道程3
丸山さんと二人っきりになったところで大人の話を始めた。
最初に口を開いたのは丸山さんだった。
「大竹さんは仙台に着いたらどうするのさ、私らは旦那のマンションに行くけど。
なんなら一緒に来るかい?」
「いや僕は遠慮しておくよ。遠慮という言葉は違うかな、大変なことがあって久しぶりの家族が集まるところに僕がいちゃいけないしね。
だいたいマンションは単身用なんでしょう、入り込む余裕なんかないはずだよ。
声をかけてくれたことはありがたく受け取ります。
あの店で働けたこと、丸山さんと親しくさせてもらったこと、偶然あの場で会えたこと、
家族のように迎えてくれたこと、一緒に炊き出しをしたこと、
みんなで苦労しながら東京を出てきたこと、どれも楽しい良い思い出になりました。
災害で明日も見えない独り者の僕がここまで順調にたどり着けたのは丸山さんのおかげですよ。
本当にありがとうございました」
僕は深々と頭を下げた。
「いやいや大竹さん何言っているのさ、最初にも言ったようにお互い様。
私らも男手が必要だったし、一緒に居てくれたおかげで安心してここまで来れたから。
子供たちも大竹さんのことが好きなようだし。
父親と違う大人の男と接する機会なんてそうそう無いからいい経験になったでしょうし、
なにしろ色んな話をしてくれたから、あの子たちは目を輝かして聞いていましたよ。
むしろここで別れることを悲しむじゃないかなと」
「そう言ってくれるとうれしいです。僕なりに一生懸命馴染もうと思っただけなんですけどね。
良いほうにとってもらってありがたいです。
仙台に着いたらとりあえず宿をとります。旦那さんには一度お会いしていたほうがいいでしょうから食事でもしますか。
まあ僕の送別会ということにして丸山家のおごりで!」
冗談ぽく言うと丸山さんは満面の笑顔で
「まかせない!もちろん旦那の財布から出させるから私は全然かまわないし大歓迎。久々においしいものを食べに行きましょう」
お互い笑いあって
「ほんとですか、いやー正直いうと僕の全財産も残り少なかったから良かった。
最後まで丸山さんには感謝しきれないですよ。
何を食べに行きますかね、中華か焼肉がいいな」
「いや!おごってもらうとわかったとたん本性を現したね。
私も同じ感じかな、子供たちにも聞いてみるけどたぶんどっちでもいい思うから、
旦那の財布の中身次第かな」
子供たちが戻ってくるまでメニュー談義は終わらなかった。
仙台に着く頃には陽が沈みかけていた。降りる時も貨物線で、線路を何本も渡ってホームを目指して行く。
改札は二階になっているようだ。旦那さんとの待ち合わせは中央玄関付近にしたようで、まっすぐ歩いてすぐだった。
向こうでこちらに手を振る男性がいるのであの人なんだろう。
丸山さん達は急ぐこともなく近寄って行く。
旦那さんは笑顔で僕らを迎えてくれた。
丸山さんをねぎらい子供たちを抱きしめ、秀明君だけだったのは仕方ないか。
最後に僕を紹介してくれた。
「こちら大竹さん、職場の同僚で今回もいろいろ助けてもらった恩人なのよ!」
少し大げさ気味に言ったので困惑したが
「どうも初めまして大竹といいます。奥様とは勤務先の店が同じで、僕は食品担当をしていました。
実家が青森の八戸なので一緒についてきてしまいました。
告白しますと、最後の二日間ほどご自宅に泊めてもらいました。ご主人のパジャマもお借りしたことも白状します」
「はいはい聞いておりますよ、僕の着古しのパジャマで申しわけない。お気に入りはこっちに持ってきているんですよ。
女子供しかいない家庭で、大竹さんがいることによって僕も安心していられましたから。
こちらこそ感謝しております。ありがとうございました」
旦那さんは頭を下げて僕に握手をしてくれた。
「お父さん、言ってなかったけど大宮までの旅費は大竹さんがほとんど負担してくれたのよ。
私ら現金を家に置いていなかったから、本当に助かったのよ。
だからこれから大竹さんと一緒に食事会をしようと思うから、あなたいい店を知っていたら紹介してくれない?」
「ああもちろん、そうだな何が食いたい?」
「僕は焼肉がいい!」と秀明君。
「じゃあ焼肉だな。みんなもそれでいいかい?」
もちろんみんな大賛成。繁華街の国分町で冷麺も食べられる焼肉店へ地下鉄に乗って向かった。




