情報確認
四人での帰り道は会話が弾んでいたので、あっという間に着いてしまった。
もう少し一緒に歩きたかったなと思ってしまった。
丸山さんとは同僚だけど、子供たちとは知り合ってまだ三日目。突然現れた見知らぬおじさんと仲良くしてくれて本当にうれしい。
日が暮れるまでたっぷり時間があるの。明るいうちにできることは済ましておこうということで、女性達は体を拭きに浴室へ。男たちはその間に乾燥させていた細切りの牛肉をもう一度洗濯ハンガーに吊るしておく。明日にはちょうどいいくらいになるだろう。後は燻製するだけだが、このままでも美味しく食べられるので保存しておこうと思う。
女性たちが戻って来て入れ替わりに僕らも浴室へ向かう。
貴重な水で湿らせたタオルで体を拭き、届かない背中はお互いにやってあげる。背中を触られるなんていつぶりだろうか、二十代に同棲していた頃の彼女にしてもらった以来かもしれない。
外に出て軒下にバケツやタライなどを並べようということになった。屋根の汚れも流れて、きれいな雨水を貯めて使おうということにした。
沸騰させれば飲料にもできるし、体を拭くくらいなら全く問題ない。できれば頭を洗いたいところだが。
全員がすっきりしたところで夕食にした。
昼は軽くお菓子をつまみイカを食べたくらいだったので、あたたかいスープと残っているフライとレトルトのご飯。
食べながらラジオで情報のチェックをする。
音声は録音みたいだが、いくつか新しい情報があった。
被害が少なく電気や水道が使える地域からリレー方式で伝えているようだ。つまり最終的には人間が歩いて届けている。
自衛隊は災害当初国との命令系統が絶たれたが、雨が降り出したことで習志野からヘリが総理と内閣を大阪に移送したことで、全国の自衛隊に災害派遣命令がでたようだ。ただし車両は使えないので何時どのようになるかは不明。
同じ時に天皇陛下とご家族が京都へと向かわれたそうで、形として国としての体はあるようだ。
ただし省庁や職員、都や区の行政機能は全く機能していないから無政府状態であることは変わらない。
泥は深いところで膝上まで溜まり固まったので、雨も表面を流れるだけで道が全て川のようになっているようだ。
東京は台地と谷の街なので、谷の地域は相当酷いようだ。地下鉄の駅はもちろん小さな川は埋まってしまい、多摩川などの堤防は高さが半分以下になり、突然な決壊の危険というより緩やかに水に呑まれることが予想されるので二階に逃れることを推奨している。
電気の復旧は順次されているようだが、配電のルートは外からはわからない。向かいの家に電気が点いてもこっちが消えたままとか、隣町が復旧したから次はうちの街かと思ったら間を飛ばして反対の街だったとかになる。しかも公共機関とかがある地域が優先されるので点くまでわからない。
広い東京がすべて回復するには相当時間がかかるそうだ。
水道は壊滅状態で、浄水場の貯水プールが灰に完全に埋まってしまい、飲料可能な水はおろか配水すらできないようで、新しく施設を作ったほうが早いのではないかというくらい。
都市ガスは復旧したが、ガスタンクがある基地の人員が不足しているので船からの輸送補充が未定なので、節約をしてほしいとのこと。
街の様子も伝えていた。
被害の大小はあるが、大きく広い道路ほど車両関係が放置されているようで、しかもドアが開かないくらいの泥に埋まっているようだ。
病院や施設は自家発電でどうにかなっているようで、地下水を利用しているところも多いから、地域の給水所にもなっている。水も電気で汲んでいるから限界はあるので、時間制限をしている。
スマホの充電もできるようだがコンセントが少ないので代表者限定となっている。
どちらにせよ、ガソリンが補充されないことには解決しない問題ばかりになっている。
ほとんどの道が泥で通行不可能なのでタンクローリーは期待できない。
想像してみる。東京の泥を排除して元のアスファルトに戻せるのだろうか。
昔の噴火の時は土の上に積もっていたので、またその上に家を建てたりして生活をしていた。
確か、イタリアなんかは古代の遺跡が三層くらいあって、地下三十メートルに昔の住居があったらしい。
やろうとすれば、ガソリンが安定に各所で供給できて重機が端から順次取り除き、路地は各家庭でスコップで表通りまで運ぶ。用意するスコップはどうやって調達するのか。
少なくとも冬までに終わるかどうか怪しい。
いくら電気が通り水が出ても生活はできるかもしれないが、経済活動は滞る。
食料も足りなくなるのにどうやって大量に運ぶのか。空から落としてくれるのか。
子供たちに東京の現状を説明したけど、大人でもどうなるかわからないから安心しろとは言えないもどかしさ。
明日の天候を確認してからまた考えるとだけ伝えて解散した。
今晩もそれぞれの部屋で寝る。八時には眠るので夜明けに起きても八時間だから十分すぎる。 昔の人と同じ生活リズムになって六日、慣れてしまった。
明日になったら好転すること期待しながら眠りに落ちた。
この布団はやっぱりいい。