8.定例会議(side ジョナス)
当家での夕食会の翌々日、ボルカトール帝国帝都アスの皇居では定例会議が行われていた。
「皆様、皇帝陛下がいらっしゃいました。」
宰相ヘーゼル=ネオラール=アヴィラムの声でその場にいる宰相以外の11人の貴族が一斉に跪き、首を垂れる。やがて衣ずれの音とともに1人の男が現れ、玉座へと近づき、腰を下ろした。
「みな、楽にせよ。」
その声でようやくその場の貴族たちが頭を上げる。
ボルカトール帝国第62代皇帝アラン=ネオラール=ボルカトールとはこの男のことだった。年は30代。大国の国政を担うには些か若い年齢だと思っていたが、彼の聡明さは中々のものだった。
「今回の定例会議では、通常通り、辺境伯からの近隣国の動向に関する報告をお伝えし、各貴族の自領および周辺領の領政に関する報告を陛下にしていただきます。その後、これからの帝政について話し合っていただき、陛下からお言葉と帝政に関する詔を出していただきます。最後に今回はサンクトコバル筆頭子爵よりある貴族の男爵への陞爵推薦をいただきましたので、それに関して賛成か、反対かを投票していただきます。」
「皇帝陛下、質問をお許しください。」
「許す、申してみよ、警務卿グランド公爵。」
「ありがとうございます。内務卿、その貴族とは一体?」
宰相が口を開いた。
「…この場では『内務卿』ではなく『宰相』とお呼びください。その貴族とは、サーティカン家です。」
「何?サーティカン家だと?陛下に刃を向けた、謀反貴族ではないか!陞爵など許されるわけなかろう。」
陛下と4大公爵家、そしてサンクトコバル筆頭子爵と私以外の他貴族がざわつく。まぁ、旧帝国史を知らなければ当然の反応だろう。
「僭越ながら、私もグランド公爵閣下と同じ意見でございます。」そう言ったのは、グランド公爵家の分家筋にあたるサンテルガラン筆頭雄爵だった。
「口を慎みたまえ。陛下の御前であるぞ、警務卿、サンテルガラン卿。」
「…フェンラー公爵の言う通り、あまりこの場で騒ぐのは感心せんな、警務卿。」
そう仰ったのは、フェンラー筆頭次席公爵とシャルセン公爵である。
「し、しかし…」
「『警務卿』、サーティカン家陞爵については後ほど十分に時間を設けますので、今はお静かに願います。」
グランド公爵は悔しそうに顔を歪めた。
グランド公爵家は元は筆頭雄爵家。帝国建国時から公爵として君臨している他3家からは完全に見下されている。それそこ先ほどの会話が証拠だ。この会議は陛下も出席されている。「卿」というのはあまりふさわしくなく、本来なら「家名」「爵位名」に「閣下」をつける必要がある。しかし、相手が明らかに格下の場合のみ「卿」で呼ぶことができる。また同列の場合を「閣下」つける必要はないが、「卿」と呼ぶことも相応しくない。にもかかわらず同列なはずのグランド公爵家を他3家は「役職」に「卿」という最も軽易な敬称を用いた。
私は思わず、ため息をついてしまった。
4大公爵は特に国にとって重要な4つの機関、内務省、外務省、軍務省、警務省の長官を勤めている。そんな国の要職中の要職についている彼らがこんなくだらない意地の張り合いをしかも陛下の御前で…。
その後、会議は順調に進み、いよいよ最後のサーティカン家陞爵投票に移った。
「まずは、サンクトコバル筆頭子爵、推薦理由をお聞かせ願えますか?」
「了解いたしました、宰相閣下。今回、私がサーティカン準男爵家の男爵位陞爵を推薦いたしましたのは、現在の当主、カムリール卿の政務能力を評価したためです。彼はラフワー筆頭次席子爵領の領主代行として領主とは違い様々な権限制約がある中で領地収入を3倍にまで増やしました。また3大高等学院の一つ、高等法政科学院を首席卒業した経歴も持っております。そして、彼の子息であり、次期当主のシムレクト卿は歴史上初のすべての魔法属性に適応している『全属性適性者』でございます。それらを踏まえ、今回推薦させていただこうと考えた次第でございます。」
ここからは私の力量が親友の命運を握っている。そう実感した私は再び気合を入れ直すのだった。
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