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サ終の運命を切り開け!  作者: 鈴鹿
7/16

第七章 更新

~四月二十六日~


「救いはないんですかー!!」

 勢い余ってスマホを投げそうになったけど、思い留まり投げるふりだけにした。

 今日はSOSの新たなる最終章が配信される日。十四時更新だったので労働に勤しむ私は帰宅してから更新しようと思っていたんだけど、SNSがあまりにも不穏すぎて……

 おかしいなって疑問を抱きながら超特急で帰宅! 更新! 最終章を読んだ結果!

「何も変わってないじゃん! 滅亡してるじゃん! なんだったら前より描写がひどくなってるじゃん!!」

 なんで滅亡エンドを二回も見なきゃならないの! そんなところバリエーション豊富にされても困るから!

「どうしてなのぉ……ユエン隊長は相変わらず生死不明で終わるしぃ……」

 前回と比べて残酷度がアップしたストーリーは読み進めれば進めるほど私の心をどん底に突き落としていった。

 前はさ、『切り捨てられた』ぐらいだったじゃん。どうして『切り口から血飛沫が噴出し、ビクビクと体が痙攣しながら崩れた』になったわけ?

 獣人国は串刺しにされた首級が並ぶし、妖精国に至ってはみんな……食い、食……うん……

 人間国も……やっぱり最後は滅ぶ。前回は戦争による大地の荒廃で人が住めなくなり次第に……だったけど、今回は妖精王が最後の力を振り絞って焼き払った。うん、もう全部燃えたよね!

「おかしいでしょ!? こういうゼロの仕方はないってば! 共存エンド! みんなでもう一度ゼロからやり直そうよ!?」

 戦いの果てにゼロになるけど、こういうのはお腹いっぱいだから!

「無理すぎて辛い……どうして……」

 ピコーンピコーンとスマホの角が光る。これはSNSの更新を告げる合図……

「みんな辛いよね。分かるよ……また滅亡だもんね……」

 フォロワーさんたちの嘆きの声だ。変更されたストーリーが更にパワーアップした滅亡だなんて誰も思わなかったよね。

「あ、エマさんが絵をあげていらっしゃる……あははっ、運営ビルに乗り込むイナ軍だ……」

 人間国に所属するプレイヤーは獣人国と相対するヨシツグ軍と、妖精国と相対するイナ軍に分かれている。

 エマさんはイナ軍所属のイナ推し。妖精国と戦って、あそこまでボロボロになった推しを見るのは辛かっただろう。そりゃ運営ビルを打ち壊しに行きたくもなるよね。

 課金額も費やした時間もトップクラスなのはスクショ見てたから知ってるし……分かる……ミートゥーボタン押しとこ……

「私の、推しも……」

 また生死不明で終わった。死亡描写がないだけ救いなの? 生きているかもしれないって思うことは救いなの?

「私は、みんなと仲良く……幸せな世界が見たいだけなのに……ううっ……うおーん、うおーん……」

 運営はそれを許してくれなかった。シナリオライターも死の描写を鮮明にしてきた。

 私が変えた未来は、結局何も変わらなかったどころか余計に酷くなった。

「これでSOSの物語は終わり……こんな、終わり方……」

 ポロポロと落ちる涙はまったく止まらない。抱き枕に縫いつけたモフモフの尻尾に抱きつきながら、思うことはユエン隊長のこと。獣人国のこと。

 私が間違っていたのかな……悲しい未来は、回避できないのかな……



「……っ!」

「ひんっ!?」

 抱き枕にしていたものをものすごい勢いで引き抜かれて、私は床に頭を打ち付けた。

 悲しみの底に落ちていた私に対する何たる所業……いたた……ん?

 あれ? これ前にもどこかで……

「……ハッ!?」

「起きたみてぇだな」

「ゆゆゆ、ユエン隊長!?」

 目の前にユエン隊長が! 相変わらずかっこいい!

 じゃなくて!!

「私、またゲームの中に……」

 なんで、どうやってここに転移したの? あれから一ヶ月、何も起こらなかったのに、どうして私は……

「…………」

 ユエン隊長が、私のことをじっと見ていらっしゃる……な、何か粗相をしたかな? 前回に比べると、視線の鋭さは若干減っているような気もするけど……

「……誰かが洗って色でも落ちたか? まあ俺が気にすることじゃねぇか」

「ええっと……」

 まるで独り言のようにボソッと呟いたユエン隊長は、私が声を掛ける前にさっさと陣幕を出ていってしまった。

 うーん、やっぱり好感度は低いままなのかな。前回殺されかけたところから始まったことに比べれば進歩だと思うけど。

「……でも、また会えた」

 てっきり夢だと思っていた。一度きりの不思議体験だと思っていた。

 ユエン隊長と、みんなと離れて寂しかった。ゲームの中に転移なんて、そんな非現実的なことが起こるなら一生その世界に住まわせてほしかった。

 だけど私には現実の世界がある。だから諦めて日常を過ごして、新しい結末を見るまで、そしてサ終を迎えるまで……最後までSOSを楽しむつもりだった。

 この再転移は、私に未来を変えろってことなの? 変えることができたら……今度こそ……

「ゆかり!」

 ぼんやりと考えていると、突然陣幕が開いて血相を変えたフー将軍が入ってきた。その後ろには仏頂面なユエン隊長も控えている。

「本当に良かった。陽光大橋から戻る途中で君は突然意識を失ったんだよ」

「意識を……?」

「三日も眠りっぱなしだったんだ。声を掛けても治癒師に頼んでも君は目覚めなくて……」

 モフモフの心地よい両手で私の手を包みこみ、眉を垂れさせて心配してくれるフー将軍に抱きつきたくなってくる。

 戦争相手の【人間】を、目に掛けてくれるんだもん……推しがいなかったら絶対推してた……

「フー将軍、その……私が寝ている間に、何かありましたか?」

「これからのことを決めたぐらいかな」

 その言葉を聞いて、自然と目を伏せてしまう。

 それは滅亡に向かう未来。私が見た……いや、現実世界で読んだあのストーリー通りになるという、直感……

「私、また見通したんです」

 真剣な眼差しを向けると、フー将軍も理解してくれたのかゆっくりと頷いた。

 なんで転移したか、どうやって転移したか、なんていうのは今はどうでもいい。

 未来を知っている以上、何もしないという選択肢はない。

 獣人国を助けるために……やれることをしなきゃ!


~メインストーリー最終章第十幕~


 生け捕られたフーを救うべく、ユエンは軍を纏めて清朗明森を歩いていた。

 たとえ無謀だと分かっていても、彼を救わねば統率を取り切れない。


ヨシツグ「罠を張っていると思わなかったか?」


 前方からの声にユエンが立ち止まると同時に、後ろを歩く獣人たちも立ち止まる。

 視線の先に一人の男が。そしてその背後からはぞろぞろと人間が隊列を組んで迫ってくる。


ユエン 「てめぇらの軍が俺たちを包囲していたとしても、突っ切りゃ問題ないだろ」

ヨシツグ「突破すると? ふっ、愚かな」

ユエン 「火!? そんなもん出したらてめぇらも……っ!」

ヨシツグ「それが、どうした」


 ヨシツグが手を振り上げる。それを合図に、後方に立つ人間たちが構えていた火矢を一斉に放った。

 獣人たちを狙わずに、周囲の木々に当たるよう四方に向けて。


ユエン 「くそが……てめぇら、散れ!」


 小さな火種は、そよ風に煽られて木々に燃え移り、次第に森は業火の海へと化していく。


ヨシツグ「愚かな獣よ……死ぬがよい」


~メインストーリー最終章第十幕終了~

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