アドバイザー
食事が終わり、知事たちはそれぞれの仕事があるようで部屋を出て行った。
僕は連れて来られただけなので、どしたものかと大海さん、李さんと交互に目を合わせた。
すると大海さんが、
「大竹さんは僕と一緒に来てください」
と言ったので、大海さんと李さんの後ろについて部屋を出た。
着いたのは彼の執務室として使っている部屋になるのだろうか。
僕らは応接セットのような長ソファーに促され座る。
大海さんは対面で座ると同時に話した。
「さて早速ですが大竹さんには僕らのアドバイザーと言いますか連合国との間に入って調整してもらおうと思っています。
ここにおられる李さんとロシア、台湾の方々はもちろん、アメリカ軍とも折衝をお願いしたい。
僕もそうですが、仲間にも外交経験が無いうえにグローバルな価値観と人間性を持っている人材がいないのです。
仕事は内政関係ばかりでしたし、海外旅行などほとんどしていませんし、外国人の友人もいません。
皆が日本の常識でしか対応できないのです。
その点で大竹さんは最適な人材になります。それにとても信用できる人間ですし」
大海さん僕を持ち上げておだてているのだろうか。
いうなれば国政に関われと言っているようなもの。
そんな重要な仕事を僕に任せるなんてどうかしている。
「あのですね大海さん、僕は普通の平均的だと思っている日本人なんですよ。
公務員でも大学教授やコメンテーターでもないんですよ、他にもっと適任者がいると思いますが」
大海さんはニコっと笑った。
「大竹さんは専門家の意見をそのまま信用してしまう人ですか、自分より賢い偉い人なら間違いないと思う人ですか、有名人の言うことは正しいと思う人ですか。
僕は違うと思っていますがいかがですか。
李さん達から伺った話ですと、大竹さんは偏見のないきわめて公平な価値観を持っていて、自分の考えが正しいかどうかいつも勉強をして全方向から見ることができる稀な人だと。
相手の人間性や性格を一瞬で判ったり、握手をしただけで人間のレベルを感じる人だとも言っていましたよ。
それに知らない土地で知らない人に道を訊かれたり助けを求められることも多いそうじゃないですか。それだけ多くの人が認めている証拠ですよ」
たしかに僕はそういう人間だ。肩書や有名かどうかで発言を信用しない。
例えばテレビで人気のあるタレントや俳優で、何か違和感を感じると共感できない自分がいる。
どんなに人気者でもだ。そして案の定その有名人はその後不祥事を起こしたりしていると「ああやっぱりそうか」と思いデータを貯めていく。
顔での判断も接客や営業で勉強した『観相学』や関わったお客や知人の性格を照らし合わせた結果だ。顔ばかりじゃなく仕草や行動でもわかる。
子供でも将来どういう大人になるか予想できるようになった。
握手は大昔に六十代の男性有名タレントさんと握手をする機会があった時、その瞬間にビビッと感じるものがあった。
別に憧れていたとか国民的有名人ではないが、その世界では認められたすごい人だった。
たまたまロケ中継を見物に行ってたまたま握手しただけだったが、僕より身長が低いのに大きい手太い指、包み込まれるような温かい感触。
心のなかで「なんだこれは!」と言った。
未だにその感触は忘れていない。
それから自分より優れている人有名な人とは写真やサインとかでなく握手を求めるようになった。
もちろん他の普通の人とも、外国人ならなおさら。女性でも同じだ。
そしてはっきりわかるようになった。
物事には見る角度、立場、時間、時代などで見え方が変わる。味方か敵かであれば勝った方が正義となるように。
同じ誕生日、双子であっても性格や人生は全く異なる。それが国や性別が加われば無限だ。
一人一人がそれぞれの経験を元に自分の意見を言う。その人にとっては正しいと信じ。
でもそうじゃない人もいる、むしろ全て同じだったほうが怖い。
宗教なんてどれも目的とするところは同じなはずなのに異教を否定することが信心の証になるように。
僕はその人の背後にある経験など知らなくても信用できるかどうかがわかる。
海外旅行などに行くと、見知らぬ土地と言葉が通じない人間と常に関わらなくてはいけない。
だから自然にそういった六感に近い判断ができるようになったんだと思う。
理由を説明しろと言われれば言うが、何故そうなのかまでは言えない。
『そういうものだからそうなんだ』だから。
大海さんも僕に近い感覚をもっているようだ、だから僕に対してああいった言葉になったんだろう。
よほど苦労してきたのだろう。自分の将来が予想されていない展開になっていればそうならざるを得ないのかもしれない。
コロナ以降の世界は、特に日本は災害に見舞われたから新しいタイプの人間が生まれたかもしれない。
「確かにおっしゃる通りです大海さん。めんどくさい人間ですよ僕は。
それだけ僕のことを理解しているのでしたら了解しました。
その話、お受けいたします。
ただし、大海さん、大池さん達に直接意見を言える権利を保障してください。対等でないと連合国との交渉時にその場で決断をも求められてもできず、一旦持ち帰ることになれば日本の信用に関わりますから。それに僕はあなたたちの部下ではありませんので、それで納得してくださるのでしたら」
僕ははっきりと言った。これが無理なら断る口実にもなるし、できないなら日本はこれから変わることは絶対無理だ。
個人で責任を取るという意識がない旧日本と同じ体質だからだ。
「わかりました、それは約束します。僕の責任で、僕を信用してください」
簡単に言ってくれた。本当にいいのか、まいったな、仕方ない。
これも『なるようにしかならない精神』でやってみますか。




