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コジの怖い話:双子の絆

 これも実話じゃなくて何かで聞いた話。

 外国の話だったような気がするけど、あんまり関係ないと思うから日本として話すね。


 出てくる双子の名前は、そうだな、えっと……


 ――シンイチロウとコジロウ?

 やめれリョーコ、ぼくの話じゃないっての!


 じゃあいいよ、双子はリョウコとリョウミね。

 女の子の双子。

 別に男女どっちでもいいんだけど、誰かさんがぼくとシンのことだと思わないように性別変えとくから。


 リョウコとリョウミは一卵性の双子で、見た目も限りなくそっくりなんだ。


 一卵性と二卵性って知ってるだろ、つまり……一卵性はもともと一つの卵が分かれたので、二卵性は二個の卵がくっついたって感じ。

 だから一卵性の方が似てることが多いんだ。

 ――いや、そこも別にこだわらないから。鶴美先生呼んでこなくていいから!


 もう、おとなしく聞いててよリョーコは。

 クダのときは黙ってたくせに。

 ――退屈だったから? ぼくのほうがおもしろい?

 それ、褒めてないっていうのわかってるから。リョーコにおもしろがられた方がろくなことないっての。


 リョウコとリョウミは自分たちが一卵性でそっくりだってことがすごく気に入ってた。

 双子は似てれば似てるほど格が高いんだとか言って、自分たちはトップランクなんだっていばってたんだ。


 ――え、ぼくとシン?

 ぼくとシンは……まあ、一卵性だけど。

 でも似てないし。

 っていうか双子は似てる方がいいとかぼくは思ってないし。別の人間だし。全然関係ないし。


 とにかく、リョウコとリョウミの考え方はぼくとは全然違ったんだ。


 リョウコとリョウミは本人たちだけじゃなくて、家族もそっくりな二人のことが好きだった。

 同じ服を着て同じしゃべり方でぴったり息の合った動きをする二人をすごくかわいがってたんだって。


 ――だ、から、ぼくとシンの話はしない!

 いいかげんにしてよね、もう質問は受け付けませんから!


 いいから黙って聞いててよ。

 これは、双子の、怖い話、なんだ!


 ……えー、どこまで話したっけ。

 ってかまだ全然話してないよね。


 そう、リョウコとリョウミはそっくりで、家族もみんなそのことを喜んでたってこと。


 双子って子供のころはそっくりでも、成長してくると違いが目立つようになってくるんだよね。

 身長とか声とか顔つきもだけど、性格とかは特にそうだと思う。


 リョウコとリョウミの場合、小学校高学年くらいになっても見た目はかなり似てた。

 初めて会う人はもちろん違いが分からなかったし、知ってる人でも遠目からだと区別がつかないくらい。


 でも性格の方はちょっと違ってたんだって。

 リョウコの方が……暴れん坊で、リョウミはどっちかっていうと後からついていくタイプだった。

 はっきり上下関係があるってほどじゃないんだけど、リョウコはリョウミを付き従えてるみたいなずうずうしい態度が多くて、リョウミは呼ばれたらついてってあげるって感じだったみたい。


 仲は良かったんだよ。

 大きくなってもやっぱり、自分たちが似てるってことに価値があると思って、わざと声をそろえたりして周りにアピールしてた。

 リョウコとリョウミは学校でも同じクラスだったから、いっつもぴったりくっついて同じように行動してた。


 でさ、双子ってよく変なこと言われるんだよ。

 つまり、"通じ合ってる"とか"以心伝心"とかそういうたぐいのこと。


 そんなのめちゃくちゃバカバカしい迷信に決まってるんだけど、リョウコとリョウミはそう言われるのを喜んでた。

 むしろ自分たちから周りにそう思われるよう仕向けてたところもあった。

 こっちのリョーコみたいにいたずら好きだったのかもね。


 通じ合ってることを示す証拠っぽいものが実際に色々あったっていうんだ。

 片方がどこかで言ってたのと同じことをもう片方が言ったり、好きなケーキを指さすと必ず一致したり、同じタイミングでケガしたり風邪ひいたり。


 ほんとはそんなの不思議でもなんでもない。

 いつでもべったりでなんでも打ち明け合ってるんだから、息が合うのは当然だし、すぐ近くで生活してたら風邪だってうつる。

 それに二人もそうやってなんでもそろうことを望んでたんだから、何か選ぶときはもう片方が選びそうなものを選ぶに決まってるんだ。


 そうやって"特別な絆"のことを周りにアピールするのがとにかく好きだった。

 自分たちが特殊能力を持った特別な存在に思えたのかもね。


 おまけに周りがもてはやすからますます調子にのるんだ。

 そういうことを大げさに宣伝するやつらがいるから、双子はみんなそうだって思われる。

 双子はそっくりで通じ合ってて、しかもそっくりで通じ合ってることを誇ってる、みたいなさ。


 気持ち悪いったらないよ、勝手に決めつけて。

 ただの兄弟だ、それ以上でもそれ以下でもない。


 見てないところでもう片方が何してるかなんて知るわけない。

 当てられたとしたってそんなのただ予想しただけ。

 友達より一緒にいる時間が長いのは当然なんだから、それっぽい予想だってできる。

 不思議な力なんかじゃないし、特別に好きだからってわけでもない。単なる客観的な事実なんだ。


 ――なんだよ、リョーコ、言いたいことあるんなら言いなよ!

 別にぼくとシンの話をしてるわけじゃない。ぼくの意見を言ってるだけだから。


 でも、リョウコとリョウミの方はすっかり調子に乗ってた。

 いつだって"双子の力"を見せつけてやろうと色んなことをしてた。


 してたんだ。つまり、わざと。

 トリックで"通じ合ってる"ことを演出してたってこと。


 事前に示し合わせておいた内容をそれぞれ別の場所で話したり、黙っていても相手の考えてることが分かるふりをして実際は秘密の合図を決めて情報を通し合ってたり。


 きわめつけは、体にも細工をしてみせたってことだ。

 同じ場所にほくろを書いてみるのはかわいい方で、同じ場所に傷をつけたりあざを作ったりもしてたんだ。


 完全にやりすぎだよね。

 でもそれってすごく効果があった。

 好みが一致するなんていうことより、体に同じ傷ができるなんていう方がずっと不思議なことに思えるでしょ。


 最初は偶然だったのかもしれない。

 でもそれで周りが不思議だすごいってもてはやすから、二人は……つまり、味をしめちゃったんだ。わざとの演出を繰り返すようになった。

 偶然のケガだって利用するようになった。片方がどこかをケガしてしまったら、もう片方も同じ場所を同じようにケガするんだ。


 いつもそんなふうだったから、二人は本当につながってるんだね、なんて言われて有名になったくらいだった。


 バカバカしいとぼくは思うけどさ、二人がいいと思ってやってるんならまだいいかなって感じだよね。


 ただ……そのうち、いいと思うのは片方だけになっていったんだ。


 二人にはさ、ちゃんとお互い以外の友達もいたんだ。

 クラスの子たちと一緒になって遊ぶのも好きだった。


 リョウコとリョウミはいつも一緒だったから、友達も同じなんだ。

 ただ、図々しいリョウコの方が周りと……なんていうか、メインに関わってて、リョウミの方はどっちかっていうとオマケみたいに思われてた。

 「リョウコとリョウミ」って、絶対リョウコの方が先に呼ばれる感じ。リョウミはほら、コンビ芸人とかで「じゃない方」って呼ばれるみたいな。


 ものすごく失礼に思えるけどさ、二人がいつもセットで行動してるのもいけないんだよ。

 二人両方呼ぶのはめんどくさいから、代表して「リョウコ達」って呼ぶみたいな扱いになる。


 リョウミもリョウミで、それほど不満には思ってなかった。

 リョウコのことは好きだし、リョウコが先に立ってくれるからリョウミはたいてい行動を合わせてればよかった。


 リョウコの方も別に自分ばっかり何かさせられるなんて思ってなかったんだ。

 好き勝手にしたい性格だったし、リョウミが絶対ついてきてくれるって信じてもいた。


 そういう意味じゃ二人は相性ぴったりだったわけ。

 二人とも同じ性格だったはそうはならないよね。どっちも前に出たがるとか、どっちもついていきたがるとかだったら役割を押し付け合うことになっちゃう。

 似てる似てるっていわれれた二人だけど、二人が仲良くしてたのは似てないからでもあったんだ。


 でもね、十一歳だか十二歳だかそれくらいの歳になって、ちょっと二人の関係が悪くなってきた。


 さっきも言ったけど、大きくなるとさ、やっぱり性格の違いも大きくなってくるんだよ。

 それに、周りの友達関係にも敏感になってくる。


 リョウコはだんだんリョウミのことがわずらわしくなってた。

 だって自分はただ友達と遊びたいだけなのに、いちいちリョウミが合わせてくるのを待たないといけない。


 それに、最初はリョウコとリョウミがそっくりなことをみんなもてはやしてくれたけど、ずっと同じ学校にいるんだ、慣れてきちゃってもう何も言わなくなる。


 だからリョウコはときどき、リョウミがぴったりくっついてくるのを振り払ってしまいたい気分になってた。


 さっきケガの話したよね。

 片方がケガしたらもう片方もケガするって細工をして、周りに信じさせてたって話。

 それもそのときにはもう自分たちも周りも飽きて、やらなくなってたんだ。露骨だったから、みんなにもわざとだってネタは割れてたんだろうね。


 あるとき、リョウコは虫の居所が悪かった。

 リョウミが何かしたっていうより、単に機嫌が悪かったんだろうね。


 それで友達と公園で遊んでるときに変な提案をした。

 最近双子の力が弱くなってる気がするから確かめたい、リョウミにケガさせてみよう、って。


 最低だよな。でも、そのときはみんな盛り上がった。

 リョウコとリョウミの双子ネタは久しぶりだったし、それに……小学生ってけっこう残酷なことして喜ぶんだよね。

 誰か一人をいけにえにしてみんなでそれをはやしたてるって、よくある話じゃない。やり玉にあげる、って言うのかな。合ってる?


 リョウミの方も、実はそんなに嫌がらなかったんだ。

 だってリョウコも後で同じケガしてくれるはずだし、"双子の絆"を見せる遊びはリョウミも好きだったから。


 最近リョウコにちょっと邪険にされることがあるっていうのは、リョウミも気づいてはいたんだよ。

 でも気にしないようにしてた。"ネタ"だって思うようにしてたのかもね。

 冷たくされることがあっても、自分とリョウコには双子の特別なつながりがあるんだからって思えば許せてた。

 だから、周りに双子アピールをするのはリョウミには願ってもないことだったんだ。


 で、どうやってケガさせようかって色々考えた。

 やな話題だよね。


 今までリョウコとリョウミがやったのは、カッターで皮膚を切るとか、針を軽く指すとか、膝とかおでこをすりむくとか、軽い程度のケガだった。

 だからって言って――今回はもっとしっかりケガしてみようって話になった。


 いくら嫌がらなかったリョウミでも尻込みするような案がいくつか出てきたんだけど……これ別に痛い話じゃないから、ここは省略。


 最終的にリョウミは足首をねんざしたんだ。

 うんていかなにかの高い遊具の上から飛び降りて、わざと変なふうに着地したみたい。

 運よく……というか都合よくというか、うまいことねんざできた。ひょっとしたらできるまで何度か飛び降りたのかもしれないけど、まあいいか。


 で、リョウミがケガしたことをみんなで確認して、さよならって帰ることになった。


 みんながいなくなった公園で、リョウミはリョウコに「どうする?」って聞いた。

 もちろん、リョウコも同じようにねんざするよねって確認。


 リョウコは「早く帰ろう。痛いでしょ」って言って、リョウミを支えて立ち上がらせてくれた。

 で、歩けないだろうって言っておんぶしてくれた。二人とも運動神経は悪くなくて、お互いにお互いを背負って歩けるくらいの力はあったんだ。


 リョウミは自分の手当てを優先してくれてるんだって嬉しく思いながら、リョウコに頼って家に帰った。


 二人のお母さんはリョウミにしっぷを貼ってあげながら、リョウコに「あんたは大丈夫?」って聞いた。

 やっぱり、同じようにケガしてるんじゃないかって思ったらしい。


 リョウミは、リョウコもケガしたふりをするかなって思ったけど、意外にもリョウコは「大丈夫」って正直に答えたんだ。

 それから「双子パワーなくなっちゃったかな」なんて冗談まで言った。


 それを聞いたリョウミには、リョウコが自分で捻挫する気はないんだって分かっちゃった。

 リョウミにケガさせようって言った最初からその気はなかったんだとも気づいた。


 すごくショックだった。

 裏切られたような気がしちゃったんだよね。


 それで次の日、学校は休みだったんだけど、リョウミは珍しくリョウコと一緒に過ごさなかった。


 お母さんに送ってもらって一人で図書館に行って一日中帰ってこなかった。

 リョウコも、リョウミが一人で出かけるのを止めようともどこにいくのか聞こうともしなかった。


 夕方になって家に帰ってきたら、リョウミは驚いた。


 リョウコが足にしっぷを貼ってるんだ。リョウミと同じ方の足。


 どうしたのって聞いたら、お母さんが呆れたように笑いながらねんざだって言う。


 リョウミはびっくりして、同時に嬉しくなった。

 リョウコがちゃんと"双子パワー"をやってくれたんだからね。


 でも野暮なことは言わないで、ただ「大丈夫?」って声をかけた。

 リョウコは黙ってうなずくだけで、なんだか落ち込んだ顔をしてた。裏切ろうとしたのを反省してくれたんだってリョウミは思ったよ。


 嬉しかったリョウミは、自分の足もまだ痛いのにリョウコのために飲み物を運んであげたり宿題をやってあげたり色々尽くしたんだ。


 まあ、自分のためにわざとケガしてくれたと思えば感激する気持ちはわかるよね。

 ねんざって、そう簡単にやろうと思ってできないよ。


 だから、"双子パワー"の信ぴょう性もかなり増してた。

 月曜日になって同じ場所にしっぷ貼ってる二人を見て、友達はみんな驚いたんだ。


 で、盛り上がった。

 特にリョウミがケガするところを見てた子たちは、自分たちが双子パワーを証明したような得意な気がしてたんだよね。


 こういうのってさ、本人たちが言うんならいいけど、周りがそれでいい気になるのって気持ち悪いよね。

 関係ないのに、自分たちの手柄みたいな顔する。友達にこんなすごいのがいるって自慢するんだ。そんなの全然自慢になってないのに。


 調子に乗るとどうなるかっていうとさ、エスカレートするんだよ。


 二人のねんざが治ったころに、友達がまた言い出した。

 もう一回ケガさせてみよう、今度はリョウコにって。


 リョウコは嫌がったよ。

 そりゃそうだ、痛い目にあいたくなんかない。リョウミにはやらせたくせに自分が嫌がるってのはまあひどいけどさ、でも拒否する権利くらいあるじゃん。


 リョウミの方も調子にのっててさ、また自分がやるって言い出した。

 でもリョウコがダメって言った。絶対ダメって大声上げて怒るんだ。


 みんなノリではやしたてたんだけど、リョウコはマジになって「足折ったら痛いの! なんで私が痛い思いしないといけないの!」って……まあ正論を言うんだよ。

 そう言われたらみんなも言い返せなくて、白けた感じになってその場はおさまった。


 ねんざして懲りたのかもね。

 カッターで血を出すくらいならまだしも、大きめのケガをわざとするなんて初めてだったから。思ったよりきついって分かったんだろうね。


 リョウミにもそんな目に遭わせちゃったことの罪悪感なのか、リョウコは前みたいにリョウミを突き放すようなことはなくなって、またいつも一緒に行動するようになった。


 リョウミは嬉しかったし、周りも仲のいい双子を見守ってた。




 ……それで終わればよかったんだけど。


 リョウミが、交通事故に遭ったんだ。


 リョウミが悪かったんだよ。

 いつもみたいにリョウコと友達と一緒に帰ってて、ちょっとふざけて走り回ってた。で、見通しの悪い裏道から飛び出したら、ちょうど車が来ててぶつかった。


 大きな車じゃなかったし、スピードもそんなに出てなかったから命に別状はなかったんだけど、二、三日入院することになった。


 リョウコはお母さんと一緒にずっとそばにいて面倒を見てくれてたんだけど……あるとき、病室で二人になったタイミングでふと言ったんだ。


「私、やらないからね」


 リョウコの言いたいことはすぐに分かったし、納得もした。

 リョウミだって別に、こんな大けがまで真似をしてほしいなんて思ってない。


 リョウミが「いいよ」ってうなずくと、リョウコは身を乗り出してきてさらに言うんだ。


「やらなくても、私、ちゃんと一緒にいるからさ。だから……」

「大丈夫だってば。分かってるよ」


 リョウミは笑いかけたけど、まだ不安そうな顔をしてるリョウコのことがちょっと心配になってた。


 ……リョウミがリョウコと話したのはそれが最後になったんだ。


 リョウミが事故に遭った次の日、リョウコも事故に遭った。

 リョウミと同じように、車が来てたところを道に飛び出したんだ。


 しかもリョウミのときよりも車がスピードを出してたせいで、リョウミよりもずっと重症だった。


 同じ病院にリョウコが運び込まれたって聞いて、リョウミはすごく混乱したよ。


 だって偶然じゃありえない。

 リョウコが自分で飛び出したとしか思えないだろ。


 やらないって言ってたけど、結局やったんだ。

 しかもリョウミよりもずっとひどいケガをしてしまったらしい。


 やる必要なんてなかったのに。大丈夫って言ったのに。


 リョウミは自分のせいだと思えて仕方なかった。罪悪感でいっぱいだった。


 でも――やっぱり嬉しくもあったんだ。

 リョウコが自分のために文字通り身を投げ出してくれたんだから。


 だから自分が退院したら、もっともっとリョウコに尽くそうと思った。

 なんでもしてあげようと思った。

 怖いくらいに……リョウミの中で"双子の絆"は強くなってみたいだ。




 で……いい話っぽいこと言ったけど、この話すごく悲しいし、おっかないんだ。


 リョウコは意識を取り戻さないまま亡くなった。


 リョウミも……亡くなったんだ。


 なんでだと思う?


 病室の窓から落ちたんだって。


 自殺だって思うよね、今までの話聞いてたら。

 警察も、自殺か、気が動転したための事故を疑ったらしいんだけど……違った。


 ……お母さんがリョウミを落としたんだって。


 意味、分かんないよね。

 なんでお母さんがそんなこと……おかしいよね。


 ……"双子パワー"のせいなんだ。


 不思議な力がお母さんを操ったわけじゃない。


 お母さんが……"双子パワー"を仕組んだんだ。


 お母さんはリョウコが重態のまま亡くなったことを知ってすぐ、リョウミの病室に来た。

 ……それで落とした。


 双子が同時に死ぬっていう"絆"を演出しようとした……らしいよ。


 すぐに警察にばれて、お母さんは捕まったんだ。それで理由を話したらしい。


 お母さんはもともとリョウコとリョウミ本人たち以上に"双子のつながり"を喜んでた。

 二人にそっくりの服装や髪型をさせて、おんなじものを買い与えたのもお母さん。


 双子がそっくりで息がぴったり合ってるほどにお母さんがすごく喜んでくれるから、二人も調子に乗っていったんだ。


 お母さんは、二人に完璧な双子でいてほしかった。


 だから……一緒に死ぬようにしたんだって。


 リョウミを落としたことだけじゃない、さかのぼって色んなこともお母さんは告白したらしい。


 リョウコが車にひかれたのは、お母さんが突き飛ばしたから。

 リョウコには本当に自分でやる気なんてなかったんだ。お母さんはそれを知ってたから"手助け"した。


 でも狙ったより重症で、死んでしまうほどだったから……リョウミの方で"帳尻を合わせた"。


 その前に、リョウコが捻挫したのもお母さんが階段から突き飛ばしたせいだった。


 あの日、リョウミのねんざを何食わぬ顔で見てるリョウコをみて、「やらないな」って分かったのはリョウミだけじゃなかった。

 お母さんもだ。

 だからお母さんがやってあげた。


 リョウコはひょっとしたら、リョウミにやられたんだって思ってたのかもしれない。

 仕返しをされたって怖くなったんだ。だからリョウミに冷たくするのをやめたし、友達にまたやろうって言われたときも嫌がった。


 病室でリョウミに言ったことも、リョウミが自分を同じ目に遭わせるんじゃないかって怖かったんだと思う。


 実際はそのセリフをお母さんが聞いてたから、自分でやらないリョウコに手を貸そうってことになったみたいだけど……。


 そのもっと前、二人が小さい頃。


 同じところをケガするのは最初は偶然だったってさっき話したけど……本当は最初から偶然じゃなかった。

 それもお母さんがやってた。

 片方がケガしたのを見て、もう片方にも同じケガを負わせるように仕組んだ。


 それですごいって絆を褒められた二人が今度は自分たちで仕組むようになったから、お母さんは嬉しかったらしい。


 最後はやっぱり手を貸してあげなきゃいけなかったけど、二人は私の最高の双子になったわ、って……お母さんはそう言ったらしい。


 ……やな話でしょ。


 だから"双子パワー"なんてものはないし、人がそれを求めたりしたらとんでもないことになる。


 っていう話。


 はい、おしまい。

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