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ピーター

 大竹のボディーガード兼通訳のピーター・クリプトン、アイルランド出身の彼がどうしてアメリカ軍の軍属となって働いているのか。


 ピーターは北アイルランドとの国境近くで生まれ育った。

 幼いころから日本のアニメと武道に興味を惹かれていた。

 最初は日本の少年がするように真似事で満足していたが、近所に地元民が開いた空手と合気道の道場があったことで親に頼み込み通うことになった。

 道場ではあらゆる場所に日本語が書かれていた。

 漢字という複雑難解な言葉だったが、師範が丁寧に意味を教えてくれた。

 稽古で使っている言葉と同じ漢字を書いてくれたので家ではそれを何度も練習した。

 師範は「かな」という文字を覚えたほうが日本語が読めるようになると教えてくれた。

 アルファベットのような文字だったが、それを固めたものが漢字だということを知って驚いた。

 アルファベットだと難しい単語は長くなって覚えるのが大変だが、「かな」は話すだけだけならそのままで通じるということ。

 漢字を使えば一つの文字でたくさんの「かな」文字の意味を表現できるから便利でかっこいいことを知った。

 「かな」を覚えたら日本人が話していることがわかるようになった。次は漢字を覚えようと思った。

 日本アニメを観ていると街角の風景に漢字が多く描かれている。商店なら予測はつくが他はさっぱりわからない。しかも異なった漢字ばかりで共通性を見つけられなかった。

 調べてみると数千種以上の漢字が使われていて、小学生でも千以上を覚えるそうだ。

 つまり同じ子供なんだから自分でもできると思った。

 それからは漢字を探しては書き写し、まとめたノートを持って道場に行っては師範に質問した。

 だけど師範でさえ知らない漢字が多くなり、意味の知らない漢字のストックばかり増え続けた。

 ピーターは日本人を探した。

 だけど簡単にはいかなかった。

 アジア人を見かけたら話しかけることを繰り返したが、中国人か韓国人。

 このあたりは日本人観光客はほとんど立ち寄らない街だ。

 困ったピーターは両親に首都のダブリンまで連れて行ってくれとお願いした。

 車か列車になるが、どちらにせよ遠い場所になる。

 夏休みにロンドンまでの家族旅行をするからそれでいいかと訊かれたので「それでいい」と答えた。

 すぐにでも行きたかったが仕方ない。それにロンドンのほうが日本人は多くいるだろうしピーターは行ったことがなかった。

 夏休みまではまだ時間があるので、できるだけたくさんの漢字を探してはノートに書き写すことにした。

 ロンドンでは至る所に日本人がいた。家族での観光先には必ずグループでいた。

 しかもほとんどが女性か男女半々だったので、子供が拙い日本語で話しかけたことが珍しかったのかとても親切に教えてくれた。

 そのうちの一人の女性がピーターに一冊の本を渡した。

 「私たちはもう帰るから、この本はあなたにプレゼントするわ、日本語と英語が書かれた旅の辞書だから」と言った。

 街の本屋や図書館に無かった日本語の辞書を手に入れたことにより勉強がはかどった。

 その本の内容は一年ほどでマスターした。

 つまり日本人が旅行に行っても困らないレベルの言葉を覚えたということになる。

 高校生になると一人でダブリンに行き、日本語の資料を集め独学を続けた。

 大学へは行かず日本語が役に立つ仕事を選んでフランスに渡った。

 フランスはアイルランド以上に日本語が簡単に手に入った。

 日本語の漫画やアニメのショップがどこの都市にもあった。

 日本語を話せるフランス人も多かった。

 フランス語より日本語で話す機会が多くなり、スラングもたくさん覚えた。

 仕事で日本人と話すときは丁寧な言葉を使うのが基本だが、たまに覚えたばかりの日本語を使うと喜ばれた。

 フランスは武道も盛んで特に柔道はユーロで一番のようだ。

 これまで以上に稽古に励み上達した。

 身も心も日本人になったみたいな感じがしたが未だに日本には行ったことが無かった。

 一度は行って勉強し、日本を極めようと思った。

 二年間節約をして日本語学校の学費を貯めた。

 そして夢にまで見た、いやアニメで観た日本に着いた。

 日本語学校に通いながらハンバーガ屋と牛丼屋でアルバイトをしながら、大学に入るための勉強もした。

 大学の学費もかなりの大金なので節約を続けた。

 部屋は日本人もいるシェアハウスで、バイトが休みの時はハウスで英語の塾を開いたりして資金を貯めた。

 日本語能力の一級を取ったこともあり、大学はすんなり合格した。

 学部は文学部だったが他の講義もこっそり受けていた。

 だから一日中どこかの講義を受けている毎日だった。

 もちろん夜はアルバイトを続けていた。

 四年生になったときに新型感染症のパンデミックが世界で起きた。

 自粛でアルバイトのシフトが無くなり収入が減った。

 日本はロックダウンをすることが無く、自粛を繰り返して終息させるつもりのようだが一向に収まらない。収まらないからアルバイトができない。

 日本人には給付金が入ったようだが留学生には無い。

 帰国する友人が多かったが残ることにした。

 幸いにもシェハウスのオーナーが料金を免除してくれたり食事も賄ってくれるという。

 たまに英会話スクールで教えることでどうにか生活できるようになった。

 学費が払えないので休学にした。

 東京オリンピックが開催されるというが個人的には厳しいと感じていて成り行きを傍観していた矢先に地震と噴火に遭った。

 外国人が富士山の噴火という日本人でさえ信じられないようなことに遭遇したことは幸運なのだろうか、いや最悪のことだった。

 外には出られず停電になり電話もつながらない。

 雨が降り続くと灰が泥になり流れる。

 止んでもぬかるんで歩けない。

 ようやく固まったが地上が高くなっていた。

 車は半分ほど埋まりコンビニもどこも店は開いてなかった。

 ハウスには備蓄の食糧と水が十分にあったので困りはしなかったが、いつまでこの状態が続くのか不安だった。

 災害救助は機能していないらしく、食料、水などの配布の情報は全く来なかった。

 近所の人伝てによると病院で地下水の配布と発電機でのスマホの充電ができると知った。

 オーナーと二人で向かいピーターが水の列にオーナーが充電に並んだ。

 近くに自衛隊の人たちが何人か活動をしていた。

 ようやく救援が来たのかと安堵した。

 一人の自衛隊員に話しかけられた

 「すみません、日本語わかりますか」

 「わかりますよ、何か御用ですか」

 「実は通訳を探していまして、英語は話せますか」

 「大丈夫ですよ、フランス語も少しなら話せます」

 「そうですか実はアメリカ軍が大隊を東京に置いているんですが、日本側との折衝と民間人との対話に全く足りていないんです。できればご協力お願いしたいと思いまして」

 「なるほどお困りですね、でもボランティアではできませんよ。そこまでの余裕は全くないですから」

 「それは当然です、臨時でアメリカ軍の所属になっていただければ正規の報酬は出ますし、短期のアルバイトを希望するのなら相応の日当をお支払いできます」

 「いいでしょう、やります」

 「助かりました、そうですね一時間後にここに再び来ていただければアメリカ軍に紹介できますが」

 「わかりました、じゃあ水を置いてから来ますのでよろしくお願いします」

 ピーターはオーナーに伝え先に戻り準備を整えて戻った。

 先ほどの自衛隊員がアメリカ軍兵士を連れていた。

 兵士がピーターを見つけて近づいてきた。

 「僕はアーミーの軍曹でマイクと言う、よろしく」

 握手を求めてきたので、

 「よろしくピーターといいます。アイルランド出身です」

 「そうなのか、それはうれしい。僕のママの祖祖父はアイルランド生まれなんだよ、是非色々教えてくれ」

 ピーターは特に感慨はなかったが兵士は喜んでいるようで良かったと思った。

 これで学費を稼げて復学できそうだし、オーナーにもお礼ができる。

 翌日から業務が始まった。

 ピーターは主に民間人との対話が多く、だいたいが退去を速やかにやってもらうためにお願いをすることばかりだった。

 素直に話を聞いてくれる人は稀で、ほとんどの人は補償金だとか戻ってこれるのはいつだとか答えに困ることばかり聞いてくる。

 それは日本政府に訊いてください、アメリカ軍ではわかりませんと答えていたが、正直なところ戻っては来られないだろう。

 そのうちに日本は周辺国に侵略されてしまった。

 アメリカ軍は仲介役なのか仲間なのかよくわからないが侵略してきた国々戦闘をするわけでもなく速やかに日本は占領された。 

 北海道と九州は譲渡され東京はアメリカ軍が管理する地域になった。

 将来的には関東圏一帯を管理するようだ。

 支配というわけでなく、日本と共同で崩壊した東京をどうにかしようとすることらしい。

 皇居を中心基地にして行動することになり、ピーターもそこに住み活動することになった。

 ハウスからでは通えないからだが、すごいことになったと思った。

 時間があると敷地内で運動不足解消のために空手の型をやったりしていたら、アメリカ軍の目に留まり兵士と一緒にトレーニングをするようになった。

 そこでは武道を教えたりしたが、銃器の使い方を覚えたりもした。

 まるで通訳ではなく兵士のような生活になってきた。

 しばらくそんな生活をしているとある日本人の専属として通訳兼ボディーガードを依頼された。

 日本人は政府の要人らしいが、初対面の時はとてもラフな格好をしていた。

 ほとんど日本人がスーツ姿のなか浮いた存在だった。

 「オオタケサン」という親と同じくらいの年齢らしいが若く見える。

 三沢ベースで会ってすぐ東京にもどった。

 オオタケサンは自分がどういう状況か理解していないようだったが、ピーター自身も良く分かっていないので説明ができなかった。 

 同乗している「リさん」が日本語で話している。

 東京はトウキョウベースとなりオオタケサンは忙しく飛び回っている。

 ピーターは常に行動を共にしているので忙しさは同じだ。

 たまにオオタケサンのプライベートで旅行のようなことも少なくなく、彼の友人家族とも親しくなれた。

 契約では春の復学までになっているが、もう少し延長してもいいかなと最近思い始めていたピーターであった。

 



 


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