大阪で2
佐倉一生は大阪に居た。
ここは所属している事務所の関西支部があるビルの一室。
広めの空間はダンスなどのリハーサルもできるが、隅にはテーブルと椅子のセットがいくつかある。
佐倉は椅子には座らず、軽く準備運動をするかのようにステップを踏み体はリズムをとって動かしていた。ここでは事務所の先輩と話をするために待っているのだが、まだ現れていない。
待ち合わせ時間までは三十分ほどある。事務所の先輩を待たせることは絶対してはいけないからだ。
というより、佐倉のほうからのオファーなので当然のことになる。
ただ先輩は早く到着することが多いので油断はできないので、すでに一時間前には着いている。
最近、グループを解散してからは新曲は出していないので、新しい振り付けなどを練習稽古の時間をほとんどとっていないから、こうして体を動かすのは久しぶりで新鮮だ。
部屋のドアが開き先輩が一人で入って来た。
先輩もグループが解散して個人で活躍し、番組ⅯⅭやドラマなど僕の目指す目標となっている尊敬する人だ。見た目もいつまでも若々しく頭の回転も速い。
名前は『仲井真ひろし』僕より十歳上になる。
「仲井間さんお久しぶりです!」
「おう、観たよすごいことになっているようだけど、本気なのか」
「そうです、そのことで仲井間さんにご相談したいことがりまして」
「ん、んーん。なんか嫌な予感しかしないが」
「当たりです、仲井間さんに僕と一緒に行動してもらいたいと考えています。
是非とも立候補してください、お願いします」
佐倉は深く頭を下げた。それを覗き込みながら仲井間は黙っている。
どちらもそれ以上言葉を発しないまま沈黙が続く。
そして、仲井間がようやく口を開いた。
「佐倉の気持ちはよくわかった、だけど俺は政治家にはならない、なりたくない。
まだまだ俺には必要としてくれるスタッフが大勢いる。
俺もまだ芸能界で活躍したいから、今抜けるわけにはいかないな」
佐倉は頭を下げながら、
「そこをなんとかお願いします」
「いや無理だから、あきらめな!」
「そうですか、それじゃあ今回はダメと言うことで引き下がります。
でも必ず、仲井間さんが必要とされる時が来ますから、その時は必ずお願いします」
仲井間は手を横に振りながら、
「いや、絶対ないから。でも応援はするよ。番組でも取り上げることになるだろうし。
でも賛成できないことなら、しっかり反対をするから覚悟をしてくれ」
佐倉は苦笑いを浮かべながら、
「それはもちろんお願いします。忌憚のない意見は大事ですから。民主主義は反対意見や対立者を排除することではないですから。
少数派の考えを理解したうえでフォローを忘れずに行うことが政治ですから。
ですから仲井間さんが反対したからと言って舌が乾かないうちに変更はありえませんので、そのつもりでお願いします」
「そりゃそうだろ、朝令暮改じゃ何を信用したらいいかわからなくなる。
でも今までの日本はそうだったし、間違ったことも認めずに都合のいい理由を無理に当てはめて責任を取らなかったからね。
この大阪の知事なんてその場しのぎで耳障りのいい言葉をつなげて結果マッチポンプのようなことを繰り返したからな」
仲井間さんはやっぱり問題意識を持っている。
大阪は数年後に五輪レベルのイベントを開催しようとしているが、僕らはこれをどうにか再考できないかと考えている。
しかし強力な芸能事務所と広告代理店が強行しそうな感じだ。
旧日本政府の支援は断たれた今は新しい政府とつながろうと画策してくるだろう。
僕らと親しい仲井間さんに強く接触をしてくるに違いない。
こちらとしては今のうちに仲井間さんと近くなっておき、先方の計画を阻止する狙いがある。
仲井間さんは政治家のオファーは断るだろうと予想していた。
受託したとしても、それはそれで良い結果だが、芸能界で強い影響力のある仲井間さんが業界に残ってくれた方がうまく調整してくれると踏んでいる。
つまりイベントなどは単なる儲け話の一つに過ぎないのだから、同じかそれ以上の利益があることを提案すればいいだけだ。
もちろんそれには連合国が関わるのでやりたい放題にはならない。
そして新しい日本に利益があるように誘導し成功させなければならない。
関西の人間は政治の権威には屈さない気質だが、むしろ権威にすり寄ってお互いが儲けられるように利用するのが常套な手段。
だから上から一方的にダメだと言っても反発が起きて敵が乱立してしまうことは避けなけらばならない。
そこで強権力を発動してしまえばそれこそ独裁圧制になる。
仲井間さんとは近況の話や友人知人エピソード、新番組の話などで盛り上がり、仲井間さんの次のスケジュールいっぱいまで話し込んだ。
そして別れ際に仲井間さんが僕に言った。
「佐倉さ、動画の評判はものすごく盛り上がっているよ。でも、その陰に隠れて反発している人間も少なからずいるということを忘れるな。
そういった人間は想定をこえた行動をしてくるから油断はするな。
それじゃあ元気でな!」
と言い残し部屋を出て行った。
僕は先輩の言葉を大事にしまい、気を引きしめた。
夜の大阪で三人は集まった。場所は連合国が用意しているセーフハウス。
要人が緊急避難をしたり、スパイ活動をする拠点にもなっている。
先に一人が到着し、その後二人が遅くに合流した。
外からは見えない部屋の中で三人は今日の内容を報告し合っていた。
「じゃあ佐倉さんのほうはどうでしたか」
「大丈夫ですね、仲井間さんは僕らの足は引っ張らないどころか応援してくれることを約束してくれました。たぶん本心だと思います。
直接の場を設けたことで自分が新しい日本に影響力を持っていると自覚したことでしょう。
なんとなくの先輩後輩の関係から前進しましたね」
「そうかそれは良かった。大竹さんの言うとおりになったみたいですね」
大海は大竹を見て言った。
「大海さん達のほうはどうでしたか」
「僕らも順調だよ。サプライズでこちらから参上したおかげで盛り上がったから予想以上に結束感が生まれたね。
これが呼び出したりメールなどで先に接触したら警戒されるだけだったしね。
やっぱり当事者本人が出向くことが確実に話はまとまる。
これも大竹さんのアドバイスのおかげですね」
二人は大竹を見やってうなずく。
当の本人は「なんで?当たり前のことでしょう」と言いたげな顔をしている。
「大竹さんにしてみれば当たり前のことでしょうけど、僕らは営業もセールスも経験していない人間ですから思いもつきません。
ほんと大竹さんが近くにいてよかったですよ」
大竹は「この人らは一般の大人の多くが経験していることは何も知らないんだ。僕らが絶対経験していないことばかり経験しているのに」と思っていたが口には出さず、
「まあ僕は人生経験だけは豊富ですから」
と言って謙遜するわけでも卑下するわけでもないことを言ってごまかした。
なにせ、普通のことでこんなに褒められるとは思っていなかったからだ。
「さて次はどうしましょうか」
佐倉は大海に訊ねた。
「現状、女性の仲間が少ないからね。できるだけ多くしたいが簡単にはいかないだろうな」
「そうですよね、僕も芸能界で何人かピックアップしてみたんですがどうでしょうか」
名簿資料を大海に渡した
それを大竹と読み込む。
大竹がなにか考えていることに佐倉が気づいた。
「大竹さん何かアイデアがありますか」
「そうだね、これだけ多くの人間に会うのは時間的にも難しいけど、何も僕らが全てこなす必要はない。
つまりリーダー気質をもっていたり、信頼されて人が自然に集まってくるような人に直接会えば、その人が次に誰かを誘ってくれるんじゃないだろうか。
もちろん最終的に僕らに会う前提で話を進めてもらうということで。
なんか宗教の勧誘みたいだけど、成功率が高いからやっているんだと思うんだな。
つまりネズミ講というかネットワークビジネスに通じるかもね。
でも参加するのは僕らのところだから胡散臭くは無いから説得力はあると思う」
「なるほど、それはいい考えですね。それじゃあその方向で進めていきます」
大海と佐倉はそれぞれ用意していた名簿のチェックをはじめた。
それを横目で見ながら大竹は仙台の丸山さんに連絡をとりたいと思っていた。
彼女たちなら参考になることを話してくれそうな気がしたからだ。
それに僕も話したいことがたくさん溜まっていて会いた過ぎる気持ちが高まってしまっている。
丸山家の近況も気になることだし。




