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サ終の運命を切り開け!  作者: 鈴鹿
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第一章 プロローグ

『サービスを終了いたします。』

 これほど悲しいお知らせが、かつてあっただろうか……いや、ない。


~三月二十八日~


「無慈悲すぎる……何もかも無慈悲すぎる!」

 約九ヶ月間、毎日欠かさず続けていた【サーガオブサイファ】……通称SOSがサービス終了のお知らせを出したのは三月一日のこと。

 SOSは所謂オープンベータ版だったけど、それ故か良心的すぎる課金要素、続きが読みたくなるストーリー、プレイヤー同士が交流できるチャット機能等、ほぼ正式版と見紛う出来だった。

 個人開発しているらしく、情報の露出が少なくて、私もSNSで繋がっているフォロワーさんに勧められなきゃ知らなかった程のゲーム。

 だけど始めたらすごく面白くて、サービス開始直後からプレイしていれば……なんて悔しがるほど没頭した。まあプレイし始めたのってサービス開始一週間後だったんだけど。

「なんで、こんな結末に……」

 そしてサ終の約二週間前に当たる今日、メインストーリーの最終章が配信された。

 中身は……見事なまでの敗北! 一辺の慈悲もない滅亡!

「こんな皆殺しエンドなんてある? 獣人国だけじゃなく、他の国まで、みんな……」

 SOSは剣と魔法のRPGで【和風な人間国】【中華風な獣人国】【西洋風な妖精国】の三つの勢力があり、それぞれが対立。ストーリーは人間国が妖精国、獣人国双方に戦争を仕掛けたところから始まる。

 プレイヤーはいずれかの勢力に所属し、一般兵として国を勝たせるために色々なことをする。

 と言ってもプレイヤーの分身になるキャラはプレイアブル化されてない。ストーリーの進行役みたいな形で存在するだけで、戦うのは【ガチャ】で加入する仲間たちだ。

 ストーリー上では対立していても、チーム編成上ではみんな仲良し……なんてことはよくあることなので気にしてはいけない。

「あのとき勝っていたらまた別の未来もあった? どこか一国でも圧倒的な力を見せていたら、その国が統治する未来とかになってた?」

 走馬灯のように過ぎるSOSをプレイした日々……

 SOSは仲間を強くするために【依頼】を受けて経験値や物資を貰う。そして鍛えた仲間たちを引き連れて、敵勢力のプレイヤーたちと陣地を取り合う【大規模戦】で勝利するのがメインの遊び方だ。

 この【大規模戦】は二ヶ月~三ヶ月に一回行われ、勝敗はメインストーリーに大きく関わる。

 大きく関わるって言っても既に用意されたストーリーでしょ? なんて軽く見てた最初の【大規模戦】、私の所属する獣人国は惨敗した。

 その結果、メインストーリーでプレイアブルキャラがお亡くなりになった。

 勢力内のチャットがお通夜状態になったのは今でも記憶に新しい。推していたプレイヤーの絶望っていったらもう……イベントストーリーで登場しても、メインストーリーで活躍してくれなきゃ意味がないんだなって思ったよね……

 その悲しみをバネにしたおかげか、次の【大規模戦】では惜敗で済み、獣人国と人間国、双方からプレイアブルキャラが一人負傷するだけに留まった。

「私の大切な仲間たち……ううっ……うおーん、うおーん……」

 私は獣のような咆哮を上げながら顔をぐしゃぐしゃに歪めて泣き喚く。傍から見れば『あと二年で三十路を迎える女性がみっともない』と思われるかもしれないけど、この涙は止まらない。

 それぐらい悲しい滅亡エンド。というか結果的に見れば勢力全滅エンド……

 普通のゲームだったらこんな酷い結末でも受け入れたかもしれない。だってベータ版だし。改良の余地ありって思うかもだし。

 でも私にとってSOSは特別だった。

 本名である【峯井 ゆかり】をプレイヤーネームにしてまで、一緒にいたい推しができたから……

「ユエン隊長……ううっ、私、どうすれば……」

 私は抱き枕を抱いたままスマホの画面を見た。そこには、人型の獣人……最愛の推しが立っている。

 獣人国の切り込み隊長、ユエン。

 口調も行動もちょっと荒っぽいけど仲間思いなキャラで、戦闘時の凶悪な笑顔と普段の無邪気な笑顔の違いにキュンときてからというもの、私の財布は彼に握られたも同然だった。

 ノーマル衣装の他、季節モノの特別衣装やストーリー進行で解放される衣装など、そのすべてをガチャで引いてきた。条件次第で引き直し可能なガチャだったからこそ、完凸も当たり前のように行った。

 運営がグッズを出していないのでゲーム中のグラフィックを使って缶バッジやポストカードも作った。もちろん世界に一つだけ、個人で楽しむ範囲だ。

 それでも他のゲームに比べれば圧倒的にモノが足りなかったから、絵の勉強を必死にして自作のグッズを作るに至った。その一つがこの抱き枕。

 自分で描いた絵とは言え、それっぽい尻尾も作って組み合わせた【非公式ユエン隊長抱き枕】は私にとっての癒やしになっている。

「あ……SNSの通知……エマさんも悲しんでおられる……ミートゥーボタン押しとこ……」

 SNSで繋がっているSOSプレイヤーは多いとは言えない。あまりにも閉鎖的なゲームのせいか、宣伝してもみんなの食いつきが悪くて……運営が大手企業じゃないとダメなのかな……

 エマさんは所属勢力こそ別だったけど、積極的に絵や小説をあげていらっしゃる神プレイヤーの一人。

 他にも、日々のゲームスクショや妄想ネタを投稿したり、プレイアブルキャラの性能表や初心者向けの攻略を作っている方もいる。

 みんなSOSを愛していた。それぞれの愛し方をしていた。

 私は知っている……私だって、全力でSOSを愛してきたから……

「でも、全てが終わってしまった」

 その事実は変わらない。サ終までの期間、何をどう頑張ってもメインストーリーは覆らない。

 チーム編成画面で爪を振り回すユエン隊長を撫でるように何度もタップする。好感度MAX状態のユエン隊長は顔を赤らめながら色んな言葉を返してくれる……何百何千回と見た……

 ずっと一緒だったんだ。でも、もう……

「辛い……何もかも辛いよぉ……うおーん……」

 獣人国は滅んだ。世界も滅んだ。ユエン隊長の生死は不明だけど、他の仲間たちの殆どに死亡描写があった。

 運営に慈悲はなかった。シナリオライターは殺すことを躊躇しなかった。

 悲しすぎる現実から逃避するように、私は自作した抱き枕に顔を埋めながら、獣のような鳴き声をあげ続けたのだった。

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