フランシタイハモウイラナイ
色々と気持ち悪い描写あり。
あいつはね、僕の事なんて見えてないんです。
あいつが見てるのは彼だけだから。
それ以外のものは目に入ってないんですよ。
でも僕はそれでいいと思ってました。
温かく見守っていこうって決めたんです、僕はあいつが大好きだから……。
あいつは本当に彼の事を愛していました、心の底から。
でも最近、彼があいつに冷たい態度をとるようになったんです。
あいつがどんなに話しかけても無視するんです。一言も返さないし、あいつの目を見ようともしない。
いつも明るく振る舞っていたあいつも次第に暗い顔をするようになって……。
僕はそんなあいつの姿を見てられませんでした。
だから思い切って彼にどういうつもりなんだって問い詰めたんです。
彼は答えませんでした。
ただずっと黙ったまま。
そしたら僕、頭に血が上っちゃて。
彼の事、思わず殴っちゃったんです。
だっておかしいじゃないですか。
あいつは本気で彼の事を愛しているのに、それに応えないなんて。
一度たがが外れたら、後はもう感情に身を任せる事しかできませんでした。
僕はひたすら彼のことを殴りました。
拳からみしっと骨が軋むのが伝わって、顔の皮膚がずるずると剥がれ落ちて、異臭とともに汚い汁が飛び散って、殴る度に気味の悪い虫が潰れる感覚がして。
そこで僕はやっと気づいたんです、
彼がすでに死んでいたことに。
あいつが彼を殺したんです。
僕の勝手な憶測ですけど。
おそらくあいつは彼がすでに死んでいる事に気がついてないんです。
それは彼の死を受け入れたくないからか、もしくは自らの手で彼を殺してしまった事実を認めたくないからか……どっちにしても僕にはわかりません。
それはさておき彼の死体ですが、僕が殴ったせいで顔はめちゃくちゃになってしまったんです。
もともと腐敗が進んでて酷い事になってはいましたが、それにしても今の惨状よりはましでした。
いくら何でもこれはさすがにまずいと思って……僕もそうとう参ってたんですね。
とにかく死体を隠そうとしました。
死体の隠し場所に困って右往左往していたら、あいつが帰ってきました。
言い忘れてましたが、そこはあいつの自宅だったんです。
僕は悪あがきを止めて、壁にもたれて座り込みました。
もう駄目だとわかっていましたから。
大人しくあいつに殺されるつもりでした。
あいつは僕の姿に目もくれず、彼の死体へ駆け寄りました。
気味の悪い腐りきった死体に寄り添い、優しく語りかけ、口付けました。
僕は悔しかった。
あいつの目には僕なんか映ってなくて、謝る事も殺される事も許されない。
僕はそっとあいつの名前を呟くように呼びました。
僕を見て。
返事をして。
触れて欲しい……。
そう心から願った。
するとあいつは弾かれたように振り返りました。
そして彼の名前を確かめるように呼んだんです。
僕の顔を見ながら。
僕は、もう一度あいつの名前を呼びました。
あいつはもう一度彼の名前を呼んで、そして。
そんなところにいたのかって、僕を抱きしめてくれました。
僕はその瞬間から生まれ変わりました。
あいつの愛する彼に。
僕は手に入れたんです。
愛するあいつの温もりを。
愛しい声を、眼差しを、心を。
あいつと愛し合っている最中……彼の死体が視界の隅に入ったその瞬間、僕は幸せな気持ちで満ち足りていました。
やっと僕は幸せを手に入れる事ができた、愛しい人を自分のものだけにできたんだって。
そろそろあの死体を片付けてもいい頃かもしれませんね。
もう必要ないですから。
あいつが愛しているのは僕なんだから。
長話してすみません。
僕はもう行きますね。
あいつが家で待ってますから。
あ、この事は秘密ですよ?
僕はあなたの事を信用しているから話したんです。
約束してくれますよね?
僕、見ての通り非力ですから。
死体を二つも処理するのなんて大変じゃないですか。
それじゃ。
約束、忘れないで下さいよ?
虫とかほんと気持ち悪いです。評価・感想よろしくお願いします。