みんなが帰った後で
子どもたち五人が帰って行ったところで、水無本は電気をつけたリビングの奥で洗い物をしていた。
鶴美はテーブルに座ってタブレットをのぞいているが、何をしてるのか水無本は知らない。技術的なことはそもそも理解できなかった。単なるバイトである水無本は、鶴美の指示に従って事務作業や外との連絡の取次ぎをするだけ。
ときどき自分の雇い主は世界征服を企む邪悪な科学者なんじゃないかと勘繰ることもあるが、子供たちとじゃれあっている姿を見ているとそうとも思えなくなる。
"職場体験"を受け入れるなんて死ぬほど渋っていたのに、いざ子供たちと活動するとなったらあれこれ楽しそうに計画するのだから。
今日リョーコをけしかけてやらせた怪談会も、なんとかいうデータを取るためだとか言いながら、子供たちの話をずいぶんおもしろそうに聞いていた。
――と、玄関の扉が開いて、ドタドタと騒々しい足音がリビングに向かってくる。
足音の主は見なくても分かった。
"職場体験"の参加者の中で一番行動を図るのが難しい子。いわばワイルドカードであり、計画的な鶴美が最も慎重に観察しているのが彼だった。
彼はリビングのドアを勢いよく開けると、息を切らせながら室内を見回す。
「シン、一足遅かったな。あいつら帰ったところだ」
鶴美の言葉に、シンは分かりやすく肩を落として見せた。
行動は読めないながらも、彼の思っていること自体は表情に丸出しだ。よほど努力しないと表情を変えられない水無本からしてみれば、まるで違う生き物にしか思えない。
鶴美に手招かれたシンは、困った顔をしながらトコトコと歩いてきて鶴美の横に座る。
今日はちゃんと来るつもりだった、と反省した口調で言うシンに、鶴美はからからと笑う。
「まあいいさ。今日のことはコジに聞くといい、面白い話をしてくれるぞ」
でも、とシンは肩を落とす。
自分ばっかり頼るなってコジに怒られる、と言う。
「頼ってやればいいんだ、あいつだって――本心から嫌がってるわけじゃない」
鶴美はそう言って、シンの頭をぽんと撫でた。
「面倒みてやらなきゃならんと思える相手がいるのは、悪いことじゃない」
基本的に飄々として皮肉屋の鶴美だが、シンのことはよくこうしてなだめている。
変わり者の二人には何か共通に感じる部分があるのかもしれない。
「――もう帰るか? じゃ、最後に一つ面白い話をしてやる」
鶴美の申し出に、シンは無邪気に笑って耳を傾けた。