ホッカイドー2
大海たちが困惑しているのをよそにニコライは話し続ける。
「だいたいの準備は整っているのです。なにせ開催日は明後日ですから」
ニコライはとんでもないことを言っている。
「大海さんはここホッカイドーでは絶大な人気をほこっているのです。
しかも実際の姿はメディアでしか見ることができないので伝説の人物、歴史上の偉人といってもいいでしょう。
さきほどの大歓迎でもおわかりのように一瞬でもあのように集まります。
ですからオープニングセレモニーで大々的に大海さんをメインにすればチケットを完売できるのです」
最後の言葉が引っかかったが、それだけであれば問題は無いと思った。
何か企画を考えてくれというのではなく、ステージに立って手でも振ればいいだけなら簡単だ。
「そういうことでしたら喜んで協力させていただきますよ。
私も多くの道民に挨拶をせずに去ってしまったことを後悔していましたから」
ニコライは立ち上がって大海に握手を求めて言った。
「大海さんなら必ず承諾してくれると思っていました。有難うございます。
いやあよかった、よかった」
大海は出された手を握りながら笑顔を返すが、心の中では不安が湧いてきた。
「それでですね、当日はスタートが昼からになりますから午前中にお迎えに上がりますので。
あと、これから衣装合わせをしてもらいますのでお願いします」
ニコライは待機していた職員に合図をした。
突然のことで戸惑っている大海をそのまま部屋の外に促し連れて行った。
残されたのはニコライと大竹、ピーターの三人だけになった。
「さて大竹さん、改めてお会いできたことをうれしく思います。
この度の連合国統合の要といわれている大竹さんとこうして直接お話ができることを。
正直、大海さんは日本人には大人気ですが、ロシアの関係者からすれば特段に有名ではありません。
しかし大竹さんはちがいます。
関係者しか知らない重要機密ですから、大竹さんの日本での評価はまったく無名でしょうが、私たちの間では大竹さんこそ伝説の人物です。
あなたがいなければロシアは連合国の一員としてホッカイドーを得ることはできなかったのですから。
国としては勲章をという声もあがっているくらいです。
でもそれは大竹さんにとっては迷惑だということも私たち直接現場に関わっている人間は承知しているので安心してください。
いろいろと噂レベルでは話を聞いているのです、大竹さんが各国の要人をまとめ侵攻計画を発案し実行したとか、侵攻後に日本のかじ取りを陰から支配しているとか」
ニコライの言っていることも相当話が歪んで伝わっているようだ。
大海もそうだが英雄を求めているのだろうか。
「ニコライさん、どうも話が大げさに伝わているようですからここで修正をしておきますね。
僕は各国の要人となっている人物とは単なる友人として親しいだけで、彼らをそそのかせて意図的に日本を壊したわけじゃないですよ。
たまたま口から出た思いが強く伝わったようで、それを彼らが協力して完璧な計画をつくり迅速に行動した結果であって、僕がどうこうしたわけじゃないんです。
正直買いかぶりすぎですね、僕はそこまで凄い人間じゃないですよ」
「ご謙遜を、じゃあどうして日本の代表として連合国と関わっているのですか。
それだけ大竹さんの存在がすばらしいという証拠じゃないですか」
「それはたぶん、彼らが信頼できる日本人が僕しか思いつかなかったんでしょう。
ちょうど無職でしたから都合もよかったことですし」
大竹はこれ以上の分不相応な扱いをされたくなかったので必死に弁明した。
本当に偶々(たまたま)だっただけと思っている。
実際に政治力は大海のほうが優れているし、佐倉などは超有名人でなのに、自分など冴えない独身のおっさんでしかない。
ニコライは大竹が謙遜するほど反対に偉業を重ねて言ってくる。
「大竹さんがそう言うのあれば。ですがここでは大海さんがスターですがロシアで『ズヴィズダー』と言われているのは大竹さんですから。それだけは知っておいてください。
ロシア人は日本のホッカイドーの産物と情報にとても熱狂しています。
それだけのことをした人間だということを知っていただきたい」
ニコライが日本マニアということを差し引いたとしてもそういう評価だということに大竹は驚いた。
まさに初耳だった。
「本当でしたら、ロシアでも催される祭典に来ていただきたいのですが残念です。
大歓迎されることは確実ですからね」
それは勘弁してもらいたい。大海のようになるのは嫌だ。
そばで二人の会話を黙って聞いていたピーターは無表情を装っていたが、内心はとても驚いていた。
ピーターが知っている大竹は日本の代表として連合国と折衝する政府の役人で、しかも比較的自由に行動が許されているくらいだから偉い立場だということくらい。
しかもラフな服装ばかりで緩い感覚をもっているので一見するとだらしない人間にも見える。
東京の下町にいる職業不詳か無職で昼間から飲んでいる人間と紹介されても違和感がない。
確かに寛容で誰とでもうまくやっており愛されている人だなと。
なぜ女性にモテないのか不思議に思うようなオッサンなのだ。
それがロシアの人からしたら英雄並みの評価を受けているなど大竹同様に初耳になる。
この人がいなければ現在の日本になりえなかったということが信じられなかった。
大海さんが人気なのは理解できる。
北海道を無血で開放し、人生党の結党の中心となり、佐倉さんを総理に指名するフィクサーとして素晴らしい存在となっている。
それこそ大海さんがいなければ新しい日本は動き出さなかった。
つまりだ最初に大竹さんありきで次に大海さんが登場したからこそ実現した日本ということになる。
すごい二人の近くにいる自分が普通の人間だと。
「大竹さんは凄い人なんですね、いや偉い人だとは思っていましたけどいつもは普通のおじさんじゃないですか」
大竹はそんなことを言い出したピーターを見やって言う。
「あのさ、勘違いしているよ。僕は普通のおじさんだから、仕事が国に関わっている準公務員。
別に採用試験を受けているわけでないから臨時採用みたいなもんなんだ。
細かく言うと連合国からの推薦で日本に雇ってもらっているだけ。
最初に三沢で会った僕を覚えているかな。
ほとんど拉致されてきたようなもんだよ。
しかも英語が話せない僕にはピーターが必要なんだから、ピーターも日本にとって重要な仕事をしているすごい人間なんだよ。
アイルランドでは知られていないようだけど、もしそうなったら僕や大海さんのようなことになるよ。
そうだな、どうにかしてみようかな。
僕らだけこうなっているのは仲間外れのようで嫌だろ?」
ピーターは首を横に何度も振って答えた。
「全然嫌じゃないです!お願いですから知らせないでください」
ピーターは土下座をするかのように頭を下げた。
その様子を見ていたニコライは言った。
「初めて見ました生の土下座、しかもアイリッシュが!」
なぜかピーターの土下座に感動していた。
そうこうしているとドアがノックされる音が聞こえた。
入ってきたのはニコライのスタッフをしている日本人職員だった。
「大海さんの衣装が決まりましたのでお連れしました」
そう言って入ってきた大海の姿に大竹とピーターは目が点となった。
大海はどこかの王様のような冠と豪華なガウンを羽織り手にはステッキを持っていた。
ガウンの下には軍の制服のような白い詰襟を着ている。
金ボタンに豪華な勲章がいくつも付いている。
まさに大将軍という出で立ちだった。
「おお、さすがに想像以上にお似合いです大海さん!」
ニコライは満足そうに褒めたたえる。
大海は固まった表情を崩さず、視線は遠くを見ているようだった。
「イケメンは何を着ても似合いますね、僕じゃとてもじゃないけど着こなせませんよ」
大竹は褒めているがカラかっているような口調で言う。
それが聞こえたのか大海は大竹に視線を向ける。
「大竹さんまでそう言いますか?着るだけならいいですよ、でもこれで衆目にさらされることを想像してください」
「ああ、僕なら死にたくなるな」
大竹は大海にはかわいそうだが自分がそうならなくて本当に良かったと思った。
ロシアに行けばこういうことになるのかと思うと同情した。
「残念でした大竹さん、あなたもこれから着替えてもらいますから」
ニコライは笑顔で言い放ち、職員に指示をして大竹に促した。
「いや、僕は遠慮しておきます」
「写真を撮るだけですから、どうぞどうぞ」
二人の職員はその場から動こうとしない大竹の両脇を押さえ部屋から連れ出した。
そんな二人の様子を見ていたピーターは思った。
「普通の人間で良かった」と。




