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雨、それから夢。

作者: 月原 友里

 この部屋に入ってきた時は月が出ていたのに、今見たら黒い雲が掛かっていて見えなくなっていた。

 開けておいた窓から入ってくる空気は冷たくて、私は思わず身震いをする。だけど窓を閉める気はなく、逆に身を乗り出して見えなくなった月に手を伸ばした。もちろん、月には届かない。

 それでも私は一連の行為に満足すると、カリカリと勉強を始めた。


 また暫くして、雨が降っていることに気付いた。

 窓から手を差し出すと、手のひらには当たり前のように雨粒が落ちてくる。私はそれを眺めていた。

 ぽつり、ぽつり、ぽた、ぽた。

 雨音は心地良い。このままでも良いかな、と考えていたら盛大なくしゃみをかました。寒い。

 ハンカチで手を拭き、雑に勉強道具を片付ける。部屋の電気を消すと、いつもより少し早いけど布団に入った。

 寒いけど窓は閉めず、外から聞こえる雨音をBGMに私は目を閉じた。


 一緒に逃げ出そう、だからこの手を握って──。

 ブー、ブー、ブー。

 夢の中でイケメンが掛けてくれた言葉と、頭上から聞こえてくるスマホの音が交ざり合う。

 無理やりまぶたを開いてスマホを点けると、0時10分だった。私にとっては寝る時間だけど、みんなはそうじゃないらしく、鬼のように通知が飛んで来ていた。

 明日──厳密には今日学校に行った時に話に着いていくために会話を見ていくが、いくらスクロールしても下に辿り着けない。会話画面が海だとしたら、私は次々と押し寄せる波に飲まれていった。

 暫くして嫌気が差し、スマホの電源を落とす。そうすると部屋に静寂が訪れて、寝る前よりも強くなった雨音が耳に飛び込んできた。

 また寝る気にはなれず、布団から出て窓際に立つ。近所の家の灯りのおかげで雨がよく見えた。

 ざぁ、ざぁ、ざぁ、ざぁ。

 椅子を持ってきて座ると、雨の観察を始める。

 光が当たってキラキラして、夢の中みたい。非常用に常備している懐中電灯を持ってきて照らせば、まるで宝探しかのように雨が浮かび上がった。思わず手を伸ばしたが、濡れるだけで何も掴めない。だけどそれが凄く楽しかった。

 見て、聞いて、触れて。雨は私を夢の中へ誘ってくれた。


 家の灯りもほとんど消えた頃、雨は止んだ。虫の鳴く声だけが聞こえてくる。

 黒い雲はどこかへ消え、数時間ぶりに月を見た。空から地面へ視線を滑らせると、月明かりに照らされて水溜まりが輝いている。

 私は幸せな気持ちでいっぱいだった。それから少しして、雨への感謝の気持ちが湧いてきた。

 すっかり晴れてしまっていて雨が降っていた証拠はないが、思いっきり息を吸って空へ叫ぶ。


 またいつか、私を夢の中へ連れていってね。


 目を覚ましてすぐに、布団の温もりを感じた。それと、差し込んできた朝日が眩しい。

 いつも朝はだるかったが、今日は何だか体が軽い。雨のおかげかな、と考えながら壁に掛けられた時計を見ると、私は大きな声で叫んだ。

 8時6分。既に家を出ていないといけない時間だった。毎朝設定しているスマホのアラームは、電源を切っていたので鳴らない。

 私はなんてバカなんだ、と自分のことを罵倒しながら大慌てで支度をする。

 何とか終わらせて家を飛び出すと、道の至るところに水溜まりが残っていた。太陽の光を反射して、キラキラと輝いている。

 夢のような雨だったけど、夢じゃなくて現実だった。

 私はその事実が嬉しくてたまらなくなり、遅刻しかけていることを忘れてスキップで学校に向かった。






中学生の女の子のお話でした。学校が遠いのかな……って考えてくれると嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 夜の一場面を描いている作品で、とてもきれいな描写が素敵でした。 スマホの通知がたくさん来ると眠れないなー、なんて同情もしてしまいました。 [一言] はじめまして、朝永有と申します。 よろし…
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