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ミナの怖い話:言いなり

 あたしもセントと同じ、学校にいる子の話なんだけどね。


 アイとユリとルミっていう女子三人組がいてね。

 アイとユリは派手ってほどじゃないけどけっこう声の大きいタイプで、ルミはどっちかっていうと落ち着いた子なの。三人で行動するとアイとユリが二人で前を歩いて、ルミがその後ろにいるって感じ。

 つっても別に仲間外れみたいな上下関係がある感じでもなくて、タイプが違うからそうなっちゃってるのかな。


 ルミは誰といても相手に先を譲るような子なのよ。

 いるじゃん、エレベーターとかで他の人に先に出てもらおうとしてぐずぐずしてる人。ああいうのって、気を遣ってるっていうよりは自分が先に出るのが落ち着かないだけなんだろうけどさ。

 ルミも性格的にそんなふうだってだけ。


 だから、二人と一人に分かれて歩いてても、アイとユリはすぐ振り返ってルミともしゃべるし、ルミも後ろからちゃんと声かけてて、普通に三人仲良いように見えてた。

 アイとユリがふざけて騒いでるのをルミが見守ってるって感じ?


 まあ、あたしはクラス別だからよく知らないんだけど。話したことないし。


 で、三人組っていってもそればっかり一緒にいるわけじゃなくて、まあ普通に他の友達もいたんだよね。

 女子って常にべったりしてる子とかいるじゃん。ホームルームでみんなが大人しく自分の席についてるのに、その子たちだけ一緒に座ってたりして。授業中も目配せしたりスマホ覗いたりしてくすくすやってんの。


 ――ああ、うちの学校はスマホ持ってきてもいいんだよね、親に連絡するためっつって。

 もちろん授業中にさわってたら怒られるし取り上げられたりするけど、まあみんなさわるでしょ。


 でも取り上げるんなら全員取り上げろって思うよね。

 先生ってたまたま見つけた一人だけ見せしめみたいに怒って取り上げてさ、他にもスマホいじってるやついたって絶対分かってんのにそっちはほっとくのよ!


 意味わかんない、最悪。


 ――なによ、そうだけど。

 あたしが取り上げられたの!

 そりゃ返してもらったけどさ、授業中になんでみんなの前であたしだけ怒られなきゃなんないのか意味不明だし!


 ってかそんな話じゃなくて、アイとユリの話ね。


 えっと、三人とも部活が違っててさ。アイは手芸部で、ユリは卓球部で、ルミは吹奏楽部。

 とにかく、それぞれ部活の友達とかは普通にいるんだよね、三人とも。

 でもグループを作るってなったら三人が真っ先に集まる感じ。

 ま、つまり周りから見ても仲いいってのはわかるのよ。


 で、話変わるけど、三人のクラスにショウタっていう男子がいるの。

 文化系なんだけど、割とイケメンで背が高くて運動神経がいいやつ。勉強もできる方で、オタクっぽいんだけど人懐っこい質だから、つまり、モテるやつなわけ。

 アニメ好きで授業中女の子の絵を描いてたりするくせに、スペック高いとモテるんだよね。むしろオタクっぽいから、地味めな子でも話しやすい感じ?


 ……なに、リョーコ。


 はあ!? クダの話なんかしてないでしょ、なんであたしがクダがモテる話をしないといけないわけ、キモすぎ! 変な口挟まないでよね!


 ……なんだっけ。

 あ、そう、ショウタって男ね。


 で、そのショウタって、自分がモテること分かってるのよ。

 もちろんまんざらじゃないと思ってんの。

 自分がモテること分かってる男ってさ、女の子でも男友達と同じくらいの距離感で接するのよね。


 普通の男子ってちょっとぎこちない感じするじゃん?

 ほら、コジとか。セントは……あんま普通じゃないわ、こうるさいし。クダはモテること分かってるタイプでしょ、うっざ。


 ――シ、シン? ……や、シンこそ普通じゃないでしょ。

 シンは……まあ、シンも確かに男女気にしないって感じよね。誰にでもなれなれしいし、距離近いし、正直すぎるし……。

 ――ウソ、シンはモテないでしょ!? ウソよね、コジ? ほんとやめてよ、話進まないじゃない! ウソよね? ならいいけど、別に。


 ……もう、またどこまで話したか忘れた。


 だから、そのショウタってやつは女子にもなれなれしく接するようなやつなの。なれなれしいっていうか、自然に距離が近いって感じ?

 まあ自分に自信があるからなんでしょ。


 ショウタって、さっきも言ったけどちょっとオタクっぽくて個性的な感じなのよね。だからいじられキャラなところもあるのよ。人懐っこいからみんなにかわいがられてるっていうのかな。

 女子からしても、ショウタは話しやすいし話してておもしろい男なわけ。


 だからクラスの中心にいる陽キャっていうのとは違ってて、普段はテキトーに扱われるキャラの割に、陰でこっそり色んな女子から「いいな」って思われてる感じ。


 やな感じでしょ? まあそういう意味じゃクダっぽいかもね。


 あたしにはそういうヤツどこがいいのか全然分かんないけど。

 キモイじゃん、「さりげない俺カッコいい」とか自分に酔ってそう。なんとも思ってない女子に対しても「あいつ俺のこと好きだな」とか勝手に思ってそうじゃない?


 ま、あたしは直接しゃべったことないんだけどさ。

 なのに悪く言うなって? いいでしょ、別に。あたしの印象の話なんだから。外から見てても分かるってことよ。


 ――なにリョーコ、早く怖い話しろって?

 自分だって話長かったじゃない! セントの二倍は絶対しゃべってたでしょ!


 だから、えっと……なんだっけ?

 もう、なんであたしの話にばっかり口挟むのよ。


 だからショウタはそういう男だってこと。


 で、さっきの女子三人に戻るんだけど。


 ルミがショウタの隣の席だったの。ルミって、落ち着いた感じの子ね。


 さっきショウタはアニメ好きって言ったけど、アイとユリとルミもアニメとかマンガが好きだったの。

 で、ルミはよく隣のショウタとしゃべってたんだよね。授業で隣の席の人とペアワークすることもよくあるし、だからルミはクラスの男子の中ではショウタと仲がいい方だったわけ。

 アイとユリもよくルミの席に集まっておしゃべりしてたから、ショウタとかその友達ともよく話しててさ。

 三人ともショウタとはからかい合ったりするくらい仲がよかったの。


 ルミも普通に、自分たち三人とショウタは仲のいい友達だと思ってた。


 でもあるとき、同じクラスで部活が一緒のナツキって子と話してたら、会話の流れで「あれ?」って思うことがあったの。

 具体的にどういう話してたのかは知らないけど、なんか「ショウタとアイは」みたいな感じで二人セットで話に出てくるのよ。


 なんか引っかかるもんだから、聞いてみたら案の定、ショウタとアイが付き合ってるって言うの。


 ルミ、驚いたみたい。アイからそんな話聞いたことなかったから。

 もともとアイとユリとルミって、仲はいいけど恋愛話するタイプじゃなかったんだよね。幼馴染だし、昔からどの子がカッコイイとかそういうこと言い合う趣味はなかったの。


 アイについても、彼女が誰かと付き合ってるって話を今まで一回も聞いたことなかったのよ。

 アイって目が大きくてかわいい顔してるし、男子とも普通にしゃべる子だから、言われてみれば確かに誰かと付き合ってるっていうのも納得はできるんだけどね。


 で、ルミもアイ本人に聞くのはちょっと気が引けたから、ユリなら知ってるかもって思ってアイのいないタイミングで一応確認してみたんだって。


「あのさ……アイちゃんとショウちゃん付き合ってるってほんと?」


 あ、三人それぞれ呼び方があってさ。アイちゃん、ユリ、ルミさんって呼ばれてたの。意味はないんじゃない、単なる語呂っていうか響きの問題?

 ショウタはショウちゃんって呼ばれてた。三人からだけじゃなくて、クラスのみんなからね。


 ――今度はなによ、リョーコ?

 あたし? あたしは普通にミナちゃんって呼ばれてるけど。

 別にあだ名付けてくれる友達いないとかじゃないから! 二文字の名前ってあだ名付けづらいだけ! 

 リョーコだって自分で勝手なあだ名名乗ってるだけのくせに!


 もういいわよ、次なんか言っても無視するからね!


 で、聞かれたユリはあっさりうなずいた。


「そうみたい。なんで?」

「知らなかったから……」

「ああ……ルミさんそういうの興味ないもんね」


 確かに、ルミは好きな人とかできたことなかったし、誰が誰と付き合ってるみたいなゴシップもどうでもいいと思ってた。

 アイもそれを分かっててわざわざ報告しなかったのかも、って考えれば一応腑に落ちたみたい。


 とはいっても、自分だけ知らないことがあるってのはちょっと疎外感感じるじゃん。


 ルミが気にしてるの察したユリは「別に、付き合ってるからうちらにどうこうしろって話じゃないんだからさ。そっとしとけばいいよ」ってフォローしてくれた。


 それからも三人はほとんど今まで通りの関係だった。

 ショウタもね。

 ときどき会話の中でアイとショウタが目配せしたりするけど、ユリもルミも冷やかすみたいなことはしないで、気づかないふりをしてた。

 でもときどきルミとユリだけで連れ立ってみて、さりげなく二人きりになれるようにしてあげたりしてね。


 ルミって控えめで親切だからさ。表立っては言わないけど、友達の恋なら応援して当然って感じ。

 その分、ユリと二人で過ごすことがちょっぴり増えたみたい。つってもちょっぴり程度ね。




 二か月くらいはそれで平和だったんだけど……。


 ルミがね、ナツキとしゃべってたときにまた寝耳に水の話を聞いたの。


 それが、ユリとショウタが付き合ってるっていう話。


 「え?」って思うじゃない。だってルミの中では今の今までアイとショウタが付き合ってたんだから。

 聞いてみたら、ルミの知らないうちにアイとショウタは別れてたんだって。それでしばらくフリーだったのが、今度はユリとショウタが付き合うことになったって。


 ルミには追い付けない展開なのよ。分からないことだらけ。

 アイとショウタが別れたのはどういう事情だったのか、どうして教えてくれなかったのか、ユリは知ってるのか、知ってるとしたらどうしてユリがショウタと付き合えるのか。

 アイとユリだって今まで通り仲良くしてるように見えてたのよ。


 ただ、思い返してみれば確かに、アイとショウタが会話してることって少なくなってたような気がするのよね。

 みんなで話してても二人が隣に立ってることってなかったみたいな。

 それに、ルミがアイとショウタを二人にしようとしてあげときに、ユリがさりげなく止めることもあったって思い出した。


 つまりそういうことだったのよね。

 アイとショウタは終わってた。


 それを知ったルミは、ひょっとして自分に気を遣って言わなかったんじゃないかって思ったの。

 ルミにとってはアイもショウタも友達だし、二人がギスギスしてたら居心地悪いだろうって気にしてくれたんじゃないかって。


 でも……だとしてもユリがショウタと付き合ってるってのはちょっと理解できなかった。


 ユリはアイが付き合ってて別れたこと、絶対知ってるはずでしょ。なのにどうしてショウタと付き合えるんだろうって。

 ルミはナツキに正直な気持ち話したんだけど、そしたら「そういうもの」なんだって。


「ユリって前からショウタのこと好きだったのかもよ。アイと別れたから今だって思ったのかも。それはしょうがないと思うけど、どっちかっていうとショウタの方がどうかって話じゃない?」


 確かに、あたしもショウタの方がクソ男な気がする。アイにもユリにもたいして気持ちがあるとは思えなくない?


 ルミもそう思って、ショウタのことちょっとやなやつだと思うようになったんだって。

 アイとユリのこと不幸にしたクソ男ってね。冗談めかして邪険に扱うこともあるくらいに。


 で、その後あるとき……掃除の時間だったかな。

 ルミが廊下の水道掃除してるところに、ショウタがバケツの水くみに来たの。そんで話しかけてきた。


「あのさあ、ルミさん」


 ルミは目も向けないで「何?」って答えたの。


「ちょっと相談してもいい?」

「やだ」

「お願い。真面目な話」

「やーだ」

「アイちゃんのことなんだよね」


 それを聞いたらさすがにびっくりした。


 ショウタって普段おちゃらけてて、真顔で冗談言うやつだから、相談って言ってもまた変なこと言うんだろうと思ってたの。そしたらアイの名前が出てきたでしょ。


「なに、どうしたの?」


 ついルミの方も真面目なトーンで聞いちゃったの。


 でもショウタ、そこまで言ったくせに「んー……」って言い淀んじゃって。

 やっぱり真面目なふりしてからかってるだけだろうと思ってもう無視しようかと思ったんだけど、そしたらショウタがまっすぐルミのこと見てきて言うの。


「あとでちゃんと相談してもいい? あんまり学校だと話せないからさ……」


 それでルミの返事も聞かずにバケツ持って行っちゃうのよ。


 ルミは気になったんだけど、さすがにアイとユリには話せなくて。いろいろあったの知ってるから当然よね。


 で、一人でもやもやしてたら、そのうちショウタからメッセージが来たの。


『学校の外で話せないかな?』

『なんで外?』

『学校だと二人に見られるし、ルミさんにも迷惑かかるといやだから』


 この返信を見てルミはなるほどって思った。

 そりゃ、親友って言っても彼氏が別の女と話し込んでたらいい気はしないわよね。ただでさえ、アイとユリにそういうことがあったわけだし……。


 で、ルミは土曜日にモールのフードコートで会う約束をしたの。


 ……変な感じするよねえ?

 ルミは気づかなかったのよ、そういうのに疎い子だったから。


 ――何がって?

 あー……ここにも疎い子がいるわけ?


 だから、アイとユリに遠慮したって言うんなら、学校の外でわざわざ二人で会ってる方がよっぽど悪いと思うでしょってことよ!

 しかも二人に黙ってこっそりなんだから、そんなところ見られたら言い訳できないじゃない。


 でもルミはそんなこと簡単なことに気づかなかった。

 本当に親切心でショウタの相談に乗ってやろうとしたの。

 ショウタに対してっていうよりは、アイとユリに対してね。二人を心配してたってこともあるし。


 直接話す約束はしたものの、なんの話か気になったから軽く内容を聞いてみたの。

 そしたらこう教えてくれた。


『アイちゃんがユリに嫌がらせしてるみたい。俺はアイちゃんと別れてからユリのこと好きになったんだけど、アイちゃんはユリのせいだって思ってるかも』


 ルミ、またすごく驚いた。


 だってルミにはアイとユリが友達のままに見えてたから。

 確かにショウタが絡むとちょっとぎくしゃくした雰囲気にはなってたけと、普段はいつもと変わらない二人の親友だったんだから。


 それに、アイは調子のいいところはあるけど、人に意地悪するような子じゃないのよ。

 アイってどっちかっていうと小心者な質だったし、自分から他人を攻撃できるような度胸のある子じゃなかった。


『俺もおかしいと思ったから、ルミさんに聞こうと思って。詳しいことは直接話してもいい? 文章だとうまく書けないし』


 ショウタからそんなメッセージが来て、ルミは俄然他人事じゃ思えなくなった。

 どういうことなのか、なんでショウタがそんなことを知ったのか、根掘り葉掘り聞きたくなったのね。


 だけど、約束の日にルミはショウタと会えなかったの。

 ルミ、急に体調崩しちゃって、動けないレベルの腹痛に襲われてね。ショウタに電話して謝ったら、今度でいいって言ってくれた。


 まあショウタは別によかったかもしれないけど、ルミにしてみれば焦れったくなった。気になって仕方なかった話をおあずけにされちゃったわけだからね。

 で、やっぱり学校で聞けるタイミングで事情を聞こうって心に決めて登校したの。


 いつも通り教室に行って、自分の席に行く途中にいたアイにおはようって声かけた。


 ……アイが返事返してくれないの。


 聞こえなかったわけじゃないのよ。顔上げてルミのこと確認したのに、そのうえで無視してるの。


 ルミ、びっくりしちゃって。

 もともとあんまり主張しない子だから、どうしたのって追及する気にもなれなくて。

 何も言わないまま自分の席に座った。


 すっごいショックだった。

 アイにあんな態度とられたこと一度もなかったんだもん。ずっと仲良くしてきて、ケンカもしたことなかったんだから。


 ルミ、呆然としちゃって何も考えずにただ座ってた。


 そしたら隣からおはようって声かけられた。ショウタが来たのね。


 ショウタの顔見たら、ルミ、気づいたの。

 アイが冷たいのって、ショウタとこっそり会う約束してたからじゃないかって。


 でも実際は会ってないじゃない? だから、アイがそのこと知ってるとしたら、ショウタからバレるしかないのよ。


「ねえ、アイちゃんになんかしゃべった?」


 ついストレートに聞いちゃったんだけど、ショウタの顔みたらそれどころじゃなくなった。


 ショウタ、すごい真っ青な顔してるの。

 髪はぼさぼさだし、目にはクマがあって、徹夜でもしたみたいな。


 思わず「大丈夫?」って聞いたら、「え?」ってとぼけられちゃって。


「具合悪いの?」

「いや、別に……」


 否定されちゃったらそれ以上無理に追及するわけにもいかないし。アイのこと聞くにも気が引けちゃって、ルミはまた一人でもやもやするしかなくなった。


 しかもね、その日、ユリが休んだの。


 ルミ、心配でたまらなかった。

 ただでさえアイとショウタの様子が変なところに、ユリにも何かあったんじゃないかって気になってしょうがないの。

 そりゃそうよね。その日は怖くてアイに近づけなかったから、不安を共有する相手もいなくて。


 ユリにメッセージ送ろうかとも思ったんだけど……怖くてね。


 だってもしアイがルミとショウタの会う約束のこと知ってたんだとしたら、ユリも知ってるかもしれない。

 ユリは今まさにショウタと付き合ってるんだし、そうしたらアイ以上に怒ってるかも。

 ううん、むしろショックのあまり学校に来られなくなったのかもって。


 約束なんかする前に気付けばよかったのにね。

 こんな悪い結果になってから後悔したって遅いでしょ。


 でもたぶんさぁ、約束した時点でもルミはちゃんと分かってたと思うんだよね、二人にばれたらまずいって。

 きっと気づかないフリしてたのよ。

 ほんとは……ショウタと二人で会いたかったのかも。

 アイもユリもショウタと付き合ってて、ルミもひょっとしたら自覚がなかっただけでショウタに惹かれてたのかも。

 だからショウタから声かけられて、OKしちゃったのかも……ね。


 それって、自覚してるよりよっぽどタチ悪いよね。


 まあとにかく、ルミはアイにもユリにも連絡がとれそうになかった。

 とはいえショウタに話しかけるわけにもいかない。そんなことしたら、アイのこともっと怒らせちゃうかもしれないでしょ?


 放課後になって、アイはルミのこと見もせずカバンをつかんでさっさと教室を出て行っちゃった。


 ルミはどうしたらいいか途方に暮れてたよ。

 明日になればアイがけろりとしてるとも思えなかったし、このまま親友二人がいなくなっちゃったらどうしようって思って、部活に行く元気もなくて自分の席でぼうっとしてた。


 そしたらね、ショウタが話しかけてきたの。


 いつのまにかみんな帰ってて、教室にはルミとショウタの二人しかいなかった。


 ルミさんって呼ばれて振り返ったら、ショウタがこっちを見てた。

 まだ顔色は青いままだけど、日中の様子じゃ授業も普通に受けてたし、朝びっくりしたほどおかしい様子じゃなかったみたい。


「アイちゃんどうしたか知ってる?」


 ついルミから質問してた。

 それを聞いたショウタはぎゅっと眉を寄せてね、辛そうな顔するの。


 で、そのとき気づいたんだけど、ショウタが右手に包帯巻いてるのよ。

 右手の小指。第一関節から先にぐるぐる大きく巻いてる。それに薬指とか中指にもぺたぺたばんそうこうが貼ってあるの。

 ばんそうこうならまだしも、包帯巻くのってよっぽどの怪我よね。


 だから「指どうしたの?」って質問を重ねた。


 そうしたらショウタはおずおず答えるの。


「アイちゃんがさ……」


 指の質問は無視されたわ。

 でもアイのことの方が気になったから、そのままショウタの話を聞いてあげた。


「分かんないけどアイちゃん、すごい怒ってるんだ。

 俺とユリが付き合ってるのが相当気に入らないみたいで。


 昨日、急に家に来て話があるって。俺、家に一人だったから上がってもらったんだ。


『ねえ、なんであたしと別れたのにユリとは付き合うの?』


 なんか目が据わっててさ、怖かったよ。


 俺、ほんとにアイちゃんと別れたときには代わりにユリと付き合おうなんて思ってなかったんだ。

 アイちゃんと別れたのは、ちょっとペースが合わないことがいろいろあって、アイちゃんにもストレスかけちゃ悪いと思ったから。

 向こうも分かってくれたし、円満なつもりだったんだ。


 その後で、ユリがアイちゃんにも俺にも優しくしてくれてるところ見たらユリにひかれちゃって、それで告白されて、俺もさみしかったから付き合うことにしたんだけど……アイちゃんがいい気しないのはあたりまえだよな。


 だから、アイちゃんに責められても言い訳せずにちゃんと聞き入れようと思った。


『ごめん』

『ユリの方がいいって思いながらあたしと付き合ってたの?』

『そうじゃないよ』

『本当はあたしのこと好きになったことなんてないんでしょ?』

『違うって。本当に好きだったよ』

『本当?』

『うん』

『誓える?』

『うん』

『嘘じゃないってゆびきりできる?』


 小指を出されたから、俺も出した」


 そこまで聞いたルミは嫌な予感がした。

 ショウタが包帯してるの、小指だったでしょ? で、今アイの話をしてて、小指が出てくるんだから……。


「小指をつないで、ゆびきりげんまんってしたんだ。

 そのときはなんかアイちゃんが子供みたいにかわいく見えたんだけど……そのまま、指を離してくれなくて。

 それどころかものすごい力で小指を締め付けてくるんだ。


 痛いよって笑いながら手を抜こうとしたんだけど、アイちゃん、顔がマジでさ。

 右手で俺の小指を締め付けたまま、左手をポケットに入れるんだ。


 ……カッターを持ってた。


『本当は嘘でしょ。もともとユリと一緒になってあたしのこと笑ってたんでしょ。嘘ついたって、見てれば分かるんだから。……嘘ついたら指切りって言ったよね』


 それから……止める暇もなくてさ。

 小指の先を思いっきり、カッターで切りつけられたんだ。

 思わず手を引こうとしたけど、アイちゃんすごい力で離してくれなくて。何度もカッターを振り下ろされて、他の指も、俺の手を摑まえてるアイちゃんの手だってざくざく切れてさ。


 さすがに大人しくしてられなくて、もう片方の手でアイちゃんのカッター握った手をつかんで止めた。


 そしたらアイちゃんはやっと小指を離してくれた。

 指の腹のところを深く切られてものすごく痛かったけど、切り落とされてはいなくて、俺変に安心しちゃったよ」


 ルミ、聞いていられなかった。

 思わず「嘘でしょ?」って口を挟んだの。


 そしたらショウタは話を止めて、包帯をするする取り始めるの。


 ルミは見たくなかったけど、本当のことが知りたかったから勇気を出して目をそむけずに待った。

 包帯をとったショウタの小指の腹には、大きな裂け目を縫った生々しい傷があったのよ。

 それだけじゃなく第一関節から先全体小さい傷がたくさんあって。見てるだけで、さっきカッターを何度も振り下ろされたっていう描写が頭に浮かんじゃって気持ち悪くなってきた。


 ……話してても気持ち悪くなる、最悪……。


 口元を押さえるルミに、ショウタは話を続けるの。


「手を離したらアイちゃん、気が済んだみたいでカッターの刃をひっこめた。

 それで、黙って帰ろうとするんだ。


 俺、痛くてそれ以上話す元気もなくて。

 うめきながらアイちゃんの後ろ姿見送るしかなかったんだけど……そしたらアイちゃん、くるって振り向いて言うんだ。


『指切り拳万、針千本飲ますだから。でもその指治ってからね』


 ……俺、怖くて固まっちゃったよ」


 包帯を戻しながら言ったショウタは、ルミのことすがるような目で見るの。


「アイちゃん、どうしたら許してくれると思う?

 指が治ったら俺、殴られないといけないかな?

 確かにアイちゃんのこと傷つけたとは思うけど……俺、そこまで罰受けないとダメなのかな?」


 ルミには答えられなかった。

 アイのそんな一面、見たことなんてないんだから。


 でももしアイがそんなことするなら、追いつめられてるのは確かよね。

 やけになってるっていうか、ちょっとおかしくなっちゃってるっていうか。


 だからアイのことが心配になって、それと同時に、ユリのこともなおさら心配になった。


「ねえ、ユリは? ユリがどうして休んでるか知ってる?」


 もう精神的に余裕がなくて、問い詰めるような口調になっちゃってた。

 そうしたらショウタ、暗い声で言うの。


「ひょっとしたらアイちゃん、ユリのところにも行ったかも……。俺もユリに連絡したんだけど、返事なくて」


 ルミ、いてもたってもいられなくなったわ。


 もうショウタにかまう気もなくして、教室を飛び出した。

 ユリの家に行こうと思ったの。

 ユリに会えなくても、お母さんから様子は聞けるはずって。

 ショウタみたいにユリも怪我させられてたらって思うと怖くて仕方なかった。


 急いで駆け付けてルミの家のインターホン押したら、お母さんが出てきてね。

 ユリ大丈夫ですかって聞いたら中に入れてくれた。


 お母さんも心配そうで、ユリのこと元気づけてあげてって言われたんだけど、どうも大きな怪我や病気をしてるわけじゃないみたいだったからとりあえずほっとしたの。


 ルミが部屋に入ったら、ユリはベッドで寝てた。

 ルミの顔見たら起き上がって、それでぼろぼろ泣き始めるの。


 背中をさすってあげながらユリが落ち着くのを待った。

 ユリ、一日中泣いてたみたいに目を真っ赤に腫らしてて、かわいそうでしかたなかった。


 ユリの涙が少し収まってから、ようやく「何があったの?」って尋ねた。


 ユリが泣きながら言うにはね、土曜日の夜にショウタとデートしてたんだって。

 いつも通り、普通に楽しいデートだったみたいだけど、ショウタから変な話を聞いたんだって。

 最近アイから連絡が来て、ユリと付き合ってることを責めるようなことをずっと言われるんだって。ユリのこともすごく悪く言ってるから心配だって。


 ユリにはアイがいつも通りに見えてたから、かなりショックだったみたい。ルミと同じよね。


 で、日曜日になって、ショウタからまた連絡が来てね。

 昨日二人で会ってるところをアイに見られてたって言うの。

 アイがもう本当に怒ってて、家に来て指を切られたんだって。

 冗談でしょって言ったら、血が垂れてる傷の写真が送られてきたって。

 それで、ユリのこともものすごく恨んでるみたいだったから、アイと会わない方がいいって言うんだって。


 ユリ、ものすごくショックだったみたい。

 ショウタの怪我のことも、親友だったアイに憎まれてるってことも。


 だから今日、どうしても学校に行けなかったんだって。

 ルミに連絡しようとも思ったけど、ひょっとしたらアイと先に話してて、アイの味方になってるかもしれないって思うと怖かったんだって。

 だからルミから来てくれてよかったって、泣きながら抱きついてくるの。


 ルミの知ってる話と一緒だし、ユリが見たっていう傷はさっきルミが見たのと同じものなんだろうって納得した。


「ねえ、どうしよう……アイちゃん、私のこと怒ってるよね?」

「それが、私もアイちゃんに避けられてるみたいでさ、話ができてなくて。確かにいつもと違う感じだったんだけど……」

「絶対怒ってる! どうしよう……こ、殺されたら」


 さすがに考えすぎだと思ったけど、でもルミにもアイが何をしでかすかとても予想できなかった。

 だって、ルミの知ってるアイならそもそもカッターで人を切りつけたりしないんだから。


 だから……本当にアイがショウタやユリを殺さないかっていうと、自信がなかった。


 そんなこと考えたくもないのにね。

 親友が他の親友を殺すなんて、ありえない……。


 そのとき、ユリに電話がかかってきた。


 ユリ、飛び上がって布団にもぐりこんだの。

 電話を確認しようとしないからルミが画面をのぞいたんだけど、そしたら……アイからの着信なの。

 無言でユリを見たら察したみたいで、ユリ完全にびびっちゃってとても電話に出られるようには見えなかった。


 だからルミが……電話に出たの。


「……アイちゃん?」

『ユリ、今どこ?』

「ごめん、私、ルミ」

『……』


 電話の向こうのアイは急に黙り込んだ。


 ルミは学校でも冷たい態度を取られたことを思い出しちゃったんだけど、でも電話を切るわけにもいかないからとにかく状況を説明した。


「ユリと一緒にいるから代わりに出たの」

『……ユリは?』

「家にいるけど――」


 って正直に答えちゃったルミに、布団にくるまったユリが怯えて首を横に振った。

 言わないでほしかったみたいだけど今更取り消すこともできなくて、ルミは困って口ごもった。


 そうしたらアイは、


『今行くから』


 それだけ言い残して電話を切った。


 ルミが困った顔のままルユリを見ると、ユリも察したみたいで震えながら身を乗り出してくるの。


「アイちゃん来るの?」

「今行くって……」

「嘘!」


 ピンポーン――って、インターフォンの音がした。


 ユリは文字通り飛び上がって、ルミに抱きついた。

 ルミも驚いたよ、まさかアイが本当に来たのか、電話してこんなにすぐ来るってことはさっきから家の前にいたのか、とかいろいろ考えちゃって動けなかった。


「きっとカッター持ってきてる。私のことも切る気なんだ」


 うつむいたユリが震えながらぶつぶつ言うもんだから、「そんなわけないじゃない、落ち着いてよ」ってなだめるんだけどルミも正直怖かった。


 まだアイが来たと決まったわけじゃない――って言おうとしたんだけど、


 コン、コン


 って、ユリの部屋がノックされたの。


 そしたらユリは弾かれたみたいに立ち上がって、よろめきながらクローゼットを開けてその中に隠れるの。

 残されたルミは思わずクローゼットとドアを何度も見比べて、仕方ないからユリのことはほうっておいてドアを開けた。


 アイが立ってた。


 ルミの顔を見て嫌な顔してさ、雑な口調で「ユリは?」って聞くの。


「……トイレ行っちゃった」


 ひとまずその場しのぎにそう答える。

 あれだけアイに会うのを怖がってるユリを無理矢理引きずり出すのもかわいそうだったからね。

 とりあえずアイを部屋に入れまいとして、ドアを押さえたまま立ちはだかることにした。


 で、ふとアイがスカートのポケットに右手を突っ込んでるのに気づいたの。


 まさかと思った。カッターを持ってるなんて、ユリの単なる被害妄想のはず。


 ルミが右手を凝視してるのも気づかないようで、アイはじろじろルミのことを眺め回してた。


「なんでいるの?」


 聞かれたんだけど、本人に対してショウタから聞いた話をそのまま言うわけにもいかないでしょ。

 だから「ユリ休んでたし、心配だったから……」ってお茶を濁した。


 アイはうなずきもせず、嫌な顔のままルミをにらみつづけてた。


 ルミ、学校で無視されたのだってかなりショックだったでしょ。

 今だってこんなふうに冷たい目を向けられたら、もうどうしたらいいか分からなかった。

 戸惑うし、悲しいし、それにいくら人の好いルミでもちょっとムカついてた。

 意味わかんないんだもん。急にこんな扱いされる筋合いないんだから。


 せめて事情を聞きたいと思いながらも勇気が出せずにいたらね、部屋の中から小さく声が聞こえたの。


 ユリの声なんだろうけど、何か言ったわけじゃなくて、しゃくりあげるような妙な声。


「ユリいるの?」


 アイにも聞こえたみたいで、ルミを無理矢理押しのけて部屋に入ってきた。

 アイがあんまり強引だから、ルミは思わず道を空けちゃった。譲ってあげるのが癖だから、こういうときでも強く出られないのよね。


 怖かったっていうのもあるんだろうけど。

 アイはまだ右手をポケットに入れたままなの。それに、ユリを呼ぶ声もなんだか硬くて。


 そうしたらまたユリの声がした。さっきと同じ、泣き声みたいな短い声。


 部屋を見回したアイはクローゼットを見つけると、つかつか寄って行って引き戸を開けた。


 ルミは止めなきゃって思ったんだけど飛びつくわけにもいかなくて、「アイちゃん!」って呼ぶだけ呼んでとにかくクローゼットの前に駆け寄った。


 中にいるユリは、体を横向きにクローゼットに入れてうずくまってた。

 肩が震えて泣いてるんだと思って、ルミはとっさにかがみこんでユリの背中を撫でてあげた。


 でもふと視線を落として見たらね、ユリが胸の前に抱えるようにしてる手に……血がついてるの。

 ぎょっとして覗き込んだら、ユリの左手の小指がざっくり切れてて、そこから……あふれてた。


 ルミ、ショックを受けちゃって一瞬固まったの。

 だって、ショウタが包帯で隠してたのと同じ傷に見えたから。


 我に返って、とにかくなんとかしないとと思って「お母さん呼んでくるから」って震える声で言って立ち上がった。

 とにかくなんとか部屋を出て「おばさん!」って呼びながら階段を下りてったんだけど、アイの顔……クローゼットの中で泣いてるユリと、傷を見てうろたえるルミをただ無表情に見つめてたアイの顔が、怖くて仕方なかったって。


 ユリがケガしたって聞いたお母さんは慌ててルミと一緒に様子を見に来たんだけど、そのときにはもうアイはいなくなってみたい。


 すぐに病院にいったユリのケガはルミが焦ったほど大ごとじゃなかった。

 血は出てたけどそこまで深い傷じゃなかったらしくて、縫う必要もなかったって。


 ただユリは精神的なショックの方が大きかったみたいで、それから何日か休んだし、アイのことをすごく怖がるようになった。

 それだけじゃなくて、ルミも含めて女子みんなにおびえるような態度とるようになって、逆にショウタには露骨にべったりするようになったみたい。


 アイの方は、ユリのことがあってから糸が切れたみたいに無気力になっちゃって、誰ともほとんど口をきかない暗い子になっちゃった。


 ルミも気にはなってたんだけど……正直、近づくのが怖かった。ユリがケガしたときだって、ルミは何があったか見てたわけじゃないんだけど、アイのせいじゃないかって思えて仕方なかったのよね。

 だってそうでしょ?

 ショウタの指を切ったのがアイで、アイが探してたユリも同じように指を切ったなんて……。

 呪いでもかけたんじゃないかって思っちゃってた。


 で、アイがそんなんだから、ショウタもその後アイに何かされることはなかったみたい。

 ショウタはいつも通りマイペースなままに見えたんだけど、アイはもちろん、ルミともユリともちょっと距離を置くようになってた。

 ユリはショウタに近づいてくるんだけど、あんまり相手にしない感じ。まあ、無理もないと思うけど。


 だから結局、誰一人幸せにならなかったのよね。

 むしろ、友達だった三人の仲が裂かれちゃったんだから、悪くなってるわけ。




 ……どうしてこうなったのかって話よね。


 これ、ここまで聞くとさ、アイが嫉妬してやりすぎたのが悪いって感じに思えるじゃん?


 ほんとはね、アイ、何も悪いことしてないの。


 ショウタの指切ったのはアイじゃない。

 あれ、ショウタが自分でやったの。


 自分で自分の指を切って、病院に行って、ユリとルミにはアイにやられたって話したの。


 そんで、ユリがクローゼットの中でケガしたのも……ユリが自分で切ったから。


 アイに怯えてクローゼットに隠れたユリは、どうしたらいいかわからなくてショウタに連絡した。

 そうしたらショウタが、アイにやられる前に自分で自分を切ればいいって教えてくれた。償えばアイは許してくれるって。それに、同じ場所に傷があれば自分との絆も強くなる……とか言ったみたい。


 ユリはショウタの言葉を信じた。だから自分で自分の指を切った。


 ……アイは誰にもケガさせてなんかいないの。


 嫉妬……っていうか、怒ってたのは確かなんだけどさ。

 だって、ショウタがユリに乗り換えたのはルミにすすめられたからだって言われたんだもん。だからルミに裏切られたと思って冷たく当たってた。


 じゃあユリがケガした日、ユリを探してたのは?

 あれはユリに警告しようと思ったから。だって、ルミが今度は自分がユリからショウタを奪うつもりだと思ってたから。


 そしたらルミの方が先に家に来てて、ケガしたユリをクローゼットに隠してた。

 それをあたかも今発見したみたいな口ぶりでお母さんを呼びに行った。

 ……アイ、自分のせいにされると思った。だから逃げたし、二人に近づかなくなった。


 アイって、元気にふるまってたんだけど本当はすごく繊細な子だったの。

 一番の親友の一人だと思ってたルミがまるで殺人鬼みたいに見えたのが、すごくショックだった。

 ユリも連絡をとってくれない。ルミは怖い。

 そしたらもう、誰もそばに近づけられなくなっちゃったわけ。


 ルミもアイも、お互い同じような誤解をしてたってわけ。

 嫌な話でしょ。


 ……この話、誰から聞いたと思う?


 ルミはアイの事情知らないし、アイもルミの事情は知らない。ユリも同じ。


 ショウタ? 確かにショウタは三人とも状況知ってるけど、あたしあいつとは話したことないって言ったでしょ。


 それにさ……ショウタ、縫うほどのケガを自分でやったんだよ。

 その結果、アイともユリともルミとも疎遠になったわけだし、わざわざなんのためにやったと思う?


 実はショウタ、ずっと別の子と付き合ってたの。こっそりね。

 知ってるのはその子とショウタだけ。


 その子……ナツキが、隠してようって言うから、ショウタは言う通りにしてたの。

 ほら、アイとショウタが付き合ってるとかって話をルミに教えた子よ。


 ナツキ、ショウタがモテること知ってたから。

 だから隠してればショウタに告白してくる女子がいるだろうと思った。

 そしたら案の定、アイがいたのよ。


「笑っちゃった。あの子さ、ユリと仲いいでしょ? ユリもショウタのこと好きなんだもん。

 こんなの絶対面白いじゃん!

 どうなるかと思ってショウタにいろいろやらせてみたんだけどさ、意外と丸くおさまっちゃったよね。ほんとはルミもショウタと付き合わせようと思ったんだけど、予定狂っちゃったから、方向転換したんだけどさ。

 でもねえ、ああいうのって本人たちには一大事かもしれないけど、ぶっちゃけ周りには影響ゼロなんだよね。ってか本人たち以外にはマジどうでもいい話。


 つってもほんとに指切るかよって感じだよね。

 何考えてんだか、ほんと。

 好きな人に言われたことは絶対っての? バカすぎじゃん。


 そんであの三人、笑っちゃうくらいギクシャクしてんの、おかしすぎ。

 こうやってわざわざ注目してなきゃ絶対気づかないだろうけどさ。

 多少は暇つぶしになったかな」


 ナツキ、そんなこと言ってケタケタ笑うのよ。

 ルミたちにとっては絶対嫌な事件だったんだけど、それをやらせたナツキにとっては大したことじゃないんだって。


 わかると思うけど……ナツキがショウタと付き合ってるのも、別に好きだからじゃないんだよね。

 ショウタが言うこと聞くから面白がってるだけ。


 ショウタが何考えてんのかは知らないわよ、ナツキのどこがいいんだか、指まで切らされてさ。

 ルミに怯えた調子でアイのこと話したのは、ひょっとしたらナツキに対する恐怖が出てたのかもしれないわよね。


 まあ、ひょっとしたら……どうしたらいいのか指示してくれるのがいいのかも。

 自分で考えなくていいもん。

 それに、相手が自分のこと考えてくれてるんだって、愛情向けられてるって感じるのかも。怖い目にあわされたあとで優しくされると、優しいって印象ばっかり強くなるのよね。


 たぶん、ナツキはそれもちゃんと分かってる。

 分かってやってるのよ。


 それをさ、たまたま体育でペア組んだだけのあたしに笑いながら話してくるんだから……関わり合いになるのはやめようって思ったよね。


 あ、だからさ、この話秘密にしてよね。

 うちの学校の人と話すことはないと思うけど、一応言っとく。


 話はこれで終わり。

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