アイジョウヒョウゲン‐前編‐
R15です。暴力的なシーンもありますので、ご注意を。
俺は強い。
この学校で俺に逆らう奴はいねぇし、生徒どころか教師すら俺と関わりたがらない。
俺の親はそこそこのお偉いさんで、うちの親に学校は大きく出れない。
だから、俺はやりたい放題なわけ。
生意気そーな奴は片っ端から潰したし、何より俺は喧嘩で負けたことがない。
俺に逆らう奴は、いなくなった。
俺は王様にでもなったつもりでいた。
で、その王様に歯向かう奴がいなくなったってことは、当然喧嘩相手がいない。俺は力を持て余した。
通りすがりの奴に喧嘩を吹っかけたりした。
殴る、蹴る、叩く、
暴力暴力暴力。
足りねぇ、ぜんっぜん足りねぇ。
もっと刺激が欲しい。
何かねぇのかよっ!
そんな時、俺は奴の存在を知った。
その日、俺は珍しく授業を受けようと思った。
周りが俺に怯える姿は見てて気分が晴れる。
で、教室に入ろうとしたら、そいつと俺はぶつかった。
同じクラスの夏森だ。
もともと真面目に授業に出てなかった俺は、そん時初めてあいつの姿をまともに見た。
「…わっ、い、伊田君!?ご…ごめんなさいっ!」
ぶつかったのが俺と分かると、あいつは慌てて謝った。
おどおどして細っこくて、なよなよした女顔の奴。
なんかわかんねぇけど、あいつの顔は見てると苛つく。
「す、すみませんでした!本当にごめんなさい……!」
あいつは一目散に逃げて行った。
「んだよあれ、逃げやがった。謝っただけで許されると思ってんのかよ」
「あー…あいつ、夏森だろ?全然目立たねぇし印象薄いよな」
走り去る夏森を目で追う吉井と、思い出したように言う本村。
この二人は俺の取り巻きみたいな奴らで、いつだったかわからねぇがつるむようになった。
そんな事よりだ、俺は面白い事を思いついた。
くっだらねぇ毎日を楽しく過ごせる、刺激的な遊び。何も喧嘩だけが暴力じゃねぇ。
「……なぁ、俺面白い遊び思いついたんだけどよう、お前らもやらねぇ?」
「え、何?」
「聞かせろよ」
吉井と本村は乗り気な様子で聞いてきた。
こいつらも俺と同じで、刺激に飢えてる。
俺はにやり、と口元を歪めた。
「おい、夏森」
読んでいた文庫本から顔を上げた夏森は俺の顔を見ると、顔を強張らせて青ざめた。
「い…伊田君……?」
「ちょっとさぁ、顔貸せよ」
顎で着いてくるように促すと、おろおろ、がたがたと夏森は椅子から立ち上がった。
教室を出て、廊下を歩く。
「あ、あの、どこに……?」
夏森が不安げに聞いてくるが、俺はそんな奴に目もくれず歩く。
吉井と本村がおかしそうに笑う。
夏森はとうとう俯いてしまった。
一旦校舎を抜け出す。
俺達は旧校舎に向かった。鍵はかかってはいるが、針金一つで開ける事が出来る。
そのため簡単に侵入でき、俺達のたまり場には最適だった。
キーンコーンカーンコーン……
始業開始のチャイムが鳴った。
途端に夏森が慌て出した。
「伊田君、授業が……」
「あぁ?」
ちょっと睨んだだけで、夏森は竦み上がった。
「いいから入れ」
どんっ、と背中を押すと、夏森はよろけながら校舎の中に入った。
俺達も後に続く。
とりあえず適当な空き教室に入った。
相変わらず薄暗く、埃っぽい場所だった。
だが、悪事を働くには調度いい。
ちら、と吉井に目配せする。
吉井は頷くと、夏森の背中を思いっきり押した。
「うわっ」
突然の事に夏森は声を上げ、そのまま前のめりに床に倒れ込んだ。
そこをすかさず本村が駆け寄り、夏森の体の上に乗り上げて押さえつけた。
「痛っ……何!?」
夏森は何が起きたのかわからず、顔は驚愕の色を浮かべていた。
身を捻り本村の拘束から逃れようともがく、夏森の目の前に俺はしゃがみ込んだ。
「夏森……お前さぁ、友達とかいねぇだろ」
「っ、………」
夏森の目が僅かに伏せられる。
こいつの事はよく知らないが、多分図星だろう。
「だからさぁ、俺らが遊んでやるよ」
夏森の目が見開かれる。
俺の言葉が意味するところが、ただの“お友達”でない事は明らかだった。
「立たせろ」
本村は夏森の腕を掴んで無理矢理立ち上がらせると、後ろから羽交い締めにした。
「やめっ……放せよ!」
夏森の言葉に、こいつもこんな事言うのかと少し驚いた。
まぁ、ただびくびくしてるだけの奴相手にすんのはつまんねぇけどな。
「はなっ……」
ガッ……!
夏森の腹に、容赦なく蹴りを入れた。
「かはっ……!」
夏森の体が倒れそうになるのを、本村ががっしりと支える。
「吉井。遊んでやれよ」
「おう」
吉井は楽しげに、弾むような声で応じた。
「う……やめ、」
夏森の声を遮り、吉井が同じように腹を蹴る。
俺ほどの力はないが、それが続くとたまったもんじゃないはずだ。
一撃、また一撃。
夏森の口から悲痛な悲鳴が上がる。
それが堪らなく気持ちいい。
弱っていく夏森を、俺は笑みを浮かべながら眺めた。
「夏森、これからよろしくな?」
息も絶え絶えの夏森に、俺は最後にこう告げた。
絶望に染まりきった夏森の瞳を目の前にして、背筋にぞくりとした痺れるような感覚が走った。
その日から、俺達の夏森に対する“いじめごっこ”が始まった。
夏森が俺専用のサンドバッグになったせいか、周りの奴らは
「自分じゃなくてよかった」と、我が身の幸せを噛み締めている様子だった。
夏森のおかげで自分達がとばっちりに遇う事が無くなったのだから、そりゃ当然だろ。
その夏森だが、最初こそ抵抗していたのに、最近ではそれがなくなった。
今までは「やめろ」だの「放せ」だの言っていたのに、俺達がそれを面白がると思ってか、今度はだんまりを決め込んだようだ。
どんなに殴られようが蹴られようが、必死で声を漏らさないようにしていた。大した奴だ。
が、そんな事をされてはつまらない。
あの女顔が苦痛に歪むのは俺的には堪らなくいいのだが、もっと悲鳴を上げてくれないと面白くない。
………あ。そうだ。
俺はまたしても面白い事を思いついた。
さっそく吉井と本村に話してみた。
「……まじですんの?」
「別にあいつじゃなくてもいいんじゃね?適当に女捕まえりゃあさ」
「お前ら、ここ男子校なの忘れたか?他校の女捕まえろってか?他で騒ぐと親父がうるせー」
吉井と本村は互いに顔を見合わせ、まだしぶっている様子だ。
「お前らのためでもあんだぞ。ここじゃろくな気晴らしもできねぇからな。あいつそれなりの顔してっし、案外いいかもな」
二人は最後までしぶっていたが、結局好奇心には勝てなかったらしく、俺の言う通り夏森を旧校舎に呼び出した。
旧校舎の、とある空き教室。
すっかりお馴染みとなったこの埃っぽい教室に、俺達と夏森はいた。
夏森は俯いたまま、俺達の出方を待っていた。
「仰向けで横になれ」
俺がそう言うと、夏森はのろのろと言われた通り横になった。
「吉井」
「あ、あぁ」
吉井が夏森に駆け寄り、手にしていた荷造り用の紐で、夏森の両手首を頭上で纏めるようにして縛った。
俺が傍にしゃがみ込むと、夏森は諦めたように目を閉じ、きゅっ、と口を引き締めた。
俺は、夏森の学ランに手をかけた。
いつもと様子が違う事に、夏森が不審げに目を開ける。
わけがわからないという様子の夏森に見せつけるように、ボタンをひとつひとつ外す。
それが終わると、今度はカッターシャツのボタンを外し始めた。
「…え、…な、何」
さすがにこの状況には声が出てしまった夏森を尻目に、俺はシャツを力任せに引き裂いた。
シャツのボタンがぶちぶちと弾け飛び、ぱらぱらと床に落ちた。
夏森が信じられない、というように目を見開く。
「夏森……今日は違う遊びがしたいんだわ、俺」
する、とシャツの間に手を差し入れ、直に夏森の肌に触れる。
「ひっ、あ……」
夏森の肩が震える。
「なぁ夏森……」
夏森の目を見つめたまま、ズボンのベルトに手をかけて外した。
「今日は声、我慢するなよ」
「いやだ、やだっ……ぁあ!」
口元が酷く吊り上がるのが、はっきりとわかった。