表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/104

公示日

 今日が選挙の公示日になる。

 選挙戦がスタートするが、僕らは党の名称の発表と追加の公約をネットでするだけになる。

 昔のやりかただと、ポスターを貼り、街宣車の大音量で候補者名を連呼するのが常套だろう。

 そして集会を開き動員をして票の取りまとめを依頼したり、個別訪問や電話をする。

 まったく迷惑なやり方だ。

 旧来の政党所属で今回の選挙で当選を狙うベテランはそうするだろう。それしか成功体験がないのだから、新しいことなど間違ってもやらないはずだ。

 協力する有権者も利権に群がっているだけにしか見えない。

 政治に関心が無く誰でもいいと思っていて周囲から頼まれたり現職ならいいだろうという有権者のほとんどは、候補者の名前を忘れないようになるから有効だろう。

 たまに自転車に乗って頑張ってますパフォーマンスをする人もいるが、あれもどうかしているし、それに感心して投票する人もいるから日本は終わっている。

 何故か日本は『お人よし』が評価される。

 それは間違ってはいないが、その評価がその人の一部であるなら問題ないけど、それだけでは単に利用しやすいだけの便利な人間というだけ。

 つまり『お人よし』でない人に使われるために評価される。

 世の中の立派な大人の条件に『嘘を上手につける』というのが暗黙にある。

 子供には嘘をつくなと教えるのは大人が躾しやすいからなだけ。

 そうして親の言うことを正直に聞いて勉強をして素直に育ち社会に出ると、労働搾取の資源となって安く使われ企業は利益をだすことできる。

 そしてストレスで病んで数年で退職するならまだましだ。気付いて自ら辞める決断ができるのだから。

 しかし自殺をしたり辞め時を失い十年後に大病を患ったり、家族も影響を受けて壊れたりしている。

 結果日本全体が疲弊するのに目先の利益の追求で将来を考えない企業体質。

 問題を先送りにするのは日本人の悪い癖だから仕方ないと言えばそうだが。

 少子化が問題と認識され女性の労働力も重要だということが浸透しているのにそのままの男性主導社会。

 正直者は使い捨てになる。使い捨てだから増産しなければならないが、さすがに最近はそのことに気付いてきた若者が多くなり、国家公務員などは毎年前年比二割減の志望者となっているらしい。二十年前の半分しか職員が働いていない。

 ネットの普及で世界中で魅力ある生き方をしている人間が多くいることを知り、日本が特異ということも知っている。

 ノマドワーカーに憧れている若者も多いが、それは実家があって親が健在という条件がいる。それらがなければホームレスと紙一重な立場だ。

 いやちゃんと仕事をしているから、といってウエブデザインとかしているが、その仕事は単価が安い時にしか回ってこない。スキルが上がって高報酬を提示したとたん安いところへ流れる。

 誰でもなれるから競争も激しいし、脱落する人も多い。

 いざ世界的に感染症が拡大すると移動そのものもできなくなっている只のリモートワーカーなだけ。

 一部の人はフォロワーが多く人気者になっているから更に憧れられるが、人気商売は長続きはしない。

 そういった自由なことを求める若者が多いのは従来の社会に閉塞感を感じているからだ。

 声優や芸人を志望するのも似たようなことだ。声優学校を卒業しただけという若者も多い。

 五十年前のアメリカがまさにそうだった。

 イージーライダーという映画が象徴するように退廃、自由、大人への反発。

 もっとも白人社会だけの風潮だったが。


 僕らはそういう若者に呼び掛けて新しい日本を一緒に作ろうとしている。

 だから従来の選挙活動では全く彼らの心には届かない。逆に古いやり方をやってしまうと『なんだ昔と変わらない』と思われてしまい期待も希望も摘み取ってしまいかねない。


 ネット配信をする時間になった。

 今日は日曜日なので夕方ではなく昼にした。

 カメラの前にスタンバイしているのは僕「大海」と佐倉さん。

 近くに大竹さんも控えているがカメラからは見切れている。

 他の元知事たちは地方に散らばってもらい、現場で有権者と一緒にライブで観てもらう。

 地方会場は国立大学の講堂とか郊外型の大型店舗の駐車場に設置した。

 そして現地からの意見などをやり取りして進めていく予定になっている。

 もちろんコメントも直接書き込めるようになっている。

 そして前回にはなかった寄付も受け付ける。

 少額であってもそのムーブメントが更に盛り上がりを後押ししてくれるだろう。

 むしろ一人一回千円までとか、百円にしたほうがいいかもしれない。

 それだけでコメント欄が埋まってアンチが入り込むスキがなくなる。



 時間になった。今回もⅯⅭは佐倉さんにお願いした。


 「さて時間になりましたから始めたいと思います。

 まずは大海さんから党名の発表をお願いします」


 僕は用意していたフリップを目の前に掲げた。


  『新党・人間の生活党』


 「新党、人間の生活党です、略して『人生党』になります。

 全ての人間が人間らしく生きられ、人生を全うするときに「いろいろあったけどいい人生だった」と思うためのことを政治の方向から実現させる党、ということです。

 何をもっていい人生か個人差はあるでしょうが、最低限の尊厳は守られ、認められ、蔑まれず、困っている時には手を指し伸ばしてくれる人がいて、独りではあっても孤独でない、そんな人生です。

 理想的過ぎて実現不可能だと思われるでしょう。

 それは当然です、昔の日本であったならば。

 しかし日本は見事なくらいに壊れてしまいました。いっそのこと最初から創ってしまおうというのが僕らと連合国の考えです。

 最初からですから新しい土台や部品を素材から作れます。デザインもそうです。

 僕らはデザインを提案するだけです、実際に作業をするのは国民の皆さんにお願いします。

 すぐには完成しないかもしれません、その時は次の世代に継いでもらいましょう。

 どんどん世代を早めに受け渡して効率のいい仕組みにしましょう。

 高齢者は経験はあっても体は動きませんから。

 僕は現在四十歳ですから長くても後十年で引退するつもりです。できればそれまでに実現させたいことばかりですが、更に若い人たちが引き継いでくれることでしょう。

 今回の選挙で僕らの目的に賛同共感してくれた人がたくさん集まってくれました。

 集まりすぎて取捨をしなけれなならず苦しかったのですが、立候補してくれた人はもちろん、今回は見送られた人にも必ず助けてもらいますから待機していてください」


 ここのスタジオは人が少ないので反応がわからないが、地方の映像と音声はすごいことになっているとがわかった。

 アーティストのライブでレスポンスをしていたかのような。

 手ごたえを感じ次のことに移るように佐倉さんにアイコンタクトをした。


 「人生党、いいですね。僕は正直なところ党名はなんでもいいと思っていたんですが、こうして明確な意味が込められていると俄然やる気が湧いてきますね。

 さて前回の配信以降に決まった公約を発表していただきます。

 前回もある意味非常識でしたが、今回も期待できそうですね」


 僕は手元の資料を左手に持ち替え、顔を上げて話す。


 「今日はさほど重要な事ではないのですが、コメントで多かったので公約として話します。

 オリンピックは永久に誘致はしません。ということです。

 たぶん日本だけでなく世界でもそうなるでしょうから、特別新しいことではないですけど。

 次の次の開催都市は決まっていますが、その次は無いでしょう。

 そもそも今回の五輪も東京が大嘘をついて決まりましたが、嘘がバレて中身の真実は世界に曝されました。つまりお金がかかりすぎる上に利益も出ないということ。

 しかも最適な会場があるわけじゃなく、逆に無理に会場を造るから自然破壊や不適格な競技場にしてしまう。

 そして利害関係の調整と気候で開催都市も限られています。

 誰もやりたがらないパンドラの箱になってしまっている。

 国威発揚などと言っていることは差別の助長になりかねない時代遅れな価値観です。

 自国以外は敵なんですから。負けた時の怨みも出てきます。

 スポーツは個人の楽しみでしかないのです。

 そもそも近代五輪を提唱したこと自体が胡散臭い。

 なぜわざわざ古代の他国の忘れ去られていることを掘り返してきたのか。

 それもフランスの下級貴族がです。

 しかも聖火といった神聖なことをでっちあげ権威付けをしたこともおかしな話ですね。

 女子マラソン選手が参加できたのは三十年前の話ですよ。


 だからと言って五輪レベルのアスリートを否定することはしません。

 むしろ尊敬の対象となるべき人達なのですから。 

 ただ同じ日本人としてではなく選手個人としてですから誤解のないように。

 僕たちは五輪の代わりになる世界規模のイベントを提案します。

 都市開催ではなく国地域で、開催決定は一年前、既存の設備は数年の使用実績がある、テレビ中継録画ではなく無料ネットで、順位付けはしますが証明書だけ、開会式はしません、閉会式は選手たちの打ち上げパーティーレベル、もちろん聖火など不要、交通費と宿泊費は開催国と母国で負担、競技場所が離れているので選手村はつくらない、そして大事なのが使える予算の上限は決まっていることです。

 遠足のおやつは三百円までと同じ思考です。

 できれば毎回同じ国がいいと思っています、甲子園野球のようにね。

 それが新しい日本だったらいいなとも考えています。

 どうでしょうか皆さん!」


 僕はカメラに向かって右手を差し出した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ