アイノダイショウ
残酷描写あり。
憎い。
心の底から憎いと思う。
僕は彼のことを誰よりも愛している。
なのに彼はそんな僕に見向きもせず、他の男ばかりを目で追っている。
実の父親を。
何故だ?
なんでよりによってあの男なんだ?
どうして僕じゃだめなんだ?
僕はこんなにも君を愛してるのに。
だから僕は邪魔者を消すことにした。
「ぎゃああぁぁぁ!!」
憎い男の断末魔。
僕の鼓膜に心地好い揺らぎを与えてくれる。
泣け。
叫べ。
もっともっと苦しめ。
彼は僕のものなのだから。
ぎこっ、ぎごっ、ぎ、ぎこっ!
「ぐあああっ!やめろやめろやめろーーーあぁああがあぁぁーーーー!!」
ぎこぎごギコきこぎこっぎこぎこ、ッぎ、ぎこぎこぎこぎごぎこッ!
細切れになった男の指が床に転がる。
一本一本の指を関節ごとにノコギリで切り落とす。
少しずつ、少しずつ。
じわじわと体を切り刻まれる苦しみを味あわせる。
殺されるよりも苦痛を感じる、地獄の責め苦。
「あーーーっはははぁっ!痛いか?痛いだろ!知るかよ、自業自得なんだよ!あいつを愛していいのは僕だけなんだよっ!」
ぎこギコぎごギコきこぎこぎこギコっきこぎ、ぎぃこぎこぎこぎこギコぎこッ!
「邪魔ばっかしやがって、いつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつも!!幸せだったか!?幸せだったろうよ!幸せ?なんだよ、馬鹿にして、うぜーんだよ死ね死ね死ね死ね死ね!死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね、
がんッ!
うぇ、ええ?
なんだ?
頭が、
「何でかな」
そう呟くのは、愛しい君。
なんでここに……。
てか、僕どした?
頭、痛いんだけど。
彼の手には石が握られていた。
あ。もしかして、それ凶器?
そっかぁ、僕頭殴られたのか。
あれ?
なんで。
「何でこんな事になったんだろうね。俺、お前のこと好きだったのに」
え、マジ?
「父さんの次に」
やっぱりそうなんだ。
「あぁ……父さんにこんな酷いことして。どうして?どうしてこんな事したんだよ、お前とは一緒友達でいたかったのに」
違う……違うんだ。
お前に嫌われたくなんかない。
こうすれば君は僕だけのものになるはずだったんだ。
違う……違う……、違うんだ。
「こんなのおかしいだろ……?」
僕は、間違っていたのか?
「……父さん、死んじゃった?」
男はすでに事切れていた。
彼が肩を揺さぶっても、もうびくともしない。
モノみたいにぐらぐらとするだけ。
「愛してる、父さん……」
そっと男に口付ける。
そして、再び僕のもとまで歩み寄ってきた。
あぁ、僕は殺されるんだな。
「ねぇ……俺のこと、好き?」
突然、そんな事を聞いてきた。
妙に艶のある、熱っぽい吐息のような問い掛けだった。
「好きだよ」
「本当に?」
「あぁ」
「俺に愛されたい?」
「……あぁ」
「だったら、」
僕の顔を、そっと両手で包み込みながら。
彼はこういった。
「父さんになってよ」
「父さん!行ってきまーす」
「あぁ、行ってらっしゃい」
眩しいほどの笑顔で“息子”は元気よく家を飛び出して行った。
慌ただしい朝のヒトコマ。
何とか一段落ついた。
ふっ、と肩の力が抜ける。
「う゛ぅっ……!」
途端、急激な吐き気。
不快感が喉を競り上がってくる。
僕はすぐさまトイレに駆け込んだ。
「うっ……げぇぇっ、げほっ……」
胃の中に収まったばかりの内容物を吐き出す。
胃がひくひくと痙攣している。
「はぁ、はぁ……うぅ……」
すべてを吐き出しても、その不快感は拭いきれない。
腹の中でまだ“それ”が残っていて、あたかもうごめいているような錯覚すら覚える。
ああ、僕はいつまでこんな事をしなきゃならないんだ。
ぎしッ、
「とーさん」
“息子”が背後にいた。
「だめだろ?せっかく食べたのに吐いたら」
笑顔。
壊れた笑顔。
それを張り付けたまま、“息子”は言う。
「約束、しただろ?」
どうして。
何でこんな事に。
どうしてどうしてどうして。
何故なんだ。
こんなはずじゃなかったのに。
嗚呼。
「大事な父さんの肉なんだから、吐いちゃ駄目だろ?それを食べなきゃお前は父さんになれないんだから」
愛する父さんに。
父親×息子←親友とか、かなりツボです。