八戸で
ようやく八戸に着いた。
八戸駅ではなく隣の駅、本八戸駅にだ。
八戸駅は新幹線と旧東北本線で現在は青い森鉄道になっている駅。ここに到着した人が市内中心部に向かうにはバスかタクシーになるが、県外から来た人はもれなくタクシーを使う。
しかしそれが落とし穴になっている。
タクシーで二十分以上もかかるのだから。
駅前だから宿泊するホテルまでせいぜい数分だと思っていたら、いつまで経っても着かない不安に襲われる。
自分は行き先を伝えたよねと運転手に確認した人も多いだろう。
地元の人はバスか乗り換えで八戸駅から三陸方面の八戸線の列車に乗り本八戸駅へ向かう。
所要時間は一駅だからさほどかからない。
本八戸駅は中心街から海に向かって一キロほど坂を下った先にある小さな駅だ。イメージ的には昔の原宿駅になるかな。
到着した人にとっては目の前に延びる急坂を上がらなくてはいけない。ここからタクシーを使う人もいるくらいだ。
僕の実家は中心街から東に二キロほど向かった住宅街にある。
近くには新井田川が流れている。
僕は荷物が少ないので、数年ぶりに街並みを確認しながら歩いて向かった。
昔ここでたい焼きを食べたなとか、西武系ファッションビルのウオークがあったなとか思い出しながら。
八戸は人口が二十万人以上はいるはずだが、何故か繁華街は十万人規模の都市よりしょぼい感じの印象がある。
郊外型のショップは東西南北に散らばっており、新幹線ができてからは何もなかった駅周辺が開発されている。
それにしてもパチンコ屋が相変わらず多い街だ。
この辺の男たちは酒か釣りかパチンコしか楽しみがない。
水揚げ量が全国有数な漁業の街だからか、全国からの船乗りの男たちには都合がいいのだろう。
製紙工場や発電所、蒲鉾工場なども多く、労働者の街でもある。
だけど青森県は性風俗が規制されているので、そういった目的は隣県の県境にある店にまでわざわざ足を運ぶしかない。タクシーで乗り合って行く男たちはたいがいそれが目的だとわかる。
僕も同じような感じだ。いや風俗のことじゃない。
酒は南部杜氏の土地だから銘酒が多い。
個人的には五戸にある蔵元のが好みだ。
釣りは三陸海岸なので磯が多い、主にアイナメでこの辺りではアブラメと言う魚種がメインのターゲットになる。
釣りに人生をかけているくらいな人も多いほど子供から大人まで熱中している。
そうそう、この辺の釣り餌は全国的に一般的な青イソメよりエラコというものを好んでいる。
僕ら子供は毎回お金をかけられないので、誰かが持ってきたイカの内臓の「ゴロ」をカニ籠に入れて沈め、1時間後に引き上げて中に入っているヤドカリを餌にしていた。
稀にクリ毛ガニがかかっているからやめられない。時間がたっぷりある子供でしかできない遊び方になる。
ヤドカリがかかるまでは針金ハンガーを釣竿で放り投げゆっくり引くホタテ釣りをして時間をつぶす。ほんと時間ばっかりあったな。
今回も時間はたっぷりあるから楽しみだ。
駅から一時間ほどで実家に着いた。
時刻は夕方遅くになっていた。
母親は仕事が終わっているはず。
もう還暦を過ぎているが、現役で車を運転している、しかもマニュアル限定で。
オートマは危ないといって運転したがらない。
大昔は十六歳で軽貨物の免許が取れてそのまま更新されていたようだ。ちなみにハーレも運転できる大型自動二輪も免許証に記載されている。
以前も僕が運転で一緒に乗ったことがあったが、「あんた運転下手だね」と言われてしまった。
それが悔しくて、バイクの免許を取ったり、東京に行くまではアメ車などの大きな車を運転するようになった。
東京では一切車の運転はしていないので本当に下手になっていることだろう。
なんか実家の前にある公園の先が騒がしいことになっている。この辺は駐車禁止の取り締まりが厳しいはずなのに路上には車がたくさん停まっているし、スーツ姿の人が多く出入りしている。
なんだかなと思いながら実家のインターホンを鳴らした。
ドアが開き母親が現れた。
「あーら、あんたお帰りなさい。荷物はそれだけかい、それにしても汚い恰好をしているね。
さっさと家んなかに入んなさい」
そう言うと奥に引っ込もうとしたので呼び止めて訊ねた。
「母さん、公園の向こうがなんか騒がしいけど何をやっているかわかるかい?」
「あーあれね、あそこはね衆議院議長をやっている政治家の選挙事務所だよ。
二、三日前から急にゴタゴタしてきたね。
まあ、私らにはなんも関係がないけど、八戸の経済界には本人も親族も手広く根っこを張っているから会社から何かしら演説を聞いてくれとか、職場に親族が代わりに出向いてくるかもね。
毎回、朝礼の時間にやるから朝から「知らんがな」になるから勘弁してほしいね。
次の選挙は予定通りの日程でやるみたいだけど、ほれ東京と北海道とかがあれでしょ、選挙区の割り振りが全国区になるようだよ。
でもまさか全国を周ることなんてことはできないから東北を集中してやるんだろうね。
だから早めに集まって必死になっているんだよ」
なるほど、そんなことになっていたんだ。
どうせ名簿の上位に入るだろうから大丈夫だろうに、と言いったら。
「何言ってんの、今回は超法規的に全国誰でも立候補できて、得票上位から百人で定員にするそうよ。なんでも侵攻してきた連合国が今回限りに限定しての指示だったらしいのよ。
なんせ選挙区がガタガタになっているでしょう、しかも省庁や官僚も改めて設置するようだから、その気になれば代議士や官僚になれる仕組みらしいのよ」
「いやその気だけじゃダメでしょう、能力も無いと。試験だってやるだろうに」
「ところがね、元官僚だった人は元の省庁じゃなくても希望すれば違う省庁で働くことができるそうなのよ。しかも今までなかった省もできるらしんだけど、そこには民間からも募集するそうよ。
政府組織が崩れているからいっそのこと最初からつくるみたい。
まるで戦後のGHQ支配のときに新憲法をつくったようにさ。
すべてネットで立候補者を募集して投票するみたい。しっかりマイナンバーを使ってだから不正はできない。やっとマイナンバーが役に立ったようね」
なるほど、じゃあ政党とか関係ないということか。新しい党が出来てそこが政権を握るのかな。
国土が半分になったから議員の数は少なくなるのはわかる。そうなると今まで利権を得ることだけが仕事だった代議士は困っているだろうな。
これまで選挙区が関東や北海道、九州だった人はどうするのだろうか。地元とはいっても住んでいるのは東京、下手したら祖父母の時代から東京で、選挙区だけが地元という人も多かろうに。
有権者もよくそういった候補者を当選させるよなと昔から思っていた。
まさに利権だけの選挙だったんだろう。
今回はダメだろうな。
「母さんそれじゃあ先にシャワーを浴びてくるから、確か学生時代の服は残っていたよね」
「押入れの奥でも探してみな、部屋は少しは片づけたけど、どこに何があるかわからないよ」
「じゃあまず服を探してからだな」
大竹は高校を卒業するまで使っていた自分の部屋に向かった。




