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皇居へ

 寝ていると外から爆音が響いた。

 驚いて外に出てみると、向かいの公園にヘリコプターが着陸しようとしていた。

 近所の人たちも次々と出てきている。母親もドアの後ろから覗いている。

 僕はもしやと思いヘリコプターに近寄って見ると案の定、昨夜に電話してきた李さんが降りてきて、僕を見つけると手招きをした。


 「早くオオタケサン、準備は出来ていますね乗ってください」


 「いやー何してるのさ近所迷惑だろ、ちょっと待っててよ荷物を取って来るから。車で来ると思っていたよ」


 「三沢の米軍基地から来たんですよ。どうせヘリで向かうんだから、このほうが合理的でしょう」


 「そうだけどさ・・」


 そう言って急いで部屋に戻り荷物を背負って、母親に「昨日言ったように今から出かけてくるから」と言い残し、あたふたとヘリに乗り込んだ。

 母親も「あ・・ああ、行ってらしゃい・・」と言ったが呆けている。

 はやく離陸しないといつまでも騒がしいままだし、後で母親が近所に怒られるかもしれない。

 だいたい今何時なんだよ、四時過ぎじゃないか。普通はまだ寝ている時間だわ。


 「李さんちょっと早すぎないか」


 「相手の隙を突いて動くにはこういうのが最適なんですよ。ちゃんと言ったじゃないですか、早朝に行くって」


 「そうだとしても爆音を出したヘリが来るなんて誰が予想するか!」


 「いいんです、これでオオタケサンが連合国の保護下に入ったことが速やかに伝わることになるでしょう。それに行き先は東京ですから、ヘリじゃないと無理です」


 「東京だって?出てきたばかりだぞ。なんですぐ戻らなきゃならないんだ。ここまで来るのに大変だったんだぞ」


 「そんなこと言っても仕方ないでしょう、皆さん待っているんですから観念してください」


 李さんはそう言って僕にパラシュートを渡した「念のために」

 何が念のためだ。僕は騒ぐのをあきらめておとなしく座っていることにした。



 「オオタケサン、そろそろ着きますよ」


 外を覗いてみるとスカイツリーが見える。上から見ることになるとは思っていなかったが、僕が住んでいた辺りはどこかなと探してしまった。

 上から見た東京は一面が灰色になっていた。ビルのコンクリート、アスファルトの道、川もも何もかも区別がつかないくらいだ。

 ヘリはスカイツリーを右手に見ながら皇居に着陸した。

 李さんに促されてヘリを降りると数人が並んでいた。お出迎えのようだが、見たことのある顔触れが揃っている。

 向こうはスーツを着てピシッとしているが僕はTシャツにハーフパンツにバックパック姿。

 なんだか格差を感じてしまったが、僕は呼ばれたんだから少しは堂々としようと思った。

 Tシャツで堂々というのもおかしなあれだが仕方ない。

 近づいてきたのは元北海道知事の大海さんだ。右手を僕に向けて差し出しながら笑顔で握手を求めてきた。


 「初めまして大竹さん、お会いできてとてもうれしいです」


 「あ、どうも、こちらこそ」


 僕は少し緊張してしまった。庶民なんだから仕方ないだろう。だいたい周りにいるのは元東京都知事の大池さんだし、他も昨日ユーチューブで見た元知事達じゃないか。

 佐倉さんは見当たらないな、超有名アイドルに会ったら丸山家の人たちに自慢するんだけど残念だ。


 「早速ですが中に入って朝食でも食べながら話しましょう」


 僕は皆さんに導かれるように一緒に歩いた。

 でもここは皇居だよな、入っちゃっていいのか、いいんだろう。もう知らん。

 深い絨毯が敷かれた廊下を進むと、すでに用意されていた部屋に入った。

 天井が高く広い部屋だ。テーブルには白いクロスがかかっている。

 ホテルの宴会場を最高級にしたといえばいいだろうか。

 僕が促された椅子に座ると、皆が揃って座り出した。壮観な眺めだ。

 隣には李さんがいるので少しホッとしている。


 「いやーこんなに早く大竹さんとお話をすることができるとは思っていませんでした。

 僕はだいぶ前から大竹さんを知っていまして、ぜひお礼がしたかったんです」


 大海は少し興奮しているようだった。


 「本当でしたら選挙が終わってひと段落したら、大竹さんの都合がよい日にゆっくりとお会いしたかったんですけど、急にそういうことができなくなってしまいました。

 慌ただしくなってすみません」


 大海は会釈をしてすまなそうな口調で話した。


 「晴天の霹靂とはこういうことを言うんですかね、初めての経験でしたから。

 自宅の目の前に軍用ヘリが降りてきて搭乗し、そのまま東京にとんぼ返りでしたから。

 僕は東京で働いていたんですが、十日以上かけて実家に帰りついたのに、わずか数時間。

 しかも連れて来られたのが皇居というんですから、なんなんだですよ」

 

 大竹は顔を少し歪めつつも笑顔で答えた。


 「皇居は現在アメリカ軍に接収されているんですよ。じゃあなぜ僕らがここにいるのかというとですが、ここが日本で一番安全なところだからです。

 ご存じだと思いますが、僕たちは昨夜に新しい政策集団をつくって古くて陰湿な常識がはびこる日本を新しい日本に変えて女性を始め弱者も誰もが良質な生活ができるようにすると宣言したのです。

 ですが、そんな旧体制に反抗するようなことをすれば当然反発をされるのは必須です。

 しかも相当な力を持ったところから妨害が来るでしょう。

 間違いなく命も狙われるでしょう、敵も命懸けですから。

 いくらボディーガードを付けたとしても防げないでしょう、家族や関係者を含めれば大人数になります。

 そこで皆がここに住めば全てが解決します。アメリカ軍は僕らの味方ですから。

 選挙に勝ってしまえば、政府関係者となりますからそれなりに守ることができますが、今の僕たちは一般人ですので。

 ただネットを安定的に繋いだり、選挙の準備には大阪などがいいので、仕事は往復になっています。それこそヘリですけど、僕らも慣れていませんから」

 

 大海さんはそう言っているが、それは慰めているのか自分のほうが大変なんだというマウントを取りに来ているのかわからないが、そのまま同情しているんだということにしておこう。

 

 そうこうしているうちに全員に朝食が運ばれてきた。

 まさにザ、洋風のメニューが並んだ。

 バターロールが各所に山盛り、ミルクかオレンジジュースを選び、ハムを焼いたものかオムレツ。

 そこにサラダとフルーツとしてバナナとパイナップルがカットされている。

 食後のコーヒーは各自で砂糖とミルクを入れる。

 足りない人には別にオートミールが用意されている。

 普通に質素だ。もっと豪勢なのを期待していた自分を恥じた。

 まあここは全員が居候の立場だろうから、軍のミリ飯よりはいいかもしれないが、実際の米軍は調理担当がいるのだろうけど、こんな感じなのか。

 でも普通においしいからいいか。海外旅行先で二つ星ホテルに泊まった気分だ。とはいっても二回しか経験ないが。ほとんどは素泊まりの安宿ばかりだったから、これは贅沢な朝食になるのか。


 大海さんからいくつか質問をされた。

 仕事は何をしていたのか、出身は、特技は趣味はとか、合コンか!と言いたくなったが、そこまで突っ込めるほど親しくはなっていないので抑えて真面目に答えた。


 「高校まで八戸で大学は仙台、北海道と東北を職種を変えながら転々として最後は東京のスーパーで働いていました。今は無職です。趣味は貧乏海外旅行と釣り、特技は料理ですかね。

 特におもしろい経験はしていないですよ。なんかすみません」


 「そうですね、ごくごく一般的な生活ですね。むしろ僕のほうが波乱のような気がします。

 でも、そんな大竹さんが日本を変えるきっかけになったんですからすごいですよ」


 「そうなんですよ、そこが僕にもわからないんところなんです。

 なんでなのさ李さん?」


 隣にいる李さんに尋ねた。


 「それは一言で言ってオオタケサンの人間性です」


 と胸を張って言い放った。なんだよ人間性って。

 それとこれがどういうわけでこうなるんだ。


 「つまりですね、僕をはじめてする三人がオオタケサンに惚れているということです。

 男女のあれじゃないですよ、誤解ないように。

 皆が異なった場所と時期にオオタケサンと出会っていました。

 オオタケサンはアジア人差別がある職場で守ってくれたうえに他にも良くしてくれました。

 僕の身内も次第に近くに留学してきて集まって生活していたんですが、一緒に食べたり遊んだりとても楽しかった。もちろん身内も同じです。

 日本に来てすぐ差別に遭い後悔しているところに出会ったのです。この感激は差別された人にしかわからないでしょう。

 僕は帰国して頑張って出世しましたが、そのモチベーションは両国関係を良くするためには権力を握らなければならないと思ったからです。

 それがオオタケサンに対する恩返しだと思ったのです。

 ですがここ数年両国関係は悪くなっていました。僕の力も未熟でした。

 ですが被災しているオオタケサンの話を聞いたら、もしかしてこれはチャンスではないだろうか。

 我が国は覇権を狙っている国です、今回のような計画なら指導部は納得して動いてくれるはず。

 僕が代表責任を持つことで各国の知人と連絡を取り計画を練りました。

 親しい知人です、彼らもオオタケサンに世話になっています。

 僕の考えもすぐに理解してくれて素早く動いてくれたのです。

 それが今回の侵攻計画が速やかに実行にされた理由です」


 なんだーそりゃ!僕は別に困っている人がいるし、親しくなったから楽しく遊んだだけで別に見返りなんて期待していなかった。普通そうだろ。

 李さんがそこまで恩を感じていただなんて知らなかった。

 楽しかったな、あの頃の僕らは。

 久しぶりに当時を思い返した。




 






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