5話 ニートのルーチンワーク
前回のあらすじ
ニートは侍祭になった!
このゲームはなかなか面白い、そう私は思うようになっていた。
現代社会には得難い暖かい人達との交流によって心を満たす……なかなか奥深くやりこみがいのあるゲームだ。
ゲームを始めて一週間。すっかり私はゲームにハマってしまっていた。
ついでにゲームの中で侍祭になってからすでに仕事のルーチンワークができていたのでそれをさらっと紹介する。
まずログインしたら水汲みをする。
これがなかなか難しいしきついのだが全ての水瓶を満たすとおばちゃんから感謝の言葉をいただける。
最近では頑張りが実を結んだのか『水汲み1』というスキルを手に入れ、ますます水汲みのスピードが速くなっている。
水汲みが終わったら次は子供達の世話をする。
……といっても一緒に聖句を唱えたり一緒に聖歌を歌ったりする程度だ。
子供達が元気よく歌うのにつられて私も大声で歌っていると大分気分がいい。
子供達の笑顔には癒されるのだが……少しばかり元気がよすぎないか?一緒に遊ぶと私のエネルギーが吸い取られるような気がする。
これも頑張りが実を結んだのか『歌唱1』『聖歌1』というスキルを手に入れた。歌うときにカラオケのように歌詞が見えるようになって歌詞を間違える心配がなくなった。
……使われていないピアノがあったのでログアウトしたら少し練習しようかと思う。
そのあとはおばちゃんと一緒に昼食を作る。
白パンを作ってから私も調理に参加するようになった。
……香辛料が足りないのだがどうにかならないのだろうか。
こちらも『調理1』『聖食1』を入手した。
おばちゃん曰く料理の際に何か手順的なものを守るのが『聖食』の決まりなんだとか。
よくある宗教的なやつだと理解した。
さて、今日も子供達の笑顔のために頑張りますか!ちなみに子供達に私の料理は今のところ好評である。
そろそろ新しいレシピをネットで入手せねば……子供は飽きっぽい生き物だとどこかの掲示板に載っていた。
その次は聖書の写本だ。……これはなかなかキツいぞ。楽しくもない。ザ・仕事というような地味な作業だが、バイトでこの手の作業は慣れているから大丈夫だ。
『速記1』『速読1』というスキルが手に入った。
……心なしか書き取るスピードが速くなった気がする。これってスキルのおかげじゃなくて私が慣れただけじゃないか?
この後は自由時間だ。最近は神殿の掃除をしている。といっても毎日掃除をしているせいでもう掃除をするところがない。
掃除をするときやはりネットの知識は偉大だと感じた。頑固汚れでもすぐ落ちるんだから知識者はすごいな!
『清掃1』を手に入れた。私の力ではないので少しもやっとする。掃除が少し速くなる気がする。
この後本当にやることがなくなってしまった。
……神殿にはやはり祈るための場所があるようでそこでお祈りをすることにした。
祈りの作法とか全然知らないけど。
とりあえずクッションがあったのでその上に座ることにする。
結跏趺坐というやつで多分ナロー教と宗派違う……というかこのゲームの中にその宗派があるのか知らないけどまぁ怒られはしないでしょう。
半目を開けて息を整える……静かだ。
このお祈りをする場所は確か聖堂と呼ばれていた気がする。
後ろからガチャリという音とともに誰かが入ってきたのがわかる。
気になるけど今お祈りし始めたところだし……これがお祈りになっているかは別として。
……ん?足音多くない?半目で音のする方を見るとブレッド司教と他の大人の人たちだった。
どうやらお祈りの時間だったらしい。
皆椅子に座ると両手を組んでお祈りを捧げている。結跏趺坐はやはり間違いだったようだ。
『信仰1 を入手しました』
間違いじゃなかったようだ。結構アバウトな神なんだな。
しばらくするとブレッド司教達が聖句を唱え出した。私も知っているものだったので一緒に唱える。
皆と一緒に過ごすお祈りタイムは緩やかにすぎていった。
こんなものが最近のルーチンワーク的なものだ。
ところで、他のプレイヤーと全然出会わないんだがどういうことだろうか?
色々調べてみたのだけどこの神殿にいるプレイヤーは私だけらしいのだ。街を探してもそれらしき人には出会わなかった。……多分遊ぶ時間帯が違うのだろうな。
私は充実した気持ちのままログアウトした。