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地下鉄内で

 一人の女性が大阪の地下鉄に乗ろうとホームで待っていた。

 乗降位置ではなく少し離れた場所に。

 彼女一人ではなく、ほとんどの女性が同じようにしている。

 そんなことをしているのは女性達だけで、男性達は乗降口近くで待っている。

 車両到着予告の電光サインには車両番号と赤いマークが付いている警告表示が点灯した。

 それを確認した女性達は目的の車両に向かって並びはじめる。

 並んだのはほとんどが若い女性ばかり、ある程度の年齢の女性はお構いなしで男性達と同じ場所に並ぶ。

 到着するとそのまま乗り込んでいく。

 乗り込んだ車両には男性が乗っているが、特に気にすることなく乗り込んでいった。

 しかし一人の若い女性だけが男性達と同じ車両に乗り込んだ。

 周りの男性達は思った。

 「地方から出てきたんだなかわいそうに」「彼女と離れていよう」等と。

 それだけ彼女は浮いた存在だった。

 しかし周囲のそんな視線を気にせず男たちの近くで吊革につかまっている。

 男性が多い車両に若い女性が一人という状態を待ってたかのように男が二人近寄った。

 二人は痴漢であった。

 彼女の体を触る。彼女は声を出さない。

 それをいいことに更に触る。彼女は少し移動した。

 二人は離れずに痴漢を続けた。

 彼女は二人の手を掴み叫んだ。

 「この人達痴漢です!」

 男二人は「俺じゃない、違う奴だこいつだ」と相手になすりつけ否定した。

 周囲の男たちは無言で見守っているだけ。

 するとその中の一人の男が近寄ってきた。

 そして男に言った。

 「警察です、痴漢の現行犯で逮捕します」

 男は蒼白な顔になったが否定した。

 「冤罪だ!俺じゃない」

 警察の男は言った。

 「この女性も警察官です」

 二人の男はうなだれた。

 そして次の駅で連行されて行った。

 

 彼女は囮捜査官だった。

 でもなぜあからさまに囮とわかるような女性に痴漢をしてしまったのか。

 彼女が垢ぬけない雰囲気で地方から出てきたと判断されたというのもあるが、服装だけではなく無警戒でその車両に乗ったことが理由になる。

 新政権になってから痴漢対策が徹底された。

 ロシア製の最新セキュリティシステムを導入し、ホームと電車をシステムと連携させることにした。

 具体的には防犯カメラを地上の入り口からホーム、車両の中までを漏れなく監視させる。

 そして不審者を感知すると自動で追跡をする。

 それは運行中全てにおよび、対象者が地上に出るまで続く。

 ホームにある警告サインは不審車が乗車している車両を知らせるものである。

 若い女性たちはそれを確認してから乗れば安心していられる。

 同じ車両に男性がいても彼らは安全無害のお墨付きが与えられている。

 むしろ彼氏候補として探しにわざわざ利用する女性もいるそうだ。

 不審者はあくまでも未遂なので、犯行に及ばない限りは一切接触はしない。

 しかし、今日のように囮の女性が被害に遭った場合に備えて男性捜査官が周囲で待機している。

 この痴漢防止システムは府民や隣県などには周知しているので、女性も痴漢も知っている。

 しかし囮捜査はめったにないし、噂になっているから痴漢も減少している。

 それでも性犯罪は男性が生まれる限りは無くならない。

 だから囮の可能性を知りながらでも犯行に及ぶのが男という生物の特徴でもある。

 危険を求めるスリル、ギリギリの誘惑などだが、それらは依存症と同じだから衝動が抑えられない。

 だから再犯を繰り返す。

 男は女性に比べそういった危険なことが分かっていることの依存症になりやすい。

 女性の場合は買い物などの消費が多いが、男は逆にその傾向は少ない。


 そもそも痴漢という言葉自体が女性を見下している。

 新政権は強硬な手段であっても痴漢という犯罪だけではなく言葉も消したいと考えている。

 つまり「痴漢」は禁止用語、もしくは古語とするのが最終目的になる。

 それは女性が加害者であっても、同姓に対しても同じである。


 不審者追跡は地上に出ても各所のカメラで追跡されている。

 最終的には自宅まで特定されるが、個人情報なので厳重な秘密となっている。

 もし何かの事件が発生した時の捜査資料としてアクセスできるだけだが、許可をするのは裁判所ではなく人間省の下部組織だけとなっている。

 裁判所は決して市民の側でないことへの警戒である。

 つまり警察と検察、弁護士から市民の権利を守るために新政権が定めたことだ。

 正義執行の名目で組織の利益を優先してきた旧政権を知っていれば当然の改正になる。


 痴漢の容疑者はすみやかに裁判にかけられトウキョウに移送されることになる。

 新政権は痴漢をはじめとする性犯罪には特例の裁判で対応することにした。

 まず被害者は現場でマイナンバーのみを確認して解放する。

 特別にケアが必要なら相応の対応をする。

 裁判は容疑者のみで開かれ、映像などの確実な証拠で事務的に進行される。 

 弁護士は付くが書類の代行代筆にしかならない。

 路上や深夜でも証拠となる映像が得られるシステムのおかげで早くなった。

 室内でもドライブレコーダーのように隠しカメラを自分で付ける人も多くなっている。

 もちろん認知していないカメラが隠されてもわかる機器が普及したことも要因にある。

 性犯罪は盗撮も多くを占めているからだ。

 盗撮犯も不審者追跡システムで行動が確認されているので証拠が得られやすくなっている。


 トウキョウに移送された性犯罪者は他の犯罪者と同じように足環を付けるがそれだけじゃなく耳の後ろにGPSチップを植え込み生涯監視され続けることになる。

 永久磁石で作動するが、これは最近できた高性能タイプなので脳神経にも作用させることができるので、性欲抑制の効果が得られる優れものになる。 

 骨に窪みを作り埋め込むタイプなので自分では無理なのはもちろんだが、医療関係者でも専用の工具が無ければ外せない仕組みになっている。

 無理に引き抜くと神経を傷つけ廃人になる可能性があることは告知してあるので、無茶をしないこと祈る。

 そして収容中は薬物の投与によって性的欲求を抑える処置を施してから日本社会に戻される。


 そして凶悪性犯罪、強姦未遂も含まれる暴力的な罪を犯せば去勢を含む処置を施してから移送する。

 睾丸と前立腺の除去とトウキョウエリアに居る女性囚人に一メートル以内に近づいたら爆発、もしくは女性の側で相手が接近することを警告するアラームと起爆スイッチを押せる機能を追加する。

 つまり生涯において女性とは近づくことも触れることもできない生活を送ることになる。

 暴力性のある性犯罪は無期懲役相当かそれ以上の罪となったのである。

 しかし必罰が抑止効果になることは期待していない。

 単純に応報の罰を与えるだけである。ある意味復讐と言ってもいい。

 これで被害女性が負い目など背負うのでなく、社会のために犯罪者を消した誇りを持って生きて行って欲しい。

 ちなみに刑法の改正により性犯罪の被害適用はゼロ歳から高齢者まで、加害者は六歳以上から適用される。

 同時に少年法の改正で十五歳までは他の犯罪と同じ処遇にするが、それ以上の年齢になれば成人と同じ刑罰が適用される。


 このような大人を作らないためにジェンダーと性教育の周知が徹底されていった。

 困惑していたのはそのような教育を受けず、男性目線の常識で生きてきた大人達であった。

 表向きは理解している風を装ってはいるが、長年の慣習が身に付いた男の中には無意識のうちに女性蔑視やセクハラをしてしまう。

 昔であったら周囲の男達がかばうなり女性側がおとなしくしていたはずだが、新政権のジェンダー政策の徹底によって、周囲の男達が積極的に糾弾するなど女性の味方をアピールしだした。

 それはセクハラ被害を直通で訴えることができる政府の窓口が開設されたことも大きなことだった。

 そこは女性が管轄し受託、調査ができる独立機関になる。

 勤務先での処遇の改善、加害者の処罰を指示ができて、犯罪に該当するのなら裁判までサポートすることになる。


 聞いた話だと、明治期に外国人が多くなったことで立小便と混浴、行水が恥ずかしいことになったがそれでも無くなることはなく、ようやくバブル期になりグローバル化で街中の立小便が無くなったという。

 これらの政策でジェンダーの常識は今の子供たちが大人になり今の大人が消えた頃には正常になると予想された。



 街中で会話をしている女性達のなかで、

 「上司が左遷させられたようよ」

 「転属になったらしい」

 「最近は嫌味を言わなくなったわ」

 そんな話ばかりが多くなった。

 








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