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タクヤ達のその後

 タクヤ達は今日からしばらくの間、特別な作業を指示されていた。

 それはトウキョウエリアに残された図書館の蔵書を運び出すことだった。

 それには囚人たちも加わって行うことになっていた。

 元東京都内には区立、市立の図書館が各所にあるが、災害の影響でそのままの状態になっていた。

 国立図書館はいち早く京都などに移動させていたが他はできていなかった。

 ちょうど梅雨の時期になり天候が悪く、徐灰作業に適さない日が続きそうなので計画された。

 作業内容はいつもとさほど変わらない。

 本を段ボールに入れ台車で運ぶ。違うのは室内なので汚くならないくらいだ。

トラックなどの車両が通れるように道が整備されている図書館から始まった。 

 手順としては全員で全ての本を段ボール箱に入れてから一気に運ぶ。

 タクヤは棚に並んである本を上から取って段ボール箱に詰める。

 両サイドの棚を詰め終わり一息をついた。

 何気に箱の中にある本を手に取って表紙を眺めた。。

 知らない作者だが帯に書いてあるあらすじを読んでみると中身が気になってしまい開いてみた。

 刑事が犯罪捜査をする小説だった。


 「おーい、なにやってんだ」


 シンゴがおとなしく本を読んでいるタクヤに声をかけた。

 タクヤは顔をあげて答えた。


 「この本がおもしろいんんだよ」


 「ふーん、タクヤって本を読む奴だったっけ」


 「いや、全然読まないな。図書館なんて今日初めて来たくらいだし、本屋は漫画を買いに行くくらいだからな」


 「へー、じゃあなんで本なんて読んでいるのさ」


 「なんとなくだよ、なんとなく」


 タクヤはそういって本を後ろに仕舞った。

 そして再び作業を続けた。



 夕方になり玄関に集められた段ボールをトラックに積む作業が始まった。

 タクヤはここのリーダーとして指示をまとめていた囚人のボブに近寄って話しかけた。


 「ボブさん、すみませんちょっと相談があるんですが」


 「なんだい急に」


 タクヤは一冊の本を取り出した。


 「この本なんですけど、俺、読みたいんで、借りたいんですけど、どうしたらいいんですかね」


 ボブは本を手に取ってめくってみた。

 そしてタクヤに言う。


 「うーん、俺にはわからん!そういったことは聞いていないからな。誰もそんなことを想定していなかったんだろうな。

 そうだな、俺がこの本を一旦預かって聞いてみるよ、それからでいいかい」


 「お願いします、別に急いでいるわけじゃないから」


 タクヤはそう言ってボブに本を託した。



 翌日になり昨日とは別の図書館での搬出作業に向かうために集合していた。

 点呼を取り用意されたトラックの荷台に乗り込むのを待つ。

 タクヤにボブが近づいて来た。


 「よお!ホレ、昨日の本」


 タクヤが預けていた本を返される。


 「国の人に訊いてみたらよ、別にいいっってさ。同じような本は全国の図書館にもあるということらしい。

 それでな、今日から搬出作業計画が変更になったんだよ。

 皇居のベースに図書館を作ろうということになったさ。

 だからその本も結局はそうなるから、つまり第一号の貸し出し実績になるのかな」


 タクヤはそれを聞いて身震いのようなしびれを感じた。

 ブルっとしたのではなくピリッとした。

 

 「じゃあこの本は俺が持っていてもいいんですか」


 「そうだな、図書館が完成したら返す必要があると思うがね」


 「わかりました、いろいろありがとうございました」


 「別にいいさ、俺も本を好きなだけ読みたいと思っていたしな。お前が言ってくれて良かったよ。俺らは外で生きることも無くこれ以上成長する必要はないけど、お前らなら損はないだろっということらしいよ」


 ボブはそう言うとタクヤの肩を叩いてトラックが待つ方へ向かって行った。

 タクヤは本を自分のバックパックにしまい込みボブの後を追いかけた。




 

 シンゴはトウキョウに来て良かったと思っていた。

 とりあえず毎日やることがあり、それが東京の復興につながるという誇りと自負を持てていたからだ。

 それに毎日の食事が旨いということに満足していた。

 シンゴは母子家庭で母親は夜の仕事をしていたので食事のほとんどは弁当か外食だった。

 たまに祖父母の家に数日預けられることがあったが、出てくるのはいわゆる茶色いおかずばかりだった。それでも温かい味噌汁とかが並んでいたので良かった。

 中学に入り弁当持参の生活になったが、毎朝作るのはシンゴ自身がやっていた。

 でも中身は冷凍のフライやハンバーグ、野菜はミニトマトくらいで、いつもコンビニ弁当と変わらないどころかランクが下がっていた。

 そのうちコンビニ弁当のおかずだけを弁当箱に詰めていくようになった。

 白飯だけを多く詰め込んで、おかずの足しにふりかけを持っていく毎日だった。


 高校に入りバイトを始めた。

 母親の友人の紹介で飲食店の皿洗いと厨房の手伝いをした。

 最初の頃は皿を並べる程度の仕事しかできなかったが、そのうちに食材を切るとかを任されるようになった。

 しかし災害が起きてからは客足が無くなり店は閉店してしまった。

 高校は中退しバイトの金で買った中古の原付でタクヤ達とつるむようになり毎晩のように田舎道を走っていた。

 そんな時にタクヤに誘われてトウキョウに来たのだ。


 トウキョウでの食事はアメリカ軍の兵士がつくっている。

 兵士相手のメニューだから洋食になるのだろうか。

 というか日本食はめったに出てこない。

 囚人用に白飯と漬物は毎回用意されているが、それ以外になるとカレーくらいになる。

 カレーライスは兵士たちにも人気メニューのようで頻度は多い。

 シンゴにとっては見たこともないメニューがあるので、そっちのほうに興味があった。

 料理は食べてみればわかることだが、それよりも作り方のほうを知りたかった。

 かといって英語が話せるわけでもないので味だけで予想していた。

 タクヤに本を借りられることを教えてもらい、さっそく作業中に英会話の本と料理の本を選んでおいた

 英語のフレーズをメモして、兵士に近寄っては話しかけては練習し、慣れてきたら調理場にいる兵士に話しかけ作り方を教えてもらうくらいまでになった。

 調理は大鍋で作るので参考程度でしかならないが、その都度のコツとか兵士のこだわりなんかを知ることができた。

 兵士たちにしてみればそんなことをしてくる日本人は珍しく、シンゴは若かったので可愛がられた。

 そのうち、作業を途中で抜けて調理作業に参加できるようになった。

 いつのまにかシンゴは料理の腕と英会話は上達していった。




 ツヨシは道路脇で畑のようなことをしている日本人が気になっていた。

 その男性は足環を付けていないので囚人ではなさそうだが、服装といいやっていることが連合国関係の職員ではないと思っていた。

 皆が徐灰作業をしているのを横目に何かを植えている。

 こんなところで作物でも育てようとしているのだろうか、それとも別に何かをしようとしているのだろうか。

 シンゴは気になっていたが他のみんなはそうでもないみたいだ。

 タクヤなんかは「あんま気になんないな」

 シンゴは「出来上がった時にでも話しかければいいんじゃないか」と言っている。

 囚人たちに訊いても「なんか国の人が連れてきたようだけどよくわからん。見かけても遠かったり、いなかったりすることも多いし、食事が一緒になることもないしな。良く知らんのよ」


 ツヨシは謎な人物がますます気になっていた。


ある日の朝、作業に向かう途中の道路脇で謎人物が作業をしていた。

 立ち止まって様子を見ていると、謎人物が振り返った時にツヨシと目が合った。

 しかしツヨシを無視するように作業を続けた。

 ツヨシはそれでもしばらく見ていると謎人物は作業を止めツヨシに近づいてきた。


「おい!さっきから見ているが仕事に行かなくていいのか」


 ツヨシはハッとした表情をしたが、謎人物に答えた。


 「あの、何をしているんですか」


 謎人物は両手を広げ、


 「見て通り、街路に花を植えているのさ」


 さも誇らしそうに胸を張って笑顔をツヨシに向けた。

 

 「この辺はオレンジのコスモス、あっちは赤いコスモス。向かい側はヒマワリと、白いコスモスとピンクのコスモスだな。

 おっと、コスモスばかりと思っているだろう、コスモスもヒマワリも一年草だけど花の時期が長く楽しめるんだよ。それに芽を出すの早く多少土が悪くて伸びなくても花はそれなりに咲くからな。

 それに種も多く取れるから来年からはたくさん咲かせることができる。

 鉢植えでないかぎり水やりも少なくていいから手間もかからない。

 片手間にやるにはちょうどいいんだよ。

 まあもっとも自宅の畑の隅に植わっていたのを持ってきただけだがな」


 謎男はそう説明した。

 ツヨシは「畑」というのが耳に入って気になった。


 「畑が近くにあるんですか」


 「近くじゃないな、三十分以上歩いたところにはある。だけどまだ土が出来上がっていないから畑になる予定といったほうがいいかな。

 灰を取ったり混ぜたり肥料を入れたりしているから当分先になる」


 ツヨシはタクヤ達と農家の手伝いをしていたが、タクヤとシンゴは体力不足と指示されたことをうまくできなかったりでクビになったが、ツヨシはそうじゃなかった。

 農作業自体は他の二人より丁寧で期待通りに役に立っていたがツヨシは農作業中に見つけた虫など追いかけたり、蛙の卵やトンボのヤゴを見つけることに夢中になって捕まえていた。

 子供の頃から虫取りが好きで、自由研究は標本や観察記録を提出していた。

 ちょっと暇になると一人でそんなことをしていた。

 タクヤとシンゴがクビになるときは、自分一人だけ残っても仕方ないので一緒に辞めた。


 「あの、今度畑を見に行ってもいいですか」


 ツヨシは謎男に訊いた。


 「俺は構わないけど、お前はあれなんだろ?誰かに言わないと駄目だろう」


 ツヨシのオレンジ服をみて囚人と思っているようだ。

 だけどツヨシは否定しなかった。似たようなものだからだ


 「あの、もし大丈夫だったらいいですか」


 「だから俺は構わないといっているだろ。むしろ若い人手は必要なくらいだ。

 もし訊かれたら、俺が必要としているとかなんとか言っておけばどうにかなるんじゃないかな。

 こう見えて俺は連合国の偉いさんと顔見知りだぞ。

 これなんかも特命を受けてやっているんだからな」


 ツヨシは「わかりました」と言って自分の作業場所に向かうため謎男と別れた。

 図書館での作業が終わり本を皇居に運びこんでいると、自分たちが捕まった時の日本人を見かけた。

 「ツトム」さんとはあれ以来めったに顔を見ない。

 週に一、二度くらいで食事の時に現れているが、僕らより囚人たちと話をしていることが多く、直接話すのはたまに見かけたときに挨拶を交わすくらいになっていた。

 ツヨシは絶好のチャンスだと思って話しかけた。

 少し離れていたので叫ぶように、


 「ツトムさーん、すみません」


 「ツトム」こと大竹は声に気が付いて振り向いた。


 「おお、なんだい?今日もごくろうさま」


 ツヨシは大竹に近寄って言う。


 「あのですね、街の道端で花を植えている人に会ったんですが、その人に誘われて仕事を手伝ってみないかと言われたんですけど」


 ツヨシは恐る恐る伝えた。

 大竹はちょっと驚いた風の顔をしたが、すぐに思い出したかのように言った。


 「ああ、ハイハイ岩崎さんね。そうかあの人がそう言ったんだ。そうだな、じゃあ試しに行ってみるといい。後で僕から直接伝えておくよ」


 大竹は以外にもすんなり許可をした。


 「あの人とは毎晩のように会っているからね。そうか知らないかもしれないね、岩崎さんは僕と同じように皇居に住んでいるけど誰よりも朝早く出かけて知っている人は少ないからな。

 そういえばそろそろ人員も揃えないといけないのかもしれない」


 大竹そう言ってツヨシの肩を叩いた。

 

 「そうだな、図書館の作業が一段落して元の作業に戻るときにしようか。

 それまでに岩崎さんと打ち合わせをしておくから、他の二人にも話しておくといい。

 三人でもいいし一人だけでもいいし、無理強いはしないからよろしくね」


 大竹はツヨシにそう言って去って行った。

 残されたツヨシはその場に立っていたが、後ろから呼ぶ声が聞こえた。


 「おーい、飯に行くぞ、置いてくぞ」


 ツヨシはタクヤ達が待っているトラックに向かって走って戻った。

 心の中がスキップしていることを悟られないように。

 


 



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