会見
大阪にあるレンタルルームの一室に十人ほどが集まっていた。
ここでユーチューブ用の動画撮影をするためである。
生配信も同時に行い、後半はコメントに応える予定である。
配信時間はネットニュースを通じて前日から予告してある。
ニュースサイト内でも同時に配信される。
ここにいるのは元北海道知事をはじめとする京都会議に集まった面々と他に一人がいる。
撮影スタッフを最小限にし、固定カメラを一台、ハンディを一台を用意した。
どれもユーチューバーが使っているようなものだ。テレビ局のようなものじゃない。
ネットなので世界に同時配信されるから英語の同時通訳を二人だけ別室に待機してもらっている。
元知事たちはテレビバラエティーのヒナ壇のようなセットに座っている。
二段前列の中央には元都知事の大池裕子、右隣に元北海道知事の大海洋、左隣には元アイドルグループの佐倉一生が並んでいる。
普通の会見だと演台かテーブルを前に置くのだろうが今回は用意していない。
視聴者との距離感を無くすためだ。ユーチューバーの配信はどこもそうだろう。
昔だとテレビのニュース番組内で中継としていただろうが、先の災害からさほど時間は経っていないうえに、僕らは既存の政党と異なり選挙資金も限られているしテレビ局は忖度はしてくれない。
むしろ与党にとっては敵対勢力なっている。でもそれも選挙後には逆転して、局のほうから揉み手で近寄って来ることは予想できる。
ここは敢えてテレビ局には貸しをつくらず対等な関係でいるためにもネット配信が最良だった。
意地悪をするなら「局は断ったではありませんか、今さら・・・」と言って拒絶してから条件を付けて付き合うのが駆け引きなのだろうが、僕らは商売人でも代議士でもない、政治とは心を開いて付き合うことという信念があった。
そこが代議士と異なる自治体首長の吟じということなのだろうか。
予定の時間が近づいてきた。今日は月曜の夕方五時半にスタートすることにした。
ニュース番組内でもあるし、夕食が始まる前、退勤したあと、電車の中でも観られるようにした。
特に混雑した電車内では大勢で観ることになるのだろうから、ライブ感が増すことも期待している。
食後に家族との話題の一つに、友人とのやり取りにはちょうどいい時間だと考えた。
生配信は今回だけだが、定期的に動画はアップする。いやスパチャを得るなら生のほうがいいか、反応を見て検討をしてみようと思う。
時間になった。
大池さんがキョロキョロしながら口を開いた。
「もう始まっていますか?皆さん聞こえますか、きれいに映っていますか。
あ、大丈夫そうですね。それでは始めていきたいと思います。
えーここに集まっている方々は関東の元知事達と北海道の元知事、そして何故ここにいるのか不思議に思っていらっしゃる方も多いとおもわれますが、昨年末に解散したアイドルグループ「ストーム」のメンバーだった佐倉一生さんです。
我々は国に捨てられた根なしの民になります。住む場所も仕事も懐かしい記憶も大事な場所も失いました。
天災ですから恨むとしたら神になるのでしょうが、そんな時間はありません。
今や日本は無政府状態になっています。
内閣や与党は大阪、京都に逃れましたが、省庁の官僚はバラバラになりました。
総理大臣が指示をだしても実行する仕組みがありません。
そのせいで東海地方の復興は停まったままです。
再来月には衆参同時の選挙が予定通り行われます。
災害で五輪は中止、関東は消滅しアメリカ軍の管理になり、北海道、九州はロシア、中国などの連合国によって支配されています。
大人である私たちは残りの小さくなった日本を新しく造っていかなくてはなりません。
ここでいう「大人」は選挙権を持っている十八歳以上の人になります。
ご存じのように東京キー局や本社だった報道関係は関西に移りました。しかし民族大移動で全ての関係者が大阪にいるわけではありません。
今までに見切りをつけて田舎に帰ったか、親族を頼って向かったか、あるいは連合国のどれかに移住しようか、北海道、九州も移民は受け入れていますから。
本来ですとテレビ中継でやるところでしょうが、ネットのほうが若い方には届くと考えこのような会見になりましたことを、ネット環境に不慣れな皆さんにはここでお詫びを申し上げます。
ですが、この会見はいつでもどこでも何度でも再生できますから、ネット環境にない方にも見せてください。
ちなみに新聞などの紙媒体も崩壊していますのでご了承ください」
大池さんは一息ついてペットボトルの水に口をつけて話を続けた。
「さて、ここからが本題になります。
我々は根無しの民であることを生かそうと考えました。
つまり地元視線ではなく全国民視線で汗をかいていこうと。
今回の選挙が全国区ということが決まった際に隣に座る大海さんが発起人となって集まりました。
国民の皆さんで知っている方は少ないと思いますが、連合国支配は政権が安定するまでの期間限定になってます。
その代わり、日本が崩壊してしまった機会を生かして新しい法制度や仕組みを連合国に提案して許諾を得れば翌日には施行できることになっています。
ただし効力は国会が正常に安定して審議ができるまでです。そこで正式に決定され条文になります。
もちろんそぐわなかったり批判が多く支持されない新法は廃棄されます。
審議には旧政府で問題があった法も審議されるので、場合によっては、いや必ず抹消します。
そのことをいち早く知った我々はすぐさま公約として新法案と制度を提案をしたいと準備してきました。
それが完成しましたのでここで発表したいと思います」
大池さんは手に持っていた資料に目を落としてから顔を上げ、確かな口調で発表した。
「最初に掲げるのは女性の地位向上、あらゆるジェンダー問題を公正に解決させます。
日本は世界と比べますとしたから数えたほうが早いほど女性が冷遇されています。
日本で起きて発展を阻んでいる問題のほとんどはこれで解決することでしょう。
雇用面、妊娠出産、育児保育、はもちろん生理や更年期はもちろん女性特有の健康面でのサポートを充分に手当てします。
私が女性だからというわけで立案するのはありません。最初は大海さんから提案があったのです。
私は以前から心の底で忸怩としていた悔しさを晴らせるんだと歓喜しました。
これまでは女性がいくら声を大きく発信しても旧態依然とした男性たちが握り潰してきたことを。
しかし今回は日本で一番影響力のある男性から提案があったのです。
後で本人から詳しい話があると思いますが、彼は連合国と侵攻直後から接触してきたので、今では彼の一挙手一投足が連合国と日本の未来に重要な存在となっています。
大池は横の大海を見てから話を続けた。
「さてそれらを実現させるためには大胆なことをしなければいけません。
我々が提案するのは、省庁を一旦全て解体し新しい名称と役割をもったものを設置します。
そして各大臣は全て女性にします、それも三人に。
え、?思っているかと思いますが、例えば仮にですが財務大臣は三人存在するということです。
三人の全てが了解決定しなかれば物事が動きません。
そして下について実務をする官僚にみなさんには今まで通り男性でも女性でも、ジェンダー解決のため女性の登用は多くなるでしょうが過酷な勤めは男性を中心にやっていただきます。
女性は毎月一週間は不調になりますし、人によっては男性が想像もつかないくらい苦しみます。
妊娠出産もあるでしょう、育児も負担になります。
男性も育児に必要ですが、それは各家庭の都合の判断でいいですが、何か問題があった場合は直接関係機関に相談できることにします。
男性のみなさんはこれから頑張ってください。
この提案を「ふざけるな」「男は使い捨てか?」とか女性が優遇されすぎていると文句がでるでしょうが、これまでは男が優遇されてきたのです。
これは女性を優遇することではなく、性差の特質に合った社会をつくりましょうということです。
ちなみに連合国の皆さんも承知しています。許可はまだですが」
横で聞いている僕は、さすが大池さんだ説得力のある話し方だと感心していた。ここの誰よりも長い間政界にいただけのことはある。
彼女に任せて正解だった。
ただ全国で見ている男性たちがとても不安になっている顔を想像できるが。
大丈夫、僕も男性だ。
大池さんのキャラで虐げられる印象をもったかもしれないが、そこは安心して欲しい。
発案した僕が言うのもあれだが、強烈な印象を与えないと重要さが伝わらないと考えたからだ。
特に女性の皆さんには期待できる未来があると信じてもらいたい。
でもこれだけははっきりしている。
男は女性のために生きるのが種としての使命なんだということを。




