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小学校で

 国会が閉会したので代議士達は全国に散らばっている。

 選挙区があるわけじゃないので各自が決まったところに行っているわけじゃない。

 向かっているのは各自治体の小学校である。

 佐倉一生も皆と同じように向かっている。

 彼ほどの動員力がある人間なら都会のほうが影響力があるだろうが、ここは公正にくじ引きで決まった。ダーツでも良かったが、そううまくバラけると思えない。


 佐倉が今日まわるのは福島県会津若松市を中心とした小学校になる。翌日はさらに周辺をまわる予定になっている。

 いわゆる会津地方全域を担当した。

 この辺は事務所の先輩が小学校時代を過ごしたところらしく、先輩との思い出がよみがえる。

 先輩は佐倉と同じようなグループに所属していたが、途中一人だけ脱退して違う職業に就いている。

 それ以来合っていないので二十年以上も御無沙汰になる。

 今度会う機会があったら今回のことを話そうと考えている。

 久しぶりに会うと話題の選択が難しい、ましてや先輩だ。

 でもこれで楽しく会えることになる。


 小学校に着いた。

 一時間目を集会の時間にしてもらい全生徒を体育館に集まってもらっている。

 佐倉は校長に軽く挨拶を交わす。

 本当なら座って雑談をしてからとかになるのだろうが、そんな時間はない。

 ここが終わったら次の学校に向かわなければならない。

 次の学校は二時間目に予定している。そして三時間目、四時間目と渡り歩き昼休みを挟んで午後も同じようになる。 

 そして夜は市民会館で父母を集めて同じようなことを話す。

 話す内容は、国会で新しくなった教育基本法の趣旨と内容を代議士本人から説明するためだ。

 小学校ではしない質疑応答も予定している。

 忙しい一日になる。


 佐倉は体育館のステージ横で待機をしていた。

 校長先生の短い挨拶の後に壇上に向かう。

 拍手が起きた。歓声も上がっている。特に先生方のほうからが大きい。

 佐倉はマイクの調子を確認し話始める。


 「皆さんおはようございます!」


 生徒が大きな声で応える。


 「「「「「おはようございます」」」」」


 「今日僕が来たのは歌いに来たわけでもなくテレビの番組でもないんです。

 カメラがあるけどみんなの顔は写さないから安心してください。

 僕しか写らないからちょっと緊張しています」


 生徒から少し笑い声が漏れる。


 「だから上手に話せないかもしれないけど突っ込まないでください。もっと噛んでしまいます」


 生徒は声を出して笑う。


 「僕が日本で偉い人になったんだけど知っている人はいるかな?手を挙げてみてくれないかな」


 全員が手を挙げる。


 「うわーすごいな。じゃあ手を下げてください。

 僕は総理大臣になったんだけど、せっかくなんでみんながもっと楽しく学校に行けるようにしたいと思いました。

 みんなは学校に行きたくないとか学校が無くなればいいなと思ったことはありませんか。

 僕もあります。

 宿題をしなかったり、勉強がわからなかったり、運動会がいやだったりね。

 僕はダンスはできるけどスポーツは下手だったんだよね。

 それにクラスメイトにいじめられたり、先生に怒られたりね。

 なんで怒られたかよくわからないままなことない?

 先生が嫌いになったりして学校に行きたくないこともあるよね。

 親に言っても、休んじゃいけません、学校に行かないと将来はダメになるとか言って仕方なく行く。

 行きたくないからゆっくり歩いて遅刻したりね、どこかに寄って遊んできたりして結局行かなくて、そのまま家に帰ったりね。

 それで後からもっと親に怒られる。学校さえなければいいと思っちゃうよね。

 学校には楽しいところもいっぱいあるのに、行けないからもっと楽しくなくなる。

 体育の授業が楽しい、図工の時間、音楽の時間が好き。

 給食があるから学校に行くんだという男子も多いよね。

 理科が好きだから理科だけの授業になればいいとか、そういう風にしたいんだけど理科の嫌いな人もいるからそれはできないんだ。


 僕はね無理して学校に行かなくてもいいようにしました。

 親や先生が無理して行けと命令しちゃいけないようにしました。

 もしそんな親や先生がいたらお巡りさんか市役所に来てくれれば大丈夫です。

 それでもだめなら国にメールか電話をしてください。その時はマイナンバーを忘れずに教えてね。

 そうすればちゃんと学校を休めます。

 休みたいだけ休めます。

 時間がいっぱいできるから退屈になっちゃうから、ネットとかテレビとか見るけど多分飽きちゃうよ。

 だから退屈な人のための家をつくります。

 離れた場所になったら近くに住んでもらうけど、親と離れることになるけどいいかな。

 親が送ってくれるなら通うこともできます。

 そこは好きな事やりたいことを相談して決めてやります。

 勉強をしてもいいし運動をしてもいい。

 誰かとゲームをしてもいいし本を読んでもいい。

 なんでもいいんです。


 でも気を付けなきゃいけないことがあります。

 それは、みんな部屋が汚いと掃除をしますよね、掃除をしないとどんどん汚くなるからしなくちゃならない。

 学校の勉強も同じなんだよ。やりたくなくてもやらないと自分が困ってしまう。

 汚い部屋が好きならいいけど、やっぱりきれいな部屋がいいよね。何回もよごすことができるしね。

 だからいつかは絶対勉強はしなくちゃいけない。

 でもそれは自分がしたいと思った時にすればいいんだ。

 不思議なんだけど、勉強がしたくなるんだよ。不思議だねどうしてなんだろう。

 それはねみんなが大人になった証拠なんだよ。

 よし大人になったから勉強したくなったと思うんだよね。

 僕もそうだったから。不思議だね。

 昔できなかったことが急にできたことないかな。

 全然興味がなかったけどなんだか知りたくなったとかね。

 大人になるとそうなっちゃうんだよ。不思議だね。


 だからみんなも無理して学校に来ないでください。

 嘘だーと思っているかもしれない、僕の親は厳しいから無理だよと思っているかもしれないけど、

 夜にお父さんお母さんにもお願いするから大丈夫です。

 もしお父さんお母さんが許してくれなかったら東京に住んでもらいます。

 今の東京は死刑囚や殺人犯がいっぱいいるところです。

 ものすごく怖いところです。怖いお父さんお母さんでもチビッてしまうでしょう。

 だから安心してください。

 先生方も同じですから覚えていてくださいね。

 もっと厳しく二度と復職はできないばかりかそれ以下の生活を用意していますので」


 校長をはじめとする教師たちのほうを見て話す。

 動揺した教師がいたが思い当たることがあるのだろう。これで釘は刺さったはずだ。


 「僕の話はこれで終わります、聞いてくれてありがとうございました」


 佐倉は深く礼をして壇上を後にする。

 大きな拍手が鳴りやまなかった。





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