国会2
国会の開会を天皇陛下が宣言する。
これからは衆参とも同じ会場で行う。
最初に衆議院をやり、参議院が続くのは昔と同じ。
議長は両院とも同じ人間が兼務する。
指名したのは人生党員でなく、皇太子殿下にお願いをした。
これ以上に公平な存在はいないからだ。
これにより皇室の役割が変わると国民も想像できるだろう。
全てがネット中継されている。それに各議員にピンマイクを付けてもらっている。
与党ばかりだからヤジを飛ばすことはないだろうが、野党は少数で彼らは可能性はある。
だからと言って野党だけにマイクだと不公平なので全員にする。
最初にやることは首班指名。
ほとんどが与党で構成されているので、佐倉以外の候補はいない。
「佐倉一生君」
ほとんどの衆参全員が起立する。
佐倉は一礼をして、皆と一緒に席に座る。
すぐに法案の採決を始める。
異例のことだが、ここは仕方がない。
なにしろたくさんある、改正法を含めれば五十以上ある。
ただやることは内容の説明を国民に向かってするだけで、採決はそれを正式に施行する証明にすぎない。
本当なら公約のほとんどを一気に施行するのがいいのだろうが、さすがに混乱と反発を生むことになりかねない。
今国会は迅速にしなければならないことを優先した。
ジェンダーと派遣法、妊娠から育児までの一連の労働環境の改善。
刑法関連と東京の扱いに関してもいくつかある。
教育関係は大人の労働環境が安定してから春先を目途に改正していく。
だからといって四月が年度ではない。
いつでも入退学ができるのでその限りじゃないということ、従来の慣習はそのままで半年後の十月入学もある。
急いで女性の健全な労働力を確立しないと支持してくれた国民を落胆させてしまう。
そして皇室典範の改正。
これはかなりデリケートな内容だが、事前に何度も陛下と皇族の方々を交えて話し合った。
変わらないのは国家元首ということと伝統神事祭事はこれまで通りだが、陛下の負担が多いものは無くした。
変えたのは、皇位継承は男系でなくてもいいということと、新しい宮家を作ること。
女性皇族が婿を取ることに障害をなくし、離婚も認められる。
そして宮内庁は廃止して代わりに京都御所そのものを独立した会計にする。
御所でのビジネスもできるようになるので、例えば野球のホームタウン球場の収益のようになる。
天皇家のパテントも独占できる。
菊の御紋饅頭とか煎餅とかもできるかもしてない。
御用達ビジネスも活性化するかもしれない。
皇太子は皇位継承権一位ということになるが、男系以外も認められるので女性も国会議長になる可能性もある。
これからの皇族は政治や経済、国民生活の勉強をより一層しなくてはならなくなった。
そして議長経験後に天皇となるのだから、一層頼もしい存在となってくれると信じている。
国会は昼休憩を挟んで夕方四時過ぎまでかかった。
これからは内閣の承認を天皇陛下にしてもらい正式に佐倉内閣が発足する。
大海は佐倉に近づいてねぎらった。
「佐倉さんいよいよですね、くれぐれも頑張りすぎないように」
佐倉は苦笑いを浮かべた。
「大海さんは陛下に何度もお会いしているから慣れているでしょうけど、僕は初めてですから緊張していますよ。なんで話し合いの場に連れて行ってくれなかったんですか」
「まあいいじゃない、佐倉さんが総理になるのは決定してたから準備も大変だったでしょ。
それに新総理が初めて謁見する緊張は国民に伝わるもんだよ。
それが一層の信頼性を増すと思うんだけど、どうかな」
「うーん、言っていることは理解できそうだけど納得できない自分がいますね。
今更どうしようもないから仕方ないですね。
大海さんに指名された時は大変なことになったと思いましたが、僕も腹はくくっています。
はあー、デビューの時より緊張していますよ」
佐倉はそう言いながら礼服に着替えて御所に向かった。
残った大海は大竹と合流するための準備を始めた。
大竹は大阪にいた。
先日に大海と行ったバーにカウンターで一人座っていた。
ボックス席には二人の女性客が先客として飲んでいた。
ここはいわゆるオカマバーではなく、正統派のバーになる。
洋酒も二百以上揃っており、カクテルメニューも豊富だ。
おつまみは奇をてらっておらずナッツから温かい軽食まである。
ホステスの接客はなく、客それぞれが楽しむ空間ができている。
大竹はボックス席の女性たちの会話が気になり耳を澄ます。
「どう、あんたのとこは良くなりそうなん?」
黒髪ロングの女性が火のついた煙草を持ちながらグラスを口に運び言う。
「そやね、期待している人は多いとちゃうかな。でもここ大阪の看護師はみんなもれなく疲れ切ってん。東京よりか感染が拡大しはってもう大変やった。正直先のことをゆっくり考える余裕なんてなかったん。滋賀や和歌山から応援が無理して来てくれはったのに全然追い付かなかったんやから。
知事は場当たり的な耳障りのいいことだけ言うだけで、現場のことは何も考えてへんから。
新しい日本政府は知事に対して厳しい要求をしたみたいなんよ。
万博に政府は一切協力はしない、連合国も関与しないからそのつもりで、とか。
関空は政府管轄の国際空港にするとか、政令指定都市は廃止するとかね」
「エライことになるな。それじゃあ知事の党なんかめっちゃダメージあるんちゃう」
「そうそう、だから今なんかさっぱり顔を見んねん。あれだけ毎日市長と一緒にテレビに出まくったのに。それに取り巻きのテレビ局とかタレントがおとなしくなってんねん。
すごい掌返しにあってるわ。やっぱり金の臭いが無くなると大坂の商人はアッちゅう間に離れていくもんやな」
「らしいと言っちゃらしいな。そんでどうなるん?」
「元の弁護士に戻るんちゃうかな。だいたい弁護士ってああ言えばこう言うばかりで、言い訳や根拠のない言葉が芸人並みのアドリブが得意で生きてきた人やし、政治家にしちゃあかんかったんよ」
「今頃気づいても遅いわ!」
大竹は本場の漫才を見ているかのような気分になった。
元北海道知事の大海のように若さを売りにしていたが、そこに正義と革新を言い出してから胡散臭くなってきたと記憶している。
幼少時からエリートとして生きてきたんだろうな。塾に行き周囲が全て敵で、親の言うことを聞き期待に応えようと頑張って順調に進学して弁護士になったんだろう。
それだけなら別に問題は無いが、高い確率でプライドが高くなってしまう。
自分は正しい、他人が間違っている。自分より劣っている人間は人間扱いをする必要はない、自分の指示にさえ従ってればいい、口答えはするな。
頭が回るし知識も多いから言葉もどんどん出てくる止まらない。
痛いところを突かれても焦点をずらした返しで誤魔化し過ちを認めない。
自分は関西圏最大の知事をやっている。ゆえに近隣知事を下に見る。
本来なら事前協議の懸案も相談もなく既成事実にしてひんしゅくを買っても気にしない。それが当然のことだから。
昔、秘書を車中で暴言恫喝し辞任した政治家を思い出すが、あの人も同じような感じで大人になったんだろう。幸いにそれでプライドが消えて今では優秀さが前面に出た評論家になっているようだ。
彼女は数年後に人生党で拾ってもいいかもしれない。
ママのモジャさんはさっきからグラスを磨いている。
それを見ながらグラスを傾ける。
今日はバーボンの「オールド・グランダッド」のレギュラーを注文した。
ママの名前の元となった酒だ。
オレンジ色のラベルの瓶を眺めながら味わう。
あまり一般的でない銘柄だから置いている店は少ないだろう。
レギュラーの上に「114」というアルコール度数が高いのがある。
114と言うのはプルーフでパーセントに直すと五十七度になる。
これは特別な時のために残しておこうと決めている。
グランダッドは学生時代にホテルのバーで飲んだことがあるが、当時は酒に詳しくないうえにバーボン自体もこれが初体験だった。
その酒がここで飲めることがわかり、先日以降大阪に来たら寄ることにしている。
学生時代の思い出がよみがえる気分になる。
もちろんボトルはキープしている。大海のボトルもあるが彼はスコッチだ。
お互いのボトルは空けてもいいということになっているが、僕はアイリッシュウイスキーのほうが好みなので飲まないだろう。
スコッチはどこにでもあるがアイリッシュを置いている店は少ない。バーボンとは真逆の酒だがおいしい。
昔、アイルランド出身の青年と知り合った時に覚えた味になる。
大竹の酒の好みにはどれもストーリーがある。
「それにしても大海さんは遅いな」
大竹はスマホの画面を見てつぶやいた。




