表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
92/104

ホッカイドー観光2

 士別市は大竹が札幌で転職した会社の業務で訪れた街だった

 前職のデパートの販売員から営業職になって入社三日目に突然言い渡された。

 「すまないけど明日から士別に行って全戸ポスティングと訪問販売をしてください」

 商品知識も何もかも未熟な社員に対してとは思えなかった。


 最初の転職をしたのは、勤めていた全国展開のデパートが経営不振で潰れたことによる人員整理の対象にあったからだ。

 三五歳を区切りにそれ以下は再就職が容易ということで解雇された。 

 大竹は当時三十歳だった。

 二十七歳の時に勤めていた地方の老舗デパートが全国展開の企業に吸収合併され、そのあおりで転勤が多く札幌に赴任して三年目のことだった。

 次に就いたのはファミレスの厨房だった。

 デパートの地下食品売り場の手伝いをしているうちに料理に興味を抱くようになり、自宅で趣味としてやっていたので本格的に経験しようと思ったからだ。

 その店で李さんと知り合ったので今となっては不思議な縁を感じる。

 そこを辞めて次に就いたのが営業職だった。

 接客販売をしてきたので初対面の人間でも臆することなく対応できるのではという志望理由だった。

 しかし接客販売といっても当時の大竹は内勤であったことと、心のスイッチを押すことでこなせていたことを気づいていなかった。

 知らない土地で軽自動車の営業車に乗り、住宅地図を開きながら走り回る。

 携帯もナビも無い時代だ、自分がどこに向かっているかもよくわからず、度々太陽の位置で方角を確認していた。

 都会のように目立つランドマークや施設の無い似たような街並みがよけい迷わせていた。

 前輪をパンクさせて交換したり、犬に嚙まれたり警察に通報されて職務質問も経験した。

 ようやく件数だけはノルマを達成したが、契約数はゼロだった。

 この街に営業所があれば信用度が増して何度も営業をかければどうにかなりそうなお客さんはいたが、札幌からの落下さん営業では無理だろうと思っていた。

 しかし何も成果がなかったわけじゃない。

 街の特徴も覚えお気に入りの店も見つけた。

 なかでも蜂蜜専門店は都会でもなかなかないので、いくつか買い求めた。

 地元の養蜂家が全国で採ってきたものを販売している小さなお店だ。


 士別での業務を終えて札幌に帰ってからも地方での仕事を指示された。

 やることは同じだ。

 地図を開きながら車で周る、泊まるのは会社が用意した地域で一番安い宿だけ。

 どうやって探していたのだろうか、当時はネットも無い時代だ。

 おかげで北海道の土地勘がたくさん得られた。

 しかしほとんどが人口十万人以下の小さな市町村に偏っている。

 さすがに札幌に自宅があっても住むことは月の半分以下になり、営業成績も振るわなく給与も手取りで十万円強だったので半年もたず退職した。

 求人内容では二十万以上は確実とあったが、それはノルマを達成したごく一部のトップ社員の実績でしかなかった。 

 それは事実なので労働基準監督署が入っても問題にはならないようだ。

 大竹には商品を必要以上に大きく偽って売ることには向いていないと悟った。

 親しくなればなるほど嘘が付けなくなるお人よしというのは営業職で短所になっていた。

 販売職は自分に似た顧客が付きやすい。

 内勤の店頭販売ではそういったお客さんに救われていたが、外勤の訪問販売ではそうはいかない。

 最初から騙しにかかる勢いでいくしかないので、相手と親しくなってなどいられない。

 売ってしまうと後悔が先に来るのだから自分には向いていないと。

 大竹は札幌を、北海道を離れることにした。

 元々転勤で来たので本州に帰るつもりという意識だったので悩むことなくスッパリ決断した。

 しかし地元や仙台ではなく東京を新天地に選んだ。

 そして接客と料理の知識が生かせるスーパーの食品売り場で働くことにした。



 士別ではビジネスホテルに泊まり、親父さんが一人でやっている小さな居酒屋に歩いて向かった。

 この店は当時に毎晩通ったところだが、十年以上経っても開いていて良かった。

 何でもない野菜炒めと焼酎で飲んでいたが、店主の親父さんは外国人のお客に戸惑っていた。


 「ロシアになってから外人さんは多くなっていないんですか」


 親父さんは「名寄あたりには多いようだけど、この辺は見かけないね。名寄は自衛隊があっただろ、あそこにロシアの軍人が出入りしているようだけど、この辺は通り過ぎるだけだからね」


 士別は旭川から名寄までの中間にある小さな街だ。

 一番大きな建物は東端の丘にある市立病院しかない。

 道が幅広く高い建物がないから余計に目立っている。

 ピーターは店主の気遣いに関係なく箸を上手に使っている。

 彼はラーメンも旨そうに食べられる稀有なアイルランド人なのだ。


 翌日も早めに出発して今日の目的地である丸山家の街「北見」に向かう。

 旭川まで下りて左に折れて大雪山を正面にとらえながら走らせる。

 ここからは国道三十九号線になっていてオホーツク海の網走まで続いている。

 途中の上川で休憩して山間部に入っていく。

 しだいに崖の狭間に導かれるように層雲峡にたどり着いた。

 ここは崖から流れ落ちる滝を国道脇から眺められたり、ロープウェイに乗って黒岳から大雪山連邦を望むことが気軽にできる。

 旭岳という火山もあるので温泉も沸く保養地なので一年中観光客が多い街になる。

 ホッカイドーはいくつか観光地があるが個人的に絶対に立ち寄るべきスポットの一つになっている。

 早速ロープウェイに乗り込む。

 まず五合目まで行き、そこから七合目まではスキーリフト乗る。

 スキー未経験者ならリフトは初体験になるだろうが、大竹とピーターにしてみれば懐かしいくらいにしかならない。 

 この辺は冬はスキー場となっているようだが来たことはない。

 頂上に行くには歩くしかないが、七合目でも十分な景色を堪能できる。

 夏の服装の二人にとって山はさすがに寒いので小一時間ほどで帰路についた。


 層雲峡を過ぎ峠を下ったら山の水族館とキタキツネ牧場に立ち寄る。

 北海道は野良猫よりもキツネは住宅地でも見かける野生動物になるから珍しくもない。

 だけど感染する寄生虫を持っているので地元民は絶対近寄らない。

 ここのキツネは安心安全で人間にも慣れているのでかわいいとしか言えない。

 それにタヌキもいるので面白い。

 こういったところはカップルやファミリーなら楽しいだろうが、男二人だと違和感しか感じない。

 大竹は基本的に動物好きだしピーターも同じだから楽しんではいるが、声を上げてはしゃぐことを自制している。


 キツネを充分に堪能したのでようやく目的地の北見にまっすぐ向かうことにした。

 ここからはまっすぐな峠道を下るだけ、速度オーバーにならないように注意する。

 なにせ前回通った時に捕まったからだ。

 もし捕まったらどうなるのだろうか。

 ロシアの法律が適用されるのだろうが、罰金額も手続きも違うだろうから面倒なことになることは間違いない。

 そんな杞憂をずっと抱えながらステアリングを握っていたら北見に入った。

 真っすぐなので案外早く着いた感じがしたが、十万人という人口の割には人がいない。

 たしか会津若松も同じくらいだと思っていたが、あっちの方が賑やかな雰囲気があった。

 だがいつまで走っても中心街にたどり着かない。かれこれ三十分以上走らせているのに。

 ピーターが地図を確認したら国道に沿った横長の街のようで、端から端までの距離が車で二時間以上はかかるそうだ。

 つまり残り三十分でようやく中心地に着くということだ。

 どうりで地元ナンバーの車が次から次へと抜かしていくはずだ。

 直線道路がこんなに長いとそうなるだろうなと思った。


 ようやく駅前に着いた。

 早々に丸山さんに連絡を入れると、迎えに行くから待ち合わせ場所を決めようとことになったが、こちらは土地勘がないのでお任せしますと言うと、

 「じゃあホテルから近い公園で時間を潰してちょうだい」と言われた。

 教えてもらったのは森林公園になっている『野付牛公園のつけうし』だった。

 昔から思っていたが、北海道の地名はアイヌ語を日本語に当てている読みにして、地元の人は当たり前のように読んでいるが、こちらからしたら中国語を読むがごとくの難解さになっている。

 ロシア領土になっているけど、ロシア人はちゃんと発音できているのだろうか。

 ピーターは「別に問題なく読めますよ」と言っているが、あなたは通訳だから参考にならないよ。


 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ