解体作業
新政府ができたといえ現在の日本は崩壊してから日が浅い。
東京の土地は資産価値が無くなり、都民は預貯金のみの着の身着のままで脱出し、企業や個人事業に至っては生活の基盤がなくなった。
噴火で忘れ去られているが東海、四国沿岸での地震被害の復興も途上中だ。
新政府は移住した先での仕事の斡旋はもちろん給付金を十分に保障した。
ただし以前のような生活には戻れないのは皆が承知していた。
元都民と企業には今後五年は全ての税金を免除した。
そして店の再建などの資金は無利子で一千万円まで用意した。
最初の段階での計画なので随時修正は行っていく。
東京に本社を構えていた大企業は株価は下がってはいるが回復は早くなると考えている。
海外の投資家が今後の日本に期待してくれるからだ。すでに動きはある。
ただし回復してもらいたくない企業がいくつかある。
その代表的なのが広告代理店といわれている組織になる。
彼らは金の力と動員力であらゆるメディアから大企業、最後は政治まで影響力をもっていた。
政治に関しては表も裏でもフィクサーとして国を操っていた。
政治家も人間だ、金と名誉のためなら国民でさえ売る。
それらを仕掛けて自社の利益だけ追求してきた。
犠牲になってきたのは国民だけでなく自社の社員まで使い捨てのように利用していた。
組織上層部かその同期のプランナーのため、取引あるメディアや大企業のためならに国民の生活や命はコピー用紙並みの価値しかない。
新しい日本にはそのような輩企業は全く必要ない。
広告業が必要なのは間違いない、しかし近年は紙媒体テレビなどが急落してネット主体になってきた。ゆえに代理店などというのは公認会計士のように必要な人だけが依頼するくらいがちょうどいい。
つまり個人でも情報が発信できる環境が整っている、しかも世界に向けてリアルタイムに。
収益減になり古いビジネスモデルが崩壊してきたことによって本来の業務から離れて政治に近づいて生き残りを図ろうとした。
それが日本をダメにした。
企業の理念というのは大きな利益を出し雇用を生み、税金を払い国力を上げるためのものであったはずが、全て真逆の方向を向いた。
法人税が下がったのも彼らが仕掛けたことは明白になっている。
派遣労働を増やし不安定な雇用を生みだしたことも必罰に値する。
タイミングよく国民的ドラマでは株式会社の父の話をやっているが、現在の日本ではその理念が欠片も残らないまま崩壊してしまった。
しかし崩壊したことによって再び最初からやり直せるチャンスが生まれた。
佐倉一生は京都で日本を代表する企業の幹部達を一つの部屋に集めてをいた。
講習会を開くような部屋に二人掛けのテーブルのそれぞれの席には自動車メーカー、放送局、新聞社、人材派遣業、教育産業など過去の日本を操ってきた面々が座っていた。
日本の各業界トップの社長達がこれほど揃うことも珍しい、ましてや経団連の会合でなく総理に呼ばれて、しかも座っている席は普段自分たちが社員が座るようなパイプ椅子という待遇。
全員が佐倉より年上どころか親の世代に当たるような男性ばかり。
佐倉は前方中央のテーブルの真ん中に、両隣には大海と大池が座っている。入り口近くにはスーツ姿の連合国関係者が数人立っている。
最初に大海が立ち上がり、前方の出席者に向かって話し出す
「お忙しいところをお集まりいただきまして有難うございます。
これより総理より皆様にお願いしたいことがあり、このような場所をもうけさせていただきました。
本来ですともう少し皆様にふさわしい会場を用意すべきなんでしょうが、なかなか予約が取れませんで急遽ですが、私たちがいつも使っている党本部の会議室になりましたことをお詫び申し上げます。
それでは佐倉総理、よろしくお願いします」
大海が座ったことを確認し佐倉は話し出した。
「皆様もお忙しいことですから最初から結論と言いますか率直にお願いを申し上げます。
ずばり、会社を解体していただきたい」
佐倉は前に座って自分を凝視している面々それぞれに漏れなく視線を合わせて断言した。
全員の目が点となっていることを確認して話を続けた。
「寝耳に水という顔をしていますが、まさか自分たちに改革の刃が降り下ろされると思ってもいなかったというところでしょうか。
頭のいい皆さんでしたら想定していたのではないかと考えていましたが過大だったということでしょうか。
まあ、それも納得できますかね。日本のトップ企業で最重要産業を担っている自負があるでしょうから。
でもその立場だからこその解体なんですけどね。
それとも長い間に旧政権のぬるま湯、もしくは餌付けばかりの業務で世間の空気を読む能力が無くなってしまったのか。
無くなったから自社の利益優先で国民から搾取できたんでしょうから。
ご存じのように我々人生党は古い常識にすがってばかりで、その常識に無理にはめていくようなことは認めない公約を掲げて与党になりました。
それも圧倒的に。
ですから不可能、もしくはタブーにも手を付けることに躊躇せず実行できるようになりました。
選挙前の公約の中には明記しませんでしたが、大勝利したときのための裏公約というものもあったのです。
今回のお願いはその中の一つになります。
こんなこと選挙前に知られたら、皆さんは必至で妨害してきたでしょうからね。
それこそ命懸けでどんな汚い手を使っても」
目の前の面々は何かを言いたげだったが、佐倉の話が続くようだったので飲み込んだ。
「さて具体的に何をしてもらうということですが、別に廃業倒産してくれというわけではありません。従業員が路頭に迷うだけで何も良い結果になりませんから。
先ほど言ったように解体ですから、分社化してもらいます。連結決算の対象ではなく、それぞれが独立決算の企業に。
そして各本社を全国に散らして登記してもらいます。これは自治体の税収のためです。
ここで大事なのが各社長には四十歳未満の女性にしてもらいます。それが無理なら役員の半数以上を女性。それも無理ならその組織は認めることはできません。
認めないというのは独裁国家のようで誤解されそうですから言葉を変えますか。
株式を公開しても連合国が全て買い占めて役員を取り替えます。
そうなりますとここに集まっている皆さんのほとんどは引退することになるかもしれませんね。
もちろん決めるのは新しい役員会ですから、我々がどうこうする権限はありません。
もし皆さんが必要とされれいる、もしくは若い社員に愛されているのであれば、役員でなくても何か特別な肩書で仕事が続けられるかもしれません。
今までの行いが評価されるということになりますが多分大丈夫でしょう。
少なくともトップにまで上り詰めるだけの実力があったのですから。
皆さまには早速戻っていただいて、それぞれの都合に合わせての計画書を提出してもらいます。
期日は一月後、そこから考査に一月かけて実行は更に一月後にします。
もちろん公開している株式はそれまで取引停止にしますので、下手な工作は無意味ですのでご注意下さい。
それと、この提案はそもそもが連合国からの希望を日本の実情に合わせて人生党が皆様の利になるように考えたものになります。
最初の案だと、全ての企業が連合国の企業に買収されるはずでした。みなさん日本よりお金を持っていますし良い買い物ができると考えていましたから。
でもさすがにそうなると日本独自の技術や人材が育たなくなりますから拒否しました。
どうです、いい仕事したと思いませんか。僕ではなく大海さんやお仲間の方々の力ですが。
さて大体は説明できたと思いますので」
大海が立ち上がり話す。
「ここから質問を受け付けます、手を挙げてください」
すると一番前に座っていた白髪の高齢者が手を挙げて叫んだ。
「日本のためにやってきた我々にこんなことをして!おまえらは頭がおかしいんじゃないのか!
組織を小さくしてしまうと競争力が弱まることも知らんのか!素人のバカな若者には理解できんだろうが、我々がいなくなったら日本は潰れるしかないということがわからんのか!」
その高齢者は立ち上がって叫んでいたが、疲れたのか座り込んだ。
それを見た大海が冷静に答える」。
「ええとですね、まず日本はすでに潰れていますから、これ以上はないのでご安心を。
それに競争力のことでしたら、組織が小さく資金力が乏しく人材も足りないからのことを言っておられるとおもいますが、それは想定内のことですから。
小さくても健全な組織であれば優秀な人材が集まりすぐに大きくなることでしょう。
それに連合国が有望で利用価値のあるところには資金を出しますから問題ありません。
なんのためにこういうことをするか理解していないようですからもう一度はっきり言葉を変えてご説明しますが、
あなたたち古い大人はこれからは必要ないばかりか邪魔な存在なのです。
人生党が圧倒的に支持されたのは旧政権が失政を繰り返したわけですが、支持してきたのは利権目当ての企業や地方の事業者、それに飴と鞭で口を塞いだ農家の人達。
確か災害前のことでしたね、贈賄で失職した補選での選挙の投票率がありえないほど低かったのにもかかわらず野党が勝ちました。普通は投票率が低かったら与党候補者の組織票がものを言うのではないでしょうか。
すでにとっくの昔に結論は出ていたのです。災害と侵攻が後押ししてくれただけなので。
そうですね、遅ければ皆さんが亡くなった後になることでしょうから知らないまま安らかに終えることができず残念ですね。それは同情します」
「ふざけたことを言うな!皆さんもそれを納得してしていない」
そう言って後ろを振り返った。
しかし全員がうつむいて無言のままだった。
「おい!なんで何も言わない?」
「会長、それは無理です。こうなることは皆予想していました。確認をしたわけじゃないですけど、
最初からこのような場所に呼ばれただけで歓待されていないことは明白です。
お願いと言っていますが実質は命令ですから。逆らうと会社の存在が消えてしまいます。
消えるということは我々が積み上げたものを最後に奪われるということです。
それなら相手側と一緒にいたほうがいいに決まっています、たとえ小さくなったとしてもです。
まだ生きてきた証が残るのですから」
と他社ではあるが、幾つか年の若い代表者が言った。
「みんなも同じ考えなのか?」
「そうです」「そうですね」「同意します」・・・・
あちこちで声が上がった。
「そうか、わかった・・」
白髪の会長は椅子に座りこみ、目の前の佐倉を睨んだ。
佐倉は視線を外すことなく無言で対峙した。
大海がそれを見て言う。
「それではこれにて終わります。お疲れさまでした」
そして座っていた佐倉と大池は立ちあがり部屋を出て行った。
残された企業の代表者はしばらく動こうとしなかった。
その中の一人が独り言のように口を開く。
「うちは人生党に従いますよ。実は奥さんと娘が大ファンでね、サインをもらってきてくれと頼まれているから。それじゃあ」
静かにそれでいて急いで部屋を出て行った。
「それなら私も」「一緒に行きましょう」「私も頼まれていたんです」
残りの人々が我先に続いて部屋を出て行った。
サインとは方便で早く部屋から去りたいだけかもしれない。
一人残った白髪の会長は両手のこぶしを握りテーブルの上に置いてじっと座ったままだった。
「大海さんこれでよかったですか」
佐倉は帰り道に尋ねる。
「完璧です、最後は良く頑張りましたね。あれだけの恫喝は慣れていないでしょうに」
佐倉は笑って答える。
「現実にはないですけど、演技ではなんどか経験ありますから大丈夫でしたね」
「なるほど納得です」
「それより、この場に広告代理店の皆さんがいなかったようですが」
「ええそうですね、あえて呼びませんでした。
彼らと代理店は癒着といっていい関係です、すぐにでも連絡が入るでしょう。
代理店がどういう動きをするか確認をしてから対応策を考えます」
「そんな悠長なことでいいんですか」
「大丈夫とは言いませんが、広告代理店というのは世界にもつながっている伏魔殿のような組織です。
クリエーターを始めあらゆる種類の人間が巣くっています。簡単には解体できない組織です。
下手を打つとこちらが危険になりかねないですから慎重に進めます」
「そうですか、ぼくも芸能界の人間ですから代理店の恐ろしさは身に染みていますが、大海さんも詳しいですね」
「実は大学時代の仲間に業界の人間が多くいるんです。いろいろ勉強しましたよ、もちろん僕だけじゃなく大竹さんも連合国も」
「なるほど、広告代理店をを壊してこその公約実現ですからがんばりますか」
ひと仕事終えた二人は次の予定に向かっていった。




