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必然の再会

 ここはトウキョウの外縁にある元耕作地だったところ。

 確かこの辺に脱出しないで作業をしていた男性がいたはずだ。

 大竹はその時の記憶を頼りに歩いている。

 お供はピーターと警護のアメリカ軍兵士二人が付き添っている。

 兵士は作戦行動時並みの装備でいる。

 マシンガンと弾倉を装着しているが、その他の装備は外して動きやすくしている。


 目星を付けた一軒の住宅に入ってみる。


 「こんにちは、どなたかいらしゃいますか、こんにちはーー・・・」


 聞こえていないのか不在なのか、反応も気配も感じられない。

 玄関の引き戸に手を掛けてみたら動いた。鍵はかかっていないようだ。

 戸締りをしっかりしていても退去していたなら意味はないが、残っていたならいる可能性がある。

 離れたところで作業をしているのだろうか。

 住宅の裏にまわってみることにした。

 灰に覆われた土地が広がっていた。何も作物は植わっていない。

 昔は何を育てていたんだろうか、それによっては計画が変わる可能性がある。

 

 「オイ!お前ら!!ここで何をやっている!!」


 後ろから大声で怒鳴られた。

 振り返ると作業用の紺のツナギを着て頭に青いキャップをかぶった男性が立っていた。

 両手には大きな袋を下げている。

 男性はその袋を脇に寄せて下ろしこちらに向かってきた。


 「なんだ勝手に人の家に入ってきやがって何の用だ!」


 ムッとした顔で睨みながら叫んだ。


 大竹は笑顔をつくり挨拶をした。


 「こんにちはお久しぶりです」


 「はあ何がお久しぶりだ?俺はあんたなんか知らんが。怪しい奴だ!」


 「いや、以前一度ここを通った時にお話をさせていただきました。

 まあ短い時間でしたから覚えていないかもしれないでしょうが」


 男性は少し考えて言った。


 「それはいつくらい話だ、俺はずっと誰とも会っていないし話もしていない」


 「時期は噴火の後ですね、当時は都民がこの辺りを通って脱出していまして、僕もその中の一人でした。仲間は他に中年女性一人、女子高生一人と小学生男子がいたんですけど」


 男性は視線を大竹に向けて止まった。


 「ああ、思い出した。あれねあの時か。そうかそうか、それであんたは何しに来たんだい、出て行ったんじゃないのかい」


 「まあ、出て行ったことは出て行ったんですけど、話せば長くなりそうなのでよろしいでしょうか」


 「ああ、すまんすまん。汚い家だが入ってくれ。掃除も大してしていないから散らかっているけどいいかね」


 「いえいえ、突然来たのですから。むしろ覚えてくださっていてありがとうございます」


 大竹たちは男性の後ろを追って家の中に入った。

 男性は散らかっていると言っていたが整理整頓されている。多少は埃っぽいが、周辺には灰がたっぷり積もっているのだから仕方ない。その割にはきれいに掃除されているほうだ。

 皇居のベースも常に灰の埃が建物内に入って来る。掃除しても最初のほうが元のままのように汚れてしまうくらいだ。

 男性に座敷へ通され座布団をすすめられた。


 「すまんね、お茶とかは出せんのよ」


 「いえいえお気遣いなく」


 大竹の言葉に男性は「スマン」と言って大竹の向かい側に座る。


 「ところで用件を聞きましょうか」


 「実はですね、僕らは政府の者なんです。正確には連合国に駐在している役所のようなものでしょうか。僕はこういう者です」


 大竹は名刺を男性の前に差し出す。

 男性はテーブルの上に置かれた名刺を見つめる。


 「なるほどそうですか、それで国の人がどうして俺の所へ来たんですか。

 しかもこんな荒れ果ててどうしようもない場所に住んでいるのに、わざわざ来るとは」


 「ええそうですね、そう思われるの当然です。はっきり言えばタマタマなんです。

 僕が知っているトウキョウ近郊の農業関係者はこちらだけだったものですから。

 しかもほとんどの人はいなくなっています。残っているのは調べた限りお宅だけだと確認もされましたし」


 男性は少し笑顔を浮かべた。


 「そうか、俺一人しかいないか。そうだろうな、こんなバカな奴は俺くらいなもんだよな」


 「ええ、それが僕たちには幸いしたんです。実はトウキョウで新たに農業を始めたいと思っていまして、それに協力してくれる人を探していたんです」


 「ほう?なぜに?」


 「ご存じかどうか、トウキョウは日本中から死刑囚、無期懲役囚などを集めて復興作業をしています。将来的に自給自足の村をいくつか作って、将来的には国のようなものをつくろうと計画しています」


 男性は良く分かっていないような顔をしている。


 「なんだいそれは、初めて聞いた話だ。どういうことだ?」


 やっぱり知らなかったか。すると選挙のことも知らない可能性もあるな。


 「実はですね総選挙が先月にありまして、日本は全く新しい政権が生まれたんです。

 国は刑法から何から何まで、昔の日本が抱えてきた問題を解決しようと試みています。

 その一つが死刑廃止です。

 連合国と協議してトウキョウの利用価値を高めようとしていまして、その一つがいわゆる囚人村をつくることです。

 今はまだ復興途中ですが、耕作可能地域が増えれば囚人たちに農業もやってもらいます。

 そこで教導してくれる人材が必要になるのですが、なにせトウキョウですから全国で探しても募集してもなかなか了承してくれる人も企業も現れませんでした。

 で、僕は思い出したんです。こちらに最適な人物がいるはずだと。

 それがあなたなのです。

 いかがでしょうか、協力していただけないでしょうか。

 お願いします」


 男性は腕を組み下を向いて黙った。そして一分ほど経った後、


 「少し質問をしていいかい?」


 「もちろん、いくらでもどうぞ」


 「それはあれかい?この辺りでやるのか?」


 「将来的にはこの辺りまでは計画していますが、都心から徐々にと計画しています。

 進捗状況によりますが、数年後にはできるかと思われます」


 「俺はここから通うことになるのか?」


 「できれば都内の施設でお願いしたいですね、でもご希望なら通うことも可能ですが往復はヘリコプターになりますがよろしいでしょうか。

 ちなみに都内の住居は皇居内に用意します」


 男性は言葉にならない声を発した。


 「おあ!?ヘリコプターだって?皇居だって?なんだいそれ?」


 「ええ道理状況がほとんど改善されていないの車両は通れないんですよ、僕らもヘリコプターでここまで来たんです。

 皇居とはいっても元皇居ですから。陛下をはじめとする皇族の方々は住んではおられません。

 現在は連合国に接収されていまして、日本側の事務所も置いています。

 ちなみに僕もそこに住んでいますが、食事も美味しいですし、風呂にはいつでも入れますよ」


 「食事に風呂がいつでもか・・・」


 男性は再び考え始めた。


 「金は貰えるんだろうな、収穫物しだいとかじゃないよな?」


 「もちろんです、立場は教導官ですから国家公務員扱いになります。それにトウキョウで業務を行うのですから特別手当が本給並みに出ることでしょう」


 男性は天を仰ぐように顔を上げて数秒後に大竹を見る。


 「わかった、その仕事を受けよう」


 「ありがとうございます、それではどうしますか、通われますか住みますか」


 「皇居に住むよ、こんなこと経験できないからな。それに風呂と食事はありがたい。

 溜めた雨水で体を拭くくらいだったし、食事も山へ採りに行って賄っていたからな。

 噴火後は満足な食事をしていなかったんだ。

 それでも土地を離れるのが忍びなくてね、頑張れるだけ頑張ろうと思っていたんだ。

 もう少しで冬が来るからどうしようか悩んでいたところだ」


 「そうなんですか、じゃあタイミングが良かったんですね。

 ところで、ご家族の方々はどうしていらっしゃるんですか」


 男性は顔を横に向けて答えた。


 「妻と子供たちはここにはいない。子供は大学生だったが仙台の大学に転入している。妻は一緒に付いて行っている。

 めったに連絡は来ないな。俺がここに残ると決断した時に大喧嘩をしてね、なかば離婚のような感じで別れたんだ」


 「そうですか、それでは僕のほうから奥様達に連絡をしてみましょうか」


 「いや、それはいい。あいつらは俺が挫けて仙台まで頼ってくると思っているはずだ。

 黙っていれば俺が頑張ってやっていると思うはずさ。

 むしろで囚人と一緒に働いているほうが心配するかもしれん。

 順調に仕事がはかどって金が貯まった頃に連絡してみるよ」


 「わかりました、そういうことにしますか。

 ところでまだお名前を伺っていなかったので教えていただきませんでしょうか」

 

 「おお、スマン。名刺が無いからなどうしようか」

 

 男性は立ち上がって近くの引き出しからペンを持ってきた。

 近くにあったチラシの裏をテーブルの上に広げて書き始める。


 「これが俺の名前だ、『岩崎 義和』みんなは「よっち」とか「よっっちゃん」と呼ぶよ」


 「さすがに教導官に向かって「よっちゃん」は失礼なので僕は「岩さん」と呼ばせていただきます。

 僕のことは「大竹クン」と呼んでいただけるとうれしいですね」


 「なんか俺のほうが偉そうだな、それでいいのかい?」


 「いや偉い立場になってもらうんですから。それに囚人たちに見下されないように、少なくとも作業中はどこの誰よりも権限をもっているのです」


 「そうか、わかった。よろしくお願いする。ところでどういった作物を作る予定なんだ」


 「そうですね、岩さんに診てもらってから決定しようと思っていたんですが、稲と葉物野菜を中心に始めて連作障害を避けるために色々やってきたいと思っています。

 僕らの中に専門家はいないので調べた限りなんですがどうでしょうか」


 「そうだな悪くはない。だが予定地を視察してからが無難だろうな。

 ちなみに俺は水稲とネギと枝豆を中心にやっていた。

 ハウスで苺とトマトも多少な。とりあえず一通りの知識はある方だと思うよ」


 「それは心強い、もし必要なものがあれば遠慮なく僕かその辺を歩いているアメリカ兵にでも伝えてください」


 「あんたはいいかもしれんが、俺は英語は喋れんからな。あんたを探して言うよ」


 「わかりました、それでいきますか。僕はけっこうトウキョウを離れることが多いのでそこはご了解ください」


 「うん、わかった。よっしゃーー!!頑張っていくか!!」


 岩さんはそう言って立ち上がりその場で四股を踏んだ。

 大竹はそれを見て、この人に出会っていたことは偶然だったけど導きだったのかもしれないと思った。

 

 

 

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