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第2話 15歳の誕生日

 その日、ヘンリー少年が目を覚ますと、周りの様子がおかしかった。

 いつもまとわりついてきていた動物の霊たちが一切いなくなっていたのだ。

 静かな分にはいいか、と毎朝の喧騒から解き放たれた気分で二度寝に勤しむ。

 しかし、あまりの静かさにかえって落ち着かない。


(ん?

 いつも10匹以上いるのが0ってのはいくらなんでも変じゃないか?)


 少しずつ覚醒してきた頭の中に生まれる小さな違和感。

 それは次第に大きくなり、疑念へと変わる。

(まさか、力がなくなった……?)

 年令とともに力が消えることがある、と聞いたことがある。

 奇しくも、今日はヘンリー少年の15歳の誕生日。


(いや、でも……)


 力が消える、というのは、突然0になる、ということなのだろうか?

 次第に弱くなる、ということではないのか?


 ありえない、と思いつつも否定するための材料が足りない。


 まさか、そんな……と逸る気持ちのままにベッドから飛び起きる。

 確かめに行かなければ。

 そう、いつもの墓地へ行けば、きっとボブおじさんがいつものように落ち込んでいるはずだ。

 いつもどおりに……!


 着替えは必要がない。

 昼間だろうが寝るときだろうが、いつもと同じ布に穴を開けただけのボロを着ている。


「おはよう、ヘンリー。

 今日は君のたんじょ――」

 勢いのまま部屋を出ようとしたタイミングで神父がやってくる。

「うわっ!!」

 開けようとしたドアが急に開いたことで、危うく木の扉に頭から突っ込みそうになる。

「っとと、どうした、そんなに慌てて?」

「神父さん!!!

 どうしよう!! ボクの力、なくなっちゃったかもしれない!!」

 それだけ言うと神父の脇をすり抜けていこうとする。

 だが、それは叶わなかった。

「離して!」

 神父に首根っこを掴まれたからだ。

 15歳にしては小さな体、質素な食事しか与えられていないために筋肉もついていない。

 大人の力には抗えるはずはなかった。

「少し落ち着け。

 何があったか話してみろ」



「うぇ……苦い……」

 コーヒーを一口飲み、ヘンリーは顔をしかめる。

「お前のはこっち、それは俺のだ」

 ミルクと砂糖のたっぷりはいったカフェオレを差し出し、ブラックコーヒーの入ったカップを取り返す。

「だって……もう15歳で大人になったから、飲めるかな、って」

「はっ、誕生日をまたいだ瞬間に舌が変わってたまるか」

「そうだね……」

 先程の焦燥感は感じられなくなったものの、ヘンリーの様子は落ち着かない。

「で、何があった?」

「うん……あの、ね――」

 ゆっくりと甘いカフェオレを飲み込み、朝起きてからの異変について話す。

「だから、だから……!」

 話すうちに再び興奮してきたヘンリーは言葉に詰まる。

 目からは、涙が溢れてきていた。

「状況はわかった。

 大丈夫だから、とりあえず落ち着け」

 だが、対する神父は落ち着いたものだった。

「でも!!」

「いいから、深呼吸でもしてろ」

 神父は、立ち上がったヘンリーの軽く頭をなで座るように促すと、自身も椅子に深く腰を掛ける。

 懐からタバコを取り出し、火をつけ大きく吸い込む

「……ふぅ」

 白い煙が部屋に立ち上った。


 しばしの沈黙が続く。

 聞こえるのは、時計の音と神父がたばこの煙を吐く音のみ。

 ヘンリーのすすり泣く声もあったが、少し前からそれはなくなった。

 それを横目で確認し、ようやく神父が口を開く。

「結論から言う。

 残念ながら、お前の力は消えていない。

 どころか、誕生日を迎えて一気に大きくなってしまったようだ。

 舌と違ってな、1日で大きな変化だ」

「ほんとに!?」

 先程まで泣いていたとは思えないほどの笑みで詰め寄る。

「ああ、ほんとだ」

 忌々しいことに、と心の中で付け加えながら、迫るヘンリーを押し返す。


「……本当は、消えていてくれればどんなにか良かったか、と思うよ」

「え?」

「いや、なんでもない」

 どこか遠くを見るような目で漏らした神父の言葉はヘンリーには届かない。


「やれやれ……。

 しょうがない、ブレナとの約束だ。

 お前に真実を伝えよう、ついてこい」

「お父さんとの約束?」

「ああ、そうだ。

 15歳の誕生日にお前の力が目覚めていたら話すよう頼まれていたんだ」




『俺に何かがあったら、ヘンリーを頼む』

『何か、ってなんだよ。

 そんなもの自分でやれ!』

『もちろん、そのつもりなんだけどな。

 どうにもきな臭くてな……』

『俺は面倒が嫌いなんだ。

 押し付けて勝手に死ぬんじゃねえぞ?』

『もちろんそんなつもりはないさ』




 ヘンリーを連れて歩く神父の脳裏に『あの日』の言葉が蘇る。

(なにがそんなつもりはない、だ。

 あっさり逝きやがって……)


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