ホッカイドー3
交流会当日になった。
メイン会場は元北海道大学の構内で行うが、別会場として大通公園をいくつかに分けて行う。
ロシア文化広場、ロシア伝統料理フードコート、日露ミックス料理屋台など。
区画ごとにステージが設置され、ロシア音楽にこだわらず多様なジャンルの演奏やパフォーマンスをする。
大通り公園は夏はよさこいソーラン祭り、冬は雪まつりなどイベントで通年使われているので市民としては馴染みのある会場になっている。
王族のような装いをしている大海は昼からのパレードに参加するため待機していた。
頭の王冠は重たくガウンも動きづらいほど大きく豪勢で立ったり歩き周るのもできず、用意されているオープンカーの後部座席に座ったままになっている。
その姿が本当の王のように見えるからか、周囲に誰も寄って来ず独りボッチ感をにじませていた。
頼りの大竹とピーターは着替えの時までは一緒にいたが、気が付いた時には姿が見えなくなっていた。
彼らのことだから屋台飯巡りでもしているのだろうと思った。
オープンカーは大きなテントの中にあるので外の様子もわからない。
大勢のざわめきだけが耳に入るが、もう三十分ほど誰も来やしない。
運転手は何故いないのか、時計を確認すると後五分ほどでスタートするはず。
大海は不安と恥ずかしさで苛立っていた。
突然、車の前方のテントが開いた。
現れたのは大海とは異なった王様の衣装を着た男だった。
髭を貯えたその風貌をよく見ると見たことのある顔だった。
「大竹さんですよね、どうしたんですかその恰好」
普段の大竹は髭など伸ばしていないので、この衣装で現れたらぱっと見でわからないほどの変装になっていた。
「僕も隣に座ってパレードすることになったんですよ。
なんでも僕の存在は秘密だけどロシア国内向けには存在だけははっきりさせないといけないらしく、人相を変えて登場するという趣向らしいですね。
名前も『ズヴィズダーエックス』ということになっているようですから。
だからホッカイドーの市民には誰あの人になるので、僕は運転手としてこっそりというわけです。
ちなみに助手席にはピーターがボディーガードとして乗ります」
大竹は後ろに立っているサングラス姿の外人を見やった。
ピーターはサングラスを外し笑顔を大海に向けた。
「結局いつものメンバーの仮装行列みたくなりましたけど、沿道の目当ては大海さんですからね。
しっかり英雄として堂々としていてください。
僕たちは粛々としていますから」
大竹とピーターはニヤニヤとした表情を大海に向けた。
大海は首をうなだれて言った。
「はあ、やっぱりやらなくちゃいけないんですね。こんなことならホッカイドーに来ないのに。
大竹さんは知ってて黙っていたんですか」
大竹は手を横に振り「まさか」と言った。
大海はじっと大竹見据えて視線を動かさない。
それに耐えられずに顔をそらせた大竹が白状する。
「僕が知っていたのは交流会と大海さんが英雄だということで、ついでにパレードも予定しているくらいですよ。
自分もロシアでは英雄とかパレードに参加というのは知らなかったんです、本当ですよ信じてください」
「僕が受けていた説明だと、ホッカイドーの今後について元知事だったことでアドバイスをしてもらいたいといことと、多少は変わったホッカイドーを視察するということでしたけどね。
交流会とかパレードとかはこれっぽっちも聞いていないんですけど」
「そういわれても、京都までどういった情報が伝わっているかなんて確認しませんよ。
僕としては大海さんが知っているとばかりおもっていましたけど」
大竹はけっして騙していないことを強調している。
大海は何かの機会でピーターに確認しておきたいと思った。
「そういことならいいです、これがホッカイドーの為になるなら喜んでやるだけです。
でも正直なところ苦手なんですよ、佐倉さんなら大丈夫なんでしょうけど」
「大海さんを一目見たい人は大勢ますよ。
さっき来る途中に見たら、大通りの両側は凄い人だかりでしたから。
僕も運転だけとはいえ緊張しているんですから」
大竹とピーターはオープンカーに乗り込みエンジンをかけた。
ゆっくりと進みだしテントを出たとたん大歓声が響き渡った。
「大海知事ーー!!」「大海さーーん」「素敵ーーー!!!」「*@%#!ーー」などなど、何を言ってるのかわからないほどの言葉が降り注いだ。
大海が呆けていると、いつの間にか横を歩いていたニコライさんが声をかけてきた。
「ほら大海さん、手を振って応えてください。みんな喜びますよ」
そんなことを言ってくるので仕方なく大海は笑顔をつくって手を振った。
するとそのとたんに歓声が大きくなったのを感じた。
「すごいな、ここまでとは想像もしていなかったよ」
大海はステアリングを握っている大竹に話しかけた。
「え?何か言いましたか」
大竹には歓声が大きすぎて聞こえていないようだった。
大海は「いや、なんでもない」そう言って再び笑顔で手を振り続けた。
三十分ほどかけて大通公園を一周しホッカイドー郡庁舎に戻った。
大海はようやく終わったと思い王冠を外しくつろいだ。
「はあーやっと終わった、表情筋がおかしくなりそうだ」
大海がヤレヤレと顔をマッサージしているとニコライが近づいてきた。
「大海さん、これからすぐにスピーチをしてもらいますからよろしくお願いします」
「え!聞いていないですよ」
「ええ、言っていませんからそうでしょうね。ですが周辺の人だかりが減らないんですよ。
何かあるんじゃないかと期待しているようなんです。
そんな時に何もありませんなんて言えません、適当なことでいいので何か喋ってくれないでしょうか」
ニコライは期待を寄せて笑顔で大海に言った。
大海は「急に言われても・・・」と思ったが、
「わかりました、なんでもいいのならやりましょう」
「さすが大海さん!それではこちらにどうぞ」
ニコライは大海を促すように先を歩いて行った。
大海はガウンが地面を引きずっていることを気にしながら付いていく。
到着したのは庁舎の前に設置してあるステージだった。
中央に演題が置いてある。準備が整うのが早いなと思ったが深く考えず向かう。
大歓声が沸き起こり前を見渡すと観衆が溢れていた。
後ろのほうは見えているのか思ってしまうほどずっと先まで見えている。
大海が「えー大海です」とマイクを通して言うと更に歓声が沸き上がった。
「皆さんがとてもお元気そうでうれしいです。
僕は知事だったこともあり解任され生まれ故郷の東京に戻らなけらばならず去りましたが、あの通り崩壊してしまい帰る場所がなくなりました。
しかしこうしてホッカイドーで皆さんの前に立つと、ここが僕の帰るところなんだと思いました。
連合国の計らいで新しい日本を創るメンバーに選ばれて日本で人生党をつくりました。
ホッカイドーと九州は日本ではなくなりましたが、これからも変わらず人々の交流は続きます。
パスポート管理が必要ですが、いずれEUのように自由に行き来できるようにしたいと思っていますのでそれまでは不便をかけますがよろしくお願いします」
観衆から「全然大丈夫だぞー」と声がかかる。
「僕は新しい日本を創ろうと仲間と共に頑張っています。
日本を矛盾がなく平等で差別のない社会をつくろうとしています。
それは崩壊したことによりゼロからの出発となったことで可能となりました。
日本だったホッカイドーに皆さんには僕らの政策が及ぶことはありませんが、元々本州に比べ自由で差別が少なく女性が強いので大丈夫だと思います。
ホッカイドーの郡長は新しい日本の社会を参考にしていくと言ってます。
ロシアだけでなく九州をはじめとする世界の国々が注目している新しい国家の形をつくります。
ですがやはり僕はホッカイドーのことが心配といいますか正直気になってはいます。
ですから仲間たちと新しい社会をつくる上でわかったことがあるのでお伝えしたいと思います。
それは勝ち負けにこだわり過ぎないということです。
勉強でもスポーツでも目標があってこそ努力と練習をしますが、最終的に誰よりも優れた結果を残すことだと思います。
しかし勝負にこだわり過ぎると勝つということだけが目的になってしまいます。
相手を貶めてたり騙したりして失敗を誘うとかで相対的に勝つ、勝った自分は誰よりも優れていて負けた人は劣っていると思ってしまう。
でも勝ったのはごく一部の勝負であって他のことではありません。
百ある勝負のうちの一つに勝ったことに過ぎないのです。
例えば偏差値の高い大学に合格したことで勝ち組になったと思い、不合格の負け組は勉強してこなかった自己責任だとして見下す。
もしくはオリンピックに出ても負ける競技をやっていても無駄だと非難する。
勝負に勝つという目標はあくまでもモチベーションを上げるためのものにしか過ぎないのにです。
大人の社会では勝ことによって金銭や利益を得る資本主義になっています。
でもそうして集めた利益を還元するというのが最終目的なんです。
負けることは許されないという価値観が昔の日本では当然のようにありました。
そうして勝ってきた人間が優秀とされ政治や企業に入り日本社会を動かしてきた結果があのようになったのだと。
全国民に納税をさせておいて、困った状況になっても自己責任と言い出すようなるのは当然のことだと。
勝った人間だけに人権があり、そうでない国民は黙っていろということです。
新しい日本では教育法を改正しました。
そこには何度でも何回でも学びなおすことができ、各自の才能に適した教育ができるようにしました。
でも法律で強制しなくても勝負にこだわり過ぎなければいいだけなんです。
そうすればお互いを尊重し理解し合い、自分と同じように相手も考えているとか苦労していると共感できるようになります。
自分にとって不得意なことを相手は難なくこなしてしまうことに尊敬を抱くようになる。
そこには年齢や性別、人種などは関係なくなります。
そして全ての人間が自分と同じという意識になり、困っている人を見れば自分のことのように心配してしまう。
誤解して欲しくないのは勝負は必要なんです、こだわり過ぎるのがダメなだけなんです。
僕は人生党のなかでいろんな人と出会い成長できました。
今偉そうに話したことも以前の僕ではできませんでした。
何故なら東京で受験勉強を誰よりも頑張り都庁に就職できた勝ち組だったからです。
ですがある人物に出会い目から鱗が落ちるように変わりました。
その人物は相手に対して自分のことのように考えていたことにより関わった人間のほとんどに信頼を強く抱かせ、相手の生き方さえ変えてしまっていたのです。
実はその人物がいなかったら日本は崩壊したまま政府は機能せず周辺各国に好き放題にされていたことでしょう。
その人は平凡な大学、就職をして何度も転職し結婚もしないできたそうです。
一般的には負け組に入るかもしれませんが、結果日本を救ってくれたのです。
本人は意図的に動いていたわけじゃないと言っていますが、相手を平等に扱うというだけのことで誰にも代えられることのない偉業を成したのです。
たまたまのことだと言っていますが、確かにそうなのでしょう。
でもそのような生き方をすればどこかの誰かが助かっている助けられることに繋がっていると、自分が生きていることに意味があると思いませんか。
負け組の自分なんて必要とされていないと勝手に思い込んでしまうのはもったいない。
あなたが生きて存在しているだけで必要とされていることだけでもわかっていてください。
ホッカイドーは日本より明るい未来が待っていると確信しています。
ぼくも引退したら移住したいと思っていますので、その時に近所になった方はよろしくお願いします」
大海は一礼をしてマイクから離れた。
群衆から大歓声が沸き上がりステージが揺れているかのような響きを感じながら再び頭を深く下げて壇上を降りた。




