トウキョウ侵入
トウキョウは廃墟ビルのジャングルとなっている。
探検と称して全国から若者グループはもちろん、個人でも侵入してくる人間が少なくない。
トウキョウエリアは基本的に立ち入り禁止になっている。
高速道路はいち早く開通させたが、東北道に接続はされていない。予定では一年以内に開通させる。
だからと言って高速道路からトウキョウへは降りられない。
降りたところで道路状況が復旧していないので走行は難しい。
事故や故障があっても対応ができないので自殺行為になる。
あえて自殺願望の人間もいるようだが、決行する前に確保している。
富士の樹海は全域立ち入り禁止になっているのでトウキョウを選ぶのだろうがいい迷惑になっている。
人が住んでいないマンションや商業施設は廃墟ではあるが、まだ放棄されて一年も経っていない。
だから利用価値はまだまだある。
ただしアクセスが不十分なので活用できていない現状がある。
進捗は囚人たち次第だが圧倒的に人員が不足している。
そこでアメリカ軍と政府は考えた。
侵入者をおびき寄せて確保し作業員に加えてしまうという計画を立てた。
まずネットの匿名で画像と動画を流し、容易く侵入できるルートと方法を説明したサイトを作った。
よくある裏ワザハックネタと同じような内容で、試す価値があるという興味を抱かせる。
普通に生活しているのならば、わざわざ試そうとする人間はいない。
やってくるのは無職かそれに準じた生活者、河川敷で違法なBBQをするようなイキっている若者、もしくは金儲けのネタを探すか、窃盗目的の人間になるだろう。
どちらにせよ善良な市民の迷惑なる人間を集める。
犯罪者ではないがそれに近い、刑務所に入れるほどじゃないが隔離してほしいと疎まれている。
国民にはトウキョウの詳しい状況は伝えていない。基本的にアメリカ軍管轄だから外国になる。
だから侵入者は不法入国者扱いにいなり、日本の法律が適用されない。
しかも軍管轄だから戦場扱いなので、特別法が適用される。
敵と認識されたら問答無用の攻撃が認められている。
合法的に居住している囚人たちはオレンジの服で判別できるし、政府関係者は顔が割れているし証明カードを携帯している。
餌におびき寄せられた人間が現れるまで一週間もかからなかった。
予想通り夜間に来た。なぜか満月の夜にだ。
普通だと真っ暗な新月を選ぶのが侵入のセオリーと思うが、連中は特に警戒していない素人だということがわかる。
これだけ広いトウキョウエリアだから、少人数の行動など察知できないと思っているようだ。
普通ならそうだろうが、あえておびき寄せているのだ、そんなことは想定内だ。
日中はスパイ衛星を活用して、夜は自動飛行する赤外線カメラ搭載のドローンで偵察している。
ビルとビルの間に簡易な橋を架けて、地上を移動するより早く確実に発見できるようにした。
こちらは暗視ゴーグルを装備しているから容易に追跡ができるし、普段からの訓練の成果を実戦形式で行えるので、担当任務のシフトは兵士の間では大人気になっている。
しかもジャングルより快適な環境で相手は素人。こちらはフル装備で対応できるし、もし反撃されたら殺してもいい許可がある。
だが人員確保が目的なので、できるだけ無傷で連行するのが任務の成功になる。
兵士にとってはシュミレーションゲームのような娯楽になっていた。
千葉方面から江戸川を越えて侵入してきたのは地元の暴走族に入っている若者たち。
今夜は試しということで三人だけが集まった。
タクヤ、ツヨシ、シンゴは高校の同級生で、災害前に中退をしていた仲間になる。
就職はしておらず、実家で昼はゲームかネット、夜はバイクで走る。ただそれだけの毎日を過ごしていた。
最初は東京で半年ほど働いていたが、災害で実家に戻ってきた。仕事を探そうにも地元は噴火の影響が少なくなかった。
房総のほうは特に被害が大きく、未だに復興していない。
農家や牧場は土壌の改良など、漁師は遠洋に転職していた。
勤め人は都内通勤が多かったが、転勤で仙台など全国に散らばった。
大学生も同じように転入学をしていったが、彼らのように中退には就職が厳しかった。
両親達は農家の手伝いとして働きだしたが、自分達は何もやってこなく経験が足りないこともあり使えない役立たずとされクビになっていた。
だからといって実家から離れて生活する意欲も自信もなく、ひたすら毎日が過ぎていくのを確かめるだけという生活に浸かっていた。
何か楽しいこと面白いことがないかと、毎晩バイクを走らせていたが楽しくはなかった。
バイクでいくらスピードを出そうが、爆音を響かせようが最初の頃に比べて刺激がなくなった。
たまに濡れた灰にタイヤが取られコケそうになって冷や汗をかくくらいだ。
そんなとき仲間の一人がネットでトウキョウ侵入ルートがあるらしいという情報を持ってきた。
個人でやっているブログのようだが、結構詳しく説明されていた。
ルートの中に千葉から行けるポイントが数か所あったので、一番近くて土地勘のある江戸川葛西ルートを選んだ。
決行日は満月の夜にした。夜目が利くし心が奮い立つ感じがするからだ。
橋の近くまで来てバイクを残し歩いて渡って行く。
バリケードが設置されていたが乗り越えるのは簡単だった。
こちらはそれなりの装備をしてきた。
軍手はもちろん、滑り止めが付いている靴、大きめのバックパック、キャンプ用のロープ、それに水と食料。
あまり長いはする気はない。明け方までに戻って来る予定でいる。
計画では葛飾区まで行って、調子が良ければ上野、浅草周辺を探索する。
できればスカイツリーの上まで登ってみたいと考えていた。帰ったら自慢できるからだ。
その頃皇居のトウキョウベースでは探知情報が入っていた。
すぐさま近くで警戒任務に就いている兵士に連絡を入れる。
「エドガワからセンソウジに接近している。目標は三人」
命令を受けた兵士たちは三人一組で行動している。
携帯端末でドローンの情報を確認して現場に向かう。
対象の行動を予測して先回りをする。
タクヤ達三人は浅草寺まで来ていた。
「すごいことになっているな、こんなに灰が積もっているとは思っていなかったよ」
タクヤは先頭を歩きながらつぶやく。
「この辺は流れてきたのが溜まったんだろうな」
シンゴが後ろで言う。
「こんなに人気のない東京なんて初めてだよ、街灯もビルの明かりも無いから月がきれいだし」
ツヨシが夜空を見上げて言う。そしてタクヤに向かって、
「なあ今度は月のない夜に来ようぜ、星がすごくきれいに見えるはずだよ」
「そうだな、それもいいかもな」
地元はビルは無いが街灯は灯っていた。車も走っているし、人家も多い。
東北の震災の時にあった停電を思い出した。
確かにすごくきれいだった。あんな経験はもうできないと思っていた。
タクヤ達は当時子供だった自分たちが震災の時にどうしたかの思い出を語り合った。
「揺れたよな、俺まだ学校にいたんだよ」そうタクヤが言うと、
「俺は家に居てびっくりして外に出たな」シンゴが言い、
「俺はチャリに乗っていたらまっすぐ走らないから不思議だったんだ、停まっても動いているから地震だとわかったんだよ」
ツヨシが言ったことに二人が「遅いよ!」「その頃から鈍かったんだな」
「何言ってんだよ、チャリに乗って地震に遭うなんて思うわけないだろ!」
ツヨシは不満そうに叫んだ。
こんなバカな会話も止めると、とたんに静寂が三人を包む。
歩くのを止めたら足音さえ聞こえなくなって更に空気が止まり時間でさえ進んでいないように感じた。
「なあ、もう帰らないか?」
シンゴがつぶやく。
「ああ、そうだな。どうするツヨシ?」
タクヤが言う。
「賛成!なんか歩くのも疲れたし、誰も人がいないから気味悪いし」
ツヨシは何かに怯えてるかのように言う。
「じゃあ戻ろう」
タクヤがそう言うと、来た道を振り返る。
すると暗闇から人が出て来て腕を掴まれた。
驚いたタクヤは叫んだ。
「ワァーーー!!なんだ、なんだ!・・・んグッ・・」
タクヤは叫び終わる前に倒された。
残りの二人は突然のことで声を出すことさえ忘れてしまった。
しかしすぐにタクヤと同じように腕を取られ足を払われ倒された。
我に返った時は三人とも後ろ手にされて座らせられていた。
顔にライトを向けられまぶしかったが、ようやく状況を確認できた。
襲ってきたのでは迷彩服の兵士だった。
その中に一人が話しかけた来た。
「オマエタチ ツカマエタ レンコウスル タテ」
カタコトとはこういうことかと言う見本のような日本語を言っただけで連行された。
目隠しはされなかったが誰も騒ぐことなくおとなしく歩いていく。
首都高を歩かされ、日本橋を過ぎ神田で下に降ろされた。
そのまま東京駅に向かい右に曲がった。
そのまままっすぐ歩いて皇居に入っていった。
「ここは皇居だよな」
タクヤ達はそう思ったが声には出さなかった。
夜中だったがところどころ灯りが漏れている。
そして建物の中に入り部屋に通された。
タクヤ達はこれから何をされるのか不安でしかたがなかった。
兵士に話しかけようにも日本語は通じないし、英語も喋れない。
しばらくすると一人の外国人が入ってきた。
「ハイ今晩は、ようこそトウキョウベースへ」
流ちょうな日本語でタクヤ達に話しかけた。
「おめでとう、皆さんは最初の逮捕者になります。まさかこんなに早く来るとは思っていませんでしたね。今日は遅いんでとりあえず今夜はここで泊まってください。
詳しいことは明日にしますので」
そう言い残して部屋を出て行った。
タクヤ達は兵士に再び連れていかれ、別の部屋に入った。
ベッドが三つ置かれている。窓は鉄格子がハマっているようだ。
ドアを閉められ鍵を掛けられた。
三人はそれぞれ靴を脱ぎベッドに座る。
タクヤが言う。
「なあ、俺たちどうなるんだろうな」
「あの日本語を話してくれた人はいい人そうに見えたけどね」
シンゴが答える。
「皇居の中に泊まれるなんてツイテいるんじゃないのかな?」
ツヨシがそう言うと、
「バカ!」とタクヤに怒られた。
「あのな、俺たちは逮捕されたと言っていたろ、刑務所に入るんだよ」
「ええー、そうなの?」
ツヨシは驚いていた。
今頃気づくとはホントにボケているなと二人はあきれていた。
タクヤは観念して寝ることにした。
「お前ら、もう寝ようぜ、疲れたよ」
そう言ってベッドに潜り込んだ。
「ああ、ツヨシすまんけど電気消しといて」
「え、どこにあるのさ」
「探してくれ、おやすみ」
タクヤはそう言って布団をかぶってしまった。
ツヨシは仕方なくスイッチを探し暗闇のなか自分のベッドに戻った。
窓からは満月の光が照らしている。
ピーターが戻ってきた。
大竹は「どうだったと」訊ねる。
「まだ若いですね、たぶん二十歳くらいかな。悪い子には見えなかったですけどね」
「そうか、まあ最初だからな。とりあえず明日から様子をみながらやっていくか」
「そうですね」
彼らはどうなるのか。囚人たちと生活をするのだろうか。
ピーターは少し同情した。




