トウキョウ侵入3
三人がピーターに連れられ向かったのは皇居から軍用車で十分ほどのところだった。
大きなテントが並んであり、アメリカ軍の兵士が大勢食事をしていた。
ピーターと三人は兵士たちと同じように列に並んだ。
ピーターは三人に説明をする。
「毎食こんな感じで兵士たちに交ざって食事をする。兵士が先とか囚人が後とかのルールはない。
早く来た人間から並んで好きなテーブルで食べる。
知っている人間のそばのほうがいいから、結局はかたまっていることが多いかな。
みんなも揃って食べて問題は無い。
ほら、あの辺が囚人たちが集まっているテーブルになるよ」
ピーターが指した場所には三人と同じオレンジの作業服を着ている人間たちがいた。
三人は少し緊張してきたようだ。
何しろ皆漏れなく凶悪犯なのだから。
たぶん自分らでも知っている事件の犯人もいるはずだ。
三人はプレートを持ちピーターから離されないようにオレンジのテーブルに向かった。
「こんにちはみなさん」
ピーターは慣れた口調で話しかけた。
「どうも」「やあ」「おう!」と囚人たちも知人にするように返事を返した。
「今日は新人を連れてきたので紹介します」
ピーターはそういって三人を並べる。
「向こうから、ケンA,スミスA,トムAさん。です」
三人は「ケンです」「スミスです」「トムです」と言って頭を下げた。
ここで働くのにあたってコードネームを付けた。
名前は胸と背中に大きく書かれている。もちろん英語で。
「「「よろしくお願いします」」」
三人は挨拶をするとピーターに促され席に着く。
「じゃあそういうことで」
ピーターと囚人たちは何事もなかったように食事を始めた。
一瞬呆けた三人だったが、食べていいことに気が付き皆に倣って食事を始めた。
食事を始めると緊張している三人に囚人たちから話しかけられた。
テーブルの向かいの男からは、
「俺はボブって言う、よろしくな。一家三人を殺した死刑囚。
隣にいるのが相棒でロンって言う奴、高齢者六人を通り魔で殺した死刑囚」
ロンと紹介された男はニコっと笑顔を返した。
次にロンの隣の男が、
「おう、俺はビル、誘拐殺人の無期囚」
それから立て続けに紹介が始まった。
名前の次に罪名までも言ってくる。
三人にしてみれば知りたくもないことばかりだ。
なんだろ「好きなユーチューバーは」みたいなノリだ。
「ところでお前らはなんで来たんだ?」
その中の一人が訊いてきた。
タクヤが恥ずかしそうに話す。
「いや、俺たちは千葉で暴走族やってたんですけど、トウキョウでうろついていたらアメリカ軍に捕まってしまったんですよ」
それを聞くと皆が、
「ああ、そりゃ災難だったな。でも殺されないだけ良かったよ。
たまにいるんだよな、夜でも銃声が聞こえてくることがあるもんな」
周りの囚人たちもうなずいている。
「そうなんですか?」
「ああ、でも死んでいるかどうか知らんよ。でも無事じゃないだろ」
三人は自分らが幸運だったことに安堵した。
「まあせっかく縁があって一緒に生活するわけなんだから仲良くやろうな、なあみんな!」
「そうそう」「よろしくな」「飯はうまいぞ」と言ってくる。
三人はなんとかやっていけそうな気がしたが、最初に耳に入った罪名さえ知らなければもっと良かったと思った。
食事休憩が終わり囚人達はそれぞれコンビで作業場に戻っていった。
三人はピーターに再び連れられて行く。
着いた場所で三人は作業手順を教えられる。
「一人がショベルで台車に灰を積んでいく、それをもう一人が運ぶ。ただそれだけだけど慣れないと大変だよ。
君たちは三人で若く慣れていないから、積んだ台車は自分で運ぶほうがいいかもね。
他のみんなは交代でやっているけど、無理して頑張っているわけじゃないから。
ちなみに冬は昼休憩が一時間だけど夕暮れが早いから労働時間は短いよ。
夏は昼が二時間で暑ければ三時間、でも暗くなるのが遅いから。労働時間は夏のほうが長いけど日中の暑い時間は休み休みで無理をしなようにしている。
まあそのうちペースがわかるよ。
くれぐれも頑張りすぎないように。今日は後三時間で終了だから」
そう伝えてピーターは去って行った。
残された三人は顔を見合わせた。
タクヤが言う。
「じゃあ始めますか!」
三人はショベルを持って作業を始めた。
自分らは農家の手伝いで役立たずと言われた人間だ。
でもこの程度なら何とかなると思っていた。
でも甘かった。
一時間もすると体が動かなくなっていた。
「なあタクヤ、疲れたな」
シンゴが言う。
「そうだな、腰が辛くなってきた」
「僕は腕が上がらなくなってきたよ」
ツヨシが言う。
三人とも体は動かなかったが残り二時間だと思って頑張った。
作業時間が終了し、食事の場所と同じところにある風呂に囚人たちと入って食事をする。
テーブルに着くと囚人たちは食べ始めるが、三人はテーブルの上を見つめるだけで食べようとしなかった。
向かいに座っている囚人が話しかける。
「おい、なんで食わないんだ?」
タクヤが言う。
「腕があがらないんです、手も握れないからスプーンも持てそうにないし」
囚人はニヤッと笑う。
「なんだ、そういうことか。でもよ食べないと明日の朝まで何もないんだぞ。
疲れているのに食べないと夜中に空腹で眠れなくなるぞ」
「そうでしょうけど・・・」
「まあ時間はあるんだから少しずつ食べてりゃいい。別に一時間過ぎてもいいんだ。
ここの片づけが始まるまでならだいじょうぶだろ」
それを聞いた三人はどうにかして食事を口に運んだ。
腹が減っているのに食べられないジレンマに苦しんだ。
ようやく食べ終わったときには陽が空すっかり暮れ誰も残っておらず三人だけになっていた。
三人の場所だけ照らすように電気が点いていた。
兵士の一人が近づいて来て話しかけられた。
「アーユーオーケー?」
タクヤが「オーケー」と答えると電気を消し戻って行った。
ああ、あの人は自分らを待ってくれていたんだと思った。
寝る場所は皇居でなく近くのマンションに一人一部屋を用意されていた。
蛇口をひねっても水が出ないことを確認したタクヤは、持ってきたペットボトルの水を飲んだ。
そしてベッドの上に寝転んだ。
ドアをノックする音がしたので「どうぞ」と言った。
予想通り入ってきたのはシンゴとツヨシだった。
二人は床に胡坐をかき座った。
「やっぱ部屋に一人は寂しいな」
シンゴはそんなことを言うとそのまま横になった。
ツヨシは壁に寄りかかっている。
タクヤはそんな二人に言う。
「俺は一人でもいいんだけどね」
「そんなこと言うなよー、なあツヨシ?」
「そうだよ、そうだよ」
こいつら、これから大丈夫かよ?とタクヤは思った。




