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京都に行く

 大竹はつかの間の帰省を終えトウキョウに立ち寄ることも無く京都に向かって車を走らせていた。

 ピーターとは連絡を取ったが、予定外の行動なので無理に合流することもなくそのまま一人で。

 急いでいるのは丸山家の長男「秀明」君のいじめ問題があったからだ。

 秀明君のイジメは氷山の一角に過ぎず、東京から全国に移住した子供が多かれ少なかれ被害に遭っている可能性がある。

 旧政府の日本はグローバル化を推進してきたが、それは日本から出る前提で、外から迎えることは想定していないことでもわかるように島国の排他的な風土がある。

 観光客のようなお客ならば親切に歓迎して「日本人やさしい」「日本人まじめ」とか海外では評価されているが、身近な地域で共同体の一員となると話が変わってくる。

 その異邦人が能力が高く地元に利益を与えたり役に立つ存在であると認識されていないかぎり厄介な人間となる。

 日本語と日本の伝統を理解していないという先入観、島国日本人自身の知識不足による異文化への無理解がどうしても彼らを受け入れられない。

 それは同じ日本人相手でも同じで、移住者が望むのなら地域への絶対服従を求めることから始まる。

 つまり部落の最下層からでないと住むことさえ認められない。

 部落や在日差別がなくならない原因でもある。

 だからそういった人たちは東京や北海道、海外を目指していることが多い。

 東京が存在していた時代は中央の都会から来たというだけで歓迎されていたが、崩壊してからの東京はむしろ辺境の災害避難民として扱われている。

 二度と戻れない土地から逃げてきた帰る場所が無い流浪の下層民として位置づけられている。

 欧州のロマジプシーと同じだ。

 まさにフクシマ事故の避難民と同じことを元都民にしている。

 確かに仕返しと言われれば因果応報なのかもしれないが、秀明君のように善良な人間もひとまとめに差別するのは坊主と袈裟のようなものだ。

 幸いに新政権になって教育基本法と少年法が改正された。改正というより抜本的に異なる法律になった。

 しかし新法は歓迎されているが理解されているとはいい難いようだ。

 法は理解し適切に運用して初めて効力が出てくる。

 今回の問題も、従来通りのイジメ対策と教師の保身が残っているから誰も新法を運用しないのだろう。

 速やかに徹底しないとなんのための新法なのかわからない、しいては日本が崩壊して新しくなった意味も無いことになる。

 


 大竹は京都に到着するとすぐに皇居へ入った。

 事前に総理の佐倉に直接進言するためのスケジュールを取ってもらっていた。

 通された部屋は執務室ではない普通の部屋だった。

 皇居には政府の関係施設は置いていない。外の一般のビルを借りている。

 皇居で面会をするのは大竹の存在を知られないのとセキュリティのためである。

 大竹は皇居所属の観光案内人という身分であるから仕方ない。

 自分で考えた設定だが少し後悔している。様子を見て転職をしようかと思うほどだ。

 部屋で待つこと三十分ほどでドアがノックされて開いた。

 入ってきたのは佐倉と大海の二人だった。

 いつものように膝を突き合わせて座る。

 

 「佐倉総理、忙しいところすみません」


 「いえいえ大竹さんが急ぎの用件で来ることなんて初めてのことじゃないでしょうかね。

  僕のほうは特に急ぐことも無いので問題ありません」


 佐倉は大竹の詫びを制して大海を見やる。

 

 「大竹さんは確か実家から来たんですよね、三沢からヘリコプターで来ればよかったんじゃないですか」


 「いやあ、トウキョウの車両を借りているしね、レンタカーだったら置いてくるだろうけど。

 それに三沢でヘリに乗るにはピーターに手続きをやってもらわないといけないんだけど、今回は一人だったから」


 大海と佐倉は顔を見合わせて「大竹さんらしい」という顔をした。


 「ところで急な用件でしたが、確かメールでは東京からの移住者へのイジメということでしたが詳しく説明してくれませんか」


 佐倉は大竹に言う。

 大竹は二人の顔を見て話す。


 「実は東京での知り合いの家族が仙台に移住してね、半年ぶりに会ってきたんだが、そこの長男は中学一年生なんだけど、東京モンということで差別の対象になっているようなんだ。

 それも彼一人だけじゃなく東京からの子供は少なからず被害に遭っているそうだ。

 教育法と少年法の改正は人生党の代議士が各地の学校に赴いて説明会を開いたのに正確に理解していないようなんだ。

 子供ばかりじゃなく親も似たような感じに見えたな。

 さすがに教職員は自身に関わることだから知っているとおもうけど、知らんふりというか従来のやりかたを踏襲しているようなんだ。

 つまり重大事案事件にでもならない限り当事者同士の問題として静観するということだな。

 子供同士のことだから大人は関わることじゃないということなんだろうけど、これまでそのせいで犠牲になった子供が多いというのに未だにそうだから驚いたよ。

 しかもハッキリと改正したと直接言ったのにもかかわらずだ。

 なんでも灰まみれで埃っぽいと馬鹿にされたりするそうだ。

 それに災害地東京という偏見もあるようだ。

 二度と戻れない土地を追い出されたよそ者という感じかな。

 自分らの土地に逃げてくるなと言わんばかりの、よそに行ってくれ、短期間ならいいが長いこと居座ってもらっても困るとかね。

 気持ちはわからないでもないよ、急に避難民が大量に身近に現れるんだから戸惑うだろう。

 でもそれは日本が分断するということにつながる。

 部落差別、在日差別と同じようなことが新しく生まれてしまう。

 シンガポールやマレーシアのように宗教文化人種でコミュニティが分かれて職業差別ができているように日本もそうなる可能性がある。

 それにイジメを放置すると結局再び旧政権のような社会に戻ってしまう。

 三つ子の魂百までじゃないが、人間性なんてそう簡単には変わらない。

 いじめっ子をそのまま放置してきたからパワハラ、セクハラ、モラハラ、DVが無くならない。

 日本で一番難関な大学生の意識が勉強してこなかった自己責任と言い放つようになって、それが大人になり忖度と利権にしがみつき負け組と評した国民から搾取する体制。

 負け組になりたくないから見下すことによって自分の価値を上げようとする。

 だから相手になんでもいいから自分と異なったところを見つけて攻撃する。

 一人では難しいから仲間でやる。

 少年法が変わって、イジメは犯罪として処罰されることになったことに賛成したが、それが自分の身近に起きてしまうと厳しすぎるんじゃないかと言って隠す。

 教師も大人も責任を問われることを恐れて解決することを試みない。

 もう、あれじゃないかな。潮時ということだ。

 新しい日本にはそういった人間は他の国で活躍してもらおうということにしようと。

 来る途中の車の中で考えたんだけどね、新しいシステムを導入しようと考えている。

 これまでは被害児童がマイナンバーで匿名で通報して調査し現場の教師に対処を任せてきたが、それでは効果が無いことがわかった。 

 だから加害者のマイナンバーを登録する、そして特別税として収入の数パーセントを一生徴収する。

 だから企業もそういう社員を把握できるし、人事にも影響されるだろう。

 就職にも影響がでるかもしれない。

 個人事業でも同じように過料して負担してもらう。

 そしてそれを財源として被害者救済に当てる。具体的には進学などの費用にする。

 救済には公務員採用を優先的にする。これによってイジメ被害の経験者として相手の気持ちがわかる公務員が増える。

 これまでの公務員は勝ち組意識が強い選民思想にまみれていたからね。だから新政権では新規採用にしたけど、未来の保険として人材を確保しておく。

 そして将来的にイジメ加害者は日本に住みにくくなり国外に移住してくれるからパワハラ上司も存在しなくなる。

 だからといって全国民を「いい人」にはしない。

 僕は性悪説を信じているほうだからね、人間はどちらも持っているけど生きるためには悪も必要だからさ。 

 弱肉強食や生存競争はそういうもんだろ。

 でも人間は共存共感していかないと生きてもいけない。

 でも超えてはいけない一線は引いておく。

 それが法律というものだと思っている」


 大竹は一気に話し切った。

 佐倉と大海は相槌やうなずきができないまま聞いていた。

 

 「大竹さん、じゃあ僕らはどうしたらいいでしょうかね」


 佐倉ようやくという感じで大竹に言う。

 大竹は待ってましたという顔をした。


 「まずは総理会見をしてもらい宣言をしてもらう。

 話すことはイジメ根絶に強権な手段で容赦はしないこと。

 今話した内容を審議していくこと。

 最悪、加害者は家族ともどもトウキョウに流刑されるとか。

 脅しをかけてもらえればいいかな」


 佐倉と大海は再び顔を合わせて大竹に向き直す。


 「大竹さんの気持ちはわかりますが、ちょっと急ぎ過ぎで、しかも人権に影響が出かねない内容になっていますが気が付いていましたか」


 大竹はハテナという顔をした。


 「やっぱりわかっていないようですので説明しますけど、マイナンバーで犯罪者を管理して給与昇進などの生存権を侵害することはできません。

 それに生きにくくさせて追放のような形にするのも差別にあたりませんかね。

 そこまでしないと簡単に改善しないということは理解できますが、拙速すぎますね。

 僕でしたら調査員の増員と実態の証拠を揃えることで告発しやすくします。

 通報があっても事実確認を慎重にしなければなりません。冤罪はあってはならないですから。

 だからといって時間ばかりかかっては手遅れになります。

 証拠となる音声や動画を残せる機器を与え、加害者の身辺調査をして固める。

 第三者委員会よりも誰が見ても証拠となりえるものを揃えて刑事事件として告発する。

 少年法の改正で罪には問えますが、十五歳未満は教育法の範疇と被るのでもう一度違う環境から学びなおしてもらう。

 そこにトウキョウという場所が役に立つということです。

 新法が施行されてまだ半年、通報は想定以上に多いんですよ。

 大竹さんの知人家族は通報していなかったのですから、潜在的にはもっと多いということがわかりました。

 だから専門の調査員をとりあえず増員しましょう。

 それでも改善しなかったら大竹さんの言うとおりに強権的に発動します。

 その時は事前に国民の信を得てからじゃないと難しいと思いますよ。

 それこそ独裁政治となりかねません。

 国民の正義のためということでも日本は民主国家なんですから。

 それに連合国の皆さんとは意見を交わしていますか?していないでしょう?

 我が国は独立国ではあるますが連合国支配でもあるということを忘れてはいけません。

 大竹さんは連合国側的な立場ですから代表者という自負があるでしょうけど、僕らはあくまでも日本の立場で意見を言わなくてはならないのです。

 どうでしょうか」


 佐倉は大竹の目を見て話したが、途中から大竹が目をそらしたので違う方向を見て話した。

 大竹は立ち上がり窓の近くまで歩きだして外を覗いた。

 そして大きく深呼吸をして言う。


 「はー、僕もまだまだ未熟だな。さすがは佐倉さん、総理として冷静に考えられている。リーダーにふさわしいと改めて思いました。

 言われて初めて気がつきましたよ、よく考えればそうなんだよな」

 

 大竹はそう言って二人の方へ振り返る。


 「大竹さんらしくないですね、どうしたんですか」

 

 大海は訊いた。

 大竹は天井を見つめて答える。


 「ん-、たぶん身内のような丸山家の秀明君のことだったからかな。トウキョウを脱出するときからしばらく家族のように過ごしてきたからね。

 自分の子供のように感じちゃったのかもしれない。

 親が子供に対する気持ちというのはこんなんだなと今知ったよ」


 「僕の子供はまだ小さいですけど、子供の為なら最前線で戦って犠牲になる覚悟はありますね。

 僕より奥さんのほうがその気持ちは強いかな。普段はあまり一緒の時間はないですからね。 

 その代わり何か合った場合は全員を守るのは父親の責任と思っていますけど」


 大海はそう言った。

 独身の佐倉は「そういうもんなんですか」と大竹のほうを見て言う。


 「僕も今回のことで遅ればせながら知ったよ。まあ結婚することがあればいいんだけどね。

 できそうもないけど」


 佐倉と大海は「そうでしょうね」と言うと、


 「いや、そこは「できますよ!」と言うところですよ」と突っ込んだ。


 大海は一人心の中で考えた。

 今回の件は調査員を増員をして様子を見ることで落ち着いた。

 しかし新法は想定したほど国民は恩恵を受けていないことも判明した。

 人間は災害でもなんでも自分の身近に起きない限り無関心を装うということを改めて知ったことで、政治への無関心さはこういったことが要因なんだと。

 つまり政策を効果的にするにはその無関心さを改めるための政策が必要だということ。

 親鳥が先か卵が先かの話のようだが、まずヒナを育てなければならないことが必須だと。

 つまり子供のころから政治に生活に興味が無いといけないということを。

 

 

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