次の話へ
「リョーコみたいな女だな」
セントの憎まれ口に、リョーコがわざとらしく唇をとがらせた。
そこにミナが一応フォローを入れる。
「まあ……リョーコの方がマシじゃない? 一応、実害はないし」
「そうよ、私、立ち直れる人にしか精神的ダメージを与えたりしないもの。みんなは選ばれし者だから誇っていいわよ」
「リョーコのタチの悪さは別ベクトルか」
呆れるセントに、ぼくも肩をすくめる。
ひょっとしたらぼくらの知らないどこかでリョーコが糸を引いた"怖い話"が生まれているかもしれない。
「っていうか、今のも痛い話入ってるよね」
ぼくが言うと、ミナは顔をしかめてうなずいた。
「そうなの。ナツキはもっと痛そうに細かく話してたけど、あたしは控えめにしてあげた」
「ミナはナツキの話大人しく聞いてあげたわけ? 口挟まなかったの?」
「だって……別に仲良くないし」
ミナはズバズバ物を言うように見えて、意外と人見知りなところがあることをぼくも知っている。案外学校ではおとなしい子だと思われてたりして。
それにしても今のミナの話は割とぞっとした。ミナに言われた通り、ぼくはあまり女子と関わることが多くない。別に好きな子もいないし、友達とそういう話もしない。
だからこそ、ぼくの知らない教室の隅でそんな刃傷沙汰が起きているかもしれないなんて、考えてしまうと恐ろしい。
好きな人に言われたからってその通り行動してしまうものなんだろうか?
ぼくには分からない。自分の行動は自分で決めたいし、誰かのせいで……しなくちゃいけないことを決められるなんて絶対に嫌だ。
「で、この話でミナが言いたかったのは、『あたしもシンのためならなんでもする』ってこ――」
「違うから! 何言ってんの! 意味わかんない! ばっかじゃない!」
リョーコの茶々に、ミナは突然焦って声を荒げる。
いつもこうだ、何をきっかけにしてか急に怒り出す。だからリョーコに喜んでからかわれるんだろうけど。
「言いたかったのは……クダもいつか刺されればいいのにってことよ!」
で、黙って様子を見てるクダに銃口を向けるのもいつものこと。
クダの方はたいして気にした様子はなく、穏やかな顔でほほ笑んだ。
「指名されたことだし、今度こそ俺が話すよ」