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脚本「マルガリータ~無言の愛~」

作者: 夏目歩知

   登場人物


マサミ・スミス(27)バーテンダー

ナオミ・スミス(5)その娘

椎名幸恵(55)マサミの母

船橋勝成(37)マサミの同僚


○住宅街(朝)


   ピアノで「猫ふんじゃった」をひく音が聞こえる。


○椎名家・外観(朝)


   マサミ・スミス(27)が玄関のドアを開ける。


   マサミは背中の開いたドレスにハイヒール。肌は日焼けしている。


   耳には大きなクジャクの羽のイヤリング。


○同・中(朝)


   マサミが玄関の中に入ると、ピアノの音が大きくなる。


   舌打ちするマサミ。


   マサミが居間に入ると、ナオミ・スミス(5)がピアノを弾いている。


   ナオミは黒人と日本人のハーフ。


   マサミがナオミの頭を叩く。


   ナオミは驚いてマサミを見る。


マサミ「うるっせーんだよー朝からー。いい気分がだいなしになるだろー」


   ナオミはうつむく。


   マサミは酒に酔っている。


   ナオミがマサミの顔を見る。


   マサミは恐い顔をしている。


   と、椎名幸恵(55)がきて、


幸恵「なにがいい気分だよ、酔っ払いが。こどもの世話もしねーで」


マサミ「こどもは勝手にそだつってつってねー」


   幸恵は散らかっている部屋をかたしながら、


幸恵「なーにいってんだい!まったく馬鹿な娘に育てちまったもんだよー」


マサミ「シャラップ!」


幸恵「は?はやくまともになっとくれよー」


   マサミは冷蔵庫からビールの缶を取り出す。


   ナオミがグラスを取りに行く。


   ナオミがグラスを差し出すが、マサミは受け取らない。


   マサミ、ビールの缶に口をつけて飲む。


○マサミの部屋(朝)


   鏡台に黒人女性モデルの写真が複数貼りつけてある。


   写真立てに、黒人男性の写真がある。


   写真立てをじっと見るマサミ。


   大きなクジャクの羽のイヤリングを外して置く。


○クラブ(夜)


   黒人男性と日本人女性が数名。


   カウンターにバーテンダーが二人。


   一人はマサミ、もう一人は船橋勝成(37)。


船橋「まだジョージのことひきずってんだ」


マサミ「わるい?」


船橋「わるいね。はやく忘れた方がいいぜ。


男は星の数ほどいるんだから」


マサミ「あんなにいい男はそうそういないよ」


船橋「どこがよかったんだよ?」


マサミ「あんたには教えない」


船橋「どうせアレがデカイとかだろ?」


   マサミは吹き出す。


   船橋は下半身を動かす。


   爆笑する二人。


マサミ「ばっかだなーふなっしー!」


船橋「おごってやるよ、なにのむ?」


マサミ「マルガリータ」


   船橋はシェイカーをふるう。


○スーパーの駐車場


   マサミが軽自動車を運転している。


   助手席にナオミ。


○車の中


   マサミが車を止める。


   マサミがシートベルトを外す。


マサミ「ここでまってな」


ナオミ「いっしょにいく」


マサミ「こなくていい。チョロチョロされるとうざい」


ナオミ「えー」


   車の外を、母親と子供が手をつないで歩いていく。


マサミ「くろんぼの子供ってゆびさされっから、やだろ?」


   ナオミが首を横にふる。


マサミ「じゃ、おとなしくしてろよ」


   マサミはドアを開けて外に出る。


○スーパーの駐車場


   マサミが建物に向かって歩いている。


   急ブレーキの音がする。


   マサミが振り返ると、ナオミが車の前に飛び出している。


マサミ「あ、ばか!」


   マサミはナオミのところに走っていく。


マサミ「まってろっていっただろ!」


   ナオミは泣き出す。


   マサミはナオミをひっぱって、自分の軽のところまでくる。


   ナオミ大泣き。


マサミ「いうことがきけないんなら、アメリカのじーちゃんとこにいけ!」


ナオミ「ママー」


   マサミ、唇をかみしめる。


マサミ「だまれ」


ナオミ「ママー」


マサミ「うるさい」


ナオミ「ママー」


マサミ「泣きたいのはこっちだよ!」


   マサミ、顔をゆがめる。


   まわりの人たちが二人をみている。


   マサミ、ナオミを車に乗せ、自分も車に乗って走り出す。


マサミ乱暴にハンドルを切る。


○椎名家・マサミの部屋


   マサミが化粧をしてドレスを着て、出かけようとする。


   鏡台の上を探しているマサミ。


   引き出しの中を探している。


   幸恵がきて、


幸恵「あんた、幼稚園の父兄参観いくよね?」


マサミ「イヤリングしらない?」


幸恵「明日いきなよ」


マサミ「あーもー、どこいっちゃったんだー」


幸恵「まったく誰に似たんだろ?」


マサミ「お金かして」


幸恵「馬鹿!」


マサミ「ナオミー」


   マサミはナオミを見る。


   ナオミは手の中をじっと見ている。


   マサミがナオミの手の中を見ると、クジャクの羽のイヤリングがある。


マサミ「ばかやろう!ママのもんにさわるんじゃねえっていってんだろー」


  マサミが手をあげる。


  ナオミが頭を抱える。


  幸恵がマサミの手を止める。


幸恵「馬鹿だねえ、このこはほんとに!」


   マサミは幸恵の手をふりほどく。


マサミ「ああ、馬鹿だよ。馬鹿だけど一生懸命生きてんだよ、これでも」


幸恵「一生懸命?どこがだよ?おまえよりナオミの方がよっぽど一生懸命いきてるよ!」


   ナオミがマサミの方を見ている。


   マサミはイヤリングを耳につけながら、


マサミ「ジョージがいればなぁ」


幸恵「死んだもんはしょうがないだろ?前を向け前を!」


  ナオミがマサミのドレスをつかむ。


ナオミ「ママー」


マサミ「あーあードレスが汚れる!さわんないで!」


  マサミがナオミを睨みつける。


   ナオミが手を離す。


○同・玄関


   マサミがハイヒールを履いている。


   と、ピアノの音が聞こえてくる。


○同・居間


   幸恵とナオミがピアノの練習をしている。曲は「ドナドナ」


   二人並んで歌っている。


○同・玄関


   マサミがナオミの小さな靴を見つめる。


   マサミが唇をかむ。


   マサミがナオミの靴に手を伸ばす。


   と、ナオミが来て、


ナオミ「ママ?」


   マサミはハッとして、ドアを開けて出ていく。


   ナオミは立ち尽くす。


○幼稚園(日替わり)


○同・教室


   幼稚園児数名と父兄が数名。


   父兄参観は終わって閑散としている。


   マサミがドレス姿のまま入ってくる。


   手にハイヒールを持っている。


   マサミが壁を見ると、園児たちが描いた花や虫やケーキの絵がはってある。


   タイトルに「だいすきなもの」とある。


   その中に、一枚だけ黒人女性の顔がある。


   黒人女性はクジャクの羽のイヤリングをしている。


   こどもの文字で「ママ」と書いてある。


   マサミは絵の前で立ち尽くす。


   マサミはボロボロと涙を流す。


   ナオミがマサミの側にくる。


   ナオミはマサミを見上げている。


   マサミはナオミに気付き、抱きしめる。


(完)


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