表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/104

投票日 仙台2

 丸山さん夫婦と合流したのは再び三越前だった。

 早く着きすぎてもデパート内とか商店街で時間がつぶせるから仙台市民にとっては都合がいい。

 しかもすぐ近くに県庁市役所などが集中してあるので交通の便がとてもいい場所になっている。

 丸山さんが先に着いたので、旦那さんを待っている間に少したわいのない話をした。


 「丸山さんの仕事は何にしたんだい」


 「スーパーマーケットも探したんだけさ、仙台は売り手市場になっているようで求職者が溢れているみたいなのさ。

 みんな東京からの人が家族ごと来ているでしょう、私らも同じだけど。

 結局人手不足が続いている介護の仕事にしたんさ。

 ハローワークから資格を勧められてね、でも働きながらでも取れるみたいだし、こういう仕事は向いていなかったら迷惑をかけるからとりあえず試用期間として最初の一か月を勉強しながら働こうかなと思ってね。 

 まだ一週間しか経っていないし授業も三回しか出ていないけどさ。

 うまくできそうだったら続けて行こうと思っているけど、どうなることやら」


 なるほどね、僕は丸山さんは向いている方だと思う。

 対人援助という仕事は体力とコミュ力が必須だけど、何も喋りがうまい下手というより聞き上手とか判断力が大事になっている。

 それに人生経験が長いと高齢者の話の内容が理解しやすいし共感もできる。

 スーパーマーケットという大人数で女性が多い職場でうまくやってきた丸山さんはすぐに利用者さんから信頼されるのではないだろうか。

 三年後には国家資格までとって管理職になっているかもしれない。


 「丸山さんなら大丈夫だよ、僕が保証する」


 と言って丸山さんを激励するが、


 「あんたに言われてもなんも安心できないですけど」


 簡単に否定された。そうこうしているうちに旦那さんが到着した。


 「お待たせしました大竹さん、お久しぶりです。一度家に戻ってクラブを置いてきたので遅くなりました」


 「いえいえ、どうでしたかスコアは」


 「いやあ、ハーフで六十八でした。まあこんなものですかね。いつもと大して変わりませんでした」


 「へーけっこういいじゃないですか、僕なんてパーをとったことなんかほとんどないですよ。ショートホールで偶然とかばかりですね」


 本気ですごいと思ったんだが、他のみんなはあまり同意してくれなかった。

 ゴルフ経験者は僕だけのようだ。

 ピーターは基本無口だし。


 「ところで大竹さん、さっきから近くにいる外人さんはお知り合いなんですか」


 と旦那さんが訊いてきた。

 すると丸山さんも、


 「さっきから気になってはいたんだけどさ、そうなの?」


 ああ、忘れていた。彼は影のように存在して、自ら出しゃばって来る人間じゃないので、無言で黙って立っているだけ。目は僕らのほうに向けているから丸山さんは警戒していたのかもしれない。

 早めに言ってほしかったが、怖くてできなかったのだろう。


 「そうそう、彼は『ピーター、クリプトン』さん、八戸で知り合った友人なんです。アメリカ軍で働いているそうです。

 日本観光で僕と一緒にいるんですよ。日本語はだいじょうぶですから」


 と紹介をした。

 丸山さん達は納得してくれたかはわからないが、素直に「こんにちは丸山です」と握手を交わしてくれた。子供たちはすでに行動を共にしているから、彼の存在は当たり前のことになっているので、よけいにわからなかったんだろう。


 「さて今日は僕が案内しますから、お任せください」


 と言ってお目当ての牛タン屋にみんなで向かった。




 日曜の夕方だがさほど混んではいない。

 四人がけのテーブルを二つ使って、僕と丸山夫妻、子供たちとピーターで別れて座った。

 僕ら大人は塩味の定食、子供たちはタレ味を注文した。

 来るまでの時間、なんとなくを装って丸山夫妻に選挙のことを訊いた。

 

 「お二人は選挙に行ったんですか」


 二人はうなずき合って、旦那さんが先に口を開いた・


 「もちろん行きましたよ、当然ですよ。投票しない人がいるとは思えないほど、今回の選挙は盛りあがっていますから」


 「そうよ、あさイチから行ったさ。すんごい混んでいたよねお父さん?」


 「そうそう、すごかった。こんなこと初めてだ。順番が来るまで相当待ったよねお母さん」


 「そうなのよ、なんかの無料配布の先着順の列かと思っちゃうほどすごかったさ」


 どういう例えなんだか。それにしても仙台は八戸より関心が高かったようだ。

 あれか?やっぱり元東京民が多いからだろうか。東京の惨状を伝え聞いている人が、将来の不安や期待が大きいのだろうか。

 元東京民は地元民ではないから、しがらみのある候補者はいない。

 そして田舎と違い日本全体の視点を持っている人も多いのかもしれない。

 東京というのは日本の縮図で、同時に東京ありきの日本だった。

 国際都市でもあり日本=東京という自負もあっただろう。

 しかし、その東京は今は存在しない。いや地図上では存在している、日本人は住んでいないが。

 新しい日本を創ろうとする選挙に元東京民が積極的に参加するのは当然の成り行きなようだ。

 僕らはそこまで考えはしなかった。

 東京民は仕事と遊びで投票日に予定を立てるし、しがらみが多い地方より投票率は低いからだ。

 でも地元を失った現在はそういうことをできないし、新しい地元を創るためには古い常識は不要と考えたのだろう。

 リベラルな気質が今回はハマったということになる。


 「八戸はそこまでじゃないですけど、けっこう混んではいましたね。

 まだまだ地元で力のある現職議員もいますから。あっと元現職ですけどね。

 彼らは旧来通りの選挙活動をしていましたね。

 まあ今回の選挙は政府が無くなって無法状態ですが、よっぽどおかしなことをしない限りどんな活動も連合国に認められていましたから。

 それにマイナンバーで地元がどこであろうと、どこの投票所でも投票できるようになっていますし、しかも決まった投票所以外でもドライブインや道の駅など、駐車スペースが確保できるのであれば端末を設置して投票できるシステムができましたから、出先でも気軽に投票が出来て投票率が上がるし、しがらみの視線を避けて遠方でもできますからね。

 むしろ旧来のどぶ板選挙は小選挙区制度の昔なら効果的ですが、全国区だと不利だと思うんですけどね」


 「そういえばそうなったわね、あたしらは近所の人にきいた近くの学校に行ってきたけど、どこでもいいんだった。でも土地勘がないからさ、そういう人も多いだろうね」


 今回は暫定的に全国区での選挙になったがうまく機能しているようだ。

 これなら次回からも普通に定番でいいだろうな。大海さんたちはどう考えているのだろうか。


 「ところで大竹さんは八戸でどうしているのさ」


 「そうそう、もし仕事がなかったら仙台で探すのを手伝うよ」


 丸山家の二人が心配してくれるが、どう言ったもんだろうか。

 僕は基本的に東京で生活している、しかも元とはいえ皇居の中で。

 これからどういったことになるか見当もつかない。

 大海さんたちがどうするかによるから、僕は傍にいて連合国の李さん達との間を行ったり来たりになるだろう。

 そういえば、これは仕事になるのか?

 名刺をつくったら肩書はどうなるのか?

 『日本側交渉担当責任者』ということか?

 というか給料は貰っていないぞ。

 まあ金を使うことが無いから困ってはいないが、さすがに私服のパターンが二つでは困る。

 それに冬服は八戸にあるだけだが、三十年前のしかない。

 

 隣のテーブルではピーターと子供たちが楽しくやっているようだ。

 彼は日本の大学に留学していた時に災害に巻き込まれたが、たまたま救助中活動中の自衛隊の通訳となり、そのままアメリカ軍に雇われている。だから兵士ではなく只の軍属になる。

 元々アメリカでアニメ好きが高じて独学で日本語を学び、東海岸のアイビーリーグ大学の一つを卒業した後日本に来た。

 だからけっこう優秀な人間になる。スポーツも万能だし、日本好きなので武道も習っていたようだ。

 だからただの付き添いではなくボディーガードの役目も担っている。

 丸山さんが僕の立場を知らないということは、巷にまで情報は届いていないようだ。

 しかし油断はできない。

 旧政権はしれっと合法非合法なことをして敵を消してきた輩だそうな。

 大池さんが詳しく話してくれたが、あれもそうだったのか!と言う話ばかりで驚いた。

 どれもこれも警察検察を骨抜きにして、マスコミやメディアをコントロールしてきたからできたことばかりだ。

 利権構造が崩れているとはいえ、個人的なルートは消えていないだろうから直接的な手段でくることは予想できる。

 ボディーガードは僕だけじゃなく、面が割れている大海さん達の全員に付いている。

 彼らは個人では移動していないので、あからさまな警戒ができるからいいが僕は影の存在としているから不可能だ。

 ピーター君、頼りにしているよ。


 丸山家との接触は彼らの安全のために最小限にしなければならないから、今後しばらくは会えないだろう。

 少なくとも仙台では無理だな。

 僕は丸山家との時間を忘れないでおこうと全員との会話を漏らさないようにした。


 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ