表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
93/104

ホッカイドー観光3丸山家

待ち合わせの森林公園には小さいながらもボートに乗れるような池があった。

 カモやアヒルが草をんでいるのも見ることができる。

 周囲の木々には小鳥の声があちこちから響き、エゾリスの気配もあった。

 エゾリスは木に登るときは「ガッツガッツ」と爪を立てる音と、向きを変える時に「ビュン!」という音がする。 

 もしくは木の実をかじる「ガリガリ」などが聞こえれば近くにいるはずだ。

 大竹は耳をすませて音が聞こえる方に歩き出し、どのあたりかを見当をつけて見渡す。

 すると五メートル頭上の枝に一匹のリスを見つけた。

 大竹に気づいたリスは枝伝いに木々を渡り歩き去って行く。

 大竹もリスの後を追いかけていく。

 まるでストーカーのような動きの大竹を見ていたピーターはカモの餌を買って与えながら見守っていた。

  

 小一時間ほど待っていると公園の駐車場から丸山さんが車から降りて迎えに来てくれた。

 

 「ようこそ、北見市へ。大竹さんひさしぶりだね、ピーターさんも一緒でようこそ」


 丸山さんはピーターにだけハグをして歓迎してくれた。


 「おいおい、僕にはハグしてくれないのか」


 「日本人のおじさんにしても絵にならないし不倫の噂が流れるからするわけないじゃない」


 言われてみればそうだが、「おじさん」というのは「男」のカテゴリーに入らないって聞いたことがあると思ったと訊いてみたが「それは若い女の子だけのこと」としっかり否定された。

  

 「ところで食事はまだなんでしょ、家に用意してあるから」


 丸山家にご招待してくれたが、実はそれを期待してた。

 旅の楽しみは食事だが、飲食店もいいが地元の人たちの家庭に招かれるのは格別に楽しい。

 一人旅の多い大竹は知り合った現地の人にごちそうになることが多かった。

 これが二人以上の旅だと相手もなかなか誘いにくだろうが、一人だとけっこう簡単に親しくなれる。

 もちろん外国だと言葉の壁があるので大変なところもあるが、異文化交流を身振り手振りでやったり、そこの家庭に子供がいれば遊んだり、得意な子供だましの手品で大人も巻き込んで楽し時間が過ごせる。

 手品のレパートリーは二つくらいしかないが、すぐできるように仕込ませている。

 だからと言って大げさなものではなく、レシートの紙片と輪ゴム二本だけ。

 レシートを半分に山折りにし立てるように置いたのを触れずに倒すとか、絡んだ輪ゴムを一瞬でほどくというお手軽なものばかり。

 誰でもできるのだが、初見でのウケは抜群にいい。


 丸山家は公園から車で南に十分ほど走らせた小学校の近くだった。

 そこは丸山さんの実家で、長女の丸山さんが孫と一緒に戻ってきたので歓迎されているようだ。

 しかも東京がああなって北海道がこうなってしまった不安の中でのことだから余計にそうらしい。

 丸山パパにしてみれば「マスオさん」状態のようだが、あの人もマスオさんのようにいい人だからうまくいくだろう。

 丸山さんの実家は「渡辺」さんで、父がたけしさん母が瑞樹みずきさんという。

 武さんはがっちりとした坊主頭、瑞樹さんはユルフワ系。

 家の中には梨の妖精という黄色いキャラクターがたくさん飾られていた。

 瑞樹さんの趣味だそうだ。

 丸山さんは性格と見た目は父親似、人間性が母親というのがはっきり分かった。


 パパと子供たちが帰ってきた。

 長男で中学一年の秀明君は大竹を見て喜び、長女の春香ちゃんはピーターに喜ぶというわかりやすい態度で現実を知った大竹だった。

 今夜は御馳走だ、ということなので期待している。

 座敷のテーブルに並べられたのは「生寿司なまずし」と「オードブル」が大皿で鎮座している。

 メインはそれらではなく中央に置かれたホットプレートでの焼肉とのこと。

 北海道はどこの地域も焼き肉が伝統食になっている。

 昔はジンギスカンという羊肉か豚肉、もしくはホルモンがほとんどだったらしいが、輸入自由化になった頃から牛肉が好まれていて、なかでも「サガリ」というのがメニューのほとんどを占めている。

 「サガリ」は本州で呼ぶところの「ハラミ」になる。

 本州の焼肉屋では「柔らかカルビ」などと言われているところもある。

 つまり「バラカルビ」より安価で旨いということだ。

 しかもここ北見では近郊に屠畜場があることで昔からホルモンが労働者に好まれていたようで、内臓扱いの「サガリ」は肉味のホルモンとして人気が合ったそうな。

 丸山さんの父の武さんは国鉄の保線作業員として働いており、仕事帰りは必ずといっていいほどホルモン屋に寄っていたようで、当時の詳しい話をしてくれた。

 大竹とピーターももちろん焼肉は大好きなので喜んだ。

 焼肉だけだと庭でやるのが定番だそうだが、今日は寿司もあるので窓全開の室内だそうだ。


 ピーターは「生寿司」という「握り寿司」の大きさに驚いていた。

 ネタのサイズが東京の倍といってもいいくらいのが載っていたからだ。 

 シャリから垂れ下がり引きずっている。


 「お、ピーター君は寿司が好きなようだね」


 武パパがピーターに話しかけた。


 「おいしいですね、ここは内陸なのにどうしてなんでしょうか」

 

 北見は一番近い網走からでも五十キロ離れているし、最大の港の釧路からだと車で三時間はかかる。


 「それはね、北見は何故かそうなんだよ。東京の情報や流行が札幌に来たら、次が北見という順番で周るそうなんだ。たぶん物流のハブのような位置なんだろうな。

 だから飲食店や企業の支店も多いんだよ」


 そうだったのか、観光地じゃないので全く関心がなかった地域だが地元民にしてみてば重要な地域なんだろう。

 そういえば公共テレビの放送局があったことを思い出した。

 本州では県に一つしかないが、北海道は各地域にある。

 北見以外だと帯広、釧路、旭川、函館、室蘭だっただろうか。

 現在はロシアの支配なのでただの中継支店になっているようだが。


 「観光地じゃないので地方の人が来ても飲食以外は何もないからつまんないけどね。北海道らしくない地元民だけの街なんだよ」


 武パパはそう言った。

 福島県の郡山のような感じだろうか、観光地は会津、政治は福島、海はいわきというような。

 でも買い物とか交通の便は良かった記憶がある。

 

 食事がすすみ落ち着いたところで、大竹は秀明君に話しかけた。


 「秀明君、こっちに来てどう?どうにかなっているかい」


 秀明君は肉を頬張りながら答える。


 「全然大丈夫だよ!僕が東京を脱出してきたとわかったら冒険者みたくなったし、先生も時間を使って噴火の時のことを話させてくれたしね」


 それは良かった、安心した。

 仙台の学校とは大違いだ。イヤ、仙台というより本州と言ったほうがいいだろう。

 実家の青森も似たような排他的な空気があるから。

 関西は排他的というより「うちんとこが一番」が出てしまいがちだし。

 日本で生きずらくなったらホッカイドーがお勧めというポイントは多いな。

 そういえば関西の人は北海道好きな印象が強いけどなんでだろう。 

 どこの土地でも馴染めない人は一定数いるのだろう。

 北海道のような土地で育っても東京や大阪に行きたがる人もいるくらいだ。

 母国より日本が好きな外国人もいるからな。

 大竹は横で遠慮なくウニの軍艦巻きばかり食べているピーターを横目で見ながら思った。

 「玉子も食べような」




 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ