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息抜き

 大阪のモジャママがやっているバーに出入りしていた東京の女装家の二人は人生党の候補者名簿に連なっていたことで無事に当選し代議士となった。

 しかも二人とも省は異なるが政務官の一人として内閣に入ることにもなった。

 巨体の舞子デンジャー(通称マイコ)は人間省へ、長身インテリのヨッツマンダリン(通称ヨッツ)は総合省へと就任した。

 大臣の女性達と官僚の男性達とのクッション材として期待されている。


 人間省は国民の健康と労働など人生をまとめて面倒みる役所なのであらゆるタイプの人間を理解できないと偏った政策か漏れが生じる恐れがある。

 そこでマイコの経験が生かされる事案をばっさり片づける仕事を任されている。

 役人が判断に迷った細かい懸案を会議や稟議に上げる前に相談することによって無駄な時間を省く狙いもある。

 つまりマイコはある意味省のなかで一番忙しい人間かもしれなかった。

 本人は他の業務内容など知るよしもないので、目の前のことだけに精一杯こなすだけ。

 生来の責任感の強さと巨体ゆえの親分肌で周囲から慕われ、仕事はうまく回っていった。

 本人は学歴も無いカメラマン風情と思っているふしがあるのか、高学歴で専門知識のある役人に負けまいと思っているのかもしれない。

 しかし、昔の官僚ならいざ知らず、新政権では新しく採用しなおした職員で組織されている。

 経験者もいるが、あらゆる関係職種の人間を学歴とかを重視して採用したわけでなかったので、むしろ庶民の考えが理解できていた。

 職員たちは知識や経験より、自分たちの話を公正に聞いて皆が納得できる判断、もしくはフォローを欠かさないボスのマイコを慕っているのは当然のことであった。  

 ただし、それがマイコの仕事量を増やしていることには気が付いていなかった。



 ヨッツの総合省は国内の産業、文化などを全て管轄する役所になる。

 ヨッツ自身は有名私大を卒業した帰国子女であったので、知識と頭の回転、交渉力に長けていた。

 語学力も英語の他にフランス語もできたので適任といっていい人事になった。

 長身のハリウッド女優並みのスタイルと言動で、マイコとは違ったタイプのリーダーとして重用されていた。

 業務はマイコと基本変わらないが、グローバルなこともあり多様な会議に参加したり、資料作成に意見を求められることが多かった。

 時間が許す限り手伝ってはいたが、あまりにも頼ってきていることにある時切れてしまった。

 「あんたら、自分の仕事が楽になるからとか思ってるんじゃないよね!あたしは便利屋じゃないんだ!自分でなんとかやってくじけそうな時だけ来な!その代わり一度の相談で倍の仕事を任せるかそのつもりでやんな!」

 職員たちはついつい甘えてしまったことに反省したが、そう言ってくれるボスにますます信頼を抱き、少なくはなったが相談事は無くなることはなかった。


 そんな二人が休日に落ち合う場所がある。

 大阪のモジャがやっているバーに最低月二回は飲みに行っている。

 たまに大竹達がいることもある。たぶんスケジュールを合わせているのかもしれない。

 今日も大竹とピーターが先客として飲んでいた。

 扉を開けて入ったマイコは二人を見つけて言う。


 「あんたらは暇なのかい?いっつも早い時間に来てるじゃないの。

 あたしらはやっとのことで来ているってのにさ」


 「そうよホントなら毎週でも来たいところなのにさ」


 とヨッツが言葉を被せ気味に言う。


 「いやいや、暇じゃないですよ。たまたま時間が一緒というだけでそう思われちゃ心外だな」


 大竹は反論するが、もちろん本気で言っているわけじゃない。

 マイコ達はカウンターに座り、ママのモジャに注文をする。

 キープボトルのウイスキーを薄めにした水割りを最初の一杯にするのが定番になっている。

 一口飲んで喉を潤すと隣の大竹に話しかける。


 「暇じゃないっていうけど、あんたはいつ見ても暇そうにしか見えないんだけど、あたしの目だけがおかしいのかしらね」


 大竹はグラスを置いて溜息を吐いた。


 「なんだろ、僕はマイコさんだけじゃなくても言われることが多いんですよね。なんでかな?」


 「そりゃあんた、いっつもだらしない雰囲気だからよ!」


 モジャママがすかさず言う。


 「「「そうだ、そうだ」」」と皆が言う。ピーターまでもしれっと交ざっている。

 大竹は「いやいや」とすぐさま反論をした。


 「 だらしないんじゃなくてラフだと言ってくださいよ。だいたい僕はスーツは一着しか持っていないんですよ。それにいつもはトウキョウだからすぐ汚れるからしょうがないんです!!」


 少しいじけた調子で言って同情を誘うとしているが、この二人には通用しない。


 「スーツを着ればいいと言うんじゃないわよ、あんたそのシャツ、アイロンかけていないでしょう?

 細かいシワだらけで乾燥機から出してそのまま着ていますと言っているようなもんよ!」


 「あ、わかります?」


 「わかるにきまっているでしょう。あんたトウキョウでは誰も世話をしてくれる人はいないのかい?」


 大竹は困った顔をして答える。


 「僕は独身ですし、スタッフはいますけど別にメイドとか執事とかはいませんから。自分のことは自分でやるというのがルールになってますからね。

 それに服はたくさんあってもオシャレするようなところには行きませんしね」


 「はあー、あんたは国の重要人物なんでしょう?そんなことでいいの?」


 マイコはあきれた口調で言う。


 「僕は大臣でもなんでもないですから、それに連合国で相手をするのは友人たちか気の知れた人達ばかりですからね。移動も多いし大変なんですよ。

 そうそう、僕はけっして暇じゃないんですよ。なんでそうなるかな」


 マイコ達は毎回こんな感じで大竹をからかってストレスを解消するのが定番になっている。

 大竹はそれを知ってか知らずかいつもこのルーティンに付き合っている。

 ピーターはそれが大竹の良いところだといつも思っている。

 この人と共に行動していると楽しくもあり勉強になるので、しばらくはこの仕事を続けたいと思う最大の理由になっていた。





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