1 プロローグ 丸山 和人の過去
初投稿です!
良かったら見てください!
放課後の教室。
昼間の騒がしさが嘘みたいに静まり返った空間に、夕日だけが差し込んでいる。
窓際の席に立つ少女の髪が、赤く染まっていた。
漆畑 楓。
学年でも有名な美少女。
そんな彼女に向かって、俺――丸山 和人は震える声を押し出した。
「……好きだ。付き合ってくれ」
言った瞬間、心臓が嫌になるくらい跳ねた。
手汗で指先がじっとりと濡れている。
漆畑は何も言わない。
ただ静かに、俺を見ていた。
その沈黙が怖かった。
数秒しか経っていないはずなのに、何分にも感じる。
……やっぱり、無理だったか。
そう思った。
漆畑は人気者だ。
明るくて、可愛くて、誰にでも優しい。
対して俺は、どこにでもいる普通の男子。
釣り合うわけがない。
でも、それでも告白しなきゃいけなかった。
なぜなら――
半年前。
俺は、彼女に告白されていたからだ。
◇
冬の放課後。
屋上に吹く風は冷たく、息は白かった。
「……好きです。付き合ってください」
そう言って頭を下げた漆畑の顔は、真っ赤だった。
最初は、ドッキリだと思った。
だって俺たちはほとんど話したこともない。
クラスが同じになったことすらない。
そんな相手から突然告白されて、信じられるわけがなかった。
それでも嬉しかった。
男として、嬉しくないわけがない。
だけど――俺には好きな人がいた。
ずっと目で追いかけていた女子。
笑った顔を見るだけで、その日一日が少し嬉しくなるような存在。
だから俺は迷った。
このチャンスを逃したら、一生後悔するかもしれない。
漆畑と付き合えば、きっと楽しい未来が待っている。
そう思った。
だけど最後の最後で、頭に浮かんだのは“好きな子”の笑顔だった。
その瞬間、俺は気づいてしまった。
このまま頷いたら、きっと後悔する。
だから――
「ごめん」
俺は、漆畑の告白を断った。
その瞬間。
漆畑の顔から血の気が引いた。
「……どうして?」
「他に、好きな人がいる」
言うしかなかった。
誤魔化したくなかった。
すると漆畑は俯き、肩を震わせた。
泣いているんだとすぐに分かった。
胸が痛かった。
最低だと思った。
勇気を出してくれた相手を、自分の都合で傷つけたんだから。
「ごめん。じゃあ――」
立ち去ろうとした時だった。
「待って!」
腕を掴まれる。
振り返ると、涙で目を真っ赤にした漆畑がいた。
「……私、諦めないから」
「え?」
「絶対に振り向かせる。今好きな人なんか忘れるくらい、私を好きにさせる」
涙声なのに、その目だけは真っ直ぐだった。
そして彼女は、俺の手を両手で包み込む。
「だから次は、丸山君から告白して」
そう言い残して、漆畑は走り去っていった。
◇
それから漆畑は、本当に変わった。
毎朝の挨拶。
昼休みの手作り弁当。
放課後の帰り道。
最初は戸惑った。
でも、少しずつ彼女といる時間が当たり前になっていった。
彼女は可愛かった。
優しかった。
そして何より、真っ直ぐだった。
気づけば俺は、彼女を探していた。
好きになっていた。
だから今日。
俺は覚悟を決めて、告白した。
――漆畑から告白された、この教室で。
「……好きだ。付き合ってくれ」
すると漆畑は、俯いたまま肩を震わせた。
泣いてるのかと思った。
だけど違った。
「……ふふっ」
小さな笑い声。
「え……?」
「ねぇ丸山君」
ゆっくり顔を上げた漆畑は、笑っていた。
「本気で、私がまだ好きだと思ってた?」
頭が真っ白になった。
「……なに、言って」
「だって面白すぎるでしょ」
漆畑は堪えきれないように吹き出した。
その笑い方は、俺の知ってる彼女じゃなかった。
「必死にお弁当食べてさ。ちょっと優しくしただけで勘違いして」
「……嘘、だろ」
「嘘じゃないよ」
彼女は笑う。
残酷なくらい、楽しそうに。
「振られた時、ほんと惨めだったんだから。だから決めたの」
漆畑は俺を見つめた。
その目には、もう優しさなんてなかった。
「絶対に同じ気持ち味わわせてやるって」
呼吸が止まりそうになる。
じゃあ、あの日から全部――?
「……全部、演技だったのか?」
「そう。楽しかったよ?」
世界が崩れる音がした。
漆畑は俺の顔を見て、さらに笑う。
「うわ、泣きそう」
「……っ」
「男のくせに情けな」
その言葉が、胸に突き刺さる。
「じゃ、これで終わりね」
漆畑は鞄を持つと、教室の扉へ向かった。
そして最後に、一度だけ振り返る。
「次は、もっと人を信じた方がいいよ」
笑顔だった。
初めて告白してきた、あの日と同じ笑顔。
だからこそ、余計に苦しかった。
扉が閉まる。
静まり返った教室に、俺だけが残された。
夕日が、やけに赤かった。
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