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サ終の運命を切り開け!  作者: 鈴鹿
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第八章 再度

「……なるほど。今度は僕が捕まる、と」

「フーが簡単に捕まるわけねぇだろ」

「そ、それが捕まっちゃうって、【見通す力】で見て……」

 目覚めた私はフー将軍に連れられて軍議が行われる陣幕へと通された。

 前回と同じように獣人たちが整然と座っている。フー将軍の統率が優れている証拠だろう。

 私はそこでこれからの一部始終を語っていく。

 今回の滅亡はフー将軍が伏兵に捕まったことが発端になっている。だからフー将軍さえ無事なら未来もきっと大丈夫!

「ゆかりが三日も眠ったままだったのは、【見通す力】の影響かもしれないね。妖精たちは起きたまま見通せるけど、君は人間だし」

「そ、そうなんですよ! 夢の中で【見通す力】が発動しているみたいで」

 【見通す力】なんて持ってもいない能力は、二回目になると信憑性が増すのか、周囲の獣人の目はそこまで厳しくない。嘘に嘘を重ねるのも慣れたものだ。

「人間が森に伏兵を置いた状態にできると思ってんのか?」

 うっ……ユエン隊長は相変わらず圧が強い。私のこと、信じていないことがひしひしと感じられる。

 悲しい……好感度を上げたい……

「そうだね。迷森暗路は確かに視界は悪いけど、僕らには優れた嗅覚がある。通り道に人間がいたら臭いで分かるよ」

「そこ! それです! それに頼っているからです!」

 私はフー将軍の間違いを指摘するように手を叩いて注意をひきつけた。

「獣人の視覚、聴覚、嗅覚なんかが人間より優れていることは知っています。でもそれを逆手に取られるんです。具体的に言うと、獣人の血で臭いを……」

 こんなことを話したら、きっとみんな嫌な気分になる。私だって言うのを躊躇するぐらいだ。

 でも知っている事実を正確に伝えなきゃ、この先の未来を変えることはできない。

「……伏兵に獣人の血を浴びせて臭いを消したんです。道中にも獣人の死体を置いてます」

 ざわつく陣幕。誰もが人間の残酷さに非難の声を上げている。

 獣人の死体を戦場からわざわざ持ってきて損壊しているわけだから、酷いってもんじゃないよね……

「迷森暗路を抜けて清朗街道に出たとき、敵と対峙しました。仲間の死体を目の当たりにしていたので、怒りの勢いが衰えぬまま始まった戦闘は、当初優勢でした」

「そこに通ってきたはずの迷森暗路から伏兵か……でもどうして僕は捕まったのかな? こういう言い方はおかしいかもしれないけど、僕の逃げ足は早いよ?」

「それは……」

 相手が悪かった。イベントストーリーやフー将軍のキャラストーリーを網羅しているからこそ、あの場面でフー将軍が動揺して戦えなかったことを私は理解している。

 でもそれを言ってしまうと、フー将軍に対して、みんなが不信感が持ってしまう……

「フー将軍は動けなかったんですよ。『許されるなら最期ぐらいは一緒がいいね』って思ったから」

「っ!?」

 それが私に言える精一杯だった。他の誰が聞いてもこの言葉の真意は分からない。

「嗅覚は使い物にならず、視覚も煙幕で不調。そんな中での混戦は、フー将軍が敵に捕縛されたことで敗走したんです」

「勢いづいてる俺たちが伏兵ごときにか……フーはどう思う?」

「……どう、だろうね……」

 俯いたフー将軍の声は悲しみに揺れていた。私の言葉、上手く伝わったみたい。

 真実を話した以上、私にできることはない。フー将軍がどう思って、どう行動するか……きっとそこにかかっているから。

「……作戦会議、ですかね! 私、ユエン隊長の陣幕で待ってますね!」

 できる限り明るい声を出して私は立ち上がった。

 みんなの視線を一身に浴びながらも、私は何事もなく陣幕を後にする。



「待ってくれ」

 少し歩いたところで、背後からの小さな声に足を止めることになった。

「……送るよ」

 追いかけてきたのはフー将軍だった。

 しゅんと項垂れた耳と髭には哀愁が漂い、背中も丸まっている。寂しげな微笑みが彼の心情をよく表していた。

 フー将軍が私の隣まで寄り添い、そしてゆっくりと、二人で歩き出す。

 先に口を開いたのは私だった。

「……フー将軍と相思相愛である人間国の尉官セン。チャオ将軍があんなことになる前までは、密会してましたよね」

 引き裂かれる運命と知りながら手紙のやり取りをしたり、隠れて会う二人をストーリーで追っていくのは辛かった。

 二度目の【大規模戦】で惜敗した獣人国だったけど、そのとき両者の陣営から負傷者を出した。人間国側の負傷者がセン。

 撤退ではなかったとは言え、これでフー将軍が彼女と直で戦うことはないはずだ、なんて喜んだぐらいだ。

 でも……私が変えた未来が、それを許してくれなかった。

 書き換わった最終章でセンは戦場に復帰し……フー将軍と対峙した。

 伏兵が現れ混戦になる中、フー将軍は戦意を喪失し、そして、捕縛。

「フー将軍は……好きな人を殺すなんて、無理でしょう?」

「敵同士になった今、もし許されるなら一緒に死のうと誓ったからね。彼女を守れないなら、僕も死ぬだけ……」

 ゲーム開始時はすでに離れ離れになっていたけど、元々二人は共存街出身で恋人関係。

 イベントストーリーやキャラストーリーで二人がイチャイチャしてる場面を見るたびに、早く共存エンドが見たいなって思っていた。

 そんな二人が、ここで戦うなんて悲しすぎる……本当に運営は悪……変更したストーリーでこんな辛い場面をいれるなんて……

「人間と戦うみんなの気持ちを裏切るんだね、僕は……」

「そんなことありませんよ。絶対に未来は変えられます」

 今の私には、そう言うことしかできなかった。



「おっかしいなー……」

 ユエン隊長の陣幕で一人待つ私は、どう考えても答えの出ない疑問とぶつかっていた。

 着ているトレーナーの色が違うのだ。

 前もトレーナーだった。袖と肩の部分が青色で、それ以外の大部分は白色。デザインとして青のラインが引かれている。

 膝より少し上まである長めのもので、ゆったりとした着心地が楽だった。もちろん下には短パンを履いている。

 機能面では同じ。でも……今着ているトレーナーは青色じゃなくて水色に近いもの。……ここに転移する直前まで着ていたトレーナーの色。

「私、ここにずっと寝てたんだよね? それなら青トレーナーじゃないとおかしくない? 体ごと転移したから服も変わったとか?」

 確かここで目覚めたとき、ユエン隊長が変なこと言ってたような……誰かが洗って色が落ちたとかどうとか……

 ということはやっぱり青トレーナーを着て寝てたってことだよね?

 いったいどういう仕組みなんだろう。夢だから何でもありってわけ? 前の転移では、こっちで剥がした絆創膏が現実世界に戻ると貼ったままになってたし。

「こちらに来るときは直前の服、でも帰ったときは何も変わってない……うーん」

 地面に敷いただけの絨毯の上でゴロゴロとしながら考える。

 ただ考えても考えても答えなんて出ない。そもそも転移の仕組みすら分かってないんだから。

 服は着てても手に持ったスマホは一緒に転移していない。そばにあった抱き枕も転移していない。うーん、うーん……

「…………」

「あ、ユエン隊長!」

 そんな不毛な時間をしばらく過ごしていると、ユエン隊長が陣幕に入ってきた。

 軍議、終わったのかな? 時間がどれだけ経ったか分からないけど、眠くなる前に帰ってきてくれて良かった。

 推しの顔はいつ見ても癒やし以上の効果がある。ありがたやありがたや……

 尻尾を揺らしながらズンズンと陣幕の奥まで進んだユエン隊長は、備え付けられた椅子にドカッと座ると深くて長いため息をついた。

「なんでまだ俺がこいつの世話しなきゃなんねぇんだよ……」

「ユエン隊長じゃなきゃ安心できないからですよ! 私も!」

「くそが、俺よりフーのほうが適任じゃねぇか」

「フー将軍は軍を纏めるっていう仕事がありますからね。それにこの軍の中じゃユエン隊長が一番強いんですから安心安全防犯バッチリ!」

「はぁ……うるせぇのが戻ってきたな……」

「もー、うるさいだなんて酷いなぁ……あれ?」

 会話、してる? 私、ユエン隊長と会話してる??

 あれだけ話しかけても応えてくれなかったユエン隊長と、私、会話してる!?

 好感度上がってる!? マイナスからプラスに転じた!? 底辺からグラフ伸びた!?

「ゆ、ユエン隊長、わた、私もしかして、ユエン隊長との好感度……」

「…………」

「あっ、あの! 私! ユエン隊長といっぱいお喋りしたくて! やっぱり何も知らない者同士っていうのは良くないと思うんですよね!」

「…………」

「私のこと、もっと知ってもらえればユエン隊長だって会話が弾むと思ってングッ!?」

 口の中にしょっぱい味が広がる……むぐっ……声が……むぐぐ……

 独特な獣の臭みが残る干し肉が口の中に詰め込まれて、私は言葉も出なければ呼吸も上手くできなくなった。

 飲み込めるまでは黙ってろと言いたげに口を覆うユエン隊長の手。両手を使って剥がそうとしてもびくともしなかった。

「…………」

 無言のまま、私を半目で見るユエン隊長は空いているもう片方の手でおもむろに干し肉を取り出し、自分でもモシャモシャと食べだしたのだった。

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