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元北海道知事

 元北海道知事だった彼の名は「大海 洋」。

 都内の大学を卒業後に都庁の保健福祉部に配属になった。

 結婚をし三十代に入ってすぐ北海道の地方自治体に出向になった。

 その自治体は東京都が支援をしている特殊なところで、援助の一環で都の職員が派遣された。

 数年後、首長が引退することになり選挙が行われた。

 高齢者ばかりの地元民は若い彼に期待をした。彼以外に残っている若者がいないことも理由の一つだったが、中央のパイプがある利点を生かそうと立候補を促した。

 中央の与党もその話にのっかった。

 若く清廉な人間は広告塔として最適だと考えたからだ。

 選挙活動は圧倒的な優勢なまま、皆の都合通りに当選をした。

 首長を二期務めたと同時に知事選への打診があった。

 もちろん中央からのお達しになる。

 地元出身でもなく総務省関係でもない普通の人間が擁立された。

 彼は最初、とんでもない神輿に乗せられるという恐怖を感じた。

 しかし中央から与党の重鎮が直接面会に来て全面的な協力をすると約束した。

 協力というのは選挙のみならず、財政面や各支援策を優遇するという裏約束も入っている。

 つまり誰がなってもうまくいく仕組みを用意するということだ。


 彼は政府の操り人形になるはずだった。

 しかし運命は彼に見方をした、新型コロナの感染拡大だ。

 日本で最初のクラスターが道内で確認された。

 政府は慌てたが、彼は都庁で保健福祉の専門家だったことを生かし、速やかに対応をした。

 その働きは政府の決断よりも早く、皆が彼が知事で良かったとまで思った。

 その実績を抱えた彼は、中央と対等な首長として実務を行ことができた。

 むしろ中央の不手際の隙を突き、どこよりも先に国の援助を確保した。

 北海道は五輪のマラソン種目を開催するという、東京都と同じ扱いになっている。

 つまり絶対に五輪を開催させたい国としては疎かにできないところになっているのも追い風になっていた。

 知事の任期が半分を過ぎ、次回の選挙に出るか国政に転換するか中央の与党と協議を重ねているときに今回の侵攻が行われた。

 北海道は抵抗むなしく短期間で制圧された。今になってみれば自衛隊とロシアは前もって打ち合わせ済みだったのだから当然だ。

 しかし政権中央はその裏取引は知らなかったようだ。大災害が連続して起こり東京を捨てなければならず、事実上の無政府状態だったのだから仕方ないと言えばそうなる。

 侵攻した連合国側が作戦前にしっかりとした青写真を自衛隊トップに示した。

 被災した東京の現場を知り救助活動を行っていたからこそ、日本の未来を彼らに任せようと思った。

 自衛隊も無抵抗だと国民感情の非難の的になるので最低限の反撃はした。

 でもやっていることは演習レベルのことなので一人も被害者を出すことなく侵攻作戦は終了した。

 道庁で成り行きを見守っていた彼だが、自衛隊側の敗北を知って落胆をした。

 仮にも知事である。道民の命と財産を守る使命がある。

 ロシア代表が面会を求めてきた時、先の大戦時マッカーサーに対面した昭和天皇のことを考えた。

 

 ロシア代表との会談は驚くことばかりだった。

 これまで仮想敵国として対立していた国々が協力して行動を起こしたのだから。

 作戦行動を仕掛けるタイミングなどもそうだが、侵攻後の支配案も説明された。

 その時はにわかに信じられなかったが、東京に集まった各国の代表との会議ではっきりと確信した。

 ロシアから説明された時点で日本はこれまでのような政治と伝統や仕組みは崩れることだろうと確信した。

 崩れるということは新しく築くということにもなる。

 彼は一月後に開かれるという東京での連合国会議の出席を打診されたときに閃いた。

 呼ばれるということは自分が日本代表として招かれていることになる。

 つまり日本の未来の青写真を示せるのは自分しかいないということになる。

 すぐに日本の問題点をできるだけ多く並べ、何度も何度も考えつくした。

 政治の仕組み、少子化ジェンダー問題、雇用派遣問題、経済問題などなどあらゆることを。

 出揃った問題点と解決策がまとまったのは会議の直前だった。

 そして関東を中心とする知事たちを京都に集めてもらうよう連合国に要請した。

 後ろ盾はある。あとは自分が誠心誠意説明するだけ。

 

 彼も「オオタケサン」と同じ、本人が思う以上に周囲に愛される人間だったことが日本にとって幸いだった。

 

 

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