7.貴族の資質
今日は趣味のサイクリングを楽しみました。途中友人の通う高校の前を通ったのですがかなり険しい山道で疲れました。あの道を通って毎日学校の自転車で通っている友人はすごいなぁと思いました。
昨日は遅くまで子爵邸にいたので、帰ってきたのはもう直ぐ日付が変わろうかという時間帯だった。大人ならともかく、6歳児にとってはものすごく遅い時間である。帰宅直後に寝たが、やはり疲れが残っている。
そんな中、僕は父上に呼び出された。正直、昼間に父上に呼ばれることは滅多にない。何か問題でも起きたのか…僕は少し震える声で父上に入室の許可を取る。
「入りなさい。」
父上の落ち着いた声色から何か怒られることはないと感じ、少しホッとする。
「失礼します、一体どうしたのですか?」
僕は父上に尋ねた。彼はまっすぐに僕の目を見ながら、
「今日はお前に問いたいことがある。思ったことを正直に答えて欲しい。分かったかい?」
「分かりました。」
僕は緊張して生唾を飲む。
「……貴族とは何だ?」
僕は予想していなかったその問いに少し驚く。が、父上はきっと僕が次期当主にふさわしいかを判断したいのだと思い、かつて自分が思っていたことをそのまま答えた。
「…民に仕えるものだと考えます。」
父上は少し意外そうな顔をする。
「…もう少し詳しく。」
「かつて私たちには『貴族』『平民』といった区分はなくただ『人間』という種族名しかありませんでした。しかし、ご先祖様が立派な働きをして、為政者としての権力を得ました。ただ、凄いのはその時の当主であって今の当主が残したものではありません。しかしその力をご先祖様から託された以上、私たちには少しでも民の暮らしを良くする義務があります。しかも私たちが報酬として受け取っているのは民が一生懸命働いて稼いだお金の一部です。私たちの生活は民によって成り立っている。以上のことから貴族は民に使えるものと考えます。」
父上はしばらく黙っていたが、やがて微笑みながら
「中々おもしろい。『民に仕える』か…。今の貴族の大部分はそのような意識は頭の片隅にもないだろう。そう考えられているだけで、私はとても誇らしい気持ちになる。お前には先に話しておくが…近々当家は男爵に陞爵されるだろう。当然、男爵になれば領地を持ち、そこを収めることになる。そして、国政にも関わることになる。力を持った人間はかつての自分の清い理想や志を忘れ、その身を守るために、その力を保持するためだけに平気で醜く愚かしい行いをする。だから、次期貴族家当主として、何よりも父親としてお前に告げる、決して…決して、今のその考えを忘れるな。領主として、為政者として常に民にとって最善の行動をしなさい。分かったかい?」
「必ず、そのお言葉通りにいたします。」
「…、ならもう下がっても良い。」
僕は父上の政務室を後にする。男爵になれば当然ここにはいられなくなる。ボーダンやレーナスと毎日会うことはできなくなるのか…。まぁ、あと1年すればボーダンも僕も帝都の初等学院に通うし、もう1年すればレーナストもまた会えるようになるとは思うが…。なんだか、少し寂しい気持ちがした。
しかし、いきなりどうして陞爵の話が持ち上がったのだろう?父上の政務能力が評価されたのだろうか?そういえば、昨日、ジョナス様が
「明後日の定例会議の前にサンクトコバル筆頭子爵会合する。だから、またしばらくの間、領地を頼む。」と帰り際、父上におっしゃっていたのを思い出した。今日、サンクトコバル筆頭子爵に陞爵推薦を依頼するのならば、どうして父上は陞爵を確信しているのだろう?僕がこれまで読んできた帝国史の中で推薦によって陞爵された貴族は3家しかなかった。だから滅多に推薦が通ることはないはずなのに…。
僕は父上の言動に疑問を抱きつつ、「まぁ、考えてもわからんことはわからん」ととりあえず考えることをやめて、書庫でこないだ見つけた元の帝国史の続きを読もうと、自室に戻るのだった。
今日はもう1話投稿します。明日も2話投稿して明後日から11日まで更新ストップさせて下さい。
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