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ホッカイドー観光

 怒涛のロシア交流会インホッカイドーが終わり大竹たち三人はホテルのレストランで打ち上げをやっていた。

 「大海さんは明日から何か予定があるんでしたっけ」


 大竹は生ビールを飲みながら訪ねた。


 「知事時代にお世話になった人たちに挨拶巡りがありますね、たぶん朝からずっとで夜は歓迎会が開かれると聞いています」


 「そうなんですか、僕らは明日からホッカイドー観光地巡りを予定していまして、このピーターに初めてのホッカイドーを案内しようと。それに東京時代の友人家族が移住したところにも顔を出しておこうかなと思っています」


 丸山家が仙台から移住したのは丸山さんこと明美さんの実家になるオホーツク海側の『北見』という街。

 大竹は網走に行く途中に通り過ぎたことがあるだけでよく知らない街だ。

 観光地じゃないのでほとんどの旅行者は知らないはずだ。

 最近ではカーリングが有名らしいが、大竹が北海道に住んでいた頃にはあまり聞いていなかった。

 それもそうで、元々海沿いの小さな町「常呂」だけで盛んな競技が平成の大合併政策で北見市となったことにより大々的に力を入れているそうだ。

 以前に丸山さんから聞いていたが、北見の人はほとんど見たことも触ったこともないようで、最近になって学校の体験授業でやるくらいだそうな。

 だからカーリング競技者は常呂の知人親戚で占められているようで、子供の頃から対戦相手の性格まで把握しているという。

 長野五輪でメジャー競技になったおかげで全国に競技者が増えたが、各地のチームには常呂出身がいることは珍しくないようだ。

 だから丸山さんは実家が北見だと知られ「カーリングが有名ですよね」と言われても全然ピンとこなく、だからといって他に知られていることなどないので困っている。

 そうなのかと大竹がネットで調べてみるとアイドルとか芸人がいるようだが、若者にしか知名度がないので話が続かないままなようで、出身地はどこですかと訊かれても「網走」と答えれば無難な会話が成り立って便利だという。

 たしかに「網走」刑務所は昔から有名だし、若者には漫画の聖地として人気があるのでいいのだろう。


 

 大竹はレンタカーを借り国道十二号線を北東へと向かう。

 地元の人は高速道路を使う人が多いそうだが、大竹は片側一車線の高速道路は怖くて苦手だった。

 中央分離もワイヤーだけだったり、冬でもバンバン飛ばしている車に煽られるし。

 国道をゆっくりと走らせるのが一番ホッカイドーを楽しむことだと信じている。

 そして昼間でもライトを点灯させておくことも忘れない。

 バイクでは当たり前のことだが、国道といえども地元ナンバーは百キロ走行が普通なので、対向車が来ていて気付いた時にはすれ違っているようなことが多い。

 それだと対向車が見えないと思って追い越しをかけても、追い越しをかける車も百キロなのでそれ以上を出さないと駄目で、追い越しが終わるまで二キロ以上は必要なのに対向車に気づかないとそのまま正面衝突をしてしまう。

 だから絶対にライトを点けて存在をアピールしないといけない。

 熊よけの鈴のようなものだ。

 

 十二号線を行くと砂川市に入った。

 ここは国道沿いにお菓子屋が並んでおり、別名「スイートロード」言われている。

 お菓子屋が多いのだから「スイーツロード」のほうがいいと思っているのは誰にも言っていない。

 何軒かの店に寄り大好きなシュークリームの食べ比べをする。

 営業マン時代に外回りで街中のケーキショップに寄って食べていたことを思い出した。

 車の運転をしながらでも食べやすく、店によって異なる味を比べていた。

 シュークリームは安くてお手軽だが、つくるには熟練の技とこだわりが詰まっていると思っている。

 大竹は会津地方の営業でも「粟まんじゅう」を必ず買うことを課していた。

 福島というと茶色の小さいこし餡の饅頭が定番で有名だが、地元民にしてみれば坂下町の「粟まんじゅうは」そこでしか食べられない味となっている。

 その理由はその場での蒸したてじゃないと美味しくないというのがある。

 だから駅の売店では売ることができないので知名度は低い。

 しかし蒸したての味は世界で一番と思っているほど美味しいので、その街に用事はないけど寄り道をしてでも手に入れていた。

 最低でも二箱は買い、一箱は運転しながら食べ、もう1箱は会社のお土産にしていた。

 ああ、もう一度食べたいと思いながら、シュークリームを食べ比べて運転している。



 旭川に着いた。

 時間的に昼なのでラーメンを食べる。

 塩ラーメンで有名だが、別に味噌でもなんでも美味しいので適当な店に入って注文をする。

 大竹は初めての店に入ると注文するものは決めている。

 それは「チャーシュー麵」。

 店によってのこだわりがはっきりわかるからだ。

 使っている豚肉の部位と調理方法、一枚の厚さと枚数。

 そして大事なのが値段。

 目安が千円をボーダーラインとして評価している。

 超えてもおいしい肉なら問題ないが、未満でもぼったくり感があると評価は低い。

 高い肉を使ってればいいという問題じゃなく、店の考え方が納得できるかできないかになる。

 いまどきのラーメン屋の多くは麺もスープも仕入れているので、店の個性を出すにはチャーシューが一番わかりやすい。

 ここの店のチャーシュー麺は九百八十円、豚バラ肉をロール状にしたものをタレで煮て薄くスライスしたものが六枚乗っていた。

 うーん惜しい、肉の味や厚さは合格だが、枚数が八枚なら満足できそうだと思った。

 多くも無く少なくも無い、最後に一枚残せるくらいのがベストと思っている。

 ちなみにピーターは普通の塩ラーメンにしているが、オゴリだからと遠慮しているかと訊いたら「さっきシュークリームを食べたばかりじゃないですか」と言われた。

 ピーター君、それは「別腹」と日本では言うのだよ。


 支払いは日本円にしたが、ロシアのルーブルも使える。

 基本的に地元民はルーブルで、僕らのような観光客は日本円のようだ。

 お腹がいっぱいになったところで出発したが、まっすぐ向かわずに国道を左に折れる。

 目的地は剣淵の羊牧場。

 剣淵はサフォーク種という頭が黒い羊が多く飼われている。

 大竹は東北に住んでいる時代に岩手県盛岡の西にある「小岩井農場」に毎年行っていた。

 ゴールデンウイーク前は入場料がタダというのもあったが、その時期は出産シーズンなので子羊と戯れることができる。

 大竹は羊が大好きなのだ。

 小岩井の羊は一般的な白い種ばかりだが、剣淵は有名な羊キャラクターと同じなのでテンションが上がる。

 それに日本の羊肉はほとんどがオーストラリア産なので、国産の肉が食べられるというのもうれしい。

 かわいい羊を食べるのかという非難もあるだろうが、それとこれは別腹になる。

 普段食べている豚肉も生後半年で出荷されるということを知ってからは、ラム肉といえど考えないことにしている。


 牧場の近くに車を停め、遠くにいる羊をしばらく眺める。

 ピーターにしてみれば見慣れた風景のようだった。


 「大竹さん、サフォークというのはイングランドの東海岸の・・・・」と色々ウンチクを語り出した。


 「へー知らなかったな、さすが本場は違うね」


 「日本人が柔道と空手の違いを語るのと同じですよ」


 なんでもないことのように言ったが、知らない人にしたらすごいことだ。

 


 長い時間眺めていたら遅くなったので、今夜の宿は少し北にある士別に泊まることにした。

 大竹にしてみれば二度目の訪問になるが、人生の履歴書からは消した思い出がある土地だった。

 


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