新総理は
大竹は仙台からすぐ京都に行き、大海たちと合流した。
開票結果の報道を確認しながら配信をするために。
これまでは大阪で撮影していたが、今回は京都にした。
いくら新しい日本といえども皇室を無視はできない。
何か芯となるものがなければ、形を作ったとしても崩れやすい。
明治維新の時は政治を武家から皇室に返上し、戦後は象徴としての存在であったが。
これからはもっと存在感を出してもらうつもりでいる。
けっして君主制にしようというのではない。
新しい政策にお墨付きを与えるということで正当性を確立させるためにだ。
天皇陛下と海外の王族と異なるのは、陛下には『祈り』というのがある。
国家国民のために祈るということだ。
各神社で個人が祈るより強力なパワーとして。
つまり神とのやり取りを民に代わって行う役を担っている。
海外の民主国家は宗教と別なので元首がそういうことはやらない。
古い悪習や因習はできるだけ取り除きたいが、神社仏閣を廃することはしない。
地域の伝統文化や祭りを廃すると同じだからだ。
そんなことをしたら反発が大きく政策どころではなくなる。
難しいのは、そういった因習に女性を穢れとしていることがある。
つまり男尊女卑の理になっている。
だけど天皇陛下が新しい神道を実践すれば、それが常識となり伝統となることだろう。
もちろん伝統を破壊することになるから抵抗は強いだろうが、神道を廃するよりはいいはずだ。
これには連合国も以前から提案していて、象徴天皇制が戦後の政治家と官僚の堕落を招いたと思っているからだ。
戦前は天皇君主制だったので、軍部がそれを都合の良い拡大解釈で暴走したことを防止するつもりだった。でもまさか別のベクトルが作られるとは予想できなかった。
英国は近い感じだが、民主選挙が正しく行われている。もちろん貴族と労働者と別れてはいるが、もっと市民に近い構造になっている。
これからの日本は正しい民主政治と君主が並立する国家にしていく。
政策の柱は女性を男性以上に徴用することだが、反対勢力をおとなしくさせるには天皇陛下のお言葉と行動が重要になる。
次世代の皇族も女性宮家を新しくつくっていかなければ絶えてしまいかねない現状にある。
だから女性天皇とかも当然認められることになるだろうし、民間からの婿入りもできる。
外国籍が皇族になることも将来的にありえるかもしれない。
これからの日本は連合国をはじめとする海外勢と確かなつながりを築いていかなければならないのだから。
ただし皇族の勢力を野放しにはしない。旧体制が利用して再び古い日本に逆戻りになるからだ。
そこは新しい皇族典範を定めようと思っている。
スタジオ仕様になっている部屋に関係者が集まっている。
カメラに映し出されているのは大海と大池の二人のみ。
佐倉は脇に控えているが、画面上には映っていない。
大竹はカメラの後ろで見守っているだけになる。
元知事達や候補者は担当地域や地元で待機してもらっている。
開票速報はテレビだけじゃなくネットでも流れる。
モニターは各局のテレビとネットサイトが映っている。
投票締め切り時間の夜八時になった。
直後に画面が切り替わり速報番組を流し始めた。
期日前と今日の出口調査の結果をまとめて予測したものだ。
全てのメディアが『人生党』の圧倒的勝利を報道している。
暫定投票率が七十八パーセントという日本民主主義の歴史上最高を出している。
昔の年末歌番組の視聴率のようだが、たしかほとんど家庭が見ているという数字だったという。
つまり、投票できる国民は全て投票したようなもの。
そして得票率が八十二パーセントになっている。
マイナンバーの集計だから信用できる圧倒的な数字だ。
それを確認した大海が立ち上がり叫んだ。
「国民のみなさまありがとうございました!」
と言いながら深く深く頭を下げた。
そのまま十秒ほど停止しているので、横の大池が脇を突いた。
大海はハッとして顔を上げ腰を元に戻した。
何か思うところが頭を駆け抜けていったのだろう。
「僕たち人生党に託していただきありがとうございます。
絶対に期待に応えますので待っていてください。
早速、ここ京都に国会を召集し内閣をつくり新しい省庁を設立し女性大臣を三人置きます。
それに伴いまして新しい職員を採用し、新しい政治を開始します。
そして支持できなかった国民の皆さん、僕らはあなたたちを見捨てるわけでも排除するつもりはありません。
人生党は個人の生き方を他人が否定強要することはしないのが党是です。
僕らの欠点が支持者の誰よりも良く見えているはずですので、どうか遠慮なく意見を伝えてください。もちろん意見のみですから暴力的や陰湿な行動は民主的でないので排除対象になります。
正々堂々とぶつかり合いましょう。
そして決めるのは国民のみなさんですから、よろしくお願いします。
これだけの圧倒的だとは思いませんでしたが、皆さんの中には独裁になるのではと懸念されている方も少なくないでしょう。
でも大丈夫です。と僕らが言っても信用できないでしょうが。
何故なら女性が半分以上を占めて政治を行うからです。
男性多数でやるから独裁になるのです。
女性は共感し横でつながることが得意なんです。
男は他人を従えてナンボの人間ですが、女性は協力してナンボなんです。
一部の男が独裁を試みようと画策しても多くの女性が無視をすれば一瞬で崩れ去ることでしょう。
例え僕らの党が間違った政策で独裁を行ったとしたら、党員の女性が反発したとたん機能停止になります。なにせ女性を重要な役職に多く就けますから当然です。
女性は男のようなつまらないプライドがなく現実的な判断を瞬時にできるのです。
女性の皆さん、ぜひこれからも自分たちの為、ひとえに国の為に行動してください」
大海はそう言って御礼の言葉を終えた。
それを隣で聞いていた大池は大きくうなずき、
「わたしがしっかりお目付け役としてやっていきますから、みなさんも協力してください」
とカメラに向かって言い、そして大海へ視線を投げかけた。
「大池さんには頼りにしていますから」と笑顔で答えた。
そこに佐倉一生が入ってきた。
「大池さん、大海さん、組閣の人事構想は考えているんでしょうか。
大海さんが総理として他の大臣は?」
それに対して大海が答えたのは、
「何を言っているですか佐倉さん、あなたが総理になるんですよ」
「え?なんて言いましたか」
「だから佐倉一生が総理大臣になるんです」
「ええー!!そんなの聞いてないですよ」
「それはそうでしょう、今初めて言いましたから」
「何故、今なんですか」
「ただのサプライズですよ」
「いやそうじゃなくて、そうでしょうけど。なぜ僕なんでしょうか。
僕より大海さんがなると皆さん思っているはずですよ」
「そうかもしれないね、これまで僕が前面に出て党首のようなことをしてきたから。
でも考えてみて、人生党に党首という肩書は存在していないんだよ。
特にこれからは大臣を三人の女性にする政治で、一人の党首が権力を握ってはいけない。
議長のような人は必要だけど、その人はもういるし」
と言って大竹のほうを見た。
佐倉も大竹を見てうなずいたが、まだ納得がいかないようで。
「それでもみんな大海さんに付いてきたんですから今更席を譲ると言われても困ります」
「何を言っているんですか。別に引退するわけではありません。総理になってくださいと言っているんです。僕はあと十年ほど政治に関わっていきますから」
「じゃあなんで僕なんでしょうか、政治経験がないんですよ」
「総理に政治経験は必要ありません。皆に愛され、皆のことを想い、正しい決断を素早くできて、責任の取り方を知っていればいいのです。
佐倉さんには全て揃っています。しかも女性の支持が格段に高い。
新しい日本の最初の総理に一番ふさわしい」
「マジですか」
大海はぼんやりとしてしまった佐倉に握手を求めた。
佐倉はそれを見て気を取り直し、腹を決めたように大海の手を握った。
この瞬間を見た国民は、未来の日本に期待と楽しみを抱いた。
皆が想像しているよりも良くなると。




