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大阪で

 大阪の繁華街のはずれにあるバーの中でその三人はカウンターを挟んで話し込んでいた。

 客席にはオーバーオールを着てロン毛を後ろでまとめている巨漢と、紗の着物に博多の半幅帯で粋にまとめている長身細身の美人。

 カウンターの中にはボリュームのある金髪ショートをゆるい内巻と派手なツケまつ毛と濃いシャドー、太く筋肉質な腕が露わなノースリーブの赤いワンピース姿のママ。

 三人とも低めの声をさらに落とした口調で話していた。

 

 巨漢がさっきから二人に同意を求めている。


 「何度も言っているでしょ、これはチャンスなんだって。あたしらがお天道様の下で堂々と後ろ指を差されなく生きていけるチャンスなんだって。

 普通の人のようにどんな仕事にも就いても差別されないようにさせるのよ!」


 巨漢の名前はマイコ・デンジャラス。東京でアパレル関係のカメラマンをやっていた。

 隣にいる和服が反論する。


 「あんた、イケメンの元知事と佐倉クンが言っているからって信用しすぎ!

 だいたいさ、あの人たちは女性を救う言っているんであって、あたしらみたいなオカマのことを言っているんじゃないのよ」


 和服の名前はヨッツ・マンダリン、東京でクラブシンガーをしていた。

 カウンターの筋肉もうなずきながら、


 「ヨッツの言う通りよ、女性が優先されていくのは賛成だけどマイノリティのあたしらは圏外だと思う。いくら新しい日本と言ってもさすがに限界はあるさね」


 バーのママをやっている筋肉の名はモジャ・グランダッド、大阪のミナミでバーを開いている。

 東京から逃れてきた二人はこの店に毎夜集まっては尽きない話を続けている。


 「そうじゃないのよ、女性が優先だってことはあたしもわかっているわよ。

 それだけじゃなくて、選挙が全国区であるのは知っているでしょう、供託金も十万で安いから立候補しようと思っているわけ。

 国会議員になれば堂々と社会を変えられるような気がしない?それに東京を追われた同類を救ってやりたいのよ。

 あたしらの居場所は都会の夜がほとんど。昼の仕事は限られている。だとして他の土地で新しく店を持ったりは厳しいし、田舎なんて都会と違い外人以上に奇異な目で見られるのよ。

 どうにかしなくちゃいけない。

 あの人らは外国人や障碍者も差別なく生きていけるようにすると言っていた。

 あたしらも救済されるべきなのよ!」


 「そうはいってもあたしらの言うことが選挙では通用しないし、全国の同性愛者が投票してくれたとしても当選するとは思えない」


 ヨッツはあきらめの口調で反論した。


 「立候補をして表明をすれば新しい日本と言っているあの人たちにあたしらの存在を忘れるな!とアピールできるわ。すぐには無理だろうけど、ジェンダーが解決した後にはやってくれると思うの」


 マイコの声は次第に大きくなって外にも聞こえているのではないかと二人は落ち着かない。

 そこにドアベルが鳴りお客が入って来た。スーツ姿の若いイケメンと南国観光地にいるような無精ヒゲとTシャツサンダル姿のおっさんの二人。

 若いイケメンは見たことのある男だった。


 「店の外にまで大きな声が聞こえていたからやっているんですよね」とイケメンが喋った。


 「大丈夫ですよ、お好きな席に座ってどうぞ」とモジャママが空いている席に促す。


 「あなたたちこの店は初めてですよね?」


 「そうです、けっこう探しましたよ。なにせ僕らは東京でして大阪の土地勘はないし、いろんな情報筋から得たおかげでようやくたどり着きました」


 「イケメンのあなたはどこかで見たことがあるような気がするんだけど、有名人なのかしら?」


 「まあそうですね、最近はけっこう顔が知られているかもしれません。北海道の人になら知名度は高かったと思いますよ」


 「北海道って、・・・お客さんあなた、もしかして、北海道知事だった人・・・」


 「正解です、大海洋と言います。やはり大阪でも顔バレはしますね。これからは慎重に行動をしましょうか」


 モジャママはいぶかしげに大海の顔を見て、


 「失礼ですけど何故そんな方があたしの店を探してまで来られたんでしょうか」


 「実はですね、僕らが目指している新しい日本に参加していただきたいと思いまして、大阪で一番信頼のあるモジャさんならご相談できるのではないかと」


 モジャママは驚いたが同時に詐欺師を見抜くような視線を投げかけた。


 「御冗談を、オカマにどうしろというんでうすか。いくら大阪でも面白くない冗談は嫌われますよ」


 「いやー厳しいですね、冗談ではなくて本気です。僕らがジェンダーをはじめとする古い常識の社会から差別のない新しい日本をつくろうとしているのはご存じでしょうか」


 「知っているわよ、さっきもそのことでこの人が大声で騒いでいたんだから」


 と言ってマイコを指さす。マイコは少し申し訳なさそうな顔をした。


 「それじゃあ話は早い。ちなみにどういった話で盛り上がったんですか、今後の参考にしたいのでぶっちゃけてもらってかまいません。有権者の声は大事ですから」


 マイコは姿勢を正して大海に向き合う。


 「じゃああたしが説明するわね。ずばり同性愛者、女装家といわわれるあたしたちの中から政治家を出して生きやすい世間にしたいというわけ。

 差別は女性や障碍者、在日だけじじゃない、見た目や好みがマイノリティーというだけの理由ではぶかれている人達もいる。

 昔はオタクが変わり者気持ち悪いとされてきたけど、今じゃ日本を代表するコンテンツをつくったわ。まあ搾取はされてはいるけど、世界的に認められている。

 社会生活でオタクを公言しても仕事で不利益どころか共通の話題ではかどることもあるんじゃないかしら。

 でも女装したり同性愛を公言したら出世しない社会なのよ。

 理解ある人も多くはなったけど、それは東京とかの大都会だけの話。

 地方で身内にそんな人間がいたら隠されるし、昔だったら座敷牢に一生囚われるような扱いよ。

 あなたたちがやろうとしている差別解消なんて簡単な問題じゃないのよ。

 どんな差別も当事者になってみないことには絶対わからない。

 他人がわかったような気で近寄ってくるんじゃないわよ!」


 マイコは一気にまくし立てた。

 モジャママ達は少しあきれるように、それでいて守るかのようになずいた。


 「確かにそうです。頭では理解してもそれは表面的な同情に近い感覚だということを。

 持てる者が持たざる者に対しての余裕、多数派に所属している安堵感。

 自分は多数派だけど少数派の味方だというのは胡散臭いですよね。

 パラリンピック報道や二十四時間番組なんかはまさにそれですし。

 でも権力があるのは多数派です、それを利用しない策はありません。

 オタクはユーチューブなどで海外の人たちが共感して一気に多数派になりました。

 僕は人種差別や宗教などの問題も似たようなことで解決できるのはないかと考えています。

 つまり情報量を多くしたり身近に普通にあることなんだと。

 ほとんどの差別は言葉が通じないとか文化、宗教が異なるとか自分の生活圏に無いものに警戒したり、無責任な噂やイメージを信じてしまい、それが正しいと思ってしまい、背く考えはいけないことだということになります。

 親があそこの部落の人と関わるなと子供に言えば、理由は何かときかれても合理的な説明ができない。できるわけがない、不合理なことなんですから。

 僕らは幼少時の教育から変えていきますが、結果を出すまでは時間がかかりすぎてしまいます。

 ですから多少強引ですが、一気に洗脳するかのようにしていきます。

 権力がある人間が当たり前のように振舞えば、おのずとそれが正しいことだと認識されることでしょう。

 例えばアメリカでは人種差別が激しい一方で活躍している人も多いんですが、どうしてだと思いますか。

 あれはビジネスで利用できるのであれば最大限に持ち上げるんです。持ち上げているのは大企業のスポンサーなどの権力者です。

 でもそれらの利権に縁が無い庶民は普段の生活で差別を平気でします。

 些細なことで少しでも自分が優位だという意識がないと、自分の価値を見出せないのです。

 白人同士でも職種で差別があります。ほとんどの国民が移民をルーツにしているのにも関わらず、いろんな国の血が混ざっているのに、自分は正当な白人だと信じてるようです。

 日本でも朝鮮系の皆さんが差別されていますが、日本を建国したのは朝鮮からの人々です。知識と技能と武力が土着の日本人より勝っていたのですから当たり前です。

 それが江戸時代から文化や言葉の違い、半島は中国の属国ということで何故か日本は下に見ていました。日本は中国と対等だった明治以降は上になったと勘違いしたからです。

 つまり間違った知識が差別を生み出す。

 それに日本では白人ハーフはモデルですが黒人ハーフはお笑いか、もしくは日本人とすら認めてもらえないくらいですね。テニスでいくら強くても。まあ彼女自身の国籍人種をはっきりさせる方がおかしい話ですが

 日本人がすごいと言って外国人が日本で教えを受ける番組が評判ですが、あれこそ勘違いを体現している。

 日本人が海外で勉強していることを積極的に報道しませんよね、当たり前です。

 日本人は優れていなければならないからです。

 でも日本の優秀な研究者は海外で実績を挙げていますよね。

 

 僕らが新しい日本を創ろうと決心したのは災害が古い常識で固まった日本を壊してくれたからです。

 しかも連合国という後ろ盾があります。

 その連合国を動かしてくれたのが、隣にいる大竹さんなんです」


 大海はそう言って大竹を紹介した。

 大竹はいきなり話を振られて目を丸くして驚いたが、店の三人もそれ以上に驚いた。


 「その大竹さんて・・この人のことなんですか」と南国のポン引きのような中年を見据えながら

  モジャママは言った。


 「見た目はあれですが、この人がいなかったら日本は壊滅したまま消えていたことでしょう。

 決して嘘でも大げさではなくて、これが今回の真実なんです。

 まだ一般的には公表していませんが、そのうち情報が知れ渡ることになるかもしれません。

 大竹さんの存在がこれまで進展することがなかった問題の解決が見込めるようになりました。

 つまり僕らが新しい日本の最強の権力を握るということです。

 どうですか、権力を利用しませんか」


 店の三人は顔を見合わせ、「ちょっと話し合いますから」と言って奥に集まり、数分後にモジャママが大海に答えた。


 「結論を出す前に確認しておきたいことがあるんですけど」


 「なんでしょうか」


 「あなた達は独裁者になりたいのですか、それとも連合国の傀儡として支配しようとするのですか」


 モジャママは強く問うた。


 「なるほど、そのような疑念は当然ですね。しかしどちらでもありません。

 何故なら日本は議会制民主主義ですから。議会の多数派が主導します。今回は僕らがその任を任されるわけですが、それは連合国がより良い日本を創るには僕らが適任だと判断したからです。

 そして僕らは実行に移しますが、その過程や結果を見て判断するのは国民です。

 僕らを支持できないとなれば違う政権ができることでしょう。

 それまでは事実上の一党独裁になりますが、それは旧日本でも同じではなかったではないでしょうか。

 変えように長い歴史がしがらみを広く深く根を張り揺らがなかった。

 でも今回からはそういったしがらみを排除していますから、今後百年ほどは自由な民主な国が続くと思います。

 これで答えになっていますでしょうか」


 モジャママたちは黙った。でもモジャママが右手を出して、


 「あたしはあんたに惚れたわ」と言って大海と握手をした。

 大海はモジャママの握力に悲鳴をあげそうになったが堪えて、


 「あ、ありがとうございます。期待に応えられるように頑張ります。

 それでは、詳しい日程とかを説明しますが、どなたか一人を立候補してもらいたいですけど、どなたがいいでしょうか」


 大海がそう言うと全員がマイコを見た。


 「あたしなの?!そんな簡単に決めていいもんなの。たしかにああは言ったけど」


 「大丈夫、あたしらが付いているから安心しな。一人だけで背負わせないから」


 モジャママはマイコの二の腕を横からパンパンと強く叩いた。

 叩かれたマイコは観念してうなずいた。


 「それじゃ決まりですね、告示されるまでは秘密にしておいてください。告示後は邪魔が入るかもしれませんから連合国の保護下になります。多少は不便を感じるかもしれませんが当選するまでの辛抱ですので」


 モジャママはふと思ったことを口にした。


 「そこの大竹さんはいったい何しに来たんだい、なにもしゃべっていないし」


 大竹は申し訳なさげに笑った。

 それを見た大海が言った。


 「彼は影の存在ですからこれでいいのです」と言って笑った。





 

 


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