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タバコとアルコール

不定期で更新します

 佐倉と大海がテーブルを挟んで座っていた。

 テーブルの上には数本の電子タバコとと目薬のような小瓶が並べられていた。


 「最近になってこういう物が流行っているようなんですよ」


 佐倉は大海に説明するようにその中の一つを掴んだ。


 「こうしてキャップを外してケースの中にリキッドを入れるタイプなんですけど、以前から大麻系がネット通販で売られているのは知っていたんですが、これは自家製といいますか自分で用意できるからやっかいですね」


 佐倉はリキッドタイプの電子タバコを手に持って大海に渡す。


 「なるほどね、僕は煙草を吸わないから全然知らなかったが最近はこうなっているんだ」


 「このリキッドタイプとカートリッジタイプがあるんですが、まあカートリッジは比較的弱い電気で吸うのですが、こちらは強めなので煙が多いんですよ」


 大海はしげしげと観察している。


 「これ、今使えるの?」


 「吸えますけど、仕事中ですからしませんよ。一応合法ですから大丈夫ですけど」


 佐倉が説明していた電子タバコはアルコールをグリセリンに混ぜた液体を使う新手の「酒」だった。

 作りかたは簡単で薬局でグリセリンを買い、アルコール度数の高いウイスキーなどの酒を混ぜるだけ。 

 肺の粘膜から吸収されるから酔うのも早い。少量で酩酊状態になれる上に金もかからない。

 しかも空き瓶などが出ないのでゴミも出ず携帯も容易になっている。

 つまりタバコのような酒だ。

 市販のリキッドにアルコールを混ぜてもいいのでアレンジがきく。

 感染症が流行した昨年に飲食店のアルコール提供が禁止され、路上飲みもできないとなるとこういった逃げ道というか網を避けることが出てくる。

 旧東京都内は路上喫煙も規制された場所が多かったので目立たなかったが、最近は全国に散らばったことで流行り始めたという。

 

 「でもこれだと時間も場所も胃の調子も関係なく酔えるということだよね、そうすると色々面倒なことになるのじゃないかな」


 大海は思いついたことを佐倉に言う。


 「そうなんですよ、特に飲酒運転だったり日中の酔っ払いによる迷惑行為が多くなっているようなんです。

 いわゆる酒のツマミが要らないので、タバコが吸える環境ならどこでも。

 仕事中だろうが休憩中だろうがお構いなくで、ぱっと見は電子タバコですからね」


 法律で禁止しようにもタバコとして認可されているものを規制はできない。

 コーラに焼酎を混ぜて飲んでいたとして検査しない限り摘発できないようなものだ。

 イスラム圏で牛乳に酒を混ぜて自宅でのむことが暗黙の常識として成立しているように世界中で抜け道があるのは必然なことだ。

 二人が悩んでいるとドアがノックされた。

 「どうぞ」佐倉が応えた。

 入ってきたのは大竹とピーターの二人だった。


 「どうしたんですか、二人して真剣な顔を突き合わせたりして」


 大竹は大海の隣に座り、ピーターは佐倉の隣にテーブルの上の電子タバコを手に持って眺めた。


 「あれ、二人は吸っていましたっけ。あれですか、どちらが美味しいか比べていたんですか」


 「違いますよ、最近これが問題になっているから悩んでいたところです」


 佐倉は大竹が手に持っていたタバコを奪うように答えた。


 「え、なんでですか。電子タバコの低年齢化でもしたんですか。まあ気持ちはわからないでもないですね。フルーツやデザート味なんて子供が好みそうですからね」


 「違いますよ、これにアルコールを混ぜて吸っている人が激増しているという話です」


 大竹はタバコを鼻に近づけて嗅ぎながら言う。


 「なるほどね、でもそれは大昔からイスラムではけっこうやっていますよ、アメリカの若者でもね。

 彼らは水タバコのシーシャに混ぜているようですけど。

 ヘロインや大麻よりお手軽で合法なの上に大量の煙がパーティーを盛り上げるのにもってこいですから。僕も昔は付き合いでやっていましたけど、どうも体質的に合わないので止めましたね」


 「大竹さんて煙草は吸いませんよね」佐倉が訊いた。


 「転職ニートの時期に金がないから止めて以来吸っていないな。ちょうどその頃から値段も上がり始めたし喫煙場所も限られてきたからね。

 でも禁煙が健康増進のためだと思っていないよ。

 国の煙草規制は欧米からの外圧だろうけど、煙草をターゲットにして国民つまり下層労働者をこき使うためと医療費を抑制して財政の立て直し、でも税収は確保したいから喫煙法と値上げと電子タバコの合わせ技でごまかして正義感を演出している。

 煙草休憩が無くなれば生産性も上がるとか、煙草が要因の不健康が防げれば労働力が減らないからね。ついでに資本家など富裕層の健康も良くなるだろうという支配下目線の政策だな。

 煙草の煙より排気ガスや工場からの煙のほうが癌になるのにね。

 同じ理屈ならアルコールも規制しなければいけないのにしないのは経済と税収の規模が大きすぎて影響が強い禁断の領域だから。

 人生党はそこにメスを入れるのかなと思っていたけど、まあ無理だよねお酒は旨いから、タバコを嫌っている人でも酒は好きだし。でも飲酒運転の死亡事故とタバコの肺癌死はどちらが多いんだか」

  

 大海と佐倉は何も反論はできなかった。


 「でも、このアルコール電子タバコが流行るとさすがにやばい状況になるね。

 健康問題というより治安とかに影響がありそうだ。

 安物の薬物として依存者が出てきたら、社会復帰も厳しいだろうな。

 たぶん脳細胞への影響は飲酒より強いだろう。酔いが早いということは覚めるのも早いから常時吸っていたくなる。

 アルコールは最初こそ眠気を誘導するけど数時間後は逆に覚醒してしまう。これの場合はその間隔が早く起きる可能性もあるな。

 総合的な麻薬としては完璧じゃないだろうか、しかも合法。

 将来的には認知症が激増しそうな」


 大竹はそう言いながら佐倉と大海を見つめた。

 佐倉は気まずそうな顔をしながら言う。

 

 「だからこうして悩んでいるんですよ、大竹さんには良い対策があるんですか」


 大竹は二人を見つめて答える。


 「あるよ、でも現実的じゃないけど。

 まず電子タバコは禁止して、紙巻は一本百円にするかな。

 紙巻も缶入りにして保存性とリッチ感を演出。

 巻紙の火薬と添加物を禁止して葉の品質と加工だけで味を決める。

 フィルターは付けない、ゴミになるだけ。必要なら別売りの専用パイプを売る、しかもハイセンスなデザインで。キセルタイプがいいかもね。

 葉巻とパイプの楽しみを奨励して自宅喫煙やシガーバーなど無関係な人を巻き込まない環境を整える。とうぜん飲食店内や職場では吸えない、仕事中に酒を飲まないのと同じ道理で。

 葉タバコ農家の取材とかでストーリー性を持たせ煙草は農産物として正しいという印象にする。

 百歳喫煙者の紹介、電子タバコ喫煙者はアルコール依存症という実態を流す。

 電子タバコを持っているだけでいかがわしい人間とさせる。

 大麻の解禁はアルコールほどの薬物危険性はないけど、葉煙草農家を圧迫するし他の食料生産から大麻栽培に転換されても困るから認めない。

 その代わり煙草を上質な大人の嗜みとし、それ以外は低俗とみなす。

 どうです、できないでしょう」


 佐倉と大海は大竹の話をそれほど非現実とは思わなかった。

 これまでの日本は欧米から始まった禁煙運動に巻き込まれて先進国ポーズを装っていただけに過ぎない。タイミングよく年金や健康保険の財源不足が重なったことで受け入れやすかっただけだ。

 他に捕鯨とか農産物は抵抗してきたのは与党の支持者に向けたポーズでしかない。

 現実社会の実態とか影響といったことより「やっています」感のアピールのみ。

 大竹の話だと自己責任において他人に迷惑をかけないという条件で、煙草を高級ウイスキーのように社会的立場するということだ。 

 昭和の煙草というと労働者と男の象徴アイテムで、ファッションや生き方を現わしていた。

 酒、女、煙草、ギャンブルは男のたしなみで、男社会中心の風習だった。

 平成に入り女性が男性のように働きだすと女性の喫煙率も上昇したが男性の禁煙がすすんだ。

 煙草には男性ホルモンのような効果があるようで、吸うことによって男性基準の労働環境に合わせることができる。

 でも人生党の政策によって女性基準の労働環境に変えていくのならば自然に喫煙率は下がり、少数派の「煙草オタク」のような趣味としての面をだせるのではないかと考えた。

 

 「僕はいいアイデアと思いますよ大海さん」

 

 佐倉は大海を見て言う。


 「僕も同じだな、実現させるには実態の調査など時間が必要になるだろうけど不可能じゃない」


 大海は佐倉に同意した。


 「あれ、もしかして本気でやるつもりなんですか。あくまでも個人的な理想論を言っただけなんですけどね」


 「大竹さん、僕たち人生党が政権を任されたのは理想を現実にするためだってことを忘れていませんか。数年前までは不可能だったことを連合国の日本でなら可能にしていく、できると期待されているからなんですよ。実際にやってきました。

 国民も人生党が今更に新しいことをはじめようとしても聞く耳はあるはずです。

 もちろん説明をしっかりして国民の利にならなければなりませんが。

 さっそく党内調整から内閣で検討してみますか、佐倉さんよろしいですよね」


 「そうですね、次の国会に成立させる新法がまだたくさん残っているのでスケジュール調整をしないといけませんが」


 佐倉は手帳をめくって確認した。デジタルデータで管理していない佐倉のこだわりだ。

 他者への連絡は自分でデータ転送をしているが共有すべき情報だけに限っている。



 ほどなくして酒と煙草に関する新法が成立した。


 電子タバコの新規製造販売は禁止。

 中古電子タバコは紙巻などと期限付きで交換。

 公共の場での喫煙全面禁止。違反者は罰金二万円。

 喫煙は専門店か専用スペース、自宅などに限る。

 他者に喫煙を咎められたらすみやかにやめる。

 承諾しない場合は通報し逮捕連行可能。飲酒運転と同じ対応。

 葉タバコ農家に助成金と取引額の上乗せ。

 米のように品評会を開く。

 喫煙飲酒は十八歳以上の納税者。

 飲酒運転は濃度に関わらず免許取り消しと職務停止一年(自己都合退職になるか転職禁止なのでトウキョウ移送希望も可)。

 重傷死亡事故は無期刑相当でトウキョウ移送。

 飲酒運転、泥酔者の通報には報奨金。

 未成年喫煙飲酒は特に罰則は設けないが、成人の喫煙場所の規制、飲酒罰則をそのまま適用される。

 飲酒喫煙が原因の事件事故の場合は求刑は五割増しで判決も減刑しない。

 


 この新法により飲酒喫煙の自由は認められたが、他者の迷惑になる場合は厳罰になるということで、酒の上での失敗という古い慣習では許されてきたことが無くなった。

 酩酊状態で駅のホームで歩くこともできなくなったし酔っ払いが絡むことも無くなった。

 公衆の面前での泥酔が罪として認知されるようになったことでタクシー業務に介抱専門の別料金が設定され増収となったのは良い副作用となった。

 自宅で泥酔して暴力事件を起こすことが懸念されたが、被害者が出る前に通報できるようになったことで未然に防げた。(周囲の不快だけで通報義務が発生)

 

 


 そのころ日本の西端、九州との国境の県で旧政権の二人が会っていた。

 

 「電子タバコが禁止になるようだけどどうする、裏ルートでこれまで通りに流通させるのか、それとも中止するのか」


 「在庫はまだ残っているからどうにかギリギリまで売るけど、残りは紙巻に交換できるようだから紙巻煙草の転売で処分はできると思う。

 でも電子タバコ作戦はダメだな。あれだけアルコール入りを無料体験販売をして順調に流行ってきた矢先だったのにな。

 新政権の奴らは予想以上に動きが早かったのはうかつだった。僕らの常識が通用しないとは思ったがこれほどまでとはな」


 「合法薬物で混乱させるというはアヘン戦争を参考にして政権奪還を狙ったのはいいアイデアだと思ったんだけどな」


 「なに、次の選挙までは時間はある。地元ヤクザとつるんでいた代議士なんか不満を貯め込んでいるから利用しやすい。特に四国の連中なんか介護事業に乗り遅れた建設ヤクザは協力的だという話だ」


 「そうか、じゃあ四国の連中にも汗をかいてもらおうか。それにしても九州の連中は動く気配が無いけど、あいつらは満足しているか」


 「いや、中国資本で潤っているのは地方の温泉地だけだからな、博多の建設関係代議士とヤクザは旨味が無いらしい。

 でもあいつらは日本に入国制限されているから新政権が潰れても関係ない。

 だから僕たちだけでどうにかするしかないわけだ」


 「明治維新の子孫である俺たちが令和維新をやり遂げるとういうわけだな」

  

 「そういうことだ、僕も再び総理ができるくらい体調もいいから問題ない」


 二人は国会議員の定年が大幅に引き下げられたことを知らなかった。

 つまり立候補すらできないことを、旧政権のほとんどが該当することも。

 何故なら人生党の党則でしかなく、政権が単独で成り立っているので公表する必要がなかった。

 いざとなった時点で法整備すればいい話。

 ゆえに旧政権の無意味な維新活動は続いていくのであった。

 

 

 

キャラクターのスピンオフのリクエストがあれば考えます

物語を早く進めるために端折ったので過去のエピソードを書くかもしれません

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