違いだっ!」
悟 「間違い?いいや、間違ってねえ。お前の作品愛はその程度だったってことだ。とっくに証明終了してんだよ」
先生 「ぐぬぬぅ」
悟 「なんなら、俺の持つこの作品への愛を見せてやろうか?」
先生 「な、何をする気だ貴様……」
悟 「片手で事足りる。いくぞ!カリトス・オルトス・カリストス、クエレ・スーテラ・アークシャーテ・リニエキリテ、ジオムティッシ・エム・コーフィソーヤ、」
先生 「これは、詠唱っ!?右手でタブレットを操作し問題を解きながら、左手で鉛筆と指を織り交ぜながら机を叩いていやがるだと!?」
悟 「アスカラトベー・ユーリキース・レイテム・クッシニーナー・イン・ケンシンケティオー、ミニマム、レスクード・フィルデム・アインアイノー、ベースカティ・ブシャー・デ・アラカンマキシマム、スタグネット、リディア・レク・レクシオー、」
先生 「激しく荒々しくもそこに確固たる強さを秘めた詠唱。これはもはや、奴の奏でる調べ……そうだ、コイツはまるでドラムでも叩くかのようにモールス信号で詠唱してやがる。しかも、よく聞いたらアマチュア無線の一般信号!コイツ、カタギにも分かるオープンチャットで呪文詠唱してやがる!?」
悟 「コンパイル、ナヤカティブ・ルイカ・エクセン、アリーオブ・スーキーヤム・ミアリシーカ・ベムラート・ケンシーラ、アーカムノトムー・エム、ハイビーラス、エスコナータ、」
先生 「とても正気とは思えない。この場の全員に自分はオタクであると口外しているようなものだ。死にたいのかコイツは!」
悟 「ヨトー・エブ、リーベ・スーカシーロ、マギア・レナ・ミューズクリード・ギガスクナティクノ、ニーバ、ユニゾネ、レクシオー・コール!リーリエール・スーキーリス・アスカラトベー・エマムディスロー!ユナ、ゲンディーオ…………」
姫 「止めても無駄よ。魂に油を注がれちゃ燃えずにはいられないのがオタクよ。見せてやりなさい、悟!あなたの魂の雄叫びを!」
悟 「っぅゔぅ!?い、いってえええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!」
先生 「えーーー!!!!ちょっとそこの君、どうしたんだ大声を出して」
悟 「なん、でも……ありま、せん」
姫 「どうしたの悟!?大丈夫っ!ねえ!」
悟 「すまん、姫。下手こいた……」
姫 「どうしたの!!」
悟 「……腕……つった………………」
姫・先生 「バカなの死ぬの!!?」
姫 「心配して損したわ。24章、一人で終わらせちゃうから」
悟 「へっ、左腕が痙攣してやがる。流石は長文詠唱呪文。死ぬほど痛え」
姫 「ばか」
先生 「驚いて損した。しかし、奴の旋律に思わず胸を熱くしてしまったのは事実。認めてやらざるを得ないようだな。だが、それも今更。この様子じゃ、モールス信号もまともに打てまい。揺動の甲斐あって奴らは散らばった。孤軍で先へ進めるほど新世界は甘くない。くくく。あとは四季島が得点を稼いでさえいれば安泰だ」
桜子 「とでも思ってるんじゃないですわよね!!全然安心なんてできないですわ!先へ進めば進むほど何が書いてあるのかさっぱり分かりませんの!私の奴隷達に聞いても分からないの一点張り。こんなの当てずっぽうにも程がありますわ!こんな問題作ったバカ教師、テストが終わったら教育委員会に突き出してやりますわ!!」
姫 「ねえ、あなた。今困っているんじゃない?手を貸しましょうか」
桜子 「ッ!?誰ですの。手を貸すだなんて、随分な上から目線ですわね。あなた、外部入学生ね」
姫 「あら、それがどうしたの。困っているの?いないの?」
桜子 「穢らわしい。今更、私達の信号を解読したところで手遅れですわよ。こちらから漏らす情報はこれっぽっちもなくってよ」
姫 「何か勘違いしているみたいだから、先に言っておくわね。助けてあげるって言ってるのよ」
桜子 「なんですって。どの口がそんなことを」
姫 「新世界、一問も分からないのでしょう?」
桜子 「そ、それは……」
姫 「残り10分もないわ。そのままだとあなた達の減点は山のように嵩んで底辺クラスになっちゃうわよ。それでもいいの?」
桜子 「……何が望みなんですの」
姫 「三年間の安全な学園生活と言ったら?」
桜子 「調子に乗らないでくださいまし」
姫 「悪い条件では無いと思いますけど」
桜子 「こちらが正否の判断がつかないのを良いことに貶める算段でしょう。安い手に乗りませんわよ」
姫 「貶める……?今、そう打電しました?この私が、貴方達を?」
桜子 「もういいでしょう。私達のことは放っておいてくださいまし」
姫 「いいえ!放っておかないわ。むしろ、尚更放置しておけないわ!貶めるだなんて勘違い甚だしい。貴方達、本気で何も理解していないのですね。無知が罪というのは本当ですね。まったく腹立たしいわ!」
桜子 「一人で何をさっきから……」
姫 「エスカレーター組全員に言わせてもらいます。これ以上、新世界の問題を間違いで汚すな非オタども!こちら側に足を踏み入れるなら作法くらい知っておきなさい!」
桜子・先生・悟 「??!」
桜子 「なんなんですの、ほんと!」
先生 「あいつ、机を大きく叩きながらとんでもないこと放ちやがって。注意してやる」
悟 「……俺のせいじゃ無いよね?そうだよね?ね?」
先生 「おい、君。テスト中は静かにしたまえ。間もなく残り時間5分を切る。あともう一度、他の生徒の邪魔をするような行為をした場合は即刻退場にするからな」
姫 「すいません。つい、テストが難しくて苛立ってしまい。気を付けます。それと」
先生 「なんだ?」
姫 「鉛筆と消しゴムを落としてしまいましたので、申し訳ありませんが、しゃがんで取っていただけないでしょうか」
先生 「仕方ない。次はない、ぞ……?」
姫 「やっとお会いできましたね、エックスさん」
先生 「!!?」
姫 「よくも悟にいちゃもんつけてくれやがりましたね?しらばっくれようとも無駄ですよ。手にした無意味なノートとボールペン。二つが合わさると、さぞ独特な音が鳴りそうですね。どこから鳴っているか今一、分からなかったんですけど、それはそうですよね。ホール内を巡回してらっしゃったんですから。悟に貴方が駆け寄るまで割り出せませんでしたよ。ほら、何してるんです?止まってると不自然がられますよ?さっさと私の鉛筆を拾いなさい」
先生 「……」
姫 「お前の行為がバラされたく無かったら、これから私のやる事も見逃しなさい。なぁに、あいつらを悪いようにはしないわ。ただ、こちら側の布教をするだけ」
先生 「貴様、教師に向かって脅しか」
姫 「黙れよ、パチモン。口の利き方に気を付けろよ?なんでも良いから試験時間を引き伸ばしなさい。それが出来ないのなら、あいつらに全問不正解を教えるわよ」
先生 「人質、か。……分かった」
姫 「んふ。ペンを拾ってくださってありがとうございます」
先生 「別にどうってことない。残り時間、頑張りなさい」
姫 「はあ?」
先生 「頑張ってください……」
姫 「よろしい。さあ、始めましょう。迷える子羊達を私が導いてあげるわ」
桜子 「なんだか後ろがざわついている気がしますが、何かあったのでしょうか」
先生 「こ、…………こえええええええええ!!!何あれ、何あの子!!?こえー!!!耳元でなんであんな冷たい声が出んの?どっから出してんの?え?女の子ってあんな声出んの?えこっわ!三次元マジでこっわ!!!!?」
桜子 「先生、あと時間はどれくらいですの?このままじゃ私たちは全滅ですわ」
先生 「おおお、四季島かっ!お前ら聞けっ!これから御助力下さる方の打電に全身全霊で従いなさい!!絶対だ!絶対、歯向かうな!!歯向かうなよっ!!私はしばらくの間、席を外すっ!!」
桜子 「あ、あのっ、先生?いったいどういう事ですの?御助力ってなんのことですの?先生?先生!…………ダメですわ。今の扉の音、本当に出て行かれたみたいですわ。もう、こんな時にどういうことですのよ」
姫 「子羊達。私の言葉を聞き取りなさい。全て教えてあげましょう」
桜子 「これは。さっきの!何の真似ですの。私達の伝達網を撹乱させようなんて、そうはいきませんわよ。私の奴隷達、この打電は無視しなさい」
姫 「私を無視なんてできないわ。なぜなら、今から新世界の1章から3章までの100問全ての解答を伝えるからです。そして、たどり着くのです。4章へ。私のバイブルにして、十八番のキュアキュアの世界へ!!!」
桜子 「なにを、意味がわからないですわ。そんなのを信じるわけ」
姫 「一度しか言いませんから、さっさと回答してってくださいね。一問目から2、2、1、3、3、2、5、2、4、5、5………………」
桜子 「くっ!考えてる暇を与えないとは癪ですわね。でもどの道、当てずっぽうで回答していたのです。仕方ありませんわね」
姫 「以上、100問。さあ、4章の扉を開きなさい」
桜子 「本当に4章が表示されましたわ。ということは、8割以上正解したってことですの……。信じていいの、かしら」
姫 「みんな!ようこそ、キュアキュアシリーズの世界へ!ここからの問題はキュアキュア専門で出題される超超サービス問題だよー!もし分からない問題があっても安心して!私がみんなのことを導いていくから!さあ、準備はいい?キュアキュアステージ・アッープ!」
桜子 「……ぇ」
姫 「第一問。キュアキュアシーリーズ、歴代精霊についてからの出題。キュアキュアシリーズは2009年から放送開始され、既に12作品が放映されています。各それぞれの世界線はバラバラで描かれていますが、根源のキュアキュアの力は一つである。では、その根源に一番近い存在の歴代精霊はどの作品の何の精霊でしょうか」
桜子 「ええっと、
1、ふたりはキュアキュアの精霊ぺプル。
2、やんちゃなキュアキュアの精霊ライム。
3、スプラッシュキュアキュアの精霊リモール。
4、エキサイティングキュアキュアの悪役精霊ザムチ。
5、劇場版スーパートロピカルキュアキュアの四精霊の一人アストラ。
……目を通すだけで頭が痛くなりますわ。全部一緒じゃないんですの」
姫 「はい、シンキングタイムしゅ〜りょ〜!答えはずばり、4!!一門目から超絶サービス問題だったね!みんなも当然分かったよね!」
桜子 「分かるわけないですわよっ!!だいたい、その変な打電はなんですの!キャラ作りでもしているのですか!」
姫 「あれれ〜、分からなかった人がいるみたいだねー。でも、大丈夫。ちゃ〜んと私が解説してあげるからね!ちなみに、私は正義のキュアキュア、大地の使者【キュア・アストラル】。アストラルちゃんって呼んでね!」
悟 「アストラルちゃーーーーん!!!!」
姫 「はーーい!」
桜子 「……なんですのこれ」
姫 「それじゃあ、解説始めるよ〜!正解の4番を解説する前に、間違いだった他の回答から順を追って解説していくね!まず、選択肢1のふたりはキュアキュアの精霊ぺプル。ふたりはキュアキュアはキュアキュアシリーズの初代の作品。当時、魔法少女ものが少女雑誌で流行してた中でキュアキュアは精霊から力を借りて伝説のキュアキュアに変身し、」
桜子 「精霊から力を借りて?どういう事ですの?伝説?変身って、カメレオンみたいな体細胞の色彩変化のことを言っていますの?」
姫 「魔法をほぼ使わずにプロレス技で敵に立ち向かっていくスタイルで少女向け作品としてはまさに異色のジャンルとして登場したの。テレビ放送が始まると小さな子供から大きな子供まで多くの反響を受け、」
桜子 「なるほど、プロレスラーの伝記の話だったのですね。確かに少女向けとしては異色というか、異例だったのでしょうね。当時のニュース番組では、さぞ特集が組まれていたのでしょうね」
姫 「グッズ展開もさる事ながら、シリーズ化が決定したの。その初代ふたりはキュアキュアは、実は一番初めの作品でありながら現在地上波で放送されているサティスファクションキュアキュアの同じ時系列として存在していることが明らかになったの。精霊ぺプルはふたりはキュアキュアの中で自身の生まれを『攻殻な時の渦から生まれ、やがて気がついた時にはこの地に居た』と語っているの。そしてーーー」
悟 「どうだ、エスカレーター組の諸君!まるで呪文のように紡がれる姫の解説に手も足も出まい。実際、重度のオタクの俺ですらほぼ何を言っているか分からない。姫の変貌っぷりはやばいだろ!さあ、味わうがいい!キュアキュアに取り憑かれた女の言葉を聞いて、全てがゲシュタルト崩壊してしまえ!!!」
姫 「ーーーていうところから、サティスファクションキュアキュア精霊リーガルとの時の差を推測できるわ。そこにキュアキュアの根源を公式設定通り同一平面上重ねると、同時刻の相対性が成立しないことに気がつくの。だから、ここで理論破綻した係数を仮にMとして、作品舞台上の時間平面軸をそれぞれQ1、Q2とすると、紐解いた根源の言い伝えから16分の7πμ(パイミュー)を式に加えることができるの」
桜子 「つまり、絶対空間と絶対時間を11次元に表してワームホール理論を用いた縦軸での距離を割り出すってことですのね。ですが、それにはまだ他の要素の代入値が分かりませんわ。いえ、もしかして」
姫 「もしかしたら、気がついている人もいるかもだけど。そう!その通りだよ。その他の回答が解くヒントになっているの」
桜子 「やはりそうでしたのね。まさか、プロレスに武神の精霊が付いていたことには驚きましたが、その精霊の在り方を相対性理論を用いて存在を表そうとするなんて。なんて、手の掛かる伝記ですの。これはおそらく、神を本当に信じていた紀元前ほどの古い逸話か何かをソースにしているに違いありませんわね」
悟 「くそおおお〜。アトラクティブキュアキュアとミラージュキュアキュアしか見てないから、ほぼわかんねえ。どんだけこの問題の作者、キュアキュアにハマってんだよ。敵ながら恐れ入るわ……。あれ、まだ一門目解説してる……。姫の解説早く終わらねえかなぁ」
先生 「ーーーそうして時は過ぎた。私が胃痛を何とか薬で鎮めてホールに戻ってくると、そこには、まるで別世界のような光景が広がっていた」
姫 「故に、キュアキュアは正義!故に、キュアキュアは世界平和の象徴なの!争いのない世界を望む人たちはこの世界に多くいるわ。でも、どんなに願っても世界から戦争は無くならない。不幸が無くならない。どうして無くならないのか、みんな分かる?」
先生 「一人の少女が、私の立つ場所であるはずの壇上に上がり、マイクを片手に、聴く者全ての感情を揺り動かすような演説を行なっていた」
桜子 「それは、世界にまだキュアキュアという希望の光が足りていないからですわ。ですが、教祖様、ご安心下さいまし。私達のように貴方様の声を聞き、教えを知り、光に満たされ救われる者達がこうして存在しているのです。そうです。皆、気づいていないだけで、本当は誰もが救め、救われるのを待っているのです。だから、だからこそ、貴方様の教えを光知らぬ迷い子達にどうかお与え下さいませ!」
先生 「学年トップの四季島が壇上に立つ少女の前に跪き、恵みを希うように恭しく首を垂れると、それまで見守っていたのか、なぜツッコミすら入れないんだコイツらは?と思っていた彼等彼女等が一斉に机の上に上がって、そして、四季島と同じように跪いたのだった」
悟 「姫……いや、キュア・アストラル。皆に言葉を」
姫 「顔をおあげなさい。さあ、時が来たようです」
先生 「異様な空気に包まれたそのホールの中を私は進んだ。今まで壇上の少女へ注がれていた視線が一斉に私へと移っていくのが、肌身で感じ取れた。そして、私は状況を理解しようとする無駄な思考回路を取っ払うように小さくため息を吐くと、その言葉をクールに言ってやった。『これにて試験終了とす!』」
後日、再試験がされたとかされなかったとか。
了