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尾行者

 大竹はピーターと二人で京都の街を歩いている。

 休憩を兼ねて適当な店を探し歩く。

 二人とも京都の土地勘は無く大竹は修学旅行、ピーターは来日時に一度歩いたくらいなので散歩と言えども楽しく興味深い時間になっている。

 政府関係者に直接会う用件でもない限り京都には来ない。

 リモートで済ませられることはトウキョウでも何とかなる。

 それでも月に二回以上は来ることになる。ついでに大阪にも行くが、モジャに顔を見せに行くだけ。

 あそこは本格バーだが決して高い店ではないところが気に入っている。

 仕事の話をしても外には漏れない安心感があるので居心地がいい。



 大竹達が散策している少し後ろ、二十メートルくらい離れて一人の男が歩いていた。

 人混みに紛れているが大竹達から視線を外さないよう慎重に。

 男はフリーの記者だった。

 名前は「佐々木明彦」業界で二十年以上のベテラン。

 佐々木は今回の仕事に賭けていた。

 なぜなら災害後の紙メディアは縮小傾向に歯止めがかからなかったからだ。

 災害前からその傾向はあった。

 ネットが普及しだした二十年以上前から一部では予想されていた。

 しかしバブルが崩壊しても購読層の団塊世代は現役であったため危機感は共有されなかった。

 二十一世紀になり海外のネット関連企業が台頭してきて日本のような製造業は後れを取ったように旧メディアは影響力を弱めていった。

 それを感じた大手は広告代理店を通じて政府や国際競争力のある大企業のすり寄ることで存命を模索した。

 しかしそれが逆にメディアの体質が国民目線でなくなった。

 それによって信用度が落ち、無記名で不透明な情報であってもスピードではかなわないネットのほうが信頼されるということになってしまった。

 忖度まみれのメディアは商業施設のBGMレベルまで低い関心度になった。

 そしてダメ押しの災害で東京が崩壊し国土の半分が外国に支配され、日本自体が小さくなり企業は分散し、エンタメ界は集中したことにより取材範囲が限定された。

 それに政治構造がまるっきり変わってしまい、贈収賄など官僚と政治家の癒着や不祥事が無くなった。

 スポンサー頼みの業界ゆえに広告ばかりで記事が少ないのならフリーペーパーにでもしてしまおうとか、ネット記事をフリーのライターを使って安く載せたりしていたが限界が見えてきた。


 佐々木は現在社員でも専属でもないフリーの記者として活動している。

 災害前は雑誌専属記者として芸能人スキャンダルや政治や犯罪現場のルポなどを中心とした生業にしていた。

 災害で東京本社は解散になり、社員は関西の関係企業に再就職という形で仕事は続いていた。

 総選挙までは仕事量が増大して人員が不足気味だったが、新しい政府ができたとたんに仕事が激減した。

 あらゆるスキャンダルは減る、トウキョウ関連は情報が全く入らない、東海地方の復興は擦りまくって新鮮味が無い、芸能人は全国隅々に活動を広げて地方でのやらかしがありそうだがネットのほうが早い。

 書ける記事のほとんどが新政府による公約の進捗状況と実際の効果を市民の声として伝えるくらいだが、それもネットで足りていた。

 しかも肯定的なものばかりで、批判的、否定的な話がほとんど聞こえてこない。

 全く無いとは思えないが、発言することで全ての女性やマイノリティーからの攻撃を受けてしまう。

 旧政権に近かった人間、企業は全く信頼されていないことも理由だ。

 エコ活動の有無で株価が変わること以上に、新政権のへの支持表明は大きいものとなっていた。

 なかには手のひら返しともいえるような企業も出てきたが仕方ない。

 でも市民は馬鹿じゃない。

 実際の業績は悪くないが、そのほとんどは海外であって国内では広告も見かけなくなった。

 大企業のほとんどが旧政権のお友達だったので、それらの広告が無くなるということはマスコミにとって直接的なダメージとなった。

 

 佐々木も新政権を支持はしている。

 しかし、あまりにも清廉で正直なやり方を信用していなかった。

 何か思惑があるのでは、裏で連合国と取引があるのでは、代議士が政治の素人なのも意味があるのではとか勘ぐってしまう材料が多い。

 何か尻尾を掴んで大スキャンダルに発展すれば佐々木自身は名前が売れるし紙媒体の復活ある。

 それに旧政権と関係企業が資金を出すことで経営も安定させることもできる。

 つまり逆転ホームランを狙っての尾行。


 前方を歩いている日本人と外人は皇居を張っていると何度か見かけていた。

 身元を確かめてみると全く情報が得られなかった。

 普通は名前や年齢くらいは調べればすぐわかる。

 それが全く出てこないことに違和感を感じた。

 あの二人こそが新政権のキーマンなのではないか。

 極秘の人間だからこそ正体を知られてはいけないことに関わっているのでは。

 二人が何者かを知るためにこうしてセオリー通りの尾行をしている。

 京都は観光客が多いので、佐々木のように挙動不審であっても目立たないことが幸いだった。

 それでもおっさんが一人、買い物も食事もせず景色に立ち止まることもなく歩いているのは違和感があった。

 目つきや表情にも不審者としてのオーラがにじみ、次第に佐々木の周辺から人々が離れていった。

 しかし佐々木はそのことに気づくことなく尾行を続けていった。


 ピーターが大竹にささやく。


 「オオタケサン、尾けられていますね。どうしましょうか?」


 大竹は気にするそぶりを見せずに自然な口調でささやく。


 「大丈夫だよ、あの人はただの記者だから。直接取材されない限りこっちからは無視しとけばいいよ」


 「なんで記者だとわかるんですか?」


 「いや、あの人は以前から見かけているからね。皇居の周辺で近所に住んでいる人以外に何度も顔を見る人は何かあるでしょ、だから調べてもらったら記者だっただけ」


 「なんだ、もうすでに調べていたんですね。僕はいつも一緒にいるのに何時そんなことやったんですか?」


 「別に僕が調べたわけじゃないよ、皇居に居る人ならみんな知っているようだよ。

 僕はそれを教えてもらっただけ。

 ピーターはまだ日本人の細かい区別はつかないみたいだね」


 「知っている人なら変装していてもわかりますが、そうじゃないと難しいですね」


 「そうだろうね、日本人だって白人は同じように見えるし、アフリカ、中東もしかり。仕方ないよ。

 でも僕は同じアジア人なら国籍はわかるな、日本人の顔でも英語しか話せない人もわかる。

 外人でも日本語が達者な人も見ただけでわかるな。

 ピーターなんかもパット見外人だけど、日本語わかりますよオーラが出ているからね」


 「そうなんですか?なんでわかるんですか?」


 「うーん、説明は難しいけど。たぶん顔の筋肉が日本語用か、思考が日本語の表情をしているとしか言えないな。

 相手が女性だったら化粧やファッションが日本の流行りや趣味好みだからわかりやすいけどね」


 「じゃあ僕が英語ばかり喋って日本語を忘れたら外人顔になるんですかね?」


 「たぶんなるよ、アメリカに長く居て日本語を忘れかけている人なんか日系人と同じ雰囲気だったからな」


 「うーん、試してみたいけど意味なさそうだから止めときます」


 ピーターは残念そうに言った。



 大竹達のそんな会話など知るよしもない佐々木は付かず離れず尾行をしていた。

 今の時間は昼だから食事にでも行くだろうと予想していた。

 しかし、どこで誰と接触するとかわからないから油断はできない。

 大竹達はカフェに入ったが佐々木は入り口が見える場所に陣取って見張った。

 本当なら店に入ったほうがいいのだろうが、フリーなので経費は最小限に抑えたい。

 だから食事はほとんど菓子パンになった。

 それでもできるだけ栄養を取りたいからカレーパンが主食となった。

 だからコンビニのカレーパンだけは詳しい。

 最近は揚げているより焼いているほうが好みになっていた。

 年のせいなのか、フライ物を食べると胸やけをすることが多くなってきた。

 のり弁の白身魚フライでさえ辛くなってきたので、割高だがハンバーグ弁当に変えている。

 それでも温かい弁当なんて贅沢なのでめったに食べない。

 あの二人のうち日本人はいつもラフな服装をしている。お世辞にも金を持っているようには見えない。年齢も不詳だが、五十歳にも四十にも見える。

 今日なんか陽が出て暖かいとはいえ冬なのにポロシャツにハーフパンツ、裸足にサンダル姿だ。

 バッグさえ持っていない。財布とスマホはポケットの中だろうか。

 小一時間後、二人は店から出てきた。

 そして来た道を戻らず、違う方向に向かって歩き出した。

 それからいろんな店を冷やかして結局着いたのは皇居だった。

 ぐるっと回って歩いているのは意味があるのだろうか。

 佐々木は二人が皇居に入ったのを確認すると来た道を戻って周囲を確認した。

 しかし特に何もなかった。

 


 皇居に戻った大竹とピーターは後ろを確認して言う。


 「ほら、ただの尾行だったろ」


 「そうですね、緊張して損しました」


 「帰りは遠回りをしてきたけど、ちゃんと尾いてきたからね。ご苦労なことだね」


 「あの男の目的はなんでしょうね」


 「たぶん、皇居に場違いな僕と背の高いインテリ風の白人のコンビが珍しいだけじゃないかな」


 「そうなんですかね」


 「でもこれから何度もやられるとさすがにうっとおしいな」


 「どうしますか?」


 「そうだね・・・・・」


 大竹はピーターに作戦を伝えた。




 

 

 

  



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